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第四話 日本の未来を担う、ロース議員なのじゃ!(前編)
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ここは俺が住む街『彩笑街』。
この街で昼間、外に出歩く男子諸君は気をつけたほうが良い。
「のう、お主。お主はこの格好、どう思う?」
待ちゆくとある男性に声をかけるのは、白髪で童顔の少女。乳首がないとは言え、生のおっぱいを丸出しにして、不思議な奥行きを持つバッテン模様の瞳で、少女はこちらを見つめてくる。
新手のナンパかと、男性はこの少女に興味津々だ。
少女の見た目は完全に痴女。そんな変態少女に「自分の格好をどう思うか?」と尋ねられたら、我々男子が返す言葉は1つしか無い。
「そんなの当たり前じゃーん。ちょーエロいよ」
そう、『エロい』という答えだ。
しかしいくら自分の感情に忠実になってそう答えたとはいえ、その回答は不適切。
なぜなら彼女……いや宇宙人は、そのように答えた男性に向かって、無慈悲な右ストレートを食らわせてしまうからだ。
「ていやーっ!」
「なんでーぇっ?」
宇宙人の所業は、まさに鬼畜そのものだ。そして殴られて鼻血を流す男性たちに、宇宙人は再び問う。
「お主はこの格好、どう思う?」
すると今度はこう答える。
「……な、なんとも感じませーん!」
そして一目散に逃げていってしまうのだ。
「ガハハ!やったぞー!また1人、エロという概念に囚われている男を救ったぞ!」
宇宙人は男の答えが変化する一連の流れを見て、まるでヒーローになったかのように高笑うのだ。白いマントをなびかせ、英雄のように佇む彼女の姿は、一見すればヒーローに見えるかもしれない。しかし奴がやっていることは完全にヴィランそのものだ。
奴が行っていることは暴力と恐怖による洗脳・調教だ。
あまりにやりすぎていると思ったが、俺は何も出来ず奴の行動を遠巻きに眺めることしか出来ずにいた。本当は奴が起こした面倒事に関わりたくないのだが、俺はやつと暮らしている以上目を背けるわけには行かない。
この地球で、奴をどうにか出来るのは、俺だけかもしれないから。
「ガハハ!少しずつこの星からエロという概念を撲滅できている気がするぞ!」
奴と共同生活をするようになってから、1週間ほどの時間が流れた。ちなみに俺は1週間も禁欲生活だよ畜生。
冒頭でも説明したように、奴はあの活動を仕事と称して、無関係の男性たちに非道な行いを繰り返していた。
奴がこのような無茶苦茶な行動を取るのは、主に2つの理由が考察できる。1つはコイツが救いようのないほどの馬鹿であるということ。もう1つはこいつら宇宙人が住んでいる世界に、エロという概念が存在しないことだ。
毎日のようにエロを楽しんでいる俺には分からない感覚だが、奴らはエロという概念が全くわからないのだ。
ロースはエロという概念が少子高齢化を加速していると言い張り、この世から消し去ろうと目論んでいるので、そのやりかたが滅茶苦茶なものになるのは当然の結果だと言えるだろう。ましてコイツは救いようのない馬鹿であるから尚更だ。
奴はエロという概念を撲滅することで、少子高齢化が改善できると本気で思っているようだ。
だがこんなことで少子高齢化が改善するとは微塵も思えない。それにコイツは完全に本来の目的を見失っている。
少々癪に障ったので、俺は奴に言及してやることにした。
「おいロース」
「なんじゃ?」
ロースは今にもご飯を口に運ぼうとしていた。
「お前の目的は地球の未来をニッコニコにすることなんだろ?」
「そうじゃが?」
「今のお前の行動が、それに繋がっていくとは思えないんだが。そこんところどうなのよ」
俺がそう尋ねると、ロースはご飯を口に運ぼうとしたままフリーズしてしまった。
