魔法学院の護衛騎士

球磨川 葵

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第20話 友達

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「落ち着いたか?」
「ええ、ごめんなさい」

 シロナの目はまだ少し赤いが、落ちついた様だ。
 流石に想定外すぎて俺もビビったが。
 
「ったく、大げさだな」
「それくらい嬉しかったのよ! それとクロト」
「どうした?」
「貴方が倒れる前に、何か昔、私と約束みたいなこと言ってたみたいだけど、なんだったのかなって」
「ん? 俺そんなこと言ったのか?」
「ええ」
「……全く覚えてない。それに昔に会ったとは思えないしな、師匠と修行の毎日だったし」
「そう……ならいいわ。あ! その師匠さん! クロトの腕を治癒したって言ってたけど、斬り落とされた腕を元に戻すなんて……そんなことが出来るのって」
「ん? ああ、じじ……師匠は1等級魔法使いらしいな」
「えええええええ!?」

 突然シロナが大声で驚き叫ぶ。
 
「1等級らしいってどういうこと!?」
「ああ、見慣れない輝きだとは思ったが、まさか1等級だったとは俺も驚いたよ。どうりで敵わないわけだ」

 魔法発動による銀の輝き。
 それは1等級を証明する輝きである。
 これもじじいが居なくなって、後から分かった話なんだがな。

「クロトが規格外な理由が少しわかったわ……」
「おいおい、俺をあんな化け物と一緒にするなよ」

 本当怒らせたら今でも敵うかどうか……。

「あのねクロト、第1等級といえばこのアーツでも数人しかいない特別な存在なのよ??」
「そうなのか。特別と言われてもねぇ……身をもって体験しているからなぁ」
「そ、そうだったわね……」

 肩を落とし少し落ち込むシロナ。傷の事を気にしているみたいだ。
 だが、すぐに顔をあげ次の話題に移った。

「あ、そうだ! あの細い剣よ! あれはどうしたの?? クロトが魔法を使えるなんて知らなかったわよ!?」
「あーすまん、説明してなかったよな」

 そう、予め説明しておけば、シロナがあのような危険な行動に出なかったかもしれない。

「こいつは『カタナ』という武器だな。東方で使われているらしいが、詳しい事はあの金髪のおチビに聞いてくれ」
「アリスの事?? いつの間にそんなの貰ったのよ」
「あ、まー色々あってな」

 流石に大商人の娘の騎士をタイマンで気絶させましたとは言いずらい。

「ふーん、まあいいわ、それで?」
「ああ、もう出てきてもらった方が早いな……起きろ、黒姫」

 俺は片腕を前に伸ばし黒姫を呼び出す。
 すると手の中に黒い刀が顕現する。

『ふえええええん』
「うぉ!? びっくりした」

 呼び出したと同時に物凄い勢いで泣いている黒姫。

『主様にそんな過去があっただなんてええぇそれに主様の主様も素敵な方でえええぇ』
「ええい、もう何言ってるかわからんから落ち着け!?」

 意外とお前も涙もろいんだな!?

「クロト……貴方さっきから一人でなにぶつぶつ言っているの?? ……まさか怪我の後遺症が!?」

 すごく生暖かい目で俺の顔を見てくるシロナ。

「違う違う! ちょっとまて! 黒姫! シロナにも声は聞かせられるか?」
『ぐすん、我に触れさせると良い』
「シロナ、この刀を触ってくれないか? って何ニヤニヤしてるんだよ」
「えーだってクロトが名前呼んでくれるのが嬉しくって~」
「恥ずかしい事を言うな! いいから触ってみろ!」
「うー。まぁいいけど……」

 恐る恐る刀に触れるシロナ。
 触れた瞬間黒姫がシロナに声をかける。

『どうじゃ? 聞こえたかの?』
「え!? 声が急に?! この刀がしゃべっているの?!」
『如何にも! 我が黒姫じゃ!』
「東方の武器ってすごいのね……シロナよ、よろしくね」
『おう、シロナ様じゃな! 主様の主となれば我の主みたいなものじゃな! よろしくの』
「なんかもうわけわからんな……ともかく、この黒姫は魔物を斬るのにもってこいの武器なんだよ」
「そうだったのね……そうとは知らずに私、こんな細い剣でアンデットを斬れるだなんて思っていなくて……」
「いいんだ、俺が伝えていなかったのが悪い……信頼するってこういう所からなんだろうな」
「……何かクロトが可愛く思えて来たわね」
「名前呼んでやらんぞ」
「あああ! ごめんなさいごめんなさい調子乗りました!」
「ったく」

