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中学生編

10 お疲れ様会【前編】

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朝、目覚ましが鳴る前に目が覚める。
夏は日が昇るのが早い。薄暗いベッドルームのカーテンの隙間から日が差している。
まだ蝉の声が聞こえないので早朝なんだろう。


夢を見たことはわかった。
でも…ひどく懐かしい気持ちがするのに、思い出せない。

あれはいつの記憶…?
それともただの夢…?



僕はエレメンタリースクールに上がる前の記憶が朧げだった。
それに気づいたのは学校で課題をしている時。
幼少の頃の家族との思い出を話すときになって、僕の記憶に"抜け"がある事に気づいた。

家族に聞いても、無理に思い出す必要はないと言われるだけだった。
最初は不満に思っていた家族の言葉も、いつの間にか忘れていた。

日本に来て、フェロモンの不調で倒れたあの日僕の記憶が抜け落ちている事を思い出した。
あれから何度か今みたいに夢を見た気がする。

でも、思い出そうとすると途端に靄がかかった様になって僕の記憶が曖昧になる。

すごく大事なことを忘れている様な気がするのに…。


あれは夢だったのか、それとも昔の閉ざされた記憶だったのだろうか。




****



朝起きて、洗顔と歯磨きを済ませる。
洗濯をして、軽めの朝食を食べてテレビを見る。

少し勉強でもしようかと机に向かうと礼央くんから1時間後に迎えにくると連絡が入った。


朝10時

あの後少し勉強をした。
すでに模試の結果ではA判定をもらっている。
ただ帰国子女枠は少ないので気を抜くことはできない。

礼央くんから連絡をもらったので急いでサコッシュを持ってエントランスへと向かう。

「凛おはよー!」
「おはよう礼央くん!」

「凛くんおはよう。昨日はお疲れ様!」
「颯斗さん、おはようございます!」

僕は颯斗さんのSUVの後部座席へと乗り込む。
さっそく礼央くんと今日のメニューの話をしながら昨日書き出した買い物リストをサコッシュから取り出した。

やってきたのは初日に訪れたショッピングモール。
ここには大型のスーパーと輸入食材なんかを売ってるお店も入っている。

「まずは、食材かな。」
「えっと鶏もも肉と…あとは…。」

手に持ったメモを元に食材を買い集める。
男性5人の量だから一つ一つの量もかなりある。
運転手が2人いるからお酒はなし。
ノンアルコールの飲み物を何点か買っておく。

「結構な量になったね。」
「車の後ろにアイスボックス積んであるからそれに生物入れておこうか。」

お昼に食べるサンドイッチをパン屋で購入したので、荷物を積んでそのまま礼央くんの店へと向かった。


お店に着いたら簡単に下拵えを始める。

鶏肉をカットして生姜、ニンニクのすりおろしと塩麹につけておく。こうするとお肉が柔らかくなる。
あとは…カブのクリーム煮、これは先に作っておこう。
タルタル用に卵を茹でながら食材を切っていく。

サラダは切って準備しておこうかな…食べる前にフレンチドレッシングで味付けしよう。
あとはにんじんのラペと…トマトとオクラの浅漬けも先に作って…。


あとはお肉と長芋を揚げて、サラダの味付け、だし巻き卵を作るだけの状態に仕上げておく。

うーん、張り切りすぎちゃったかな…。
自分でも驚くほどに品数が増えてしまった。
唐揚げ揚げるなら一緒に長芋揚げられるし…。
揚げ物ならさっぱりしたもの食べたいかな…とかちょっと王道のおかずもいいかな…とか…。
夜な夜な考えてたら結構大変になってしまった。
礼央くんに手伝ってもらえてほんとよかった…。


午後13時

僕らは買ってきたサンドイッチを頬張りながら、昨日の花火大会の話をしていた。


「ねぇ、りんちゃーーん?」
「んむっ!な、なに礼央くん。」

礼央くんが悪い顔してテーブルを越えそうな勢いで身を乗り出してくる。
この顔をしている時、それはもう執拗に追い詰めてくるんだ。悪戯した時なんかはよくそれで白状させられていたんだった。

