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第26話 ウインドⅡ
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………………
…………
……
あれ? 僕はさっきまでユキナという少女と一緒に森にいたはず。
気がつくとそこは、上も下もわからない真っ黒な何もない空間。
まるで宙に浮いている様だ。
何もない空間を見渡していると、突然何処からか声が響く。
「—何故助ける—」
「—何故逃げない—」
「—何故人に任せない—」
その声は男性でもあり女性でもあり、様々な声が冷たくこの空間に響き渡る。
突然の出来事に少し混乱するが、僕からしてみれば簡単な質問なので答える。
「助けたいと思ったから……見過ごせなかったから、僕がそうしたかったから」
何もない空間に返答する。
するとすぐに先程の声が響く。
「—見返りもなく?—」
「—ただの自己満足では?—」
「—死ぬかもしれないのに?—」
ああ、なんて簡単な事を聞いてくるのだろう。
「うん、その人の笑顔が見たいから。……これも見返りなのかな? 死ぬとしてもそれは僕の頑張りが足りなかっただけ。その人がそれで助かる可能性があるなら、僕は何度でも同じ事をする」
「……」
「……」
「……」
静寂が訪れる。
この質疑応答は何だろう?
いや、これはそういう事じゃなく……。
「そっか、心配してくれているんだね」
きっとそうだ。
もし違ったとしても、僕にとっては気遣ってくれている様に感じる。
冷たい様に聞こえるけれど温かい声。
「……」
「……」
「—変わった奴だ—」
返答があったと思えば、また沈黙は続く。
何故だろう、この空間が少し暖かく感じる……。
彼等は僕を引き止めているのだろうか? もしくは何か真意を問いたいのか……
しかし、僕にはやる事がある、長くここにいる事は出来ない。
「……そろそろいいかな? 行かなくちゃ、彼女が待ってる」
そう答えると、再び声が響いた。
「—……今は君を信じてみよう。ユキナを頼む—」
その声は今までの冷たい声とは違い、どこか優しさを感じる温かい男性声だった。
そしてその声と同時に空間が光に包まれ、やがて真っ白になる。
………………
…………
……
「……お帰り……貴方なら耐えてくれると思った。……そして、負けないでウインド」
「ああ、行ってくるよ」
僕は心に宿す強き想いと共に立ち上がった。
今まで感じたことのない、まるで身体の中で何かが爆発しそうな、そんなエネルギーを感じる。
ユキナから授かった力を確かめていると、巨体にかけていた魔法が解けたらしい。
こちらに振り向くと鬼の様な形相で睨んでくる。
「おまえら!! もうゆるさねえ!! おんなもごろす!!!」
その言葉と同時に巨体は突進の構えを取った。
どうやら僕達まとめて吹き飛ばすつもりらしい。
「やらせない!!」
僕は身体の中で燻る力を解放するための言葉を口にする。
「イグニッション……オーバードライブ!!!」
瞬間、身体の中にあるエネルギーが爆発し赤いオーラを纏う。
腕が、足が、身体が、心が。
今なら何でもできる。そんな気すらしてくるくらい、今までに感じたことのない開放感とパワー。
巨体が突進してくる。
先程までは避ける事が精一杯だったというのに、今はスローのように巨体が遅く感じた。
僕は突進してくる巨体を片手で簡単に受け止める。
「な、なんだどおおぉぉ」
驚き戸惑う巨体。
信じられないくらいの力だ……!
