魔法学院の護衛騎士

球磨川 葵

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第41話 夜

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『勝負あり! 勝者! クロト・ムラマサ選手!』 
『これで本戦トーナメントに進出じゃな』
『精神干渉系魔法を使ってくる相手でしたが、問題なかったみたいですね』
『彼は魔法が使えんから、精神力のみで対応したことになるが……苦しい様子も見せず欠伸しておったわい』

 3回戦目が終わり、とりあえず本戦までは進むことが出来た。
 本戦は明日になるので後はフリーだ。
 といっても、学院生の試合が始まるのでシロナを見てやることにする。観客達からしてみれば、これからが本番と言ったところだろう。騎士たちは前座みたいなものだ。
 
 俺はゆっくりと観客席に戻ると笑顔でシロナに出迎えられる。

「本戦進出おめでとう!」
「ああ、次はシロナの番だな」
「ええ、しっかりと私の戦いをその目に焼き付けておきなさい」
「はいはい」

 まぁシロナの実力なら優勝候補で間違いないだろう。魔力もそこそこある上に度胸もある。実戦経験があるのも大きいだろう。
 
 そしてその予想通り、シロナは難なく予選を突破し、本戦へと進出したのであった。
 
 二人の本戦進出が決まり、少し豪華な夕食を摂った後、お互い明日もあるので早めに別れ寮へと戻る。
 俺もそこまで疲労はないものの、特にやることもないので早めにベッドへと入ることにした。


 そして夜も深まり、月の光のみ照らす頃、扉に気配を感じ俺は目を覚ます。
 
「(刺客か? いや、それにしては大雑把すぎる上に、気配の消し方が雑だ。……いや、この微妙に薄い気配はどこかで……)」

 部屋に入るもとくに襲い掛かる様子もない来訪者に、そのまま俺は様子を見る事にした。
 ……が、そいつはいつまでも行動を起こすことなく、俺のベッドの前に立っている様で、流石に埒が明かないと思った俺は上半身だけ起き上がり声をかける。

「さっきからそこでつっ立って何をやって……ってお前は……」

 月明かりが少しずつ来訪者を照らし、その姿を現す。
 黒曜石の様に黒く煌めく長い髪に、透き通った紫の瞳に特徴的な泣きぼくろ……ユキナだ。
 何時もの学院服でなく、髪の色と対照的な白のネグリジェ姿で佇んでいた。
 
「いくらお嬢様は許可なしに騎士の所へ来れるからって、そんな姿俺以外の奴が見たら襲われるぞ?」

 そう、騎士が学院生のいる寮への通行は許可がなければ通ることはできないが、その逆は許可などは不要である。
 俺のその質問にじっと立っていたユキナは少し首をかしげて俺に問いかける。

「……襲わないの?」
「いや襲うかよ」

 別に女性に興味がないわけではない。寧ろユキナは美少女と言っても過言ではないだろう。
 そんな子に襲わないの? なんて言われてみろ、並みの奴ならその場で押し倒している事だろうが……。
 あまりにも不可解すぎる状況な上、ふとシロナの事を思うと、何故かそういう気にもなれないというのが本音だった。
 俺はベッドから足を出し、ユキナの方を向いて問いかける。

「んで、そんな格好で何しに来た」
「……夜這い?」
「何でお前が疑問形なんだよ……」
「……いや?」
「そういう事じゃ無くてな……」

 一体何を考えているんだこいつは……。
 そして暫く沈黙が訪れる。
 流石に話が進まないので俺から口を開いた。

「とりあえず立ってないで座れ」
「……うん」

 とてとてと歩き、椅子に座るかと思いきや何故か俺の隣に座るユキナ。

「……座った」
「確かに座れとは言ったが……まぁいい。俺に何か用か」
「……襲う?」
「それはもういい。無理しているのバレバレだからな」
「……魔法?」
「いや誰でもわかると思うぞ」
「……困った」
「俺のセリフなんだがな……、とりあえず何か用があるんだろ? 抱く抱かないにしろ、何か俺にやってもらいたいことでもあるのか?」

