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第16話 前期試験Ⅲ
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まずは後ろの魔法使いからだ。
魔法攻撃は厄介だが、それ以上に後ろの壁を越えられるとまずい。
それに等級によっては壁越しに攻撃が及ぶ可能性もある。
「いくぜ」
俺は地面を蹴り左側にある崖に瞬時に飛ぶ、そして蹴った反動でそのまま魔法使いへと飛び込もうとした。
しかし、壁を蹴った瞬間、リーダー格の男がダガーを構え俺の目の前に躍り出るそして驚いたように話す。
「なんて速さだ……! 強化して追いつくのがやっとだ……しかし!」
後ろの魔法使いを一瞥すると、翠の輝きが一瞬見えた。どうやら強化魔法を無詠唱で行ったらしい。
「落ちろ!」
「邪魔だ」
俺は空中で顔目掛けて突き出してくるダガーを紙一重で避け、伸び切った腕を掴む。
「馬鹿なっ?!」
そしてそのままリーダー格の男を下へと投げ落とし、反動を使い魔法使いたちの背後に着地する。
二人は一瞬気づくのが遅れたのか、間をおいて後ろを振り向こうとするが。
「悪いな」
その間が命取りだった。魔法使い二人の首を手刀で無力化する。
一瞬女性の様な悲鳴をあげ二人は地面に倒れた。
「これでとりあえず少しはゆっくりできるな」
俺は残った3人組を見渡すと、先ほど投げたリーダー格の男がゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「一番早く動ける私が、2つ魔法強化を受けたはずなんだがね……」
「まだ動けるのか、割と本気で投げたんだがな」
おそらくもう一つは防御魔法なのだろう。加速と防御と言ったところか。
「見事だよ。それに後ろ二人も殺さずに気絶しているだけのようだしね、新米だったんで助かるよ」
「わざわざそこまでする必要もないしな、無力化しただけだ」
「簡単に言ってくれるね……」
冷や汗を掻く野盗のリーダー。次にどう動くか思考しているかに見える。
やり取りを見ていた斧の野盗とダガーのもう一人が、リーダー格に対して嘲笑しながら話しかける。
「おいおい隊……お頭ぁ~あんなひょろい奴に負けてますぜ」
「最近太ったんじゃないですかー?」
「何も動けてないお前らが言うなよ。しかし油断するな、ただの騎士見習いと思ってみたら痛い目を見るぞ」
「ま、魔物よりは楽しめそうですな」
「ごめんね僕~ちょっと大人しくしてもらえたらそれでいいから」
斧の野盗は背が高く、声からして男性で間違いない。一方もう一人のダガーを持った野盗は背も小さく130cm程か、声からして女性だろう。
そして再び構え始める野盗達。
「あーできたらここいらで終わってくれたら嬉しいんだがー」
「残念だが、まだ終わりではない!!」
リーダ格の男が再びダガーを突き出し飛び込んでくる。
それを見た俺は今度は躱さず、ダガーの持ち手目掛けて片足で素早く蹴り上げる
蹴りが命中しダガーが宙へと舞い、リーダー格の野盗も腕ごと大きく仰反る。
「やるね! だが!」
入れ替わるかの如く隙のないタイミングで、男の後ろから小柄な女性らしき野盗がダガーを逆手に持ち飛び込んでくる。
「悪いね兄ちゃん、本気でやらせてもらうよ」
首目掛けて迫るダガー。
片足を蹴り上げた状態だった俺は、避ける事は困難と判断し、かかと落としする要領でそのダガーを叩き落とす。
「あそこから動けるのっ!? でもっ」
ダガーを叩き落とされたものの、そのままの勢いで蹴りを繰り出してくる小柄の野盗。
俺は片腕で蹴りをガードすると、その足を力任せに振り払う。
すると先ほどまで目の前にいた、リーダー格の男と小柄の野盗が消えていた。
索敵をしようとしたその時、俺の直感が下がれと訴えかけてくる。
何度も助けられたその直感に従い、俺は後方へと距離を取ろうとした瞬間、空中にあったダガーと先ほど蹴り落としたダガーが爆発を起こす。
ギリギリ回避が間に合うが爆風と共に大きく後退する。
「ふぅ、あぶねぇっ……って!」
着地したと同時に背後に気配を感じる。
爆風で周りが見えない中、下から何かが来ると察知し素早く両足を曲げ飛び上がる。