しかし消耗も激しいらしく、そう長くは持ちそうにない。
それまでに決着をつける。
僕は巨体の顎目掛けて蹴りを放つ。
「!?? んあああ!??」
僕の何倍もある巨体が宙に浮く。
奴は信じられないといった表情をしているが、まだ終わりではない。
地面を蹴り上げ相手の上方まで飛び、空中で1回転した後、勢いを殺さず踵で巨体を地面へと叩きつける。
派手な衝撃音と共に倒れ、のたうち回る巨体。ダメージは大きいようだ。
「これでっ……!」
僕は何もない空中を蹴り飛ばし、巨体目掛けて脚を伸ばし飛び蹴りを放つ。
凄まじい速度で激突し揺れる地面。
土煙が辺りを舞う。
やがてその土煙は晴れてゆき、二人を映し出した。
「僕の……勝ちですよね?」
巨体の顔の真横に開く大穴。
蹴りは本人ではなく地面に突き刺さっていた。
「あ、あああ。おでの……負け……だ」
そのまま意識を失う巨体。
ダメージも大きいみたいだし、これはしばらく起きそうにないだろう。
ふぅ……と気を抜くと、ガクッと膝が落ち、地面に倒れそうになった時、ユキナが駆けつけくれたらしく、僕を支えてくれた。
「……反動大きいから無理しちゃダメ」
「どうも……そうみたいですね」
膝がガクガクと笑っている。これはしばらく一人で立てそうにないだろう。
それを差し引いても、凄まじい程の強化だった。
これは使いこなすには時間が必要そうだ。
など、色々と考えていると、ユキナがこちらを見つめてくる。
「えっと……どうしたのかな? あ! ごめん、重いよね!」
ゆっくりと首を左右にふるユキナ。
俯きながら小さく微笑み、唇が開く。
「……ありがとう」
なんだ、そんなことか。
「どういたしまして!」
その顔が見れただけで十分さ。
彼女の微笑みに見惚れていると、森の奥から軍馬に乗った騎士団の方々が続々と現れ、その中の一人がこちらに近づいてくる。
それは試験を担当してくれた団員だった。
最初は心配そうな表情をしていたが、倒れている巨体を見ると驚きに変わっていた。
「出遅れてしまって申し訳ない……兄の方は捕まえたが、まさかウインド君が彼女を助けてくれていたとは……それも弟まで倒しているとはね。怪我はないかいミス・キーライト」
「……問題ありません」
「ん? キーライト……あああ!!」
思い出した。
キーライト家。
このアーツで、知らない人はいないと言っていいほどの魔法使いの名家。
確か現在は、当主が病にかかっているらしい……。
しかし、通りで魔力が凄いわけだ……おまけにあの強化魔法……。
ん? でもそれならなんで攻撃魔法は使えないのだろう? それほどの名家の娘ならそれくらい出来そうなものだが。
「そんな凄いお嬢様だったなんて……ユキナ……いえ、ミス・キーライト」
「……ユキナでいい」
「なんだ、今気づいたのか? 知らないで助けに行ったなんてやっぱり君は変わってるな」
「いえ、自分でも驚いてますよ」
「そうか。キーライト家とは私もよくしてもらっているから助かったよ。あーあと、君も一緒に戦ったのなら知っての通り、彼女は攻撃魔法が使えない……それを分かっての事か、隙を狙っての犯行だったみたいだな。本当は一部の者しか知らない情報なんだがね……」
「本人も言ってましたがやはり使えないんですね……」
「ああ、その代わりに付与魔法が得意らしいが……彼女の魔法は特別でね、相応の精神力がないと耐えれず倒れてしまうらしい」
「そういえ似たような事言ってたなぁ」
「……ウインドならできるって信じてた」
何か認められたようで少し嬉しかった。
少し照れていると、団員が驚いた声をあげる。
「ちょっとまて、まさか付与を受けたのかい!?」
「え? ええ、あの人を倒すのに必要でしたので……」
何かまずい事だったのだろうか!? 機密事項だったとか!?
そう思っていると、団員の男は少し照れながら話す。
「あー、恥ずかしい話なんだが、私も当主の見舞いに行ったときに、試しにかけてもらった時があってね」
「そうなんですか??」
「ああ、気づいたらベッドの上だったよ」
「……あの時は失礼いたしました」
「そ、そうなんですね、その時何か声がしませんでしたか?」
「声? いいや、何も覚えてないな~」
「そうですか、ありがとうございます」
団員の方でも耐えれないとなると相当なんだな……僕が受け入れられたのはあの声のおかげなのだろうか?
