上 下
19 / 21

拒絶したい心と、諦め

しおりを挟む
 町長が部屋を出て一呼吸置くと、ミルティアナはその場にへたり込む。

 朝ご飯はまだ半分ほど残っていたが、これ以上、手を付ける気にはなれなかった。

(気持ち悪かった)

 それ以上のなにものでもなかった。行動も、言葉も全て、ミルティアナを震え上がらせるには十分だった。

「部屋に……戻ろう……」

 ミルティアナはテーブルに置かれた呼び鈴を鳴らす。すると奥から一人の使用人がやって来た。

「申し訳ないけど、食欲がないから下げて。私は部屋に戻ります」

「かしこまりました」

 この屋敷に来てから、一通りのマナーや使用人の呼び出し方、言葉遣いなど空いている時間は全てが教育の時間になっていた。

 元々無学で、なにも詰め込まれていないミルティアナは、呼吸をするようにいろんな知識をするすると覚えていく。

 覚えることは、ミルティアナにとっては楽しみでもあり、なにも苦に感じることはなかった。

 例えそれが、あの態度も口も悪い執事から教えられることだとしても。

 ミルティアナははやる気持ちを押さえつつ、あくまでゆっくりと部屋へ向かう。

 誰かになにかを悟られ、町長へ報告されることだけは避けたかった。

 どれだけ気味が悪くとも、もうミルティアナにはここしかないのだから。

「もう部屋に戻られるのですか? ミルティアナ様」

 階段下から、執事長が声をかけてくる。おそらく、町長を外まで見送った帰りなのだろう。

 よりによって、今一番会いたくない相手に声をかけられてしまったと、ミルティアナは内心苛立ちを覚える。

「ええ。食事をしていたのだけど、少し喉が痛くて。風邪だといけないから、部屋に戻って休むことにしようと思ったの」

「風邪ですか?」

 執事長は先ほどの、ミルティアナと町長のやり取りを見ていたはずだ。ここでボロを出すわけにはいかない。

「明日の朝、お義父様と朝食を食べるときに、うつしてしまったら大変でしょう?」

「……では後ほど医者を呼びますか?」

「そこまでは、大丈夫よ。夕方までゆっくりさせてもらうわ。昼食も食べれそうにないから」

「かしこまりました」

 ふんと、鼻を鳴らしながら執事長は引き下がる。納得したかどうかは別として、ミルティアナの言葉を一応は信じた形だ。

 胸を撫でおろしつつ、ミルティアナは部屋に逃げ込んだ。


    ◇     ◇     ◇


 誰かを呼ぶわけにもいかないミルティアナは、自室の湯舟に水を張る。この時期の水は、手が痺れるような冷たさだ。

 それでも川で洗っていたことを思えば、なんのことはない。

 ミルティアナは泡立てた石鹸を付けながら、町長が触れた髪をしっかり洗い流した。

「気持ち悪い」

 湯船に、ぽたぽたと大粒の涙が落ち、泡と共に消えていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

処理中です...