「……た、確かに!?」
そして今更自分の愚行に気付いたのか、奴は突然叫びだした。箸で掴んでいた一口分のご飯が、机の上に転がり落ちた。
「妾としたことが、これではやっていることが暴君と一緒ではないか……。妾の目的は地球の未来をニッコニコにすることなのに、その目的をいつの間にか見失っていたのか……」
なるほど。どうやらコイツは気付ける馬鹿のようだ。
俺に言われなきゃ気付けないというのはどうかとも思うが、まあ反省しているみたいだしこれ以上は問い詰めないでおこう。
「おーい、顔上げろよロース。気付けたんだから、今度はやり方を変えてみればいいじゃないか」
ここは1つ、優しい対応で下手に出てみる俺。落ち込んでいたロースは、少し励まされたのかゆっくりと顔を上げる。
おでこにご飯粒が付いていて、不覚にも笑いそうになった。
「はぁ、妾はどうすれば良いのじゃ。どうやったらこの星をよく出来るのかのう……」
「本当に良くしたいのなら、まずは規模を狭めて、とりあえず日本の人たちに向けてアプローチをしてみたらどうなんだ?」
「日本ってなんじゃ?」
「……今俺達が暮らしている国のことだよ」それぐらい知っとけよ。
効果があるかは分からないが、俺は少し真面目な方向に舵を切ってみることにした。
「どうすれば良いんじゃ?」
「そうだな。まずこの国だったら総理大臣になって世の中を変えるところから始めてみるとか。総理大臣は難易度高すぎだから、議員から初めてみるのが良いかもな」
「ぎいん?」
「……お前、もう少し地球について勉強してみたらどうなんだ」
地球のことを良くしたいと言っているやつが、地球のことを全く知らないというのは如何なものか。
俺が若干棘のある指摘をすると、ロースはあからさまに落ち込んでしまった。
「無理じゃよ。妾はバカだから、どんなに頑張っても何も頭に入ってこんのじゃ……。妾は宇宙人の落ちこぼれじゃからな」
またしても机に顔を突っ伏してしまった。想像以上の落ち込み具合に、俺は掛ける言葉を見失った。
「……ごちそうさまじゃ」
「まだ残ってるぞ」
「お主にやる。妾は少し外の空気を吸ってくる」
さみしげな背中を向けたまま、外へ出かけに行ってしまった。
少し可哀想だと思った。しかし今までの蛮行が頭をよぎり、やっぱりざまぁ見ろと思い返した。
これで少しは改心するだろう、と奴が残したご飯にラップを掛けた。
●
これは遠き日の思い出話。
妾がまだ宇宙のとある惑星にいた頃の話じゃ。
その惑星からは豆粒ほどの大きさの地球が見えていた。ある日、妾はママの望遠鏡を覗いて、初めて地球の姿を目にした。
「見えた?あれが私の故郷よ」
「あれが地球!?すっごく綺麗だね!」
ママが地球について話してくれる時間は、いつも楽しくて聞いているだけでワクワクしたものじゃ。
「地球にはママみたいな地球人がたくさん住んでいるのよ。あーあ、地球が恋しいな……」
「やっぱり帰りたい?」
「ええ、もちろん。だってパパは冷たくてつまんないじゃない。それに地球で過ごしたほうが圧倒的に楽しいわよ」
「へぇーそんなに良いんだ。地球」
地球の姿をもう一度覗き込む。望遠鏡の先、そこには青い宝石のように美しく輝く地球の姿があった。その幻想的な輝きに、心奪われていく感覚を覚える。
そして妾は、地球を見てとあることをひらめく。
「……決めた!決めたよママ!」
「何を決めたの?」
「私、星態系革命委員会に入る!それで地球に行くんだ!」
突然の宣言に驚きつつも、ママは笑顔で頭を撫でてくれた。
「良いわね。行きなさい」
「さっそくパパに話してくるね!」
妾が地球にやってきた理由、それはママの住むこの星の美しさを守りたかったからだ。
そしてその星に住む住人たちの笑顔も作る。それこそが、妾が星態系革命委員会に入った理由だった。