「ま、ともあれお手柄だね! 近いうちにまた詳しい事情は聴くと思うからまたその時にでも。あー、治癒も施さないといけないし今日は本部でゆっくり休んでいきなさい」
「はい、わかりました」
「それと試験の時にサイドスキルの発現がないと悩んでいた様だが……」
「え、あ、はい」
今ここで話題になるとは思っていなかったが、そうなのである。
僕はまだサイドスキルが発現していない。確かに発現には個人差もあり出てこない人もいるだろうが、試験に受かることに必死になっていた僕は、一度相談したことがあったのである。
「もうあるじゃないか」
「え? そんな特別な事は何も……」
「その心だと思うよ」
「えっ?」
「詳しく見てみないとわからないが、私は試験で何度も見た君の優しく強い、挫けない心を評価していた。そして今回の付与にも耐えられたという事はそうとしか思えなくてね」
「僕の……心……」
「ああ、直接的な強さではないが、大事な物だと思うよ。それじゃ俺はアレを回収して戻らねば。またな!」
「あ! お疲れさまでした!」
団員が軍馬を走らせるが、ふと一度振り返る。
「あ、そうそう。ミス・キーライトも学院前に良い騎士が見つかってよかったな!」
「……はい」
そう言うと他の団員を率い巨体を連れて去って行った。
「あの……ユキナ様? 騎士って……?」
「……ユキナでいい」
「いやでも……ではなく! もしかして僕の事ですか?」
「……ダメ??」
上目遣いで僕を見つめるユキナ。
反則だ。そんな顔で見つめられてNOと言える男子がいるだろうか。
いいや、無理だ。さよなら僕のサイドスキル……。
それはともかく、誰かの騎士というのも一応選択肢の一つではあった。
一番は魔法騎士団に入る事だが、誰かを護る仕事には変わりない。ただ今まで縁がなかっただけだ。
そして何かこの子を放っておけない……それにあの力……一緒に何か託されたような気がしたんだ。
それに魔法が苦手だから名家のお嬢様なら教えてもらえるかもという打算もないとも言えない。
色々と悩んだが、答えは決まっていた様で、すんなりと言葉にできた。
「僕で力になれるのであれば喜んで……!」
「……ありがとう」
少女がほほ笑む。
まいったな、この子の笑顔に僕は抵抗できないみたいだ。
「……それじゃあ、早速契約するね」
「え!? 今ですか!?」
「……いつしても変わらない。なら早いうちにしよう」
「わ、わかりました!」
ユキナが目を閉じ詠唱を始める。
「ー我を導きし魔力(マナ)よ、我を護り我と共に歩む騎士を今ここに認めよー」
僕たちの周りを、不思議な光が包み始める。
「ーユキナ・キーライトがウインド・リグレッツに命じる! コントラクト・ナイト!-」
ユキナがそう叫ぶと辺り一帯がまばゆい光に包まれる。
一時の静寂の後、少しづつ光は小さくなっていき、やがて元に戻っていく。
「―……はいこれで契約完了。聞こえる?―」
「―!? はい! これが思念会話ですね―」
主人との契約の証。思念による会話で言葉にせずとも伝えあえる。
「……うまくいった」
「はい! それではよろしくお願いいたしますね、ユキナお嬢様」
「……ユキナでいい」
「そればかりは譲れません! 僕の主様ですからね!」
「……むぅ」
口を少し膨らませるユキナ。すみません、知らなかったとはいえ、名家のお嬢様にいきなり呼び捨てしていたのがマズイのです。
