異界の探偵事務所

森川 八雲

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樹乃森 隆

対峙

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部屋に足を踏み入れた爽は異様な光景を目にする
悪意の塊の様な黒いものの向こう側に父の姿がある
「お父さん!」
「爽か?!来るな!逃げろ!」
「嫌!一緒に帰るの!!」
「ふふ、もう一人生贄が来たか」
上げていた手を下ろし爽の方へ振り向く
片手を前に出し手の平から雷のようなものが放たれる

バジィッ!

爽には当たらず、手前で地面に吸い込まれる

「ほう?お前も美味しそうな魂を持っておるな」
邪悪な笑みを浮かべているのが感覚で分かる

「お父さんから離れなさい!」
「こいつは世の生贄だ、お前には渡さない」

父がすきをついて逃げようとするも、逃げられないように小さな結界が貼られる

「そんな…」
結界を貼る手順が無く、瞬時に結界が貼られた
「爽!こいつは恐らく簡単な術式なら手順を飛ばせる!気を付けるんだ!」

幸いあの黒いやつとは少し距離がある
さっきの雷もあいつなら"簡単な"術なんだろう

「そんなに喚くな、先にお前の魂を頂くとしよう」

両手を上げまたブツブツと呪文を唱え始めた

「やめてー!!」
ナイフで斬りつけるも手応えが無い

「そこで大人しくしていろ、コイツの次にお前の魂も喰らってやろう」

攻撃を防ぐアーティファクトとは別でもう一つ持っていている
今ここで使えばヤツを倒せるかもしれないが…
迷っている暇は無い

「私はお前を倒す!」
「爽、まさかアレを持ってきたのか!」

アーティファクトを足元に落とすと同時にナイフで手の平を切る
溢れた血がアーティファクトに落ちる

その瞬間この空間が真っ黒になった
「爽!やめろ!」

「なんだ?これは…」
黒いものは呪文を止めて辺りを見回す
今は景色と同化してしまって見えないが感覚で分かる

「血の盟約に従え!ヤツを滅ぼせ!」
爽がそう言うと黒かった辺りが今度は白くなった

「何をするつもりだ!」
黒いものは明らかに警戒している

未だ溢れ出る血はアーティファクトが飲み込んでいく

「爽!やめろ!死ぬつもりか!」
しかし爽は聞いていない
黒いものを倒すことだけを考えている

アーティファクトが割れ中から悪魔デーモンが現れた

黒いものは雷を放つが当たっても何も起こらない
全くの無傷だ

「驚いた?私が血をあげ続ける限りこのデーモンは死ないわ!」

アーティファクトはいわば触媒である
デーモンを呼び出す代価として血を払うのだ
これが母親からもらった唯一の形見である

「お母さんごめん!」
「爽!」

デーモンが黒いものに迫る
黒いものは何度か抵抗するが全く効果がない

「爽!」
結界から開放された父が爽を抱きしめる
「もういいんだ!お前だけでも逃げろ!」
「やだ!お父さんも一緒!」

血が尽きたらデーモンも消える
爽が居なくなればまた黒いものが魂を欲しがるだろう
入り口は爽が壊してしまったためアイツが外に出たら大変な事になる

「後は俺に任せてここから出なさい!捜索隊も来ているんだろう?!」
「嫌!せっかく助けに来たのに…!」

「西川君!爽を!」
「わかりました!」
捜索隊は入り口で待機していた
黒いものが怖くて近付けないでいたのだ

「いや!パパ!!」

「おい!お前は俺がとどめを刺してやる!」
隆はそう言うと自分の手首にナイフを入れた
大量の血が落ちる

その瞬間人間ほどのサイズだったデーモンが極端に大きくなり片手で黒いものを掴む
「タダでは滅びんぞ!」
両手から雷がほとばしる!

隆に当たり肉が焦げる匂いが立ち込める
守りの結界を貫通してきたのだ
「ぐっぐうう!まただ!まだ死なんぞ!」

全身が焼け傷口が閉じてしまったが再度ナイフで手首を切る
「これで俺の勝ちだ!」
「いやー!パパーー!!!」

デーモンはそのまま口に放り込むと同時に消えた
あの黒いものも居ない

「デーモンが消えたって…事は…あの黒い…ものも…居なくなっ…たん…だな…」
「パパー!!」
爽が駆け寄るも全身に熱傷があり瞼や唇が爛れている

「パパ!どうして!」
「これ…は…私の…責…任…でも…ある…素直に…諦めて…い…たら…」
喋るのすらままならない
「先生!しっかり!今ストレッチャーが来ますから!」
「もう…いい…助から…ない事は…わか…て…る」
「そんな!パパ!いや!」

「帰っ…たら…大…魔神…大社へ…行き…なさい…。助…けに…なって…くれる…だろう…」
ポケットから名刺入れを取り出し爽へ握らせる
「西川先生!ストレッチャー来ました!」
「わかった!さ、爽お嬢さん離れて」
西川達が父親をストレッチャーに乗せ酸素ボンベを付ける
「爽…金庫に…」
「パパ!」

………
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