 俺まで笑ってしまうだろうが。

「ともかく、黒姫はいつもこのイヤリングになっていて、こいつ自身の能力で実体化できるみたいで、俺が魔法を行使しているわけじゃない」
「そうだよね、騎士が使える武器収納魔法かと思って驚いたけれど、黒姫ちゃんの能力だったのね」
『黒姫ちゃん!? ……まぁよいわ。その通りじゃな、我の魔力がある限りは可能じゃ』
「魔力って……刀が? どうやって補充するのかしら?」
『魔物を斬る事じゃな。あのソウルイーターのお陰で、しばらくは余裕がありそうじゃな~ご馳走様でした』
「なるほどね~」
「魔物以外を斬るとすっごい疲れるけどな」

 そうなのだ、普段から振り回したいところだが、魔物以外を斬ると疲労感の様なものが体に襲いくる。
 無視して使うと、しばらく使うと動けなくなってしまうくらいだ。

「色々まだ技を黒姫に教えてもらいたいんだが、魔物をそのたび見つけるのが大変でなー」
『そうじゃな~ずっと岩を斬る訳にもいかんからの』
「それで刃こぼれしない事もすごいけど、黒姫ちゃんが刀の使い方を教えてくれてるのね……」
『言葉だけで、ある程度技が使えるようになる主様も異常だがの』
「軽いし扱いやすいだけさ」
「まぁそこは何時もの事だとして……クロト、何で学院ではこんなに強いのに実力を隠しているの??」

 本当に分からないような目で俺を見つめてくるシロナ。

「簡単だよ、目立てば目立つ程俺を探る奴が出てくるだろう。いつ第3区画出身とバレるかわからない。だから程々か下くらいになって目立たないようにしているだけさ、魔法が使えない事に感謝したのは初めてだよ。お陰で誰も興味を持たないみたいだ」

 教師連中は気づいているみたいだけどな。

「そうだったのね……ごめんなさい、私もなんとかしてあげたいんだけれど、お父様程ではないから……」
「別にいいって、こうして騎士に慣れただけ今は本当に嬉しいんだ」
「クロト……」

 見つめあう俺達。
 透き通るような白い髪に宝石の様に赤い瞳。 
 シロナってこんな可愛かったか……?
 何か今までと違う印象を覚える、何故だ。
 じっと見つめているその時だった。

「うわっ! 本当に起きているわ!?」
「「ビクッ!!」」

 いつのまにいたのか、医務室の扉には見たことのある面子が立っていた。
 オカマ声で咄嗟に反射で距離を取る俺達。
 シロナは椅子に背筋を伸ばし両手を綺麗に太ももの上に置いている。
 俺も咄嗟に黒姫を元に戻したが、この距離で気付かないとはまだ疲れているのだろうか。

「もー心配で見に来てみれば、起きていることにもびっくりしたけれど、貴方達いつの間にそんな親しい仲に……妬けるわ!!」
「フルは置いといて、もう気づいたんだねクロト」
「ああ、今起きたばかりだ」
「んもう~もう少し寝ていたら優しく襲……介抱してあげたのに♡」
「誰かこいつを止めてくれ」

 ウインドとフルが俺が寝ているベッドへと近づいてくる。
 その後ろにはリーフとユキナも一緒だ。

「な、仲がいいんだね」
「……グッジョブ」
「ち、ちがうわよ!?」

 浮気を見られた旦那かお前は。
 リーフとユキナにからかわれるシロナ。
 
「あ、あの先生は起きるのに3日か4日はかかるって」

 リーフが確認する様にシロナに問いかける。

「ああ……クロトだからね。なんだか慣れてきたわ」
「……人間?」

 失礼な。

「た、確かにウインド君が、もしかしたら起きてるかも! ってふざけて言ってたけれど、本当に起きているなんて」
「身体貫かれて1日で起きるって逞しいわね♡」
「……そういう問題?」
「ま、まぁまぁ! とりあえず皆、来てくれてありがとう、この通りピンピンしてるわ」
「心配かけたな」
「水臭いこと言うなよクロト。僕たち友達じゃないか」
「……友達?」

 ウインドの言葉に驚く。
 友達……俺には縁のない言葉だった。
 
「えっ……? もしかしてそう思ってたの僕だけ?!」

 ショックと言わんばかりに身体をがっくりと落とすウインド。

「ああ、違うんだ。その、友達って今まで出来た事がなくてな、どう反応していいかわからなかった」
「え!? あ、そうなんだ……なら今改めて言うよ。僕と友達になってくれないかな」

 ニッコリと笑い、右腕を差し出すウインド。

「俺でいいのなら」

 俺はその手を握る。

「なんならもっと深い関係でもいいのよ♡」
「言っとけ」

 俺は照れ隠しするようにフルに答える。
 友達か……悪くないな。

「……友情」
「ご、ごはんが進みますね」
「ちょっとリーフ??」

 お嬢様たちが何か不吉な事を言ってる様だがスルーしよう。
 
 それを見たウインドは苦笑した後、思い出したかのように喋りだす。

「あ、そう言えばもうすぐ休暇になるけど、クロトとシロナお嬢様は落ち着いたら学院長室に来てくれって」
「学院長が??」

 おそらく今回の1件だろう。
 さて……どうなる事だか。
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