「結局のところ、ヒロくんとはどうなってんの?」
「あ、それは僕も気になってたんだ。」
「うぇ!颯斗さんまで…。」

「良いから吐いちゃえよ!付き合ってんだろ~!」


「…うーん。付き合って…は、いないかな…?」
「え!?そうなの?僕てっきり…。」

「うん、なんか待っててって…言われた。」
「そうか、なるほどなうちのヒロはああ見えてほんと真面目だな。」

「?」
「うーん、僕から言うのも悪いからなぁ。まぁ、本人なりにケジメをつけたいんじゃないかな。」
「…うん。」

何に対するケジメなんだろう。
僕は待ってるしか出来ないんだろうか。
急激に進む心の変化に戸惑いが無いとは言えない。

「凛…凛は、ヒロくんの事好き?」
「…す、好き…だと思う。」

「だと思うって…?」

「急に…意識したりして、関係が、進んで…ちょっと…どうしたらいいかわかんない部分もあるんだ…。」
「うん。」
「でも、大翔のこと考えると…ドキドキするし、隣に居たいし、離れたく無い…。それに僕のこと…おんなじ様に思ってくれたらって…ずっと、思ってる。」

誰かに自分の気持ちを言うのって凄くドキドキして恥ずかしい。
でも、恥ずかしいと同時に口に出すことでふわふわと漂ってた気持ちがきっちりと型に収まっていくような、パズルのピースが嵌るようなそんな気持ちになる。

「大翔ってぶっきらぼうなのに、優しくて…。最初はすごいやなやつなんだと思ってた。でも違うって分かったら…急にドキドキしだして…。手とか…に、握ってもらったり…な、撫でて貰うと…ドキドキするのに…やめないでって思っちゃうんだ…。
も、もしかして…僕って…凄く、エッチなのかな!?」

考えながら喋ってたら、あれ?もしかして僕ってスケベなのか?って気持ちになってついつい口から出てしまっていた。

目の前にいる礼央くんと颯斗さんをなぜだか2人とも肩を揺らして俯いている…。

「…ぷっ…くくっ…凛…待って…聞いてて恥ずかしいのと可愛いが…せめぎ合ってやばい…。」
「凛くん…それは本人に言ってあげるといいよ。」

本人に言えるわけないじゃん…。
そんな、恥ずかしすぎて死ねるよ…。
全然無理!
真っ赤になっているだろう自分の頬を両手で押さえて大きく息を吐く。



「凛、そう言うのは俺に直接言えよ。」



え…、えっ!?

後ろを振り返ると口元を手で押さえた大翔と笑顔の柴田さんが立っていた…。

き、聞かれた!?!?
え??待って、いつから聞いてた??

2人の態度を見る限り結構前から居たな??
なんだよなんだよ!言ってよ!!!


「凛、顔真っ赤…。」
「…うぐっ…だって、聞かれてると思ってなかったから…。」
「他の人には言えて俺には言えないの?」
「…は、恥ずかしい…。」

いつの間にか隣に座っていた大翔が僕の背中に手を回してガッチリとホールドされてしまい身じろぐことすら出来ない…。

「凛…?」

顔がうまく見れずに下を向くと、大翔に顔を覗き込まれてしまう。
それでも目を逸らそうとすると、今度は力強く大翔に抱きしめられていた。

「礼央さん、2階借りていい?」
「いいよ~!ごゆっくり~!」
「ヒロ…無茶な事はするなよ。」
「大翔…最初から無理させてはいけませんよ。」

「…俺のことなんだと思ってんの?」

「「「…。」」」


大翔が立ち上がったので僕も立とうとすると、その前に腕を首の後ろに回すよう誘導されて抱きつくような形になると、そのまま大翔に縦抱きにされてしまった。

しかもそのまま歩いて2階に行こうとするので、降りて歩くと抗議しても許して貰えず、僕は抱っこで2階まで連れていかれる事になった。

これでも15歳…確かに少し身長は低いし、痩せてるから体重も軽い…。
いや軽いと言っても42~3kgぐらいはあるんだけどなぁ。

重くなかったか聞いたら、軽くはないけど重くもないと言われてしまった。
鍛えてるから大丈夫って言われた通り確かに安定感すごかったけどね!

2階まで抱っこで連れてこられてソファにそっと降ろされる。

「凛…。」
「う、は、はい。」

ソファに横並びになって座って、ぎゅっと痛いくらいに抱きしめられる。
大翔は僕の肩に額を乗せて動かない。

僕はゆっくりと大翔の背中に腕を回す。
すると、ビクッと体を揺らした大翔が顔を起こして真っ直ぐ僕を見つめる。

さっき2人に言ったことは全部ほんとだよ。
出会った時はこんな気持ちになるなんて思ってもいなかった。
もう二度と会いたくないって思ったし。
失礼なやつだって…思ったけど。