「……わかった、今はいい。これから色々と大変だけど……頑張ろ」
「ええ! 任せてください!」
そう、これが僕とユキナ様との出会い。そして騎士になるきっかけだった。
…………
……
あれ? 僕はさっきまでユキナという少女と一緒に森にいたはず。
気がつくとそこは、上も下もわからない真っ黒な何もない空間。
まるで宙に浮いている様だ。
何もない空間を見渡していると、突然何処からか声が響く。
「—何故助ける—」
「—何故逃げない—」
「—何故人に任せない—」
その声は男性でもあり女性でもあり、様々な声が冷たくこの空間に響き渡る。
突然の出来事に少し混乱するが、僕からしてみれば簡単な質問なので答える。
「助けたいと思ったから……見過ごせなかったから、僕がそうしたかったから」
何もない空間に返答する。
するとすぐに先程の声が響く。
「—見返りもなく?—」
「—ただの自己満足では?—」
「—死ぬかもしれないのに?—」
ああ、なんて簡単な事を聞いてくるのだろう。
「うん、その人の笑顔が見たいから。……これも見返りなのかな? 死ぬとしてもそれは僕の頑張りが足りなかっただけ。その人がそれで助かる可能性があるなら、僕は何度でも同じ事をする」
「……」
「……」
「……」
静寂が訪れる。
この質疑応答は何だろう?
いや、これはそういう事じゃなく……。
「そっか、心配してくれているんだね」
きっとそうだ。
もし違ったとしても、僕にとっては気遣ってくれている様に感じる。
冷たい様に聞こえるけれど温かい声。
「……」
「……」
「—変わった奴だ—」
返答があったと思えば、また沈黙は続く。
何故だろう、この空間が少し暖かく感じる……。
彼等は僕を引き止めているのだろうか? もしくは何か真意を問いたいのか……
しかし、僕にはやる事がある、長くここにいる事は出来ない。
「……そろそろいいかな? 行かなくちゃ、彼女が待ってる」
そう答えると、再び声が響いた。
「—……今は君を信じてみよう。ユキナを頼む—」
その声は今までの冷たい声とは違い、どこか優しさを感じる温かい男性声だった。
そしてその声と同時に空間が光に包まれ、やがて真っ白になる。
………………
…………
……
「……お帰り……貴方なら耐えてくれると思った。……そして、負けないでウインド」
「ああ、行ってくるよ」
僕は心に宿す強き想いと共に立ち上がった。
今まで感じたことのない、まるで身体の中で何かが爆発しそうな、そんなエネルギーを感じる。
ユキナから授かった力を確かめていると、巨体にかけていた魔法が解けたらしい。
こちらに振り向くと鬼の様な形相で睨んでくる。
「おまえら!! もうゆるさねえ!! おんなもごろす!!!」
その言葉と同時に巨体は突進の構えを取った。
どうやら僕達まとめて吹き飛ばすつもりらしい。
「やらせない!!」
僕は身体の中で燻る力を解放するための言葉を口にする。
「イグニッション……オーバードライブ!!!」
瞬間、身体の中にあるエネルギーが爆発し赤いオーラを纏う。
腕が、足が、身体が、心が。
今なら何でもできる。そんな気すらしてくるくらい、今までに感じたことのない開放感とパワー。
巨体が突進してくる。
先程までは避ける事が精一杯だったというのに、今はスローのように巨体が遅く感じた。
僕は突進してくる巨体を片手で簡単に受け止める。
「な、なんだどおおぉぉ」
驚き戸惑う巨体。
信じられないくらいの力だ……!
