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日記の真実(二)

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『私は誰で、なにで、どうすればいいのだろう』


 日記の一ページ目から、なにやら不穏な文字が書かれていた。

 パラパラとめくると日付は毎日ではなく、なにかあった日だけをかい摘んで書いているようだった。

 一番古い日記は、五歳と書かれている。

 しかし五歳の子が書いたにしてはあまりにも大人びた文章だ。

 
「後から思い出して、書いてるのかな?」


 日記なのに、なにか漠然とした違和感がそこにはある。

 しかしそれがなにかと聞かれても、イマイチ思いつかない。

 しかたなく、私は日記を読み始めた。


     ◇     ◇     ◇ 


 五歳になった今日、初めて父たちに付いて登城した。

 煌びやから王城は、まさにという感じだ。

 私も今日のために、母があつらえたドレスに身を包んだ。

 しかしドレスというのは、どうも慣れない。

 動きずらい上に、似合わない気がして仕方ないのだ。

 たくさんいる貴族たちは、皆子どもにさえ値踏みするような視線を投げかけて来る。

 お行儀よく必死に作り笑いをするだけの空間など、一体何が楽しいのだろうか。

 謁見という名の挨拶が終わっても、そこから盛大なパーティが始まってしまった。

 帰りたい。疲れた。もう嫌だ。

 そんな言葉ですら、声に出していいのか私には分からない。


「お母様、中庭を見てきてもいいですか?」


 いい加減このパーティにうんざりした私は、母に声をかけた。


「あなた一人では危ないわ」

「これだけ人が多いので、大丈夫ですよ。それに少し見たら、すぐに帰ってきます」


 にこやかな笑みを母に返す。

 これで着いてくるなどと言われてしまえば、せっかくの一人になる時間がなくなってしまう。

 母はほかのご婦人たちとの会話が忙しいから、ここまで言えばダメとは言わないはずだ。


「ん-。仕方ないわね、ちゃんとすぐ帰って来るのよ? それに道が分からなくなったら、警備に当たっている騎士様たちちゃんと尋ねなさい」

「はい、分かりましたお母様。では、少し行ってきます」


 母とその場にいた婦人たちに丁寧に挨拶をするとはやる気持ちを押さえ、あくまで優雅にその場を離れた。

 私の大人びた作法に感嘆を漏らしつつも、すぐに興味がなくなったのか、また母たちは井戸端会議と言う名の会話を始める。

 そしてそれを確認すると、私は歩く速度を上げた。

 せっかく自由になる時間なのだ。

 一分一秒とて、惜しく感じる。

 整備され、この日のためにライトアップされてる中庭には数組のカップルたちがいた。

 私はその人たちを避けるように進み、見つけたベンチに腰をかける。


「はぁ。疲れた……。まったく、こんなに面白くもないことを、あとどれだけ続けるのかしら」


 あんなくだらない会話をするぐらいならば、ここで花たちを見ている方がよっぱど有意義だろう。

 一際大きくため息をついた時、隣に同じ年ぐらいの貴族の男の子がベンチに腰をかけた。


「君も退屈していたのかい? ああ、警戒しないで。僕も中から抜け出して来ただけだから。僕は、ルー。君は?」

「……私はアーシエ」


 私の名を聞くと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
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