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高校生編

18 カフェテリアにて

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校内オリエンテーリングは無事に終わった。
学級委員は満場一致で大翔になり、大翔のパートナーとしてなぜか僕も学級委員になってしまった。

図書委員とかがよかったな…。

影森さんが騒いでいたけど、結局投票の結果僕に決まった事でまた改めて凄い顔で睨まれてしまった。

僕だって図書委員が良かったんですけど…。

僕が狙っていた図書委員には明くんがなっていた。
いいな…。
でも、大翔との時間が少し増えるからそれはそれで嬉しいかも。

「じゃあ今日はここまで。明日からは通常授業になるからな。」

先生はそう言って教室を出て行った。
今日は半日だけだからこれで終わり。

この後…大翔に呼び出されているので正直緊張している。
そもそも、どこで今日の朝のこと聞いたんだろう…。
僕からは話してない、あの場にいたのは僕の肩を押した生徒と明くんだけだ…。
もしかして明くん?でも二人で話してるところ見た事ないんだけど…。


「凛。行こうか。」

僕は自分の席に座ったまま配られたプリントをカバンにしまっていると、大翔が満面の笑みで横に立っていた。

いつもは大翔の笑顔見ると嬉しくなるんだけど、今日は何故か黒く見える…。

「う、うん。」

「大翔さん!!」

声の主を見ると少し笑顔を歪ませながらツカツカと影森さんがこちらに向かって来ていた。

「なんですか?」
「良かったらこの後カフェテリアでお茶でもいかがですか?つもる話もありますし。」
「私は話す事などありませんが。」
「やだわ、つれないのね。わたくしと大翔さんの仲じゃありませんか。」
「私とあなたの間には特に関係など無かったと思いますが?」
「あら、照れていらっしゃるのね。」
「は?」


この人…全然折れないな…。
こんなに冷たい対応されてもなお引き下がらないって、すごいな…。

「前々から言っていますが、私と影森さんは父親同士が仕事上関係がある程度で個人的な交流は何もなかったと思っていますし、今後もその予定は一切ありません。勝手に婚約者だのと言われる事に正直迷惑していますので、今後は自重して頂きたいと思ってます。」
「…わたくしがこんなに言ってるのに…。」

大翔は大きなため息を溢す。
彼女の頭の中って一体どうなってるんだ…?
大翔は僕が見てるだけでも二度キッパリと断ってるし、話を聞く限り毎回断ってる。
それなのに全く効いてない…と言うか聞いてない。

「…婚約者の話はお父様から言って頂きますわ!」

なんだか、気持ち悪くなってきた…。
彼女の言動もだけど、匂いがキツい…。
一旦意識しだすとこの匂い…体にまとわりつくような不快な甘い香り…通常のフェロモン香とは思えない…。
立ってるのがキツくなってきて僕を庇うように立っていた大翔の背中に、ちょっとだけしがみつくようにして寄りかかる。
このままこの匂いを嗅いでたら本当に倒れそう。
早くこの場を立ち去りたい…。

「今後は六浦の家を通してください。私を直接籠絡出来ると思わないように。それにその不快な匂いどうにかして欲しいものですね。」
「ふ、不快ですって!」
「えぇ、抑制剤を飲んでなおその匂いを常時出しているのであれば普通の状態ではない。主治医を変えてみたら如何ですか?よろしければ紹介しますが。」
「結構よ!」

なんだか焦ったように影森さんは教室を出て行ってしまった。
僕が寄りかかった事に大翔は気づいたからか、話を終わらせてくれたみたいだ。
もうほんとは立ってるのもキツい、僕は自分の席に力なく座ると振り返った大翔が僕を抱き込んだ。

「凛!」
「ん、ごめ…ちょっとあの匂い…。」
「ああ、わかってる。大丈夫か?医務室に行こうか?」
「ううん、座ってれば…治ると、思う。」

僕は頭を横に振ってぎゅっと大翔に抱きつく。
大翔の香り、嗅ぎたい。
僕はスンスンと鼻を鳴らしながら大翔の匂いを嗅ぐ。
すごく心が落ち着くみたいにささくれだって気持ち悪かったのが凪いで行くみたい。
大翔も僕の首元に鼻を寄せて、少し人より薄い香りを嗅いでるみたいだった。