その瞬間、ぶんっ! と大きく風を切る音と同時に大斧が真下を通過する。
先ほどの斧を持った野盗だ。だが斧のサイズが先ほどと違うようだが何かの仕掛けか魔法か……。
避けられたと判断した斧の野盗は、再び俺の頭上目掛けて大斧を縦に振り下ろしてきた。
それを察知した俺は男に背を向けたまま、片腕を上げ掴むように大斧を受け止める。
「ぐっ……おまえ、俺の斧を……片手でだと……!」
彼が装備している腕輪が翠に輝いていた、どうやら彼も2等級魔法使いらしい。
先ほど下を通過した時と斧のサイズが違う事から、おそらく魔法で巨大化させたのだろう。
ギリギリと力が拮抗する中、斧を持った野盗は叫ぶ。
「今だ! やれ!!」
爆風が晴れると同時に、俺の前方に先程のリーダ格と小柄の野盗の姿が見える。
何か詠唱をしていたらしく、二人が同時に叫ぶ
「「穿て! ゼノアイスランス(凍てつく氷槍)!!!」」
氷で生成された巨大な槍が物が俺に襲いかかる。
これで決まったと思ったのだろう、斧に力を入れつつ野盗は笑いながら話しかけてくる。
「惜しかったな小僧、まぁ生きてたらいいな」
「あんたも死ぬぞ」
「俺は強化してあるか問題ねぇよ」
「そうか」
それを聞いた俺は指先に力をいれる。すると一瞬にして持っていた斧の刃が粉砕された。それを目の当たりした斧を持った野盗は驚き叫ぶ。
「なんて奴だよ! 強化された斧だぞ!?」
斧を粉砕した後、俺は迫りくる巨大な氷槍を前に、腰を低くしまるで居合いするような構えと姿勢で自ら飛び込む。
「来い、黒姫」
『お? やっと出番じゃな!』
まるで最初から持っていたかの如く、黒き刀が構えていた手に現れる。
「一ノ太刀・水月」
瞬間、鞘から放たれた抜刀により、眼前まで迫った巨大な氷槍が中央から真っ二つに割れ、俺を避けるかの如く後方へと逸れる。
それと同時に疲れとは違う……消耗感といった所だろうか、身体に負担がかかる様な感覚が俺を襲う。
多少苦しいが、耐えつつ俺は飛び込んだ勢いのまま二人の目の前まで接近し黒姫をリーダー格の野盗に突き付ける。
「俺の勝ち……? でいいよな?」
魔法が突破されると思ってなかったのか、はたまた消耗が激しかったのか、二人とも呆然とした顔でこちらを見ていた。
「あー、やっぱり魔物以外をまともに『斬ろう』とすると少し体にくるわ」
『主様は魔力がないからのぅ~』
「ま、実戦で技が上手く決まったし、良しとするか」
『まだまだじゃな。ま、最初にしては合格点かの』
「へーい。まだまだ練習しないとな」
黒姫と日々の練習の成果について話していると、正気に戻ったのかリーダー格の男がハッとした表情をし、驚いた様な声で話す。
「いや……まさかここまでとは思ってなかったよ。手を抜いたつもりはなかったんだがね」
「だろうな。どれも直撃していれば死んでもおかしくないくらいだった」
「5人がかりだったんだが……おまけに全員大きな怪我もなく無力化されてしまったしね。これは参ったよ」
両手を上げ首をすくめるリーダー格の野盗。
それを見た俺は思っていたことを口にする。
「別に気にせず倒してしまってもよかったんだが……あんたら野盗じゃないだろ」
それを聞くと、ほぅとした表情でリーダー格の男は俺を見ながら答える。
「どうしてそう思うんだい?」
「まず俺達を窺っていたようだが、野盗にしては気配を隠すのが上手すぎる。手練れかと思ったんだが見たところ、全員の装備がまず使い込まれてなく、どこからか購入した感じに見えたな」
「……それで?」
「後は考えればわかる事なんだが、第2等級魔法をぶっぱなしてくる奴が野盗やる意味ないだろ。それに動きが上品すぎるんだよ」
第3区画の奴らとは大違いだ。ただ襲うだけでなく、しっかりと連携の取れた行動。
「他にも色々あるが……そうだな、成績の事って言った所につっこみがなかった。まだ騎士見習いとは言ってなかったんだが、それを知ってた事かな」
つまりは学校側の人間。もしくは試験に関係あるという事だろう。
それを聞くとリーダ格の男は一瞬思いがけない顔になり、やがて笑い始めた。
「そうかそうか、これは本当に参ったな。全部お見通しだったわけか」
「これが本当の試験ってやつか?」
俺は突き付けていた黒姫を下ろし、イヤリングに変える。戻るときは一瞬で戻るようになっていて便利だ。
