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第30話 アンデッドⅡ
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エルダーリッチから放たれた魔法は、死者の嘆きや叫び声と共に、俺たちの前に巨大な禍々しい闇の空間として出現する。
闇の中は怨念か何かか、ヨクナイモノが入り混ざり合っており、アレに触れると終わりという事が本能でわかる。
通常のエルダーリッチが放つ魔法ではないが……いや、そんなことを考えている暇はない。
「……さてどうするか」
禍々しい闇はゆっくりとこちらへと近づいてくる。この大きさを見るからに逃げ場は見当たらない。
一か八か黒姫を構えて突っ込むかと思っていたその時だった。
「坊主!! 俺の近くに!!」
アストロの声に反応し、素早く近くへ飛ぶ。
それを確認したアストロは詠唱を始めた。
「―我ら騎士の御旗のもとに、守護する絶対の盾となれ! イージス・ウォール!<絶対守護領域>―」
アストロの詠唱終了と同時に、俺達を包み込む白く円状の透明な防壁が出現した。
そして迫りくる闇と激突する。死者の声と共にバチバチと音を立てながらも防壁が俺達を護り続けている。
「助かったぜおっさん、やるじゃねぇか」
「伊達に長いこと騎士団やってねぇよ! それはいいとして、これが晴れた後はどうする」
「……恐らく何度やってもアイツは再構築されるだろう。先程の剣の振り方を見ても、再構築で弱体化している様子はなかった」
「となると、大本を叩かないとか……。そういえば再構築の時にエルダーリッチの杖が詠唱とは別に光っていたぞ」
「そうか。なら考えられるのはエルダーリッチが再構築させているってことだな。しかしどう突破したもんか……」
前回と同様のスケルトンナイトであれば無視して後ろを叩くことは容易だったろう。
だがしかし、あの女が言っていた通り、今回のスケルトンナイトは全ての性能が上がっていた。力はそこまでないが、格段に速さが違う。
「すまねぇ、俺が攻撃できればよかったんだが」
「何言ってんだ、おっさんがいなかったら今頃お陀仏だっての。しかし攻撃の手が足りないのは確かか……」
アストロにまた治癒魔法をかけてもらい、その隙に奥に踏み込むか? いや、それだけではすぐに後ろから斬られるのがオチだ。
ただ前衛を倒すだけなら容易なのだが……さてどうするか……。
突破方法を考えていると突然黒姫が俺に語り掛ける。
『……流石に難儀している様じゃな』
「ああ、猫の手も借りたいくらいだ」
『みたいじゃの。我から見ても、再構築させているのは後ろのエルダーリッチで間違いなかろう』
「やっぱそうか」
「……一人で何ブツブツ言ってるんだ坊主?」
「あー気にしないでくれ」
首をかしげる補佐のアストロ。すまん、流石に説明している時間はない。
「幸いエルダーリッチ自体は動作は遅いみたいだ。切り込めれば一瞬なんだが……あと一手って所か」
『むぅ……そうじゃのぅ……ふむ。この魔力なら一瞬くらいはできるかの……』
「何を一人でブツブツ言ってるんだ?」
『……主様、我に考えがあるんじゃが』
「聞こう」
『我をエルダーリッチに向けてぶん投げるんじゃ』
「却下」
『言うと思ったわ!! 別に自暴自棄になってわけじゃないぞ!? ちゃんと勝機があるからこその提案じゃからな!?』
「投げてどうするんだよ、もし弾かれたらどうする」
『それは……言っても信用しないじゃろうから言わん』
「おいおい……」
しかし他に手もなく、今更適当な事を言う奴でもないのでここは信用することにしよう。