「凛、落ち着いた?」
「ん、大翔の、いい匂いする。」
「ほんと?」
「…?」

何でそんな事聞き返すんだろう。
僕が不思議そうな顔して大翔を見つめてると、周りから咳払いをする声が聞こえた。

「ちょっと…二人とも…みんないるの忘れてない?」

あ!ここまだ教室だった!
急いで大翔から手を離して周りを見ると数名の生徒がちょっと顔を赤くしながらこっちを見てた。
やばい!どうしよう…めちゃくちゃ恥ずかしい…。

きっと僕は耳まで真っ赤になってるはず、あまりの恥ずかしさに俯いて両手で顔を隠したけど多分みんなに見られてるんだと思う…視線がとても痛い。

「凛、カフェテリア行こうか。さっき予約しといたから。」

大翔が耳元で囁くので僕は肩をビクッと震わせながら何度も頷く。
うぅ、恥ずかしい…。

大翔に半ば抱えられるようにして立ち上がった僕はいそいそとカフェテリアに向かった。
俯いたままだったからみんながどんな顔してるかわからなかったけど、部屋に戻った後明くんが生暖かい目で見てたからそう言う事だったんだと思う。


****


二度目のカップルシートにやってきて、何とか僕は顔を上げられるまで回復した。
歩いてる最中も色んな人に見られてたと思う。
殆どの顔はあげられなかったけど。

大翔がソファに座ったので隣に座ろうとする。

「凛、今日はそっちじゃないよ。」

大翔は満面の笑みで自分の膝を叩いてる。
もしかして…そこに座れって言ってる…?
え、え?ど、どうしよう。

僕がわたわたしていたら大翔が僕の手を握って座るように促してくる。

「凛、ほらおいで。」
「ぅう、し、失礼します。」

僕はおずおずと大翔の膝の上に座る。

「大翔…重くない?」
「ぜんぜん。凛、何でここに来たかわかってるよね?」
「ゔっ…。」

大翔は僕の腰をぎゅっと抱きしめながら僕のこめかみに細かくキスをする。
チュッチュと細かくキスをしながら満面の笑みでこっちを見てるけど、なんかいつもの笑顔と違って…黒いって言うか…怒ってる…?

「大翔…怒ってる?」
「ん?怒ってるように見える?」
「…うん。」
「そうか、怒ってるって言うかちょっと寂しいかな。」

大翔は僕の髪の毛を優しく撫でてくれる。

「今日の朝のは…その、後で言えばいいかなって…。」
「後で?」
「…大翔は、今日入学式で挨拶もあるし…。それが終わったら言おうって思ってたんだ…。」
「そうか。」

ほんとに言うつもりがなかったわけじゃなくて、入学式が終わったら言おうと思ってたんだ。
ただちょっと嫌味を言われて肩を押されただけだったし、怪我をしたわけじゃなかったから。

僕は大翔の肩に額を埋めるようにして抱きついた。

「凛?」
「…。」

なんだろ、怒ってないのかもしれないけど…。
心配させたかもしれないし、寂しいって言われたのが…なんか悲しくなってきてしまって顔が上げられない。

「ねぇ、凛。顔あげて?」
「…。」

僕はふるふると頭を横に振って顔を埋めたまま顔が上げられない。
今、大翔の顔見たら何だか泣きそうだったから。

僕が悪いのかもしれない。すぐ言わなかった事で大翔にいらない心配させて、寂しくさせてしまった事が悲しくて…僕が泣くのはおかしいって思うのに鼻の奥がツンとして目の奥が熱くなってくる。

「凛?」

「…ごめんなさい。」

ちょっと声が震えてしまったかも。
でも泣きそうなのバレなかったかな…。

大翔は膝の上に横座りしていた僕を抱え直して対面で座らせると力強く抱きしめてくれる。
僕もぎゅっと大翔のブレザーを握りしめる。

「凛、怒ってないから顔あげて?」
「…。」
「凛…顔見たい。」
「ん…。」

今顔あげたらちょっと涙目になってるから顔上げたくないんだけど、大翔がゆっくりと僕の髪の毛を撫でて背中をさすってくる。
ゆっくりと大翔の顔の方を向くように頭を捻る。

