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第8話 無属性
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ランスを医務室まで運ぶ。
医務室の先生が言うには、すぐに目覚めるみたいだ。
ランスより先に教室に戻る訳にもいかないので、時間を少し潰して戻ろうかと悩んでいると
「-ごめんクロト、屋上まで来て、場所はわかる?-」
脳内に直接響くかのようにシロナの声が届いた。
あの時もらった思念石の効果だろう。今は指輪型にして右手の中指に着けている、便利なもんだ。
俺は念じるようにシロナに返答する。
「-ああ分かった、場所は医務室の先生にでも聞いておく-」
「-お願いね-」
念話を済ますと俺は先生から屋上の場所を聞き、迷うことなく到着する。
扉を開けると、そこにはシロナが手すりに掴まり景色を眺めていた。
屋上からは自然に囲まれた美しい景色を一望でき、今の時間はシロナ以外気配を感じなかった。
シロナの所まで近づくと、俺に気づいたのか、フェンスに身体を預けこちらを向いた。そしてシロナはゆっくりと話し始める。
「急にごめんなさい、ここなら少しは落ち着けそうだと思って」
「俺も丁度よかったし構わねぇよ。んで急にどうしたんだよ、教室に戻らなくていいのか?」
「次の鐘まで先生方は緊急の会議らしくて、それまで自由だそうよ」
「あの眼帯じいさんが戻ったのもそれでか……それで、なんで急に屋上なんだ?」
「えっとね……私自身が一番驚いていたのだけれど……。」
「なんだ??」
「さっきの属性判定で私『無』が出たのよ」
「……まじか」
無属性。
ミノリも言っていたが、未だに多くは解明されていない属性である。
『無』独自の魔法が使えるとかなんとか。
「教室にいたら質問攻めにあっちゃって……とりあえず屋上逃げてきたの」
「まぁそうなるだろうな」
「そんな私自身わからない事なのに答えられないわよ……」
「当然だな。しかし……昔からそんな特別な『何か』でも感じたりしていたのか?」
「いいえ、何もそれらしい事はなかったわ。んー強いて言うなら……子供の頃の記憶が殆どない事くらいかしら……」
「子供の頃なんだからそんなもんだろう?」
「違うの、確かに子供だったという事もあるけれど、まるっきり何も覚えてないというのは変じゃない?」
「まぁ……確かにそうだな」
俺自身にも思い当たる節はあるが……今はいいだろう。
確かに子供の頃の記憶なんて曖昧になるが、何も覚えていないというのは少し変かもしれない。
「思い出せる事は、目が覚めたらベッドで寝ていて、その時にこの黒い宝石が手にあったって事だけ……そこからの記憶はちゃんとあるのだけど、それ以前がまるでないのよね」
首に下げているネックレスをぎゅっと手に取るシロナ。
持ち方から大切にしているのが見受けられる。
「どこで拾ったか覚えてないんだけど、これを持っているとすごく心が温まるの。何か魔法が入っているわけでもないのに不思議よね」
「いいんじゃねぇか、お守りみたいな物だろう」
「……でもこれも属性とは関係ないとは思うわ」
「そうか、ならそこまで気にしなくていいんじゃないか? ただでさえお伽噺みたいな物なんだろ? 何か使えるようになってから考えればいい」
「お気楽ね……でもそうね、あるかどうかすらわからない事に固執しても仕方ない……か」
「それよりも学院の飯がどんな物が出るのかって方が、俺は問題とおもうね」
「何かクロトらしいわね」
クスクスと笑うシロナ、少しは気が楽になったみたいだな。
わからない事をあれこれ考えても仕方ないし、特に何かしなければ、いずれ周りも大人しくなるだろう。
「そろそろ戻ろっか! ごめんね急に連れ出して」
「いいさ、屋上も来てみたかったしな」
「サボってここに来たりしないでよ?」
「……お、おうアタリマエジャナイカ」
「何でカタコトなのよ……」
心配気な顔をするシロナだが、すぐにいつもの表情に戻る。
その時。
ゴーンゴーンゴーン
学院の鐘が鳴り響く。
シロナと顔を合わせると、2人で屋上を後にした。
教室に戻ると、気づいた生徒や騎士から再び視線を浴びる。