「わかったよ。どうなっても知らんからな」
『わかっておる、信頼せい』
「独り言もそろそろいいか!? 魔法が止むぞ!」
「ああ! おっさんはさっきと同じ様に治癒魔法をアイツにかけてくれ!」
「ん? それはいいが、何か考えがあるんだな!?」
「あー。まぁそんなとこだ」
「そうか!! 了解した! お、止むぞ!」
禍々しい闇が次第に縮小していく。そして闇が止むと同時にアストロの防壁が砕け散った。
それを見計らい俺は先ほどと同様に前へと飛び出す。
同じ戦法に出ると思ったのか、それを見たローブの女は落胆したような声で話す。
「やれやれ、さっきと同じだなんて芸がないわね、何度倒しても無駄よ。あなた達だけでは突破不可能よ」
俺もそう思うんだが、こいつ(黒姫)がどうしてもって言うもんでね。
先程と同様に立ちふさがるスケルトンナイト。俺の首を切断しまいと大きく剣を振りかざしてくる。
俺はアストロの治癒魔法発動まで次々と回避し、時には黒姫で受け流す。
そしてその時が来た。
「グランドヒール!!!」
魔法陣が俺たちの下に展開され治癒が開始される。
そして先程と同様にダメージを受けるスケルトンナイト。その隙にもう一度俺はスケルトンナイト胴体を黒姫で切り落とす。
「っそらよ!!」
黒い霧となるスケルトンナイトだが、すぐに再生を始めていた。
「馬鹿ね!! 無駄だと言っているじゃない!」
「それはどうかな!」
今度はエルダーリッチに突っ込まず、俺は黒姫を持ち替え大きく振りかぶった。
「飛べええええええ!」
エルダーリッチに向けて黒姫を投擲する。スケルトンナイトの再生は完了していたが、この速度なら流石に追いつけまい。
それを見たスケルトンナイトはかばう事は諦めたのか、俺に向けて剣を振り下ろす。
しかし、今度はしっかりとスケルトンナイトを見据えていた為避ける事は容易かったが、あえて俺は両手で挟み込むように受け止めた。
「残念だったな!! 俺は素手の方が得意なんだよ! 少しばかりじっとしてもらうぜ」
俺は受け止めつつも黒姫の行方を目で追う。
エルダーリッチに向けて投げられた黒姫は見事命中するが、斬撃と時と同様に何か見えない結界の様な物に弾かれてしまい、くるくると上空に舞い上がる。
「くそっ! やっぱ直接斬るしかないのか!」
そう思った時刀から黒姫と似た声だが、少し違う少し大人びた声が、何故かこの空間に響きだした。
「狂おしく瑰麗に舞い……悪戯に云うてしまいたい……嗚呼……今は刹那の如く」
くるくると舞う刀が何かを生み出すかの如く大きく光り輝き始める。
やがてその光は一つの奇跡を生み出した。
「顕現……千子黒ノ姫」
光が止んでいく。
そしてそこに現れたのは美しい女性だった。
黒の和服に赤い刺繍が入った帯。黒姫と呼ぶに相応しく長く美しい髪に黒き瞳。そしてどこかで見たことがある三日月の髪飾り。
その手に握られるは黒ノ刀。
あまりにも非常識な光景に、俺は奴の動きを止めつつも、つい見とれてしまう。
それをちらりと見た女性は満足そうに微笑んだ後、落下しながらエルダーリッチに向けて叫ぶ。
「居合ノ太刀・水月!!」
その瞬間、まるで最初から割れていたかのように2つに分断され、そのまま消滅するエルダーリッチ。断末魔すらあげる事はなかった。いや、できなかったのだろう。
その様子を見た俺は戦慄する。
「おいおい……まじかよ」
この俺が動きを見切れなかった? 大抵の動きは見切れる自信はある。たとえ矢が飛んで来ようとあくびしながらでも掴む事はできるだろう。
しかしそんな事は比較対象にもならない程の速さ。あれを見切れるとしたら師匠くらいじゃないか?
