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黒幕は一人とは限らない

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 ガタガタと揺れる馬車の中で、どれぐらい経っただろうか。

 屋敷を出て小一時間ほど走っていた気もするが、恐怖が勝っているため実際はもっと短いのかもしれない。

 馬車のスピードが落ちて来たかと思うと、目の前に別荘のような屋敷が見えた。

 そして横付けされる形で、馬車は止まる。

 どうやらここが目的地のようだ。

 ゆっくり開けられる馬車のドアを前に、私は深呼吸をする。

 泣き叫ぶなんてそんなことは、プライドが許せそうにない。

 これでも、人生経験長いんだから。

 そう自分に言い聞かせ、ドアを睨みつけた。


「……あなたは……」

「帰ってきてほしくないと、警告したはずなんですがねぇ」


  馬車のドアの前には、ルドの部屋にいたユリティスがいた。

 そしてあの時と同じセリフ。

 ユイナ令嬢が待っているかと思ったのだが、彼がいるなんて。

 少なくとも、彼はルドの側近のハズ。

 それなのに彼の意志に反して、その寵姫たる私を誘拐するなどあり得ないことだ。

「どうして、あなたが……。それより、これはどういうことですか。こんなことをして、ルド様が許すとでも?」

「その点はご心配なく。当初の予定通り、進めるつもりですからね」


 当初の予定通り。

 つまりは、アーシエに毒を飲ませた黒幕。

 そうか。

 私はユイナ令嬢の単独犯かと思っていたが、なにも黒幕は一人でなくてはいけないということはない。

 この人も、ということか……。

 ルドはもちろん知らないのだろうな。

 もし知ったら、きっと落胆する。

 こんな時でさえ、自分の心配よりルドの心配をするなんて。


「ふっ」

「なにがおかしいのですか。とうとう、その足りない頭が、おかしくなったのですか」

「あははは。足りない頭ねぇ……。こんなバカげたことやって、足がつかないと思っているあなたの方が、よっぽど頭が足りなさそうだけど?」

「言わせておけば」


 ユリティスが手を上げ、そのままの勢いで、私の頬を打つ。


「っっーーー」


 口の中から血の味がした。


「女性には優しくと習わなかったのかしら」

「きさま」


 売り言葉に買い言葉なのは分かっている。

 そしていかに私が短気だったということも。

 でもそれでも私以上にルドを馬鹿にした行動が、どうしても許せなかった。


「お兄様、それ以上顔に傷をつけると、後が面倒ですわよ」

 
 やや古ぼけ、使われなくなった別荘からユイナ令嬢が出て来た。

 『お兄様』そういうことか。

 彼らは兄妹だったんだ。

 それなら確かに利害関係は一致している。

 王妃になりたい妹と、王妃の兄という権力を持ちたい兄。

 もしかすると、二人のバックには公爵がいるのかもしれない。 

 こんなことなら、二人の関係性だけでも先に侍女か誰かに聞いておくべきだったわ。

 ルドの側にいるからといって、味方とは限らないのだから。


「仲の良い兄妹ですこと」

「その減らず口だけは、どうにかしたいモノですわね。ホント、嫌な女」


 ユイナ令嬢が吐き捨てるように言った。

 申し訳ないが、それはこちらのセリフである。


「まぁいいですわ。日が暮れて来たので、中に入りましょう? それとも、夜の森を一人彷徨ってみます?」

「そうは言っても、逃がす気なんてないのでしょう?」

 
 ユイナ令嬢のその形の良い唇が弧を描く。

 悪役そのものだな、心の中で悪態をつき、私は二人と共に無言のまま別荘に入って行った。
 
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