魔法学院の護衛騎士

球磨川 葵

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第9話 学院長

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 学院長室前に到着すると、シロナは扉をノックする。
 すると扉の中から学院長らしき人物の声が返ってきた。

「ああ、入りなさい」
「失礼いたします」

 俺とシロナは言われた通り扉を開け中に入る。
 中に入ると、左右には小難しそうな本ばかり並んでいる本棚があり、正面には大きな窓、その前には年期の入った机と椅子が配置されており、そこに学院長と思われる人物が腰を掛けていた。
 白い口髭と髪。魔法陣のような模様の入ったローブを羽織っており、いかにも長老といった感じだ。

「おお、待っておったぞ、ミス・シュヴァリエールに……クロト・ムラマサ君……だったかの? 儂はレイド・ヴィクトワールじゃ、ここの学院長をやっておる」
「はい、存じております」
「何で俺の名は疑問形なんだ」
「すまんすまん、変わった名前じゃと思ってな、にしても初対面なのにバレット先生の言う通り雑な奴じゃのー」

 ほっほっほと笑うヴィクトワール。なかなか大らかな性格らしい。
 俺の態度に不快を感じている様な素振りはなかった。そして隣でシロナが諦めた表情をしている。 

「急に呼び出してすまんの、要件は大体は分かっておるとは思うが……」
「私の属性の事ですね」
「そうじゃ、儂も最初聞いた時はとうとうボケが始まったかと思ったわい」
「私も最初は信じられませんでした……」
「お伽噺かと思っておったが……実在するとはのぅ。じゃがそういった魔法は使えんのじゃろ?」
「はい、特別な事は何も……」
「ふむ、まぁそこで先ほど教師の皆を集めて会議しておったのじゃが、ひとまずは様子見という事になった。他に何も情報がないしの」
「まぁそうなるだろうな」
「後は……余計な騒動を避けるため、お主のクラスに他言せぬよう伝えてあるが……まぁ仮にそれを聞いた奴も信じまいて」

 確かにお伽噺とも言われている事を、急にそこらへんの第3等級の小娘が出来ると聞いて信じる奴はそういないだろう。
 
「勿論、学園としても初めての事なのでミス・シュヴァリエールには相応の警備をと思ったんじゃが……」

 ちらりとこちらを見るレイド。

「その必要もなさそうじゃな。そこら辺の兵士よりよっぽど腕利きじゃわ」
「おいおい、俺は魔法が使えない上にギリギリ合格だぜ?」
「バレット先生からも話は聞いておる。後あんまり生徒をいじめてくれるなよ?」

 かっかっかと笑いながらレイドは言った。
 どうも先程のランスとの一戦を見られていた様だ。学院長というのも伊達じゃないみたいだな。
 一方シロナは何のこと? と首をかしげている。

「余計な兵を付けるとかえって信憑性が増してしまうのでな、よかったわい」
「まぁ善処しよう」
「……一体クロト何をしたの?」
「何、大したことじゃない」
「とりあえず現状は様子見ということじゃな、何か変わったことがあればいつでも伝えてほしい」
「わかりました。すぐお伝えします」
「うむ、急にすまんかったの。教室に戻りたまえ」
「はい、失礼します」

 二人そろって学院長室を出る。

「大事にならなくてよかったな」
「そうね……研究だ! とか言われて変な所に飛ばされなくてよかったわ」
「確かにな、そういうことも危惧して箝口令を敷いたんだろう。ま、信じる奴がいるかどうかはわからんが」
「ほんと、普通に風属性とかそんなので私はよかったんだけどね……さて戻りましょ」

 そうして学院長室を後にし、元居た教室に戻る。
 教室に入ると丁度授業が終わった所の様で、ミノリと入れ替わりになったみたいだ。
 中にいた生徒も次々と席を立っている、どうやら夕食時らしい。
 教室内を見回していると、俺達に気づいたユキナとリーフ、並びにその騎士たちがこちらへと向かってきた。 

「シロナちゃん! 大丈夫だった!? 心配したよ~」
「ごめんなさいねリーフ。 とりあえずはいつも通りでいいみたい」
「……何事もなくて良かった」
「ユキナも心配かけたわね、丁度いいわ皆で食堂に行きましょ」