そして水月を繰り出したという事は……。
「またとんでもない師匠がついたもんだ」
まだまだ俺も使いこなせていないって訳か。
先は長いなと思っていると、まるで自己主張するかの如くギリギリと音を立て、俺を叩き斬ろうとするスケルトンナイト。俺は目線をやつに向けて話す。
「おっとすまねえ。余りにもおかしな光景に、お前のこと忘れていたぜ」
「GAAAAAAAAAA」
「これでお前も蘇生できないだろう? そら……よっ!」
掴んでいた剣を横に逸らし、胴体に拳を叩きつける。
以前はこれでいけたんが、強化されているからだろう、多少ヒビが入った程度で手応えはなんともと言ったところだった。ならば……。
「さ、やっちまえ黒姫さん……よ!??」
自分でもこんな声出したのは初めてなくらいアホな声が出たと思う。
トドメを任せるために、再度黒姫がいた方向に目を向けた時だった。
そこには先ほどまでいた和服の女性の姿が見えず、一本の刀が床に転がっていたのである。
俺は瞬時に状況を把握し、再度剣を振り下ろしてくるスケルトンナイトの攻撃を後ろに飛ぶように回避。その勢いのまま落ちている刀を拾い、居合いの構えにて再度前に飛び出す。
「居合ノ太刀・水月!」
防ぐ暇を与えない一筋の太刀。
やはり先ほどの黒姫の太刀に比べたらまだまだが、それでも今は十分奴を切り落とすには十分だった。
俺の攻撃を受けて今度こそ消滅していくスケルトンナイト。再生はされなかった。
それを確認すると俺は、手に握っている黒姫に話しかける。
「色々と聞きたいことは山ほどあるんだが、とりあえず何でまた刀に戻ってるんだ」
『魔力切れじゃよ、今我が持っている魔力じゃと一瞬が精々と言ったところだったからの~』
「あんな出来るのなら、言ってくれればよかったんだがな」
『我がそう言って主様は素直に信用したかえ?』
「……あ、ああ」
『わかりやすい嘘じゃの~。まぁ主様の間抜けな顔が見れただで良しとしよう』
「お前な~」
『さ、我はまた一気に魔力をなくしたのでしばらく眠るぞ~話しかけても起きんからな~』
「っておい! まだ話は……」
『……』
「ったく。起きたら覚悟しとけよ」
「坊主……本当に大丈夫か?」
「あ、ああすまん。問題ない。そんな目で見ないでくれ、後で説明する」
「ならいいんだが……」
「さ、それよりこれからが本番だぞ」
俺は2階で唇をかみしめながら此方を向いているローブの女に視線を移した。
「お、おのれ……またしても邪魔を……」
「シロナを狙っているようだが、これでおしまいだな。諦めろ」
高低差はあるものの、この距離なら跳躍して切り込むのは可能だ。
「此処で殺してあげたいけれど……私今日の所は引かせてもらうわ」
「逃げられるとでも思ってるのか?」
俺は黒姫を構えて両足に力を入れすぐに飛べる体勢に入る。
「お忘れ? ここは私があらかじめアンデッド作成のために色々と仕込んでいた場所よ?」
「なんだと?」
「次会ったときは全員まとめて始末してあげるから。それじゃ」
ローブの女がそう言うと建物が突然大きく揺れ始める。
この建物ごと俺達を生き埋めにするつもりか!?
