魔法学院の護衛騎士

球磨川 葵

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第5話 シャングリラ魔法学院

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 試験を終え、俺にとっては初めての学院生活となる日を迎えた。
 既に入学の挨拶等は終わっているらしく、今日からいきなり授業の日となるらしい。
 学院は全寮制で、流石に別の塔ではあるが騎士まで見事に個室で用意されるらしい。流石金持ちは違うもんだ。
 
 そして早朝。
 黒を基調に、所々金の刺繍が入っている騎士専用の学院服に袖を通す。お嬢様方が着ている白を基調とした制服と対極になっている感じだ。
 魔力が生地に通っているらしく、長袖であっても動きに支障がないように出来ているらしい、温度調節もしてくれるらしく、魔法の便利さを改めて思い知らされた。
 これからしばらくお世話になる服だ、今までの旅人の服とは大違いである。
 シロナの制服にも勿論魔力は通っている、シロナも学院服だが初めて会った時と違い、いつもの黒のネックレスを付けている。
 支度を整えるとミルに見送られ、シロナと学院へ向かう馬車に乗りこむ。
 
 向かう最中隣にで外を眺めているシロナに声をかける。 
 
「しかし……いきなり俺の登校が授業当日とは、本当にギリギリだったんだな」 
「ええ、流石に授業が始まれば、騎士も同行して訓練や勉学もしないといけないからね。入学の日は別にいなくても問題ないけれど、授業初日までに決まって本当によかったわ」

 こいつもこいつで色々悩んで苦労したんだな……。
 心が読めるというのは大変だろう。授業や私生活も学院で共にする事になるので、騎士を決めるにも慎重になるのも仕方ない事か。

「……大変だったな」
「ん? 何か言ったかしら?」
「いんや、学院にはさぞかし綺麗なお嬢様がいるんだろうなって」
「あんた以外にも騎士はいるんだから恥ずかしい事はしないでよね!?」
「へいへいっと」

 そんなこんなやり取りをしていると、試験でも見たアーチ形の大きな門近くで馬車は停止する。俺たち以外にも、ちらほらと学院生と騎士が登校していた。

「さっ、行くわよ」
「おーう」

 シロナの後を付いていき、学院まで入る。
 教室に向かう途中、様々な学院の生徒や騎士とすれ違うが、そのどれもシロナと俺を観察するような、様々な視線を感じた。視線のほかにも

「シロナさんが騎士を連れてるわ!」
「あれだけ騎士を寄せ付けなかったのに……」
「どこの貴族の子よ!?」
「オレノシロナチャンガ!!」

 最後は気にしないでおこう。
 ともかく、シロナが入学の際に騎士がいなかった事が相当目立っていたらしい。シュヴァリエール家という家柄も影響しての事だろう。

「気にすることはないわ、すぐ慣れるわよ」
「お前がいいならそれでいいさ」

 そう……と言いシロナはそのまま教室へ入る。そこは試験で受けた場所と同じ教室だった。
 
 席は自由で、特に決まってまってないらしく、俺とシロナは一番後、窓際の席に座る。
 だって窓際の方が色々便利そうだろ?寝ていても気づかれにくいし、風も感じられて特等席だ。

 教師が来るまで、先程から浴びている視線を感じながら退屈だ……と、外を眺めていると、小柄な少女に騎士と思われる男性の二人組がこちらにやってきて、話しかけてくる。

「……おはよう、シロナ」
「あら、おはようユキナ」

 ユキナと呼ばれた少女は、長い黒髪に真っ直ぐ整えられた前髪で、紫の瞳の左目にあるホクロが特徴的な少女だった。
 ぼそっと喋っている所を見るに、口数は少ない方なのだろう。

「……シロナ、騎士見つけられたんだね」
「ええ、心配かけちゃったわね」
「よかった」
「ありがとうユキナ、クロトって言うのよ、ほら! あんたも挨拶して!」

 バシバシと背中を叩かれる。

「クロト・ムラマサだ、よろしくな」
「……ユキナ・キーライト」

 じーっとこちらを観察するように見てくるユキナ。こちらも負けじと見返すが、こいつなんか存在感薄いようなそんな感じがするな……。
 
「珍しい……名前」
「そうか? 俺からしたらあんたの気配が薄すぎることに驚くけどな」
「……わかるの?」
「この教室じゃ特に目立つな」

 一瞬驚いた表情をしたかと思うと、先程の無口そうな表情に戻るユキナ。少し間を置くと再び口を開く。

「……私の騎士」

 そう言うと隣で姿勢良く待機していた少年が初めて口を開く。

「お初にお目にかかります。ウインド・リグレッツと申します! 以後お見知りおきを!」

 茶色をした短髪に、翠の瞳の少年が元気そうに挨拶をする。身長もそこまで高くなく、少年といったイメージが強い。
 筋肉質とまではいかないが、鍛錬を積んだ後が見受けられる。
 口調と動きから真面目そうだなーという印象を受けた。
 