しかし消耗も激しいらしく、そう長くは持ちそうにない。
それまでに決着をつける。
僕は巨体の顎目掛けて蹴りを放つ。
「!?? んあああ!??」
僕の何倍もある巨体が宙に浮く。
奴は信じられないといった表情をしているが、まだ終わりではない。
地面を蹴り上げ相手の上方まで飛び、空中で1回転した後、勢いを殺さず踵で巨体を地面へと叩きつける。
派手な衝撃音と共に倒れ、のたうち回る巨体。ダメージは大きいようだ。
「これでっ……!」
僕は何もない空中を蹴り飛ばし、巨体目掛けて脚を伸ばし飛び蹴りを放つ。
凄まじい速度で激突し揺れる地面。
土煙が辺りを舞う。
やがてその土煙は晴れてゆき、二人を映し出した。
「僕の……勝ちですよね?」
巨体の顔の真横に開く大穴。
蹴りは本人ではなく地面に突き刺さっていた。
「あ、あああ。おでの……負け……だ」
そのまま意識を失う巨体。
ダメージも大きいみたいだし、これはしばらく起きそうにないだろう。
ふぅ……と気を抜くと、ガクッと膝が落ち、地面に倒れそうになった時、ユキナが駆けつけくれたらしく、僕を支えてくれた。
「……反動大きいから無理しちゃダメ」
「どうも……そうみたいですね」
膝がガクガクと笑っている。これはしばらく一人で立てそうにないだろう。
それを差し引いても、凄まじい程の強化だった。
これは使いこなすには時間が必要そうだ。
など、色々と考えていると、ユキナがこちらを見つめてくる。
「えっと……どうしたのかな? あ! ごめん、重いよね!」
ゆっくりと首を左右にふるユキナ。
俯きながら小さく微笑み、唇が開く。
「……ありがとう」
なんだ、そんなことか。
「どういたしまして!」
その顔が見れただけで十分さ。
彼女の微笑みに見惚れていると、森の奥から軍馬に乗った騎士団の方々が続々と現れ、その中の一人がこちらに近づいてくる。
それは試験を担当してくれた団員だった。
最初は心配そうな表情をしていたが、倒れている巨体を見ると驚きに変わっていた。
「出遅れてしまって申し訳ない……兄の方は捕まえたが、まさかウインド君が彼女を助けてくれていたとは……それも弟まで倒しているとはね。怪我はないかいミス・キーライト」
「……問題ありません」
「ん? キーライト……あああ!!」
思い出した。
キーライト家。
このアーツで、知らない人はいないと言っていいほどの魔法使いの名家。
確か現在は、当主が病にかかっているらしい……。
しかし、通りで魔力が凄いわけだ……おまけにあの強化魔法……。
ん? でもそれならなんで攻撃魔法は使えないのだろう? それほどの名家の娘ならそれくらい出来そうなものだが。
「そんな凄いお嬢様だったなんて……ユキナ……いえ、ミス・キーライト」
「……ユキナでいい」
「なんだ、今気づいたのか? 知らないで助けに行ったなんてやっぱり君は変わってるな」
「いえ、自分でも驚いてますよ」
「そうか。キーライト家とは私もよくしてもらっているから助かったよ。あーあと、君も一緒に戦ったのなら知っての通り、彼女は攻撃魔法が使えない……それを分かっての事か、隙を狙っての犯行だったみたいだな。本当は一部の者しか知らない情報なんだがね……」
「本人も言ってましたがやはり使えないんですね……」
「ああ、その代わりに付与魔法が得意らしいが……彼女の魔法は特別でね、相応の精神力がないと耐えれず倒れてしまうらしい」
「そういえ似たような事言ってたなぁ」
「……ウインドならできるって信じてた」
何か認められたようで少し嬉しかった。
少し照れていると、団員が驚いた声をあげる。
「ちょっとまて、まさか付与を受けたのかい!?」
「え? ええ、あの人を倒すのに必要でしたので……」
何かまずい事だったのだろうか!? 機密事項だったとか!?
そう思っていると、団員の男は少し照れながら話す。
「あー、恥ずかしい話なんだが、私も当主の見舞いに行ったときに、試しにかけてもらった時があってね」
「そうなんですか??」
「ああ、気づいたらベッドの上だったよ」
「……あの時は失礼いたしました」
「そ、そうなんですね、その時何か声がしませんでしたか?」
「声? いいや、何も覚えてないな~」
「そうですか、ありがとうございます」
団員の方でも耐えれないとなると相当なんだな……僕が受け入れられたのはあの声のおかげなのだろうか?