僕の頭が動いたのに気づいて大翔が僕の顔を覗き込むと、指先で頬をなぞった。

「凛…。」
「ん…。」

僕の眦に涙を見つけて大翔がそっと口を寄せる。

「凛、怒ってないから…泣かないで。」

違う、怒られて泣いたんじゃない。
そう思って首を横に振るけど、うまく言葉にできなくて説明できない。
大翔が僕の涙を見て、また悲しそうにごめんって言うから僕の目からまたポロポロと涙が溢れてしまった。

違う。そんな顔させたかった訳じゃないんだ。

「っち、違う…違うの。」
「…何が違うの?」

ポロポロとこぼれる涙を大翔は唇で掬って、たまに舌で舐めとるように頬にキスをくれる。

「大翔は、わるく無い、僕が…悪い。大翔に、そんな顔…させたく、ないのに。」

僕はぎゅっとキツく大翔の首に腕を回して抱きつくと首筋に額をくっつけた。
早く涙が止まって欲しくて、大翔の甘い匂いをいっぱい吸い込んで心を落ち着ける。

「すぐ…言ったほうがいいって…明くんに言われたのに…。大丈夫って、ちょっと肩押されて転んだだけだし…ちょっとやなこと言われたけど…でも…。」
「え?何言われたの?っていうか転んだの?」
「う?」

僕は顔をあげて大翔に話してたんだけど、急に話を止められてしまった。
あれ?知ってて怒ってるのかと思ったんだけど違ったの?全部知ってると思ってたんだけど…。

「…誰から聞いたの…?明くん?」
「んー、まぁそうかな。」
「?この話、明くんしか知らないし…と言っても明くんも全部見た訳じゃ無かったみたいだけど…。大翔、明くんと仲良かった?なんで知ってるの?」
「…九条くんから聞いた…仲は普通だと思う。彼とは利害関係が一致してるから、協力者になってもらってるんだ。俺は寮の中に入れないし、今日の事は九条くんから聞いたけど、揉めてた事しか聞いてない。何があったか最初から話して?」

利害関係が一致してる?
二人は前々から知り合いだったのかな…。

わからない事はあるけど、一旦置いておいて今日の朝の事は全部話した。
相手の顔は見たけど、名前は知らなかった。

「相手の名前はもう分かってる。」
「そうなの?」
「ああ。」

大翔はそう言うとテーブルの上に置いてあったスマホを手にどこかに連絡してるみたいだった。

「もう相手のことは気にしなくていいよ。」
「どうして?」
「この学校では品位も求められるし学生同士の諍いに対しては厳しいって話したろ?怪我はなかったにしろ凛に対して何かしたなら俺は許さない。本人にもそう伝えてあったのにな。」

そう言って大翔はぎゅっと僕を抱きしめて、ゆっくりと頬を撫でる。
頬を撫でる手のひらが優しくて、つい僕から手のひらに頬を寄せるように擦りつけるとチュッと音を鳴らしながら少し赤くなってるであろう眦と頬、耳と口付けていく。

「ん、だめ…大翔、耳…ダメ…。」
「凛、耳弱いもんね。」

そう言って耳輪を唇で食みながら窪みにそっと舌を這わせる。

ダメだって言ってるのに…聞いてくれない。
くちゅくちゅと水音をさせながら耳の穴の中に舌が入り込んでくるのに驚いて、大翔の肩に乗せてた手でギュッとブレザーを掴んだ。

「ん、はぁ、や、やぁっ…耳、んんっ。」
「耳で気持ち良くなっちゃった?」

低くてちょっとだけ掠れた声が耳元に響く。
耳元で喋るの、反則だよ。ゾクゾクと背中を何かが走っていく。

目が勝手に潤んで、頬も耳も熱いぐらいに熱をもってる気がする。
大翔が僕の頬を両手で挟んで、僕の顔をじっと見る。

キスしたいな。

大翔の肩に手を置いたまま、僕からチュッと軽く唇に口付ける。
次は大翔から少し長いキス。
そのあとはどちらとも無く、キスをして大翔が僕の歯列をトントンと舌でノックする。
ゆっくりと開いた唇からするりと舌が口内に侵入してきて僕の舌を絡め取った。