この前スーパーで再会して、花火大会の日を一緒に過ごすうちに僕はどんどん大翔のことが好きになっていったんだ。

その気持ちが伝われば良いのに。

そう願って僕からそっとキスをすると、少し驚いたように大翔が目を見開いた。

「り、凛?」
「…ぼ、僕…大翔のこと…好きだよ。それが…伝われば良いなって、思って…嫌だった?」

「嫌なわけないだろ!」

そう言って大翔は僕に口付けた。


大翔とキスをすると、薬で弱まっているはずの香りが少し強くなる気がする。
大翔の香りは今まで出会ったαの中で一番体に馴染んでいくみたいで心地がいい。

ずっと軽いキスを繰り返していた大翔が僕の下唇を舐めると思わず少し唇を開いてしまった。
その隙に大翔の舌が僕の口内に滑り込んでくる。

舌と舌を擦り合わせて、絡め取られてから僕の舌を大翔が吸うと少しジンジンと痺れる。

息継ぎがうまく出来なくて苦しいのに、やめて欲しくなくて、どうしたら良いのかわからない。

そっと大翔のシャツを握ると大翔が口を離してくれた。

「凛、鼻で息して。」
「鼻…?」

再び口を塞ぐような深いキスが始まる。
僕は必死に大翔の舌を追いかける。
絡められて、吸われて、歯列を舐められて。

「ん…ふっ…ぅん…。」

僕から溢れる甘ったるい音と口から溢れる水音。
飲み込み切れなかった涎が口の端から溢れると、口を離した大翔が顎から口にかけて舐めとっていく。

「ンンッ、ふぁっ…ひろと…。」
「凛、可愛い。」

後頭部を撫でるようにしながら深く深くキスをすると、体に力が入らなくなってその身を大翔の胸に預ける。
覆い被さるようにソファの背もたれに僕を追い詰めて、優しさだけじゃない獰猛さを持った瞳で僕を見つめる。

このまま、食べられてしまいたい。

そう思うほどに僕の頭は沸騰しそうに熱くて、大翔の頬に触れる。

「ひろと…。」
「凛…、舌出して。」

そう言われて素直に舌を出すと、大翔の赤い舌が僕の舌に触れる。

柔らかくて、少し厚い大翔の舌が僕の舌を絡め取る。
甘噛みをされて、震えるように僕は縋りつくことしかできない。

「ん…ンッ、は、ぁん…っ」

時折声にならない声が部屋に響く。
いつもなら絶対恥ずかしいはずなのに、今はそれよりも大翔とくっついていたい。

2人の唾液が混ざり合い、啜り合うように飲み干してひたすらにキスを繰り返す。

もっと、もっととせがむ様に大翔の首に腕を回すと大翔は優しく僕の頭を撫でる。

息がうまく出来なくて苦しいのに、この甘い時間をずっと堪能していたい。
好きと言う気持ちが溢れ出して止まらない。

大翔も僕のことを好きでいてくれる。
そう思えるほどに激しいキスの応酬に僕は胸の中が熱いもので満たされていく。

「凛。」
「はぁ、はぁ、ん、大翔…。」

呼吸がうまく出来なくて荒くなる息をなんとか落ち着けようとする。

「凛の顔、真っ赤で蕩けてて…このままだと我慢できそうにない。」
「ん…大翔…。」

「…今はまだ、言えないけど。絶対に凛のこと迎えにいくから。それまで待っててくれる?」
「うん。」

大翔に抱きしめられて、僕は大翔の肩に顔を埋めてぎゅっと抱きつく。
僕の髪を漉くように撫でる手が心地よくて、僕はいつまででも大翔のことを待っていられそう。
その時何を言ってくれるのかは分からない。
だけど、2人でいることができるなら、僕は大翔のこと…待っているよ。

「同じ学校に早く通いたいな。」
「ん?」

「また学校始まるのに、凛がいないなんてつまらなさ過ぎる。」
「ふふ、僕も。家にずっといて、大翔に会えないの寂しい。」

「俺も、寂しい。あと心配。」
「心配?」
「こんな可愛くて、キスしただけでエロくなっちゃう凛が心配で堪らない。」
「え、えろ!」

「エロいよ。まじで今めちゃくちゃ我慢してる。」
「…大翔だけだもん。」

「え?」
「大翔にしか、こんなにならない。」

大翔は大きく息を吐くと僕の頭を抱えるように抱きしめて頭をぽんぽんと撫でる。

「凛が可愛すぎて無理…。またキスしたくなっただろ。我慢してんのに…。」

「…キス…して?」

「ったく…絶対俺以外とするなよ!」


そう言いながら大翔はすごく優しいキスをしてくれた。
大丈夫、大翔以外とキスなんてしない。
この甘い香りに酔いたいのも、ずっとくっついていたいのも。
大翔だけなんだよ。



僕たちの甘い時間は一階から礼央くんに呼ばれるまで続いた。

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