「クロトも見習いなさい?」
「前向きに考えて善処しよう」
「なんで偉そうなのよ……」

 苦笑しながらウインドがこちらを向き話しかけてくる。

「クロト・ムラマサさんですね? 同じ騎士としてよろしくお願いいたします」
「おう、よろしくな」
「初対面なのにアンタは変わらないのね」

 呆れた声で言うシロナ。諦めてくれ性分だ。
 その様子を見て、ほほ笑むウインドとユキナ。
 騎士で悩んでいた事を喜んでくれているあたり、シロナと親しい仲なのであろう。騎士のウインドもお手本のような奴だし良いペアだと思う。
 
「……隣いい?」
「勿論よ、クロト私と席を変わって頂戴」
「あいよ」

 お嬢様同士隣り合い、ウインドも俺の隣の席に着いた。するとウインドがこちらを向き話しかけてくる。

「シロナお嬢様の事をユキナ様は大変心配されていたので、ムラマサさんが騎士になってくれて本当によかったです」

 まるで自分の事の様に喜ぶウインド、やはりいい奴そうだな、そしてユキナの事も大事に思っていることが伝わる。

「まぁ偶然だな、大したことじゃない。後同じ騎士同士だ、気軽にいこう。俺の事はクロトでいいぜ後『さん』なんて付けられた事ないからムズムズする」
「そうなのですか? ……わかった、よろしくクロト」

 さっと右腕を差し出してくるウインド、俺はその手を取り握手を交わした。
 少し照れ臭い感じもあるが、こういうのも悪くないな……そう思っていると

「あ~~~~~ら♡ イケメンたちが朝からイチャイチャ友情してるわね♡」

 どこから現れたのか、突如目の前に人影が飛び出してきた。
 腰まである長い赤髪に、片眼鏡を付けており、背が高くモデルのような細い体系をしている。
 一瞬女性かと思うが、黒の騎士制服を着ている所、男性だろう……恐らく。
 
 というのも、騎士は男性のみでなく、女性も一応は可能である。しかし暗黙の了解という奴で、今では男性しか騎士志願者がいないらしい。
 そして体をもじもじとさせながら、鼻息を荒くしてンフフーとか、何か意味不明なことを言っている。
 なんだぁ……こいつぁ……と思っている中、一人の学院服を着た少女が駆け寄ってきた。

「フル! 気持ちはわかるけど先に行かないで! って、あわわわわ……お取込み中すみません……!」

 前髪は目元まで隠れており、肩まで伸びるぼさぼさとした青髪に眼鏡という、前見えてるの? と思える少女が息を切らしながら、ペコペコと頭を下げている。
 俺が言えた事じゃないけど、また変な奴が増えたな。ウインドなんて苦笑いしてるじゃないか。

「別に取り込んでもないし、イチャイチャもしてないからな」
「わかる! わかるわ♡ ツンデレって言いたいんでしょうけど、そろそろそれも時代遅れになってきているわよ♡」

 赤髪片眼鏡が何が嬉しいのか嬉々として話し始める。 
 誰かお医者さんを……! そんな時、隣で呆れて見ていたシロナが口を開いた。

「おはようリーフ、入学式の時にも見たけど面白い騎士? を連れているわね」
「お、おはようシロナちゃん! ユキナちゃんも! あ、騎士おめでとう?! え、違う、面白いかな?!」
「落ち着きなさい、とりあえず席に着いたら?」
「あ、はい! 失礼します!」

 あわあわと、俺たちの前の席に着くリーフと呼ばれる少女と赤髪眼鏡。くるりとこちらを見ると自己紹介を始める。

「り、リーフ・ハートフルです、こっちの赤髪の子が私の騎士、フル・アンティークです」

 ハァーイと手を振るフル。それを見て同じくシロナが話し出す。

「こいつはクロトよ、よろしくね」
「……何か雑になってきたな……クロト・ムラマサだ」

 様子を見ていたリーフが俺に問いかけてくる。
 
「クロト・ムラマサさん? ですか?」
「ああ、そして次にお前は、変わった名前ですね! と言う」
「変わった名前ですね! ……ハッ!?」

 しまったと言わんばかりの表情をするリーフ。一瞬顔の彫が深く見えたのは気のせいだろう。

「やりますね……ムラマサさん、気が合いそうです」
「別に、今までさんざん言われたからそう思っただけだよ、後気は合わんしクロトでいいよ」
「何話してるのあんたたち?」

 不思議そうな表情でこちらを見てくるシロナ、気にしないでくれ。

 など話していると、試験の時にも見たミノリが教室に入ってきた。
 それに気づいたのか、先ほどまで立って話していた奴も全員席に着き静かになる。
 教卓前に着き、全体を見渡しながら自己紹介を始める。一瞬こっちを見てウインクしてきた様に見えたけどきっと気のせいだろう。

「はぁーい、お待たせしました、今日からこのクラスの担当になります、ミノリ・イブリアントです、よろしくね」







 


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