しかし鐘も鳴ったので先生が教室に入ってくる事を警戒してか、群がってくる様子は無さそうだ。
窓際に座っているユキナ達を見つけると、シロナはそこまで移動し隣に座る。俺はすぐ側のウインドがいる席に座った。
するとウインドが心配そうな表情で話しかけてくる。
「クロト! 大丈夫なのか……?」
「ああ、あのくらい平気平気」
先ほどのランスとの戦闘の事を心配してくれているようだ。
「そうか、よかった。……もしかしてなんだがクロト、あの魔法直撃してなかったんじゃない?」
「へぇ……どうしてそう思ったんだ?」
大半の奴はあそこでエアハンマーが直撃して、俺が倒れたと思っただろう。その証拠に、誰もその場に残らず興味なさ気に散っていっている。
だがウインドが、
『直撃していない』と言ったということは、少なからず相殺した事をわかったのだろう。
そこらへんの騎士とは違い、少しはやるようだ。
「ハッキリとはわからなかったんだけど……。腕が一瞬消えたと思った直後に、まるで撃ち落としたかのような僅かな風圧を感じたんだ。その後、体に直撃する前に自分から倒れていた様にも見えたから、もしかしてと思ってさ。その後も見ていたかったけど、ユキナお嬢様から戻ってくるよう言われて、どうなったか気になってたんだ」
「そうか、まぁ……そんなとこだ」
違うといっても見られてる以上誤魔化すのも難しいだろう。
ウインドなら多少伝えたところで悪いようにはしないと思ったしな。
「……だとしたらそれはすごい事だよクロト。 魔法を素手で打ち落とすなんて聞いたことがないよ」
「俺からしたら魔法使ってるいる奴の方がすごいぜ? それにあれが多少なりとも見えるなんて、お前いい目してるよ」
「そうかな……? ありがとう、自分は魔法が人より劣っているから……。その他でなるべく頑張りたいんだ」
少し表情が暗くなるウインド。
どこでも魔法に困るやつはいるみたいだ。
「そんな事言ったら俺なんて劣ってる所の騒ぎじゃないぜ? 魔法なんて全く駄目だって」
「……魔法本当に使えないんだね。それにも驚くけど、クロトの動きがもはや魔法みたいなものだよ?」
「買い被りすぎだ」
「そうかな……? あ、でもどうしてわざとやられたりしたんだい?」
「どうも入学式の時にいなかったのがまずかったらしい、あいつの騎士ってこともあるが。初日から注目されて、あれこれ調べられるとボロが……いや困ったことになるんで、それを避けたくてな」
いくらシュヴァリエール家の騎士とは言え、他の貴族達から完全に俺の事を隠し切る事ができるかどうかはわからない。
できるだけリスクは減らしておきたい所だ。
「なんで、大人しくやられてた事にしておいてくれ」
「寧ろ自慢してもいいくらいの事だと思うけど……。クロトがそう言うならそうするよ」
苦笑しながらそう答えるウインド。
やっぱりいい奴だな……そう思っていると、俺の席にとある2人組が近づいて来る。
1人はランスだ。もう戻っていたらしい。
もう1人は背がやたらと小さく、綺麗な長髪の金髪で、何やらうさぎの耳のようなヘアバンドをした、おそらくお嬢様であろう人物がやってきた。
そしてそのお嬢様らしき人物が俺に向かって話しかけてくる。
「……へぇ、あんたがクロト・ムラマサね」
「そうだが? あんたは?」
「私はアリス・パステーニュ、こいつが迷惑かけたみたいね」
ドン! とランスの背中を蹴飛ばすアリス。
それに観念した表情で、よ、よぉ……と一言だけ発するランス。
どうやらアリスにランスは頭が上がらないらしい。
「こいつがお調子者なのはわかってたけど、まさか初日からシュヴァリエール家の騎士に喧嘩吹っかけるとは思ってなかったわ。」
どうやら俺に、というよりシュヴァリエール家に迷惑がかかる事が不都合だったらしい。
「なんでこいつが医務室から戻ってきたのかはわからないけど、迷惑かけたわね、ほら! 謝りなさい!! 今後商売に影響が出たらお父様になんてお詫びしていいかわからないでしょ!!」
再びドスドスとランスの背中を下着が見えそうな程足を上げ、もの凄い勢いで蹴飛ばしている。再び医務室に行かないか心配なくらいの強さだ。
「い、いてぇ! お嬢たんま!! くそっ! す、すみませんでした!」
