魔法学院の護衛騎士

球磨川 葵

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第55話 学院祭Ⅱ

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「なんとか……逃げ切れたな」

 学院の屋上へと到着する。特に疲れたという事はないが、屋上のフェンスによりかかる。
 割と長い間学院を走り回った気がするが、それ程までに彼女らの追撃は凄まじかった。

「普通学院内で魔法ぶつけてくるか?? 俺じゃなきゃ死んでるぞ……」
『主様もずいぶんモテモテになったもんじゃの』
「お!? 起きたのか」

 突如頭に女性の声が響く。黒姫だ。どうやら眠りから覚めたらしい。

『おかげさんでな、眠ってはいたが主様の活躍は見ておったぞ。やる気になったみたいじゃな』
「ああ、状況が状況だったからな」
『その代償がこれか、笑えるのぅ』
「馬鹿いえ、大変だったんだぞ」
『かっかっか、そのような主様の顔を見れるとはな』
「何が言いたいんだよ」
『別に~ま、学院祭を楽しむと良い』
「ああ、後はシロナなんだが……」

 さて、シロナとの思念で待ち合わせした場所はここの筈だが、うまく逃げ切れているといいが……。


 待つこと数分、勢い良く階段を上る音と共にシロナが姿を現した。
 肩で息をしており今にも倒れそうなほどの疲労が伺える。

「……大丈夫か」
「……なんとか……ね……」

 シロナが息を整えるまで待つことにした。そして落ち着いたのか、ゆっくりと俺の隣まで来る。

「まさかここまでとは思ってなかったわ……」
「お互いな」
「ふふ、最初に来た時のクロトの評価とは大違いね」
「ああ、学院の終わりまでひっそりと過ごすつもりだったんだがな、仕方ない」
「何も私にまで内緒にする必要ないのに」
「その話は何度もしたろ、悪かった」
「ごめん、少し言いたくなっただけ。さ! 折角学園が持ってくれるんだから、色々周りましょう」
「ああ」

 取り巻きも流石に二人で回っている最中に邪魔しにはこないだろう。
 そして俺たちは学院祭をやっと回ることになった。
 
 色々と見て回ったが食べ物から魔法による体感ゲーム、占いまで様々な出し物があった。そして最初に俺たちが向かった先が……。

「的壊し??」

 中庭に来て色々見て回ると、ふと一風変わった店があったので気になり、向かった先がここだった。
 俺たちの目の前には受付である天幕の50m程先に、カカシのようなものが刺さった物があり、おそらくこれが的? なのだろう。

「面白そうじゃない? 成功すれば賞品がもらえるんだって!」
「まぁ何でもいいが……」

 珍しい出し物だ。とりあえず店主……ならぬ生徒に話しかける。
 俺たちが近寄ると、それに気づいた騎士がハキハキと喋り始める。
 
「いらっしゃい! ってシロナお嬢様にクロトか!! 料金は学院にですね」
「ええ、よろしく、的……あれを壊せばいいの?」
「そうです! ですが、こいつはそう簡単にクリアできませんぜ! ルールは簡単、あの的を壊せばOK! 第3等級以下の魔法ならなんでも使用可能! 道具を使っても何しても構いませんが、多少強化してあるので魔法以外は壊せないと思います。制限時間は1分です! どちらから行きますか?」

「私からいくわ! 一回で終わらせてあげる」

 そう言うと3等級だが詠唱を始めるシロナ。炎魔法なら無詠唱もできるだろうが、あえて詠唱することによって威力を上げているのだろう・

「さぁ! 行きなさい! ファイヤーボール!」

 シロナの手から放たれる巨大な火の玉。通常のファイヤーボールより2倍の大きさはあるだろう。
 その大きさに驚く一同。
 そして見事的に着弾し、激しい轟音と共に爆発が起こる。

「俺が知ってるファイヤーボールは爆発しないんだがな」
「ちょっといじったのよ。さぁ! これでクリア……ってええ!?」

 焦げた部分はあるものの的は健在だった。あの爆発で残る的ってこれはクリアできるのか?