「ま、ともあれお手柄だね! 近いうちにまた詳しい事情は聴くと思うからまたその時にでも。あー、治癒も施さないといけないし今日は本部でゆっくり休んでいきなさい」
「はい、わかりました」
「それと試験の時にサイドスキルの発現がないと悩んでいた様だが……」
「え、あ、はい」
今ここで話題になるとは思っていなかったが、そうなのである。
僕はまだサイドスキルが発現していない。確かに発現には個人差もあり出てこない人もいるだろうが、試験に受かることに必死になっていた僕は、一度相談したことがあったのである。
「もうあるじゃないか」
「え? そんな特別な事は何も……」
「その心だと思うよ」
「えっ?」
「詳しく見てみないとわからないが、私は試験で何度も見た君の優しく強い、挫けない心を評価していた。そして今回の付与にも耐えられたという事はそうとしか思えなくてね」
「僕の……心……」
「ああ、直接的な強さではないが、大事な物だと思うよ。それじゃ俺はアレを回収して戻らねば。またな!」
「あ! お疲れさまでした!」
団員が軍馬を走らせるが、ふと一度振り返る。
「あ、そうそう。ミス・キーライトも学院前に良い騎士が見つかってよかったな!」
「……はい」
そう言うと他の団員を率い巨体を連れて去って行った。
「あの……ユキナ様? 騎士って……?」
「……ユキナでいい」
「いやでも……ではなく! もしかして僕の事ですか?」
「……ダメ??」
上目遣いで僕を見つめるユキナ。
反則だ。そんな顔で見つめられてNOと言える男子がいるだろうか。
いいや、無理だ。さよなら僕のサイドスキル……。
それはともかく、誰かの騎士というのも一応選択肢の一つではあった。
一番は魔法騎士団に入る事だが、誰かを護る仕事には変わりない。ただ今まで縁がなかっただけだ。
そして何かこの子を放っておけない……それにあの力……一緒に何か託されたような気がしたんだ。
それに魔法が苦手だから名家のお嬢様なら教えてもらえるかもという打算もないとも言えない。
色々と悩んだが、答えは決まっていた様で、すんなりと言葉にできた。
「僕で力になれるのであれば喜んで……!」
「……ありがとう」
少女がほほ笑む。
まいったな、この子の笑顔に僕は抵抗できないみたいだ。
「……それじゃあ、早速契約するね」
「え!? 今ですか!?」
「……いつしても変わらない。なら早いうちにしよう」
「わ、わかりました!」
ユキナが目を閉じ詠唱を始める。
「ー我を導きし魔力(マナ)よ、我を護り我と共に歩む騎士を今ここに認めよー」
僕たちの周りを、不思議な光が包み始める。
「ーユキナ・キーライトがウインド・リグレッツに命じる! コントラクト・ナイト!-」
ユキナがそう叫ぶと辺り一帯がまばゆい光に包まれる。
一時の静寂の後、少しづつ光は小さくなっていき、やがて元に戻っていく。
「―……はいこれで契約完了。聞こえる?―」
「―!? はい! これが思念会話ですね―」
主人との契約の証。思念による会話で言葉にせずとも伝えあえる。
「……うまくいった」
「はい! それではよろしくお願いいたしますね、ユキナお嬢様」
「……ユキナでいい」
「そればかりは譲れません! 僕の主様ですからね!」
「……むぅ」
口を少し膨らませるユキナ。すみません、知らなかったとはいえ、名家のお嬢様にいきなり呼び捨てしていたのがマズイのです。
「……わかった、今はいい。これから色々と大変だけど……頑張ろ」
「ええ! 任せてください!」
そう、これが僕とユキナ様との出会い。そして騎士になるきっかけだった。
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