 ユキナとリーフ、それに騎士のフルにウインドと、大所帯になった俺たちはそのまま食堂へと向かった。

 シャングリラ魔法学院の食堂は、入り口の大広間近くにある。
 食堂内もとても広く、円型の大きなテーブルが多数並んでおり、赤のクロスに花やナイフやフォーク、豪華な飾りつけがなされている。
 適当な空いている所を見つけ、シロナ達各ペアで全員席に着いた。
 するとテーブル近くで待機していた食堂の者たちが食事の準備をし始める。
 その時シロナが、人に聞こえないよう小さな声で俺に話しかけてくる。

「そういえばクロト、すっかり忘れていたけれどマナーとか大丈夫なの?」

 第3区画にいたという事もあってか。テーブルマナーを心配しているようだ。

「あー。おそらく大丈夫だ」

 虚勢を張っているわけではない。これも昔の特訓の賜物である。

「まさか本当に役立つ日が来るなんてな……」
「え? 何か言った?」
「いや、とりあず心配するな」
「普段の言動からして全然信用できないのだけれど……わかったわ」

 そうしてしばらく待っていると料理が運ばれてくる。
 どれも量はないが高価な物という事は分かる。今まで目にしたことのないような料理ばかりであった。
 シロナに感謝だな。俺は特に戸惑うこともなく食べる始めることが出来た。
 それを見ていたシロナが、今まで見た中で一番驚いた表情をしたのを俺は生涯忘れないだろう。

 運ばれてきた料理を各々食べ始めた時、リーフが嬉しそうに話し始めた。

「あ! そうえいばシロナ、私達部屋が隣同士だったよ!」

 どうやら学院寮の部屋割りの話らしい。先ほど説明でもあったのだろう。
 基本的に皆学院寮で生活する事になり、騎士も同様だ。ただ騎士とお嬢様達とは別の塔になっている。
 お嬢様達は当然だろうが、騎士見習いの俺達ですら個室があるという驚きだ。

「本当!? それはよかったわ~リーフもユキナもいつでも来ていいからね」
「うん」
「う、うん! いくね! そういえば明日の授業内容の説明もあったよ~先生が伝えておいてって」
「あら? どんなのかしら?」
「……騎士と一緒に野外演習」
「学園の外に出るの??」
「ら、らしいよ。近くのサナナラの森だって。魔物とかちょっとこわいよね」
「あそこは比較的弱い魔物しか出ない所」
「私も魔物は初めてね、いざとなったら騎士様が守ってくれるでしょ、ね、クロト?」
「ん? あ、ああこの鳥の丸焼っぽい奴めっちゃうまいな」
「……え、ええそうね」

 すまん、料理うますぎて何も聞いてなかった。
 あっちじゃこんな上等な物食べてなかったんだから初日くらい許してくれ。


 食事を終えた俺達は各部屋に向かう為、お嬢様達と別れた。
 ウインドとフル3人で話しながら騎士用の塔へと向かう。

「ところで俺たちがいない間、先生なんて言ってたんだ?」
「そうだね……シロナお嬢様が無属性であることの口外を禁止することと、明日の授業内容くらいだったよ」
「殆どが信じちゃいないわね~私もいまだに半信半疑よ」
「まぁそんなもんだろ、それより明日の実習の方がみんな気になってるんじゃないか?」
「そうだね、弱い魔物しか出ないといっても危険が伴う事は確かだから」
「私は回復専門だからね! 疲れたり傷ついたらいつでも癒してあげるわ♡」

 そいえばこいつ……フルは今日の実戦の時速攻リタイアしてたな。騎士なのにヒーラーという。

「善意なんだろうが怪しく思えてしまうな」
「あはは……とりあえず気を引き締めていかないと! 今日はゆっくり休みましょう」
 
 そうして塔の着くと、各自割り振ってある部屋に入り解散した。
 部屋の中は、人一人入れそうな大きな出窓に、ベッドと机に照明。と簡易なものだったがそこそこスペースがある。

「あそこに比べたら天国だな」

 ベッドの上に倒れこむ。
 明日は野外と言っていたが、第3等級、おまけに騎士もいて先生もいるなら大した事はないだろう。
 俺は静かに瞼を閉じた。
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