「あら~残念でしたね! さっ! 的をリカバリーしますね」

 そう言って的を再生させる店の生徒、おそらく土魔法で作成されているのだろう。

「も~いけたと思ったのに! あれで壊れないなんてどんな難易度なのよ」
「確かにあれで壊れないって学院生でクリアできる奴いるのか疑問だな」

 3等級という縛りがあるため、さらに難易度は高いだろう。

「ささ! クロトもどうぞ~って、クロト魔法使えないんだっけ。どうする?」
「そうよ、いくらクロトでもこれは……」

 騎士が少し困った顔で尋ねてくる。シロナも表情が少し暗いが……。

「いいや、問題ない。リハビリくらいにはなるだろう」

 俺は黒姫握り型をとる。そして暫く静止した後――。

「居合ノ太刀・水月」

 技を放つ。しばらく静寂が訪れる中、失敗したと判断した騎士が口を開いた。

「あ、あら? もう終わりかい?」
「ああ」
「何かその剣? を構えたと思ったけど何かしたのかな? まぁとりあえず失敗という事で――」

 そう言いかけた時だ的が斬れたことを忘れていたかのように袈裟懸けに落ちていく。

「ほら、終わったぞ」
「――え? そんな……何をしたの?!」
「普通に斬った。久々でちょっと不安だったが何とかなるもんだな」
「いや普通じゃないって! その変な細い剣でそんなことが……強化に強化を重ねたのに……くっ! クリアです! おめでとうございますうう」

 少し半泣きになっている。何か悪い事をしたか。
 クリア特典として、えらく大きな宝石を貰ったが……。

「いいのか? このサイズだと……」
「ああ豪邸一つは建てれるだろうよ、持って行けよ」
「!? いや……それは流石に……」
「もってけ! 貴族に二言はない!」
「そ、そうか……」

 豪邸を建てれる程の宝石を貰った……が。

「悪いシロナ。預かっておいてくれ俺が持つには怖すぎる」

 生まれてこの方そんな物持ったことがない上に物騒すぎる。

「ええ、わかったわ」
「シロナは驚かないのか?」
「んーこのくらいの大きさなら見たことはあるし……」
「ああ、何でもないわ」

 こいつもお嬢様だったな。
 色々と散策するが、さっきの店と同様に、どれもぶっとんだ値段をしていた。
 ちなみに俺達を見つけて後を付けていたファンクラブ達は、空気を読んだのか、割って入るような事態にはならなかった。
 
 そして先程と似たような店を見つけてはシロナに 『あれやりましょ!』と言われ挑戦し、難なくクリアしてしまい……余談ではあるが、後に「祭り荒しのクロト」と呼ばれ恐れられることになる。
 
 ある程度満喫した所で辺りは暗くなり学院際の終了までもう少しと言ったところだった。ふと思い出したかのようにシロナは口を開く。

「そういえば、もうそろそろ舞踏会の時間ね」
「あーそういえば追ってきた女子の誰かが言ってたな、逃げてそれどころじゃなかったが」
「まぁ……それは仕方ないわね……」
「それで、その舞踏会には参加するのか?」
「そうね~踊る相手を探す所からかしら」

 そう言いながらシロナは俺の目をみながらにやにやしながら話す。

「それともクロトがお相手でもしてくれる?」
「俺でよろしければ」

 俺は跪き胸に手を当て作法通り腕を伸ばしシロナを誘う。

「へっ!? じょうだ……その……あの……お願いします」

 俯きながらシロナも俺に合わせるように伸ばした手を取る。

「よし! 後は任せろ」

 俺はその手を引いて舞踏会へと向かう。

「もう……そんな顔してたら何も言えないじゃない……」
「あ? 何か言ったか?」
「何もないわよ! いい笑顔だっていったの!」
「俺がか? 普通だろ」
「気にしないで! ほら早く連れて行ってよ私の騎士様」
「はいはい」

 俺はそのままシロナと様々な視線を浴びながら舞踏会を楽しんだ。
 一生縁のないと思っていたダンスまですることになる何て、人生わからないものだ。
 まさかこれを見越してじじいが……? 考えすぎか。
 


 

 
 
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