「……はぁ。どうしたら良いのかのう。分からなくなってきたのじゃ」
妾はとぼとぼと歩きながら途方に暮れていた。保少年から言われた「勉強したらどうなのか?」という言葉が胸にズキズキと突き刺さっている感じがした。
星態系革命委員会は、上級宇宙人のみ入ることが許される組織。立ち上げ人であるパパのコネを使って、強引に所属することが出来た妾には務まりきらないということは初めから分かっていた。
それでも地球にやって来たかった。そしてこの星の人たちを、より良い未来へと導きたいと思っていた。
しかし今の妾は完全に目的を失っていた。初めは目新しくてワクワクした地球の景色も、今はどこか歪んで見えている。
ぶらぶらと歩き続けていると、都市へとたどり着いた。
街中にはメガホンを持った、数人のスーツを着た人間たちが、車の上に乗って演説を繰り広げていた。
『この国をより良くするために、新世代の意見を地域発展に役立てることを誓います!』
『地域ファーストな政治を目指して、全世代が住みやすい街作りをお約束します!』
彼らは力強く、自身の目標を高らかに宣言していた。
「流石は三影議員、言葉の重みが違うな」
「きっとあの人は立派な議員になるだろう」
「竹原議員なら、きっとこの日本を良く変えてくれるはずだ」
街行く人達が噂をする声から聞こえてくるのは、『ぎいん』という聞き覚えのある単語。
「……そうか!そういうことじゃったんだな!」
妾は、彼らの姿を見てインスピレーションを受けた。
自分の意見を主張し、皆の先頭に立ってリードする。これこそが皆をいい方向に導くために、あるべき姿なのじゃ!妾にはその覚悟と意識が足りておらんかったのじゃ。
改めて自分の行いを悔い改める。そして、新たな一歩を踏み出すために動き出す。
「妾も議員になって、この星からエロという概念を消してやるのじゃ!」
意気揚々と、そう叫びながら。
◯
結局ロースは帰ってこなかった。
誤解されないように言っておくが、断じて寂しいというわけではない!むしろ俺は活き活きしているのだった!
「いやっほぉぉおぉい!」
奴のいない部屋で、飛び跳ねるほど喜ぶ。そしてさっそくおあずけになっていたコレクションを堪能することにした。
「……ふぅ。久しぶりのは最高だな!」
貯めまくった分の快感は凄まじく、危うく昇天しかける所だった。最高だ。
それに最高なのはこれだけじゃない!1週間ぶりに、やっと布団の上で寝付けるのだ!
硬いソファーから、ふかふかのベッドへ久しぶりのベッドダイブ!久しぶりの快適な睡眠に、俺の心は一気に満たされていった。
「あー最高ー」
久しぶりに俺の日常が帰ってきた感じがした。それがこの上なく嬉しかった。
翌朝、俺はすがすがしい目覚めを迎える。階段を降りてリビングへ向かう。
「さーて。朝ご飯、朝ご飯~」
昨日は晩ごはんを抜いてお楽しみに時間を費やしていたので、お腹はペコペコだ。
腹ごしらえに美味い飯でも食べよう、そう思っていたのだが。
「……あ」
よく考えたら、最近美味い飯を食べれていたのはあの宇宙人のおかげだったということに、今更気が付く。 アイツがまだ帰ってきていないので、当然リビングには何も用意されていなかった。
その光景を目の当たりにして、俺は両親が長い間留守にするからと言い出したあの日のことを思い出した。
俺は少しばかり寂しさを覚える。
「……はっ!?いけね、何寂しくなってんだ俺っ!これで良いんだ。これが今まで通りの日常なんだ」
奴がいるのが当たり前になりつつあった事実。それを否定するかのように、俺は自分にそう言い聞かせた。
朝ご飯を抜きにして学校に行こうかと思ったが、空腹すぎてなんでも良いから何かを食べたい気分だった。
仕方なく俺は、冷蔵庫の中から昨日奴が残した昼ご飯を取り出して食べることにした。
「……アイツ、今何してんだろうな」