「させるかよ!」
突然の揺れに一瞬踏み込むのが遅れたが、まっすぐ奴に向けて跳躍し一閃。
……しかし女の真下に突如黒い魔法陣が現れ、ローブの女は姿を消してしまった。
「ちっ! 逃げ足だけは速いな」
「坊主!! こっちにこい!」
越えの方向に目を向けるとアストロが先程と同じく防壁を展開していた。
迷わず俺はその中に飛び込む。
入り込んだと同時に大きな音を立てて崩壊していく建物。
上からいくつもの瓦礫が落ちてくるが、全てアストロの防壁がガードしていた。
さすが騎士団だな。建物の崩落にも耐えるとかどれだけ固いんだよ。
暫く防壁で待機していると、崩落の音が止んだ。
辺りを確認しようと思ったが、防壁の外には瓦礫が積みあがっており、このままでは動けない。
「ふむ……おっさんどいてろ。っそらよ!」
なので俺は防壁の中から瓦礫に向けて、全力で上に蹴りを放つ。
その瞬間積みあがっていた瓦礫は吹っ飛び上空に穴が空き光が差し込んだ。
「さ、外の様子を見ようぜ」
「あ、ああ。ところでーこれ俺の防壁いらなくなかったか?」
「何言ってんだ。全部防ぐなんて俺一人だけならいいけどオッサンまで守れないっての」
「一人ならいけるのかよ……」
瓦礫から出て外を見渡す。
すると、そこには血を流すもの。倒れている者。治癒を行っている者など、戦闘があったであろう光景が目に入った。
どういうことかと、俺は近くで治癒を行っている騎士団の一人に話かける。
「何があった」
「ムラマサ様!? ご無事で!」
「俺はいい、一体どうしたんだ」
「はっ! ムラマサ様が建物に入った後、地面から大量のアンデッドが出現! 各自迎撃しておりました」
「なるほどな……」
幸い死者はいないようだが、誰もが満身創痍と言ったところだった。
団長辺りが助けに来てない所を見ると恐らく第二墓地も同じ状況だろう。
「おっさん、こいつらのサポートを」
「わかった。坊主は?」
「俺は団長の所に行ってくる」
俺はこの事態を伝える為団長のいる第二墓地へと向かった。
*
ローブの女が魔法陣と共に、拠点でもある薄暗いレンガ造りの部屋に現れる。
どうにか逃げることはできたが、折角作り上げたアンデッドが台無しになってしまった。
「どうしていつもアイツがいるんだ!!!」
クロト・ムラマサ。魔法が使えないというのにアンデッドに対抗するとは。
そして何だ、あの刀は。人に化けるなど聞いたことがない。
「このままでは……あの方に私が始末されてしまう……」
既に2度も失敗している。もはや次はないだろう。
生成に使っていた魔力も底をついてしまった。
次に事を起こすには時間がかかる……しかしそうのんびりしている訳にはいかない。
しかしどうやって? こうなれば学院で直接奪い去るか? いやそれではリスクが高すぎる。おまけに学院は防壁によって守られており、外部から攻めることは難しい。……防壁……内部。
「いや……まてよ……」
ローブの女は少し考えこむとニヤリと口元を歪めほほ笑んだ。
闇の中は怨念か何かか、ヨクナイモノが入り混ざり合っており、アレに触れると終わりという事が本能でわかる。
通常のエルダーリッチが放つ魔法ではないが……いや、そんなことを考えている暇はない。
「……さてどうするか」
禍々しい闇はゆっくりとこちらへと近づいてくる。この大きさを見るからに逃げ場は見当たらない。
一か八か黒姫を構えて突っ込むかと思っていたその時だった。
「坊主!! 俺の近くに!!」
アストロの声に反応し、素早く近くへ飛ぶ。
それを確認したアストロは詠唱を始めた。
「―我ら騎士の御旗のもとに、守護する絶対の盾となれ! イージス・ウォール!<絶対守護領域>―」
アストロの詠唱終了と同時に、俺達を包み込む白く円状の透明な防壁が出現した。
そして迫りくる闇と激突する。死者の声と共にバチバチと音を立てながらも防壁が俺達を護り続けている。
「助かったぜおっさん、やるじゃねぇか」
「伊達に長いこと騎士団やってねぇよ! それはいいとして、これが晴れた後はどうする」
「……恐らく何度やってもアイツは再構築されるだろう。先程の剣の振り方を見ても、再構築で弱体化している様子はなかった」
「となると、大本を叩かないとか……。そういえば再構築の時にエルダーリッチの杖が詠唱とは別に光っていたぞ」