それを見たリーダー格の男は少し驚いた表情をし、問いに答え始める。
「そうだ。今回の試験を担当することになった……いや、今はまだいいか。それより、クロト・ムラマサ君? だよね、確か君は魔法が使えないと聞いていたけど」
さっき戻した黒姫の事を言っているらしい。確かに魔法で騎士は戻せるって話だよな。
「あー。こいつはちょっと特殊で、魔法を行使しているわけじゃないんだ」
「そうなのか、カタナ……だっけかな、珍しい武器を使う上にそんなこともできるなんて凄いものだね」
流石に話せるとまで言うと説明が面倒なので詳しくは話さないでおこう。
「少し疑問に思ったことがあるんだが」
「ん? 何だい?」
「試験って全員こんなに難易度が高いものなのか?」
全員に第2等級魔法使い相手に立ち振る舞えと言われたら、間違いなくほぼ失格になるだろう。ってこれ前も同じようなやり取りしたよな……。
それに俺は学院では目立たないように、成績は下の方になっている筈なんだが……。
「いいや? 君だけだよここまでするのは」
「なんでだ!?」
「バレット元隊長が君ならこれでいいだろうって」
「あのおっさんがあああああああ!!!!!」
最初だからってやりすぎたか……。反省だ。
しかし元隊長……?
「というわけで、合格おめでとう。やはり学院での成績はわざとの様だね。しかし何故そんな真似を?」
「色々とあってな……あ、丁度いい少し相談があるんだが」
「なんだい??」
「今回の成績、合格なのはわかったが、できれば俺は合格ギリギリという事にしておいてほしい」
疑問そうな顔をする試験官の男。
少し考える様な素振りを見せるが、すぐに納得したように返答する。
「いいよ。成績を上げろと言われたらそんなことはできないが、そのくらいなら構わないが……本当にいいのかい?」
「ああ、急に評価あがっても困るしな」
「そうか、しかし本当君は面白いね。ここまでの実力があるなら卒業後、是非我がアーツ魔法騎士――」
試験官の男が何か最後まで言おうとした瞬間だった。
以前にも感じたような気配と、急激に空気が冷たくなる現象。
それと同時に岩壁の向こう側から火柱が上がった。
「話は後だ、あいつが危ない」
魔法攻撃は厄介だが、それ以上に後ろの壁を越えられるとまずい。
それに等級によっては壁越しに攻撃が及ぶ可能性もある。
「いくぜ」
俺は地面を蹴り左側にある崖に瞬時に飛ぶ、そして蹴った反動でそのまま魔法使いへと飛び込もうとした。
しかし、壁を蹴った瞬間、リーダー格の男がダガーを構え俺の目の前に躍り出るそして驚いたように話す。
「なんて速さだ……! 強化して追いつくのがやっとだ……しかし!」
後ろの魔法使いを一瞥すると、翠の輝きが一瞬見えた。どうやら強化魔法を無詠唱で行ったらしい。
「落ちろ!」
「邪魔だ」
俺は空中で顔目掛けて突き出してくるダガーを紙一重で避け、伸び切った腕を掴む。
「馬鹿なっ?!」
そしてそのままリーダー格の男を下へと投げ落とし、反動を使い魔法使いたちの背後に着地する。
二人は一瞬気づくのが遅れたのか、間をおいて後ろを振り向こうとするが。
「悪いな」
その間が命取りだった。魔法使い二人の首を手刀で無力化する。
一瞬女性の様な悲鳴をあげ二人は地面に倒れた。
「これでとりあえず少しはゆっくりできるな」
俺は残った3人組を見渡すと、先ほど投げたリーダー格の男がゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「一番早く動ける私が、2つ魔法強化を受けたはずなんだがね……」
「まだ動けるのか、割と本気で投げたんだがな」
おそらくもう一つは防御魔法なのだろう。加速と防御と言ったところか。
「見事だよ。それに後ろ二人も殺さずに気絶しているだけのようだしね、新米だったんで助かるよ」
「わざわざそこまでする必要もないしな、無力化しただけだ」
「簡単に言ってくれるね……」
冷や汗を掻く野盗のリーダー。次にどう動くか思考しているかに見える。
やり取りを見ていた斧の野盗とダガーのもう一人が、リーダー格に対して嘲笑しながら話しかける。
「おいおい隊……お頭ぁ~あんなひょろい奴に負けてますぜ」
「最近太ったんじゃないですかー?」