また誰かに迷惑かけてないといいけどと、俺は心のなかで呟いた。
(後編に続く)
この街で昼間、外に出歩く男子諸君は気をつけたほうが良い。
「のう、お主。お主はこの格好、どう思う?」
待ちゆくとある男性に声をかけるのは、白髪で童顔の少女。乳首がないとは言え、生のおっぱいを丸出しにして、不思議な奥行きを持つバッテン模様の瞳で、少女はこちらを見つめてくる。
新手のナンパかと、男性はこの少女に興味津々だ。
少女の見た目は完全に痴女。そんな変態少女に「自分の格好をどう思うか?」と尋ねられたら、我々男子が返す言葉は1つしか無い。
「そんなの当たり前じゃーん。ちょーエロいよ」
そう、『エロい』という答えだ。
しかしいくら自分の感情に忠実になってそう答えたとはいえ、その回答は不適切。
なぜなら彼女……いや宇宙人は、そのように答えた男性に向かって、無慈悲な右ストレートを食らわせてしまうからだ。
「ていやーっ!」
「なんでーぇっ?」
宇宙人の所業は、まさに鬼畜そのものだ。そして殴られて鼻血を流す男性たちに、宇宙人は再び問う。
「お主はこの格好、どう思う?」
すると今度はこう答える。
「……な、なんとも感じませーん!」
そして一目散に逃げていってしまうのだ。
「ガハハ!やったぞー!また1人、エロという概念に囚われている男を救ったぞ!」
宇宙人は男の答えが変化する一連の流れを見て、まるでヒーローになったかのように高笑うのだ。白いマントをなびかせ、英雄のように佇む彼女の姿は、一見すればヒーローに見えるかもしれない。しかし奴がやっていることは完全にヴィランそのものだ。
奴が行っていることは暴力と恐怖による洗脳・調教だ。
あまりにやりすぎていると思ったが、俺は何も出来ず奴の行動を遠巻きに眺めることしか出来ずにいた。本当は奴が起こした面倒事に関わりたくないのだが、俺はやつと暮らしている以上目を背けるわけには行かない。
この地球で、奴をどうにか出来るのは、俺だけかもしれないから。
「ガハハ!少しずつこの星からエロという概念を撲滅できている気がするぞ!」
奴と共同生活をするようになってから、1週間ほどの時間が流れた。ちなみに俺は1週間も禁欲生活だよ畜生。
冒頭でも説明したように、奴はあの活動を仕事と称して、無関係の男性たちに非道な行いを繰り返していた。
奴がこのような無茶苦茶な行動を取るのは、主に2つの理由が考察できる。1つはコイツが救いようのないほどの馬鹿であるということ。もう1つはこいつら宇宙人が住んでいる世界に、エロという概念が存在しないことだ。
毎日のようにエロを楽しんでいる俺には分からない感覚だが、奴らはエロという概念が全くわからないのだ。
ロースはエロという概念が少子高齢化を加速していると言い張り、この世から消し去ろうと目論んでいるので、そのやりかたが滅茶苦茶なものになるのは当然の結果だと言えるだろう。ましてコイツは救いようのない馬鹿であるから尚更だ。
奴はエロという概念を撲滅することで、少子高齢化が改善できると本気で思っているようだ。
だがこんなことで少子高齢化が改善するとは微塵も思えない。それにコイツは完全に本来の目的を見失っている。
少々癪に障ったので、俺は奴に言及してやることにした。
「おいロース」
「なんじゃ?」
ロースは今にもご飯を口に運ぼうとしていた。
「お前の目的は地球の未来をニッコニコにすることなんだろ?」
「そうじゃが?」
「今のお前の行動が、それに繋がっていくとは思えないんだが。そこんところどうなのよ」
俺がそう尋ねると、ロースはご飯を口に運ぼうとしたままフリーズしてしまった。
「……た、確かに!?」
そして今更自分の愚行に気付いたのか、奴は突然叫びだした。箸で掴んでいた一口分のご飯が、机の上に転がり落ちた。
「妾としたことが、これではやっていることが暴君と一緒ではないか……。妾の目的は地球の未来をニッコニコにすることなのに、その目的をいつの間にか見失っていたのか……」