「そうか。なら考えられるのはエルダーリッチが再構築させているってことだな。しかしどう突破したもんか……」
前回と同様のスケルトンナイトであれば無視して後ろを叩くことは容易だったろう。
だがしかし、あの女が言っていた通り、今回のスケルトンナイトは全ての性能が上がっていた。力はそこまでないが、格段に速さが違う。
「すまねぇ、俺が攻撃できればよかったんだが」
「何言ってんだ、おっさんがいなかったら今頃お陀仏だっての。しかし攻撃の手が足りないのは確かか……」
アストロにまた治癒魔法をかけてもらい、その隙に奥に踏み込むか? いや、それだけではすぐに後ろから斬られるのがオチだ。
ただ前衛を倒すだけなら容易なのだが……さてどうするか……。
突破方法を考えていると突然黒姫が俺に語り掛ける。
『……流石に難儀している様じゃな』
「ああ、猫の手も借りたいくらいだ」
『みたいじゃの。我から見ても、再構築させているのは後ろのエルダーリッチで間違いなかろう』
「やっぱそうか」
「……一人で何ブツブツ言ってるんだ坊主?」
「あー気にしないでくれ」
首をかしげる補佐のアストロ。すまん、流石に説明している時間はない。
「幸いエルダーリッチ自体は動作は遅いみたいだ。切り込めれば一瞬なんだが……あと一手って所か」
『むぅ……そうじゃのぅ……ふむ。この魔力なら一瞬くらいはできるかの……』
「何を一人でブツブツ言ってるんだ?」
『……主様、我に考えがあるんじゃが』
「聞こう」
『我をエルダーリッチに向けてぶん投げるんじゃ』
「却下」
『言うと思ったわ!! 別に自暴自棄になってわけじゃないぞ!? ちゃんと勝機があるからこその提案じゃからな!?』
「投げてどうするんだよ、もし弾かれたらどうする」
『それは……言っても信用しないじゃろうから言わん』
「おいおい……」
しかし他に手もなく、今更適当な事を言う奴でもないのでここは信用することにしよう。
「わかったよ。どうなっても知らんからな」
『わかっておる、信頼せい』
「独り言もそろそろいいか!? 魔法が止むぞ!」
「ああ! おっさんはさっきと同じ様に治癒魔法をアイツにかけてくれ!」
「ん? それはいいが、何か考えがあるんだな!?」
「あー。まぁそんなとこだ」
「そうか!! 了解した! お、止むぞ!」
禍々しい闇が次第に縮小していく。そして闇が止むと同時にアストロの防壁が砕け散った。
それを見計らい俺は先ほどと同様に前へと飛び出す。
同じ戦法に出ると思ったのか、それを見たローブの女は落胆したような声で話す。
「やれやれ、さっきと同じだなんて芸がないわね、何度倒しても無駄よ。あなた達だけでは突破不可能よ」
俺もそう思うんだが、こいつ(黒姫)がどうしてもって言うもんでね。
先程と同様に立ちふさがるスケルトンナイト。俺の首を切断しまいと大きく剣を振りかざしてくる。
俺はアストロの治癒魔法発動まで次々と回避し、時には黒姫で受け流す。
そしてその時が来た。
「グランドヒール!!!」
魔法陣が俺たちの下に展開され治癒が開始される。
そして先程と同様にダメージを受けるスケルトンナイト。その隙にもう一度俺はスケルトンナイト胴体を黒姫で切り落とす。
「っそらよ!!」
黒い霧となるスケルトンナイトだが、すぐに再生を始めていた。
「馬鹿ね!! 無駄だと言っているじゃない!」
「それはどうかな!」
今度はエルダーリッチに突っ込まず、俺は黒姫を持ち替え大きく振りかぶった。
「飛べええええええ!」
エルダーリッチに向けて黒姫を投擲する。スケルトンナイトの再生は完了していたが、この速度なら流石に追いつけまい。
それを見たスケルトンナイトはかばう事は諦めたのか、俺に向けて剣を振り下ろす。
しかし、今度はしっかりとスケルトンナイトを見据えていた為避ける事は容易かったが、あえて俺は両手で挟み込むように受け止めた。
「残念だったな!! 俺は素手の方が得意なんだよ! 少しばかりじっとしてもらうぜ」
俺は受け止めつつも黒姫の行方を目で追う。
エルダーリッチに向けて投げられた黒姫は見事命中するが、斬撃と時と同様に何か見えない結界の様な物に弾かれてしまい、くるくると上空に舞い上がる。
「くそっ! やっぱ直接斬るしかないのか!」
そう思った時刀から黒姫と似た声だが、少し違う少し大人びた声が、何故かこの空間に響きだした。
