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高校生編

16 ハレの日は春の晴れ【前日】

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気づけば一週間なんてあっという間だった。
入寮して、その日には荷物が届いてたから自分のスペースを整理して。
大翔にもらったシロクマは僕の枕元にどっしりと
クリスマスとバレンタインの時に未亜さんが撮ってくれた大翔の家族と僕の写真。
大翔との写真、あと礼央くんと颯斗さんの写真も。
プリントアウトして、コルクボードにくっつけて机の上に飾った。

同室になった子は九条 明くん。
僕と同じ1年生で、地方から出てきたらしい。
身長は僕より少し高くって礼央くんと同じぐらいかな。
ちょっとクールで、でも話をするうちに仲良くなった。
知ってる人がいないらしく、僕も同じだったからおんなじクラスになれるといいねなんて話をしてた。

「そういえば、凛は六浦の人と付き合ってたりするの?」
「え?」
「机にある写真ちょっと見ちゃった。それによく一緒にいるところ見るし。」
「あぁ、そっか。付き合ってる…のかな?」

明確な言葉は交わしてないけど、きっと付き合ってるんだろうな…。
誰かと付き合ったことないから実はいつからがスタートなのかが全然分かってない。
でも、お泊まりもしてるし…その…ちょっとえっちな事もしてるし。
大翔の態度も全部…付き合ってるって事でいいんだと思う。

「僕、付き合ったりって今までで初めてただから、よくわかってなくて。」
「でも好きあってるんでしょ?それに家族とも仲良いと…。」
「うん。」
「それで付き合ってないってことは無いと思うんだけど。」
「そうかな…。」
「まぁ僕も付き合った経験ないんだけどね。」
「なんだよ~。」

僕はベッドの上に座り込んで、大翔からもらったぬいぐるみを抱える。
大翔は新入生代表に選ばれたらしくここ数日間忙しくて会えていない。
明日は本番の入学式だから、きっと忙しいよね。
今日お昼に作ったマフィンを本当は渡したかったけど、邪魔するのも悪いと思って連絡できてなかった。

「ねぇ、凛…そのケーキ渡しに行かないの?」
「…うん。」

何個か作ったマフィンの一つを明くんにあげたら喜んでくれた。
明くんも僕が大翔に渡しに行くと思ってたんだろうな、僕も…そのつもりだったけど。

「渡しに行けばいいじゃん。あの人凛のことならなんでも優先してくれるでしょ?」
「う、うーん。そうかな…。」
「えっ、側から見たらどう見ても凛至上主義で凛のことが優先順位一位です!みたいな態度取ってるじゃん。」
「え?そ、そんなことな「あるから。」。」

途中で遮られてしまった…。
ある…かなぁ…。
でも、ちょっとだけ…渡すだけならいいかな…。

「もぉ~!凛!スマホどこ?」
「え?スマホ?ここにあるけど。」
「ほら電話して!それかメッセージ飛ばす!」
「えっ!あ、え?」

明くんは僕の前に座ってスマホをぐいっと僕に向けてくる。
電話…は断られた時に落ち込みそうだから、メッセージにしようかな…。
SNSのチャット画面を開いて大翔にメッセージを飛ばす。

すごく簡単なメッセージ。

ーー
RIN:大翔、今日忙しい?
RIN:もし時間取れそうだったら…マフィン作ったから渡したいんだけど。
RIN:無理そうだったら…大丈夫です。
ーー

すぐに既読マークがついた…今空いてるのかな…?

ーー
HIRO:今日は空いてるよ。俺も凛に会いたい。
HIRO:寮の近くまで迎えに行くから、またついたら連絡する。
RIN:うん、わかった。
ーー

了解のスタンプを送って、急いで準備をする。
暖かくなってきたけど、白いシャツの上に厚手のカーディガンを羽織る。
簡単にラッピングしたマフィンを手提げの紙袋に入れる。

「ほら~言った通りじゃん。すぐ連絡きたでしょ?」
「うん。」
「まぁ思いっきり甘えてきなよ!みんなの目があるからそこまで大ぴらにはできないだろうけど。」
「う…うん。」

明くんにそんなことを言われていると、スマホがメッセージの着信を知らせる。

ーー
HIRO:もうすぐ着くよ。
RIN:今下降りる!
ーー

「ちょっと出てくるね!」
「いってらっしゃい!」

僕は急いでマフィンを入れた紙袋とスマホを持って部屋を出る。
3日ぶりぐらいかな…。
大翔に会えるって思ったら急に緊張してきた。

別に今までも大翔と何日も会えないことなんてザラにあったはずなのに、大翔が中学を卒業してから今日まで2日以上会わない日は無かったかも。


寮のエントランスを出ようとすると、敷地を少し出たところに人垣ができていた。
中心にいるのは大翔で、その周りを囲むのはオメガの生徒だろうか、男女が入り混じって何やら話しかけている。