なるほど。どうやらコイツは気付ける馬鹿のようだ。
俺に言われなきゃ気付けないというのはどうかとも思うが、まあ反省しているみたいだしこれ以上は問い詰めないでおこう。
「おーい、顔上げろよロース。気付けたんだから、今度はやり方を変えてみればいいじゃないか」
ここは1つ、優しい対応で下手に出てみる俺。落ち込んでいたロースは、少し励まされたのかゆっくりと顔を上げる。
おでこにご飯粒が付いていて、不覚にも笑いそうになった。
「はぁ、妾はどうすれば良いのじゃ。どうやったらこの星をよく出来るのかのう……」
「本当に良くしたいのなら、まずは規模を狭めて、とりあえず日本の人たちに向けてアプローチをしてみたらどうなんだ?」
「日本ってなんじゃ?」
「……今俺達が暮らしている国のことだよ」それぐらい知っとけよ。
効果があるかは分からないが、俺は少し真面目な方向に舵を切ってみることにした。
「どうすれば良いんじゃ?」
「そうだな。まずこの国だったら総理大臣になって世の中を変えるところから始めてみるとか。総理大臣は難易度高すぎだから、議員から初めてみるのが良いかもな」
「ぎいん?」
「……お前、もう少し地球について勉強してみたらどうなんだ」
地球のことを良くしたいと言っているやつが、地球のことを全く知らないというのは如何なものか。
俺が若干棘のある指摘をすると、ロースはあからさまに落ち込んでしまった。
「無理じゃよ。妾はバカだから、どんなに頑張っても何も頭に入ってこんのじゃ……。妾は宇宙人の落ちこぼれじゃからな」
またしても机に顔を突っ伏してしまった。想像以上の落ち込み具合に、俺は掛ける言葉を見失った。
「……ごちそうさまじゃ」
「まだ残ってるぞ」
「お主にやる。妾は少し外の空気を吸ってくる」
さみしげな背中を向けたまま、外へ出かけに行ってしまった。
少し可哀想だと思った。しかし今までの蛮行が頭をよぎり、やっぱりざまぁ見ろと思い返した。
これで少しは改心するだろう、と奴が残したご飯にラップを掛けた。
●
これは遠き日の思い出話。
妾がまだ宇宙のとある惑星にいた頃の話じゃ。
その惑星からは豆粒ほどの大きさの地球が見えていた。ある日、妾はママの望遠鏡を覗いて、初めて地球の姿を目にした。
「見えた?あれが私の故郷よ」
「あれが地球!?すっごく綺麗だね!」
ママが地球について話してくれる時間は、いつも楽しくて聞いているだけでワクワクしたものじゃ。
「地球にはママみたいな地球人がたくさん住んでいるのよ。あーあ、地球が恋しいな……」
「やっぱり帰りたい?」
「ええ、もちろん。だってパパは冷たくてつまんないじゃない。それに地球で過ごしたほうが圧倒的に楽しいわよ」
「へぇーそんなに良いんだ。地球」
地球の姿をもう一度覗き込む。望遠鏡の先、そこには青い宝石のように美しく輝く地球の姿があった。その幻想的な輝きに、心奪われていく感覚を覚える。
そして妾は、地球を見てとあることをひらめく。
「……決めた!決めたよママ!」
「何を決めたの?」
「私、星態系革命委員会に入る!それで地球に行くんだ!」
突然の宣言に驚きつつも、ママは笑顔で頭を撫でてくれた。
「良いわね。行きなさい」
「さっそくパパに話してくるね!」
妾が地球にやってきた理由、それはママの住むこの星の美しさを守りたかったからだ。
そしてその星に住む住人たちの笑顔も作る。それこそが、妾が星態系革命委員会に入った理由だった。
「……はぁ。どうしたら良いのかのう。分からなくなってきたのじゃ」
妾はとぼとぼと歩きながら途方に暮れていた。保少年から言われた「勉強したらどうなのか?」という言葉が胸にズキズキと突き刺さっている感じがした。