互いの唇に隙間ができるのが嫌で大翔が離れそうになった所を僕が下唇をパクリと食んだ。

僕と大翔の唇を繋ぐ銀糸を大翔が舐めとるようにして、僕の唇を舐めてした唇を少し噛む。
もっと、深く、欲しい。

「ん、ふぁっ、ひろ、もっと…。」
「ん…もっと何?」
「キス、したい。口のなか、大翔の舌で…いっぱいこすって…。」
「凛、キス好き?」
「ん、すき。ひろととキスするの…好き。」

再び唇が奪われると、舌が僕の下と絡まってくちゅくちゅといやらしい音が漏れる。
上顎を舌で擦られるとゾクゾクと肌が粟立つ。

きもちいい、大翔とのキスは気持ちいい。
僕は膝の上に座ったままいつのまにか首に腕を回して抱きついていた。

角度を変えて何度も何度も唇を吸われて、多分僕の唇はちょっと腫れてるんじゃないだろうか。
じんじんと痺れて、舌先も痺れているのかうまく話せない。

「ん、んぁっ、ひろ…だめ…これ以上、すると…。」
「んっ、はぁ、凛…もうちょっとだけ。」

カップルシートでは一定以上のフェロモン香を感知すると職員が来てしまうから、あまり激しい行為は出来ない。
抑制剤飲んでるから今は平気だけど、これ以上した時にどうなるか分からない。

なのに大翔は僕のシャツを捲り上げて腰から背中に向けて撫で上げる。
ゾクゾクと快感が肌の上を滑って体の中心に集まりそうになる。
だめ、ほんと…これ以上すると…。

「んんっ、ひろ、と…だめぇ、きもちよく、なっちゃうから…。」
「ん、いいよ。気持ち良くなって。」
「んぁっ、やぁ…フェロモン、でちゃ…」
「大丈夫、抑制剤飲んでるでしょ?」
「ぁ、ふぁ、ンッ…の、んでる、、けど…。」

大翔は僕の首筋にあるプロテクターを避けて舌を這わせたり、プロテクターの上から甘噛みをする。
少し肌けた襟元にきつく所有印を残して、裾から手を入れて僕の胸の飾りを指で弾く。
ビリビリとした快感に僕の背中が反ってしまう。
ソファにゆっくりと押し倒されて深い深いキスをする。

あぁ、ダメ、気持ちいい。
もっとして欲しい、このプロテクターを外して首筋を噛んで、僕を大翔だけの番にして欲しい。
僕は大翔の頬を両手で覆い、口付けをする。
唇、頬、顎の下、首筋にも。
相変わらず所有印を付けるのが苦手だから、うまく大翔の首筋につけられなかった。
うまく跡を付けられずに唸る僕を大翔はのし掛かりながら蕩けそうな程甘く滴るような目で笑った。


結局夕食の時間までたっぷりと大翔に甘やかされてしまい、僕はくったりしてしまい動けず晩御飯は大翔の手ずから食べさせてもらった。

「ねぇ、大翔…僕ずっと膝の上乗ってるけど重いでしょ?足痺れてない?」

再び僕は大翔の膝の上に横座りしている。
そうは言ったものの、僕は大翔から離れたく無くてピッタリとくっついたまま。
あと30分もしたら寮に戻らなきゃいけない。

ここが大翔の家ならこのまま抱き合って眠れるのに。

「平気だよ。俺は凛とくっついていたいし。凛は降りたい?」
「ううん、僕もくっついてたい。寮に戻るのやだな…。」
「ふふっ、そうだね。もう少し待ってて、もう少しで片付くから。」

そう言って大翔はおでこにキスをした。
大翔は時々、僕を待つように諌める。
それが何なのか、分からないけど…僕は待つよ。
大翔とずっと一緒にいたいから。


その日の夜、久しぶりに昔の夢を見たような気がした。
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