「狂おしく瑰麗に舞い……悪戯に云うてしまいたい……嗚呼……今は刹那の如く」
くるくると舞う刀が何かを生み出すかの如く大きく光り輝き始める。
やがてその光は一つの奇跡を生み出した。
「顕現……千子黒ノ姫」
光が止んでいく。
そしてそこに現れたのは美しい女性だった。
黒の和服に赤い刺繍が入った帯。黒姫と呼ぶに相応しく長く美しい髪に黒き瞳。そしてどこかで見たことがある三日月の髪飾り。
その手に握られるは黒ノ刀。
あまりにも非常識な光景に、俺は奴の動きを止めつつも、つい見とれてしまう。
それをちらりと見た女性は満足そうに微笑んだ後、落下しながらエルダーリッチに向けて叫ぶ。
「居合ノ太刀・水月!!」
その瞬間、まるで最初から割れていたかのように2つに分断され、そのまま消滅するエルダーリッチ。断末魔すらあげる事はなかった。いや、できなかったのだろう。
その様子を見た俺は戦慄する。
「おいおい……まじかよ」
この俺が動きを見切れなかった? 大抵の動きは見切れる自信はある。たとえ矢が飛んで来ようとあくびしながらでも掴む事はできるだろう。
しかしそんな事は比較対象にもならない程の速さ。あれを見切れるとしたら師匠くらいじゃないか?
そして水月を繰り出したという事は……。
「またとんでもない師匠がついたもんだ」
まだまだ俺も使いこなせていないって訳か。
先は長いなと思っていると、まるで自己主張するかの如くギリギリと音を立て、俺を叩き斬ろうとするスケルトンナイト。俺は目線をやつに向けて話す。
「おっとすまねえ。余りにもおかしな光景に、お前のこと忘れていたぜ」
「GAAAAAAAAAA」
「これでお前も蘇生できないだろう? そら……よっ!」
掴んでいた剣を横に逸らし、胴体に拳を叩きつける。
以前はこれでいけたんが、強化されているからだろう、多少ヒビが入った程度で手応えはなんともと言ったところだった。ならば……。
「さ、やっちまえ黒姫さん……よ!??」
自分でもこんな声出したのは初めてなくらいアホな声が出たと思う。
トドメを任せるために、再度黒姫がいた方向に目を向けた時だった。
そこには先ほどまでいた和服の女性の姿が見えず、一本の刀が床に転がっていたのである。
俺は瞬時に状況を把握し、再度剣を振り下ろしてくるスケルトンナイトの攻撃を後ろに飛ぶように回避。その勢いのまま落ちている刀を拾い、居合いの構えにて再度前に飛び出す。
「居合ノ太刀・水月!」
防ぐ暇を与えない一筋の太刀。
やはり先ほどの黒姫の太刀に比べたらまだまだが、それでも今は十分奴を切り落とすには十分だった。
俺の攻撃を受けて今度こそ消滅していくスケルトンナイト。再生はされなかった。
それを確認すると俺は、手に握っている黒姫に話しかける。
「色々と聞きたいことは山ほどあるんだが、とりあえず何でまた刀に戻ってるんだ」
『魔力切れじゃよ、今我が持っている魔力じゃと一瞬が精々と言ったところだったからの~』
「あんな出来るのなら、言ってくれればよかったんだがな」
『我がそう言って主様は素直に信用したかえ?』
「……あ、ああ」
『わかりやすい嘘じゃの~。まぁ主様の間抜けな顔が見れただで良しとしよう』
「お前な~」
『さ、我はまた一気に魔力をなくしたのでしばらく眠るぞ~話しかけても起きんからな~』
「っておい! まだ話は……」
『……』
「ったく。起きたら覚悟しとけよ」
「坊主……本当に大丈夫か?」
「あ、ああすまん。問題ない。そんな目で見ないでくれ、後で説明する」
「ならいいんだが……」
「さ、それよりこれからが本番だぞ」
俺は2階で唇をかみしめながら此方を向いているローブの女に視線を移した。
「お、おのれ……またしても邪魔を……」
「シロナを狙っているようだが、これでおしまいだな。諦めろ」
高低差はあるものの、この距離なら跳躍して切り込むのは可能だ。
「此処で殺してあげたいけれど……私今日の所は引かせてもらうわ」
「逃げられるとでも思ってるのか?」
俺は黒姫を構えて両足に力を入れすぐに飛べる体勢に入る。
「お忘れ? ここは私があらかじめアンデッド作成のために色々と仕込んでいた場所よ?」
「なんだと?」
「次会ったときは全員まとめて始末してあげるから。それじゃ」
ローブの女がそう言うと建物が突然大きく揺れ始める。
この建物ごと俺達を生き埋めにするつもりか!?