「何も動けてないお前らが言うなよ。しかし油断するな、ただの騎士見習いと思ってみたら痛い目を見るぞ」
「ま、魔物よりは楽しめそうですな」
「ごめんね僕~ちょっと大人しくしてもらえたらそれでいいから」
斧の野盗は背が高く、声からして男性で間違いない。一方もう一人のダガーを持った野盗は背も小さく130cm程か、声からして女性だろう。
そして再び構え始める野盗達。
「あーできたらここいらで終わってくれたら嬉しいんだがー」
「残念だが、まだ終わりではない!!」
リーダ格の男が再びダガーを突き出し飛び込んでくる。
それを見た俺は今度は躱さず、ダガーの持ち手目掛けて片足で素早く蹴り上げる
蹴りが命中しダガーが宙へと舞い、リーダー格の野盗も腕ごと大きく仰反る。
「やるね! だが!」
入れ替わるかの如く隙のないタイミングで、男の後ろから小柄な女性らしき野盗がダガーを逆手に持ち飛び込んでくる。
「悪いね兄ちゃん、本気でやらせてもらうよ」
首目掛けて迫るダガー。
片足を蹴り上げた状態だった俺は、避ける事は困難と判断し、かかと落としする要領でそのダガーを叩き落とす。
「あそこから動けるのっ!? でもっ」
ダガーを叩き落とされたものの、そのままの勢いで蹴りを繰り出してくる小柄の野盗。
俺は片腕で蹴りをガードすると、その足を力任せに振り払う。
すると先ほどまで目の前にいた、リーダー格の男と小柄の野盗が消えていた。
索敵をしようとしたその時、俺の直感が下がれと訴えかけてくる。
何度も助けられたその直感に従い、俺は後方へと距離を取ろうとした瞬間、空中にあったダガーと先ほど蹴り落としたダガーが爆発を起こす。
ギリギリ回避が間に合うが爆風と共に大きく後退する。
「ふぅ、あぶねぇっ……って!」
着地したと同時に背後に気配を感じる。
爆風で周りが見えない中、下から何かが来ると察知し素早く両足を曲げ飛び上がる。
その瞬間、ぶんっ! と大きく風を切る音と同時に大斧が真下を通過する。
先ほどの斧を持った野盗だ。だが斧のサイズが先ほどと違うようだが何かの仕掛けか魔法か……。
避けられたと判断した斧の野盗は、再び俺の頭上目掛けて大斧を縦に振り下ろしてきた。
それを察知した俺は男に背を向けたまま、片腕を上げ掴むように大斧を受け止める。
「ぐっ……おまえ、俺の斧を……片手でだと……!」
彼が装備している腕輪が翠に輝いていた、どうやら彼も2等級魔法使いらしい。
先ほど下を通過した時と斧のサイズが違う事から、おそらく魔法で巨大化させたのだろう。
ギリギリと力が拮抗する中、斧を持った野盗は叫ぶ。
「今だ! やれ!!」
爆風が晴れると同時に、俺の前方に先程のリーダ格と小柄の野盗の姿が見える。
何か詠唱をしていたらしく、二人が同時に叫ぶ
「「穿て! ゼノアイスランス(凍てつく氷槍)!!!」」
氷で生成された巨大な槍が物が俺に襲いかかる。
これで決まったと思ったのだろう、斧に力を入れつつ野盗は笑いながら話しかけてくる。
「惜しかったな小僧、まぁ生きてたらいいな」
「あんたも死ぬぞ」
「俺は強化してあるか問題ねぇよ」
「そうか」
それを聞いた俺は指先に力をいれる。すると一瞬にして持っていた斧の刃が粉砕された。それを目の当たりした斧を持った野盗は驚き叫ぶ。
「なんて奴だよ! 強化された斧だぞ!?」
斧を粉砕した後、俺は迫りくる巨大な氷槍を前に、腰を低くしまるで居合いするような構えと姿勢で自ら飛び込む。
「来い、黒姫」
『お? やっと出番じゃな!』
まるで最初から持っていたかの如く、黒き刀が構えていた手に現れる。
「一ノ太刀・水月」
瞬間、鞘から放たれた抜刀により、眼前まで迫った巨大な氷槍が中央から真っ二つに割れ、俺を避けるかの如く後方へと逸れる。
それと同時に疲れとは違う……消耗感といった所だろうか、身体に負担がかかる様な感覚が俺を襲う。
多少苦しいが、耐えつつ俺は飛び込んだ勢いのまま二人の目の前まで接近し黒姫をリーダー格の野盗に突き付ける。
「俺の勝ち……? でいいよな?」
魔法が突破されると思ってなかったのか、はたまた消耗が激しかったのか、二人とも呆然とした顔でこちらを見ていた。
「あー、やっぱり魔物以外をまともに『斬ろう』とすると少し体にくるわ」