それを側で見ていたシロナが俺に話しかけてくる。
「クロト授業で何かあったの?」
「ちょっとな、軽くあいつと手合わせしただけさ」
「ふーんそれだけであんなに蹴られるとは思わないけど……」
「あっちからお誘いしてくれただけのことさ、それより、何かあのおチビお前の家と関係あるのか?」
「パステーニュ家ね、親が商人なのよ。それもここあたりで一番大きいんじゃないかしら? それにアリスさんも相当なやり手らしいわ」
なるほど、シュヴァリエール家のような大貴族と何かあれば商売に影響が出るということか……お嬢様も大変だな。
「それくらいにしてやってくれ、俺のせいでそいつが医務室送りになっちまう」
まぁもう送ってしまったが。
「そう? これでも足りないと思うけど、シロナさんもいいかしら? 騎士同士がした事とはいえ、こいつが!(ゲシっ) ごめんな(ゲシっ) さいね!」
「え、ええ。クロトが気にしていないなら私は大丈夫よ、アリスさんとランスさんだっけ……? 折角だし仲良くしましょ」
さっと右腕を出すシロナ。
それを見るとすぐさまアリスもその手を握り返す。
「ありがとう、話が早い子は好きだわ、今度またお詫びの品でも持ってくるわね。ほら! よかったわね! シロナさんが優しい人で! 席に戻るわよ!」
いつまであいつ蹴られるんだろうな……。
アリスに連れられ元の席に座るランスとアリス。
その時シロナが俺に小さな声で囁いてきた。
「クロト、アリスさんに何かした?」
「いや、初対面のはずだが」
「さっき握手した時感じたんだけど、何かクロトに興味があるみたいよ?」
「俺にか? 何だろうな……」
シロナのサイドスキルだ。
確かに初対面のはずだが、ランスも先程の出来事を話していない所を見ると、特に関心を持つような事は無いと思える……。
色々考察していると会議が終わったのか、ミノリが教室へ入ってきた。
「お待たせしました、では授業を始める前に伝達です。シロナさんとクロト君は学院長室に向かってください~」
ざわつきだす教室。おそらくというより確実に無属性絡みだろう。
シロナはともかく俺もか……。
「わかりました、すぐ向かいます」
俺とシロナは席を立ち学院長室へ向かった。
医務室の先生が言うには、すぐに目覚めるみたいだ。
ランスより先に教室に戻る訳にもいかないので、時間を少し潰して戻ろうかと悩んでいると
「-ごめんクロト、屋上まで来て、場所はわかる?-」
脳内に直接響くかのようにシロナの声が届いた。
あの時もらった思念石の効果だろう。今は指輪型にして右手の中指に着けている、便利なもんだ。
俺は念じるようにシロナに返答する。
「-ああ分かった、場所は医務室の先生にでも聞いておく-」
「-お願いね-」
念話を済ますと俺は先生から屋上の場所を聞き、迷うことなく到着する。
扉を開けると、そこにはシロナが手すりに掴まり景色を眺めていた。
屋上からは自然に囲まれた美しい景色を一望でき、今の時間はシロナ以外気配を感じなかった。
シロナの所まで近づくと、俺に気づいたのか、フェンスに身体を預けこちらを向いた。そしてシロナはゆっくりと話し始める。
「急にごめんなさい、ここなら少しは落ち着けそうだと思って」
「俺も丁度よかったし構わねぇよ。んで急にどうしたんだよ、教室に戻らなくていいのか?」
「次の鐘まで先生方は緊急の会議らしくて、それまで自由だそうよ」
「あの眼帯じいさんが戻ったのもそれでか……それで、なんで急に屋上なんだ?」
「えっとね……私自身が一番驚いていたのだけれど……。」
「なんだ??」
「さっきの属性判定で私『無』が出たのよ」
「……まじか」
無属性。
ミノリも言っていたが、未だに多くは解明されていない属性である。
『無』独自の魔法が使えるとかなんとか。
「教室にいたら質問攻めにあっちゃって……とりあえず屋上逃げてきたの」
「まぁそうなるだろうな」
「そんな私自身わからない事なのに答えられないわよ……」
「当然だな。しかし……昔からそんな特別な『何か』でも感じたりしていたのか?」
「いいえ、何もそれらしい事はなかったわ。んー強いて言うなら……子供の頃の記憶が殆どない事くらいかしら……」
「子供の頃なんだからそんなもんだろう?」