「させるかよ!」
突然の揺れに一瞬踏み込むのが遅れたが、まっすぐ奴に向けて跳躍し一閃。
……しかし女の真下に突如黒い魔法陣が現れ、ローブの女は姿を消してしまった。
「ちっ! 逃げ足だけは速いな」
「坊主!! こっちにこい!」
越えの方向に目を向けるとアストロが先程と同じく防壁を展開していた。
迷わず俺はその中に飛び込む。
入り込んだと同時に大きな音を立てて崩壊していく建物。
上からいくつもの瓦礫が落ちてくるが、全てアストロの防壁がガードしていた。
さすが騎士団だな。建物の崩落にも耐えるとかどれだけ固いんだよ。
暫く防壁で待機していると、崩落の音が止んだ。
辺りを確認しようと思ったが、防壁の外には瓦礫が積みあがっており、このままでは動けない。
「ふむ……おっさんどいてろ。っそらよ!」
なので俺は防壁の中から瓦礫に向けて、全力で上に蹴りを放つ。
その瞬間積みあがっていた瓦礫は吹っ飛び上空に穴が空き光が差し込んだ。
「さ、外の様子を見ようぜ」
「あ、ああ。ところでーこれ俺の防壁いらなくなかったか?」
「何言ってんだ。全部防ぐなんて俺一人だけならいいけどオッサンまで守れないっての」
「一人ならいけるのかよ……」
瓦礫から出て外を見渡す。
すると、そこには血を流すもの。倒れている者。治癒を行っている者など、戦闘があったであろう光景が目に入った。
どういうことかと、俺は近くで治癒を行っている騎士団の一人に話かける。
「何があった」
「ムラマサ様!? ご無事で!」
「俺はいい、一体どうしたんだ」
「はっ! ムラマサ様が建物に入った後、地面から大量のアンデッドが出現! 各自迎撃しておりました」
「なるほどな……」
幸い死者はいないようだが、誰もが満身創痍と言ったところだった。
団長辺りが助けに来てない所を見ると恐らく第二墓地も同じ状況だろう。
「おっさん、こいつらのサポートを」
「わかった。坊主は?」
「俺は団長の所に行ってくる」
俺はこの事態を伝える為団長のいる第二墓地へと向かった。
*
ローブの女が魔法陣と共に、拠点でもある薄暗いレンガ造りの部屋に現れる。
どうにか逃げることはできたが、折角作り上げたアンデッドが台無しになってしまった。
「どうしていつもアイツがいるんだ!!!」
クロト・ムラマサ。魔法が使えないというのにアンデッドに対抗するとは。
そして何だ、あの刀は。人に化けるなど聞いたことがない。
「このままでは……あの方に私が始末されてしまう……」
既に2度も失敗している。もはや次はないだろう。
生成に使っていた魔力も底をついてしまった。
次に事を起こすには時間がかかる……しかしそうのんびりしている訳にはいかない。
しかしどうやって? こうなれば学院で直接奪い去るか? いやそれではリスクが高すぎる。おまけに学院は防壁によって守られており、外部から攻めることは難しい。……防壁……内部。
「いや……まてよ……」
ローブの女は少し考えこむとニヤリと口元を歪めほほ笑んだ。
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⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
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「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
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