 少なくとも俺に好意を持っているからという理由ではない事はわかる。今までもそういう素振りは見せたことなかったからな。
 後は何か俺に頼み事か何かってところだろう。タイミング的に魔法大会関連の事だろうとは思うが……。

「……魔法大会、明日負けてほしい」
「やはりソレ関連か」
「……多分クロトが明日勝つ」
「やってみないとわからないだろ? お前の騎士だって相当やれると思うぜ?」

 以前、ウインドから聞いた話だが、魔法付与状態で戦えばいい所行くとは思う。まぁそれでも厳しいだろうが、勝負にならないというレベルではない。

「……信じてる、でも保険」
「んー何だ、優勝の願いが目的か」
「……」

 沈黙するユキナ。肯定ということか。恐らくウインドが勝てば願いを譲ってもらえる算段なのだろう。
 ユキナは俺が知る限り、こういった行為は絶対しないような人物なのだが、それだけ重要な事なのだろう……だが……。

「悪いが、俺も今回負けるわけにはいかないんでな。それに、願いならお前が勝てばいい話だろう」

 俺の耳に入るほど魔法で有名なキーライト家、その娘とあらば、優勝も目じゃないだろう。
 しかし返答する声は暗くユキナの表情は下を向いていた。

「……今の私じゃ難しいの」
「攻撃魔法が使えないからか?」
「……そう」

 今日のユキナの予選もシロナと一緒に見ていたが、攻撃魔法を使用する事はなかった。いや、使えないのか? 確かに今までの学院生活でユキナが攻撃魔法を使用した所を俺は見たことがない。
 予選を反射魔法や干渉魔法といった、別の方法で勝ち進んで行ったのは称賛に価するが、本戦となると難しいだろう。

「それほどまでに願いたい事ってなんなんだ?」
「それは……ごめんなさい」
「そうか、無理して聞こうとは思わんが……」

 目的は勝つ事なので、願い事にそこまでこだわりがある訳ではない。どこまで叶うかもわからないし、それを当てにするわけにもいかん。
 権利を譲ってもよかったんだが、それは主かその騎士でないとできないらしい。悪用防止処置だろう。

「ともかく負けることはできない。何ならシロナに相談した方が……」

 そう言いかけると、首をゆっくりと左右に振るユキナ。

「……いい、シロナには心配かけたくないから」
「俺にはいいのか!?」
「……そうね」

 やり取りに少しほほ笑んだかと思うと、ベッドから立ちあがるユキナ。
 その足はゆっくりと部屋の扉へと歩みを進める。

「……急にごめんなさい」
「いいや、俺こそ力になれなくてすまんな、あと、そう言った真似は他の奴にはするなよ」
「……ええ、ありがとう、それはないから安心して」
「ならいいが……」
「……おやすみなさい」

 そう言ってユキナは出て行った。
 それほどまでに願いたい事とは何だろうか? 攻撃魔法が打てないことに関連しているのか?

「……ま、俺が考えても仕方ない事か」
 
 だからと言って、わざと負ける様な事はしない。今回は勝たねばならんのだ。

「願い事ね~」

 仮に勝てたとして何を願うか。
 第3区画出身を変えてくれ? なかったことにしてくれ? 仮に願ったとして俺を知っている奴らの記憶まで消去できるほどの願いなど叶えられるのか?
 それは難しいだろう。仮に出来たとしても、人の記憶操作まで行うことを、あの学院長がよしとしない。 
 ならばどうする、貴族にしてくれー? とかか? いや、俺には向いてなさすぎる。 パーティーでボンボンどもの表情窺いながらご挨拶なんて、我慢はできるが進んでやろうとは思わん。
 としたら……。

「勝ったときにでもシロナに相談するか」

 まずは明日の本戦に勝ってからだ。
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