『主様は魔力がないからのぅ~』
「ま、実戦で技が上手く決まったし、良しとするか」
『まだまだじゃな。ま、最初にしては合格点かの』
「へーい。まだまだ練習しないとな」
黒姫と日々の練習の成果について話していると、正気に戻ったのかリーダー格の男がハッとした表情をし、驚いた様な声で話す。
「いや……まさかここまでとは思ってなかったよ。手を抜いたつもりはなかったんだがね」
「だろうな。どれも直撃していれば死んでもおかしくないくらいだった」
「5人がかりだったんだが……おまけに全員大きな怪我もなく無力化されてしまったしね。これは参ったよ」
両手を上げ首をすくめるリーダー格の野盗。
それを見た俺は思っていたことを口にする。
「別に気にせず倒してしまってもよかったんだが……あんたら野盗じゃないだろ」
それを聞くと、ほぅとした表情でリーダー格の男は俺を見ながら答える。
「どうしてそう思うんだい?」
「まず俺達を窺っていたようだが、野盗にしては気配を隠すのが上手すぎる。手練れかと思ったんだが見たところ、全員の装備がまず使い込まれてなく、どこからか購入した感じに見えたな」
「……それで?」
「後は考えればわかる事なんだが、第2等級魔法をぶっぱなしてくる奴が野盗やる意味ないだろ。それに動きが上品すぎるんだよ」
第3区画の奴らとは大違いだ。ただ襲うだけでなく、しっかりと連携の取れた行動。
「他にも色々あるが……そうだな、成績の事って言った所につっこみがなかった。まだ騎士見習いとは言ってなかったんだが、それを知ってた事かな」
つまりは学校側の人間。もしくは試験に関係あるという事だろう。
それを聞くとリーダ格の男は一瞬思いがけない顔になり、やがて笑い始めた。
「そうかそうか、これは本当に参ったな。全部お見通しだったわけか」
「これが本当の試験ってやつか?」
俺は突き付けていた黒姫を下ろし、イヤリングに変える。戻るときは一瞬で戻るようになっていて便利だ。
それを見たリーダー格の男は少し驚いた表情をし、問いに答え始める。
「そうだ。今回の試験を担当することになった……いや、今はまだいいか。それより、クロト・ムラマサ君? だよね、確か君は魔法が使えないと聞いていたけど」
さっき戻した黒姫の事を言っているらしい。確かに魔法で騎士は戻せるって話だよな。
「あー。こいつはちょっと特殊で、魔法を行使しているわけじゃないんだ」
「そうなのか、カタナ……だっけかな、珍しい武器を使う上にそんなこともできるなんて凄いものだね」
流石に話せるとまで言うと説明が面倒なので詳しくは話さないでおこう。
「少し疑問に思ったことがあるんだが」
「ん? 何だい?」
「試験って全員こんなに難易度が高いものなのか?」
全員に第2等級魔法使い相手に立ち振る舞えと言われたら、間違いなくほぼ失格になるだろう。ってこれ前も同じようなやり取りしたよな……。
それに俺は学院では目立たないように、成績は下の方になっている筈なんだが……。
「いいや? 君だけだよここまでするのは」
「なんでだ!?」
「バレット元隊長が君ならこれでいいだろうって」
「あのおっさんがあああああああ!!!!!」
最初だからってやりすぎたか……。反省だ。
しかし元隊長……?
「というわけで、合格おめでとう。やはり学院での成績はわざとの様だね。しかし何故そんな真似を?」
「色々とあってな……あ、丁度いい少し相談があるんだが」
「なんだい??」
「今回の成績、合格なのはわかったが、できれば俺は合格ギリギリという事にしておいてほしい」
疑問そうな顔をする試験官の男。
少し考える様な素振りを見せるが、すぐに納得したように返答する。
「いいよ。成績を上げろと言われたらそんなことはできないが、そのくらいなら構わないが……本当にいいのかい?」
「ああ、急に評価あがっても困るしな」
「そうか、しかし本当君は面白いね。ここまでの実力があるなら卒業後、是非我がアーツ魔法騎士――」
試験官の男が何か最後まで言おうとした瞬間だった。
以前にも感じたような気配と、急激に空気が冷たくなる現象。
それと同時に岩壁の向こう側から火柱が上がった。
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