「違うの、確かに子供だったという事もあるけれど、まるっきり何も覚えてないというのは変じゃない?」
「まぁ……確かにそうだな」
俺自身にも思い当たる節はあるが……今はいいだろう。
確かに子供の頃の記憶なんて曖昧になるが、何も覚えていないというのは少し変かもしれない。
「思い出せる事は、目が覚めたらベッドで寝ていて、その時にこの黒い宝石が手にあったって事だけ……そこからの記憶はちゃんとあるのだけど、それ以前がまるでないのよね」
首に下げているネックレスをぎゅっと手に取るシロナ。
持ち方から大切にしているのが見受けられる。
「どこで拾ったか覚えてないんだけど、これを持っているとすごく心が温まるの。何か魔法が入っているわけでもないのに不思議よね」
「いいんじゃねぇか、お守りみたいな物だろう」
「……でもこれも属性とは関係ないとは思うわ」
「そうか、ならそこまで気にしなくていいんじゃないか? ただでさえお伽噺みたいな物なんだろ? 何か使えるようになってから考えればいい」
「お気楽ね……でもそうね、あるかどうかすらわからない事に固執しても仕方ない……か」
「それよりも学院の飯がどんな物が出るのかって方が、俺は問題とおもうね」
「何かクロトらしいわね」
クスクスと笑うシロナ、少しは気が楽になったみたいだな。
わからない事をあれこれ考えても仕方ないし、特に何かしなければ、いずれ周りも大人しくなるだろう。
「そろそろ戻ろっか! ごめんね急に連れ出して」
「いいさ、屋上も来てみたかったしな」
「サボってここに来たりしないでよ?」
「……お、おうアタリマエジャナイカ」
「何でカタコトなのよ……」
心配気な顔をするシロナだが、すぐにいつもの表情に戻る。
その時。
ゴーンゴーンゴーン
学院の鐘が鳴り響く。
シロナと顔を合わせると、2人で屋上を後にした。
教室に戻ると、気づいた生徒や騎士から再び視線を浴びる。
しかし鐘も鳴ったので先生が教室に入ってくる事を警戒してか、群がってくる様子は無さそうだ。
窓際に座っているユキナ達を見つけると、シロナはそこまで移動し隣に座る。俺はすぐ側のウインドがいる席に座った。
するとウインドが心配そうな表情で話しかけてくる。
「クロト! 大丈夫なのか……?」
「ああ、あのくらい平気平気」
先ほどのランスとの戦闘の事を心配してくれているようだ。
「そうか、よかった。……もしかしてなんだがクロト、あの魔法直撃してなかったんじゃない?」
「へぇ……どうしてそう思ったんだ?」
大半の奴はあそこでエアハンマーが直撃して、俺が倒れたと思っただろう。その証拠に、誰もその場に残らず興味なさ気に散っていっている。
だがウインドが、
『直撃していない』と言ったということは、少なからず相殺した事をわかったのだろう。
そこらへんの騎士とは違い、少しはやるようだ。
「ハッキリとはわからなかったんだけど……。腕が一瞬消えたと思った直後に、まるで撃ち落としたかのような僅かな風圧を感じたんだ。その後、体に直撃する前に自分から倒れていた様にも見えたから、もしかしてと思ってさ。その後も見ていたかったけど、ユキナお嬢様から戻ってくるよう言われて、どうなったか気になってたんだ」
「そうか、まぁ……そんなとこだ」
違うといっても見られてる以上誤魔化すのも難しいだろう。
ウインドなら多少伝えたところで悪いようにはしないと思ったしな。
「……だとしたらそれはすごい事だよクロト。 魔法を素手で打ち落とすなんて聞いたことがないよ」
「俺からしたら魔法使ってるいる奴の方がすごいぜ? それにあれが多少なりとも見えるなんて、お前いい目してるよ」
「そうかな……? ありがとう、自分は魔法が人より劣っているから……。その他でなるべく頑張りたいんだ」
少し表情が暗くなるウインド。
どこでも魔法に困るやつはいるみたいだ。
「そんな事言ったら俺なんて劣ってる所の騒ぎじゃないぜ? 魔法なんて全く駄目だって」
「……魔法本当に使えないんだね。それにも驚くけど、クロトの動きがもはや魔法みたいなものだよ?」
「買い被りすぎだ」
「そうかな……? あ、でもどうしてわざとやられたりしたんだい?」