星態系革命委員会は、上級宇宙人のみ入ることが許される組織。立ち上げ人であるパパのコネを使って、強引に所属することが出来た妾には務まりきらないということは初めから分かっていた。
それでも地球にやって来たかった。そしてこの星の人たちを、より良い未来へと導きたいと思っていた。
しかし今の妾は完全に目的を失っていた。初めは目新しくてワクワクした地球の景色も、今はどこか歪んで見えている。
ぶらぶらと歩き続けていると、都市へとたどり着いた。
街中にはメガホンを持った、数人のスーツを着た人間たちが、車の上に乗って演説を繰り広げていた。
『この国をより良くするために、新世代の意見を地域発展に役立てることを誓います!』
『地域ファーストな政治を目指して、全世代が住みやすい街作りをお約束します!』
彼らは力強く、自身の目標を高らかに宣言していた。
「流石は三影議員、言葉の重みが違うな」
「きっとあの人は立派な議員になるだろう」
「竹原議員なら、きっとこの日本を良く変えてくれるはずだ」
街行く人達が噂をする声から聞こえてくるのは、『ぎいん』という聞き覚えのある単語。
「……そうか!そういうことじゃったんだな!」
妾は、彼らの姿を見てインスピレーションを受けた。
自分の意見を主張し、皆の先頭に立ってリードする。これこそが皆をいい方向に導くために、あるべき姿なのじゃ!妾にはその覚悟と意識が足りておらんかったのじゃ。
改めて自分の行いを悔い改める。そして、新たな一歩を踏み出すために動き出す。
「妾も議員になって、この星からエロという概念を消してやるのじゃ!」
意気揚々と、そう叫びながら。
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結局ロースは帰ってこなかった。
誤解されないように言っておくが、断じて寂しいというわけではない!むしろ俺は活き活きしているのだった!
「いやっほぉぉおぉい!」
奴のいない部屋で、飛び跳ねるほど喜ぶ。そしてさっそくおあずけになっていたコレクションを堪能することにした。
「……ふぅ。久しぶりのは最高だな!」
貯めまくった分の快感は凄まじく、危うく昇天しかける所だった。最高だ。
それに最高なのはこれだけじゃない!1週間ぶりに、やっと布団の上で寝付けるのだ!
硬いソファーから、ふかふかのベッドへ久しぶりのベッドダイブ!久しぶりの快適な睡眠に、俺の心は一気に満たされていった。
「あー最高ー」
久しぶりに俺の日常が帰ってきた感じがした。それがこの上なく嬉しかった。
翌朝、俺はすがすがしい目覚めを迎える。階段を降りてリビングへ向かう。
「さーて。朝ご飯、朝ご飯~」
昨日は晩ごはんを抜いてお楽しみに時間を費やしていたので、お腹はペコペコだ。
腹ごしらえに美味い飯でも食べよう、そう思っていたのだが。
「……あ」
よく考えたら、最近美味い飯を食べれていたのはあの宇宙人のおかげだったということに、今更気が付く。 アイツがまだ帰ってきていないので、当然リビングには何も用意されていなかった。
その光景を目の当たりにして、俺は両親が長い間留守にするからと言い出したあの日のことを思い出した。
俺は少しばかり寂しさを覚える。
「……はっ!?いけね、何寂しくなってんだ俺っ!これで良いんだ。これが今まで通りの日常なんだ」
奴がいるのが当たり前になりつつあった事実。それを否定するかのように、俺は自分にそう言い聞かせた。
朝ご飯を抜きにして学校に行こうかと思ったが、空腹すぎてなんでも良いから何かを食べたい気分だった。
仕方なく俺は、冷蔵庫の中から昨日奴が残した昼ご飯を取り出して食べることにした。
「……アイツ、今何してんだろうな」
また誰かに迷惑かけてないといいけどと、俺は心のなかで呟いた。
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