大翔はとてもモテる。
それは分かってる。
今まで遠巻きに見ていたオメガの生徒達のうちの一部が最近話しかけているらしいと明くんが言っていた。
なんか…嫌だな…。

エントランスの中からオメガの生徒たちに囲まれる大翔の事を見てたら、胸の奥がツキンと痛んだ。

囲んでいる生徒たちは皆可愛らしく、見目麗しい。
自分に自信があるタイプの子達だ。
自分は可愛いのだから、袖にされることなんてない。断るなんて事があるわけが無いと言う目で、大翔のことを見ている。

誰かが大翔の腕に触れているのが見えた。
艶かしい白く細い指で大翔の腕に触れる。

触らないで…。
僕の…大翔なのに…。

さっきから痛んだままの胸の奥がさらに締め付けられるように苦しい。




++++


俺は触れられた腕を乱雑に振り払った。

「いい加減にしてくれないか。」
「そんな、大翔様…。」
「君たちに付き合ってる時間は無いし、軽々しく名前を呼ぶことを許した覚えもない。」

最近になって俺に話しかけてくる生徒が増えた気がする。
殆どの場合は問題ないんだが、たまに番になりたいのだろうか明らかに色目を使うような視線を向けてくる奴が増えた。

「あんなのがいいんですか?」
「どう言う意味だ。」
「いつも連れてらっしゃるでしょ?どこの馬の骨とも知りませんが、ひろ、いえ、六浦様には不釣り合いではありません?」

ああ、ほんとに煩わしい。
今話しかけてきてるコイツはうちの会社の関連企業の娘だ。親にけしかけられたから、それとも進んでなのかは知らないがめんどくさくてしょうがない。


ここ数日入学式準備と家の事で忙しかった為、凛に会う時間が取れなかった。
凛に会いたくてしょうがない。
あの少し眉尻を下げて控えめに笑う顔が見たい、不意打ちでキスをするとあの綺麗に光る双眸を、これでもかと言うほど瞠ったあとに首筋まで真っ赤にして恥ずかしがるのが可愛い。

ほっそりとした首筋に噛み跡を残して己のものにしてしまいたい。
何度そう思ったか分からない。
あれは俺の『運命の番』なんだ。

今日は久しぶりに時間が取れたので凛に連絡をしようとした所で、凛の方から「会いたい」と連絡をくれたのだ。
急いで支度をしてオメガ寮へ向かい凛に連絡を入れて待っていたら突然数名のオメガの生徒に話しかけられた。

甘ったるく不快な匂いを下品なぐらい撒き散らして、上目遣いでこちらを見ながら俺の腕に触れてくる。
あまりにも気持ち悪くて振り解いてしまった。

勝手に下の名前を呼ぶことも、触れることも許した覚えはない。
それに俺の凛を蔑むのは許さない。
馬の骨はお前の方なのに、そう思ったらつい口の端を歪めながら笑ってしまった。

「では誰であれば釣り合いが取れるんだ?お前か?確かお前の家はうちの子会社の取締役だったか。」
「…い、ゃ…。」
「凛の事を蔑むことは許さない。それは凛を選んだ俺への侮蔑と同義だと思え。」

「…。」
「この学園で問題を起こせばどうなるか知らないわけではあるまい。」

ここまで言えばわかるだろう。
こいつの事だけではない、今ここにいる者については柴田に報告し適切に対処しなければ。

さきほどからエントランスに凛が佇んでいる。
早く呼び寄せて抱きしめたいのに、羽虫どもが煩い。

「まだ俺に何かあるか?」
「い、いえ…。失礼しました…。」

いつまで居るんだと目線で促すと羽虫達は肩を強張らせながらそそくさとその場を立ち去った。
俺はエントランスに佇んだままの凛に視線を合わせる。
少し…表情が暗いように感じる。
もし、凛が今ので嫉妬してくれてたら良いのにな。

「凛。おいで。」

俺が凛を呼ぶと、すぐに目元を桜色に染めて駆け寄ってくる。
俺が手を広げて待っていると、満面の笑みで凛が抱きついてきた。

ああ、可愛い。可愛くてしょうがない。
今の満面の笑みをずっと俺にだけ向けてほしい。
他のやつになんか見せたくない。

俺は人の目から隠すようにぎゅっと凛を抱きしめた。


++++


エントランスから眺めていたら、大翔の目元が厳しくなった気がした。
氷みたいに冷たい目をして周りの生徒を見る。

何を話しているかまではここまで聞こえて来ない。

2、3言葉を交わした後、生徒たちはどんどんと顔色を悪くさせながら最後は走ってどこかに消えてしまった。

どうしたんだろう。顔色悪かったけど…。

ふと大翔を見ると、大翔もこちらを見ていた。
とろっと甘く蕩けるような笑顔になって、すごく甘い声で僕を呼んだ。
さっきまでの冷たい目が嘘みたいに、熱を持ってその薄いけど柔らかい唇で僕の名前を呼ぶ。

ちょっとだけささくれ立っていた気持ちがすぐに滑らかになる気がした。

大翔は手を広げて「おいで。」と呼ぶので、僕は嬉しくなって少し小走りで抱きついてしまった。
大翔が少し屈んでくれていたので、首に手を回して肩に額をぐりぐりと擦り付ける。