「どうも入学式の時にいなかったのがまずかったらしい、あいつの騎士ってこともあるが。初日から注目されて、あれこれ調べられるとボロが……いや困ったことになるんで、それを避けたくてな」
いくらシュヴァリエール家の騎士とは言え、他の貴族達から完全に俺の事を隠し切る事ができるかどうかはわからない。
できるだけリスクは減らしておきたい所だ。
「なんで、大人しくやられてた事にしておいてくれ」
「寧ろ自慢してもいいくらいの事だと思うけど……。クロトがそう言うならそうするよ」
苦笑しながらそう答えるウインド。
やっぱりいい奴だな……そう思っていると、俺の席にとある2人組が近づいて来る。
1人はランスだ。もう戻っていたらしい。
もう1人は背がやたらと小さく、綺麗な長髪の金髪で、何やらうさぎの耳のようなヘアバンドをした、おそらくお嬢様であろう人物がやってきた。
そしてそのお嬢様らしき人物が俺に向かって話しかけてくる。
「……へぇ、あんたがクロト・ムラマサね」
「そうだが? あんたは?」
「私はアリス・パステーニュ、こいつが迷惑かけたみたいね」
ドン! とランスの背中を蹴飛ばすアリス。
それに観念した表情で、よ、よぉ……と一言だけ発するランス。
どうやらアリスにランスは頭が上がらないらしい。
「こいつがお調子者なのはわかってたけど、まさか初日からシュヴァリエール家の騎士に喧嘩吹っかけるとは思ってなかったわ。」
どうやら俺に、というよりシュヴァリエール家に迷惑がかかる事が不都合だったらしい。
「なんでこいつが医務室から戻ってきたのかはわからないけど、迷惑かけたわね、ほら! 謝りなさい!! 今後商売に影響が出たらお父様になんてお詫びしていいかわからないでしょ!!」
再びドスドスとランスの背中を下着が見えそうな程足を上げ、もの凄い勢いで蹴飛ばしている。再び医務室に行かないか心配なくらいの強さだ。
「い、いてぇ! お嬢たんま!! くそっ! す、すみませんでした!」
それを側で見ていたシロナが俺に話しかけてくる。
「クロト授業で何かあったの?」
「ちょっとな、軽くあいつと手合わせしただけさ」
「ふーんそれだけであんなに蹴られるとは思わないけど……」
「あっちからお誘いしてくれただけのことさ、それより、何かあのおチビお前の家と関係あるのか?」
「パステーニュ家ね、親が商人なのよ。それもここあたりで一番大きいんじゃないかしら? それにアリスさんも相当なやり手らしいわ」
なるほど、シュヴァリエール家のような大貴族と何かあれば商売に影響が出るということか……お嬢様も大変だな。
「それくらいにしてやってくれ、俺のせいでそいつが医務室送りになっちまう」
まぁもう送ってしまったが。
「そう? これでも足りないと思うけど、シロナさんもいいかしら? 騎士同士がした事とはいえ、こいつが!(ゲシっ) ごめんな(ゲシっ) さいね!」
「え、ええ。クロトが気にしていないなら私は大丈夫よ、アリスさんとランスさんだっけ……? 折角だし仲良くしましょ」
さっと右腕を出すシロナ。
それを見るとすぐさまアリスもその手を握り返す。
「ありがとう、話が早い子は好きだわ、今度またお詫びの品でも持ってくるわね。ほら! よかったわね! シロナさんが優しい人で! 席に戻るわよ!」
いつまであいつ蹴られるんだろうな……。
アリスに連れられ元の席に座るランスとアリス。
その時シロナが俺に小さな声で囁いてきた。
「クロト、アリスさんに何かした?」
「いや、初対面のはずだが」
「さっき握手した時感じたんだけど、何かクロトに興味があるみたいよ?」
「俺にか? 何だろうな……」
シロナのサイドスキルだ。
確かに初対面のはずだが、ランスも先程の出来事を話していない所を見ると、特に関心を持つような事は無いと思える……。
色々考察していると会議が終わったのか、ミノリが教室へ入ってきた。
「お待たせしました、では授業を始める前に伝達です。シロナさんとクロト君は学院長室に向かってください~」
ざわつきだす教室。おそらくというより確実に無属性絡みだろう。
シロナはともかく俺もか……。
「わかりました、すぐ向かいます」
俺とシロナは席を立ち学院長室へ向かった。
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