僕だけの大翔。
誰にも触られたく無い。

スンと鼻を鳴らすように首元を嗅ぐと、久しぶりに薄くだけど大翔の甘くスパイシーなフェロモンの香りがした。

この匂いも僕のもの。
ぎゅっと強く抱きついたら大翔も僕をぎゅっと抱きしめてくれた。


****



大翔と僕はカフェテリアまでやってきた。
カフェテリアには所謂カップルシートが存在している。番やパートナーとなったアルファは無闇に自らの片割れを人目に晒すことを避けるらしい。
そのためこの学校では個室のカップルシートが用意されている。

個室形式でICカード型の学生証で入退室を管理する。
数はそこまで無いので学校専用のスマホアプリで予約ができると言う至れり尽くせり具合。
さすがお金持ちの多い学校だ。

ただ、不埒なやつがいないとも限らないのでフェロモンの探知機がブースには取り付けられていて、一定以上のフェロモンを感知すると職員が確認のため入室してくるらしい。

たまたま空いていたのか、大翔がブースを予約してくれていたので二人で飲み物を頼んで二人掛けのソファー席へ腰を下ろした。

「凛、会いたかった。」
「うん。僕も大翔に会いたかったよ。」

寮からここに来るまで大翔の腕にぎゅっと抱きつきながら歩いてきた。
さっき、知らないオメガの生徒に触られていた方の腕だ。

「こ、これ。マフィン作ったの。よかったら食べて?」
「ありがとう。」

大翔は早速マフィンを一つ取り出して齧ると、美味しいって言ってくれた。

「やっぱり凛の作ったものは美味しい。」
「ほんと?よかった。」
「うん、ありがとう。」

大翔は僕の腰をぎゅっと抱き寄せて旋毛にキスを落とす。
さっきの反動からから僕は大翔にピッタリとくっついている。

大翔はそれが嬉しいみたいでさっきからずっと、笑顔で僕のことを見てくれる。それだけで胸がぴょんぴょんと飛び跳ねそうなぐらい嬉しい。
僕にだけ見せてくれる笑顔だから。

「凛、さっき暗い顔してたのはどうして?」
「ん?」
「さっき、エントランスにいた時暗い顔してたから。」
「あ…。」

大翔からも見えてたのか…。
でも、聡い大翔のことだから気づいてると思うんだけど…。改まって言うのもなんだか恥ずかしいし…。

「凛…。俺は凛の口から聞きたいんだけど。」

絶対分かってて聞いてるじゃん…。
うー、なんだか大翔楽しそうな顔してるんだけど…なんで?

「ぅ…。」
「凛。」

大翔がちょっと咎めるような諭すような音で僕の名前を呼ぶ。
こうやって名前を呼ばれた時はもう逃げられない。
恥ずかしいけど、腹を括るしかない。

「やきもち…やいたの…。」
「どうして?俺が凛の事大事なの知ってるでしょ?」

「うん。でも…、さっきの人…可愛かったし。そ、それに、大翔の…腕、さわった。」
「?」
「…ぼくのなのにって…思っちゃったんだもん。」

あー、恥ずかしい!!
僕が白状すると大翔は満面の笑みで僕の目を見つめてくる。
なんで嬉しそうなの!!僕は…寂しかったのに…。

堪え切れずにぎゅーっと大翔の胸に抱きついた。
顔はちょっと…見れないから俯いたままだったけど。

僕の頭の上で、大翔が楽しそうに笑う声が聞こえる。

「なんで、楽しそうなの…。」
「ん?凛がヤキモチ焼いてくれるの嬉しいなって。」

嬉しいの?
僕はキョトンとした顔で抱きついたまま大翔の顔を見上げて小首を傾げた。
相変わらず優しい笑顔で僕を見つめる大翔は、おっきな手で僕の髪を撫でて少し前髪をよけるとおでこにキスをしてくる。

「うれしい?」
「あぁ、嬉しい。俺のこと好きだって思ってくれてるのがわかるからな。」
「嫌じゃ無い?重かったりしない?」
「凛は俺がヤキモチ焼いたらどう思う?」
「…嬉しい、あとちょっとくすぐったいかも。」
「俺も凛とおんなじだよ。」

そう言って、僕の瞼、頬、鼻の頭と顔中にキスの飴を降らせて、最後に唇にチュッって音をさせながらキスをくれた。

「凛が俺のこと好きなのは分かってるけど、ヤキモチ焼いてくれたり、俺に会いたいって思ってくれるのが嬉しい。」
「…ほんと?」
「あぁ。」

へへへ、俺も凛に会いたかったし寂しかったよって言われたらさっき迄あった嫌な気持ちとか不安がどっか飛んでってしまった。

僕と大翔はそのままカップルシートでいちゃいちゃして、明日の入学式の話とかをしながらそのまま夕ご飯を食べた。


寮の門限は21時だから二人とも寮に戻れる時間ギリギリまで過ごして、送ってもらう。
いつも通りおでこにおやすみのキスを貰って、部屋に戻ってベランダから大翔を見送った。


明日は入学式だなぁなんて、ちょっと浮かれてた僕は帰り道に僕のことを冷たい目で睨む人が居たなんて全然気づいてなかった。
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