遺世界パラボリック

文字の大きさ
上 下
2 / 25
Alea jacta est

2話

しおりを挟む
 硝煙の香りがほのかにアロマとして漂う。じっとり、と重い空気。だが、その場の誰ひとりとして恐怖を感じていない。むしろ。

「そいつが死んだからには、次に刃向かうヤツは必要か?」

 黒髪はそう確認を取った。この飲み込めない今の状況。少しでも情報が欲しい。転がった死体。ようやく背筋が伸びた模様。

 受付はニヤリと笑う。

「話が早い。そういう人はわりかし最後まで生き残ります。No.17」

「そいつはNo.829だった。俺は17。なんの違いだ? 殺した数か? いや、違う。殺した数のランキング、か?」

 黒髪自身の胸には『17』と書かれたシール。剥がそうと思えば剥がせるが、なんなのか確認してからでも遅くはない。それに『17』という数字は偶然にも好きだ。

 コツコツ、とヒールの音を響かせながら受付は黒髪の前に立つ。

「さすが。頭がいいというのは聞いていましたが、まだこの説明途中で気づいたのは他に十六人しかいませんでしたよ」

 あなたで十七人目。誇っていい、かどうかは任せますけど。どうでもいい。どうせこの人も死んだヤツとそんなに変わらないから。

 俯いたまま黒髪は問う。

「喜んだほうがいいのか?」

 そのほうがこの場では正解なのか? 正直、不正解でもどうでもいいが。踊らされるのは別に嫌いじゃない。

「いえ、どうせこのあと説明しますので。喜んでもいいですし悲しんでも怒ってもなんでも。でもそうですね、当てた人へのご褒美的なものもあってもいいかもしれません」

 そう思いついた受付は、傍の箱の中から拳銃をひとつ取り出す。そしてまた黒髪の前へ。

「……?」

 殺される? それもいい。黒髪は命乞いはしない。頭を撃ち抜かれようが心臓を撃ち抜かれようが。耳、鼻、指、肩。どこを撃たれても。

 が、受付はイスにポンッ、と放り投げた。

「グロック17。一応、人数分用意していたんですけど、ひとり空きましたので。あなたには追加でもうひとつ。あぁ、このあとあなたの本物の武器を渡しますのでお楽しみに」

 若干、鼻で笑う。細めた目は笑っていない。非対称で不思議な微笑。

 目だけは銃を捉えた。だが黒髪の腕は動かない。重力が何倍にも増幅されたかのように、伸びていかない。だが。

「あんたを撃ったらどうなる?」

 向けられた背中。もし心臓は外したとしても、それなりに致命的な臓器は傷つけることはできるだろう。伸ばすつもりもない腕だが、その鎖を引きちぎって構えれば一秒後にはできる。

 そんなことになっても受付は不敵。チラッと振り返るだけ。

「私が死んで。あなたはより良い武器がこのあと手に入るだけです。それと受付に支給されていたデザートイーグル。こちらもどうぞ」

 踵を返し、自身の銃も握らせる。完全に丸腰。でも。余裕が崩れない。

「……」

「その場合は次の方に勝手に引き継ぎますので、出てくる受付全員殺せば、そのぶんの銃火器が全部手に入ります。それもいいでしょう。私達はそういうものですので」

 どう、対処すればいいのか。黒髪は言葉にできない。どれも間違っている気がして。

「別に。殺しが趣味とか。そういうわけではない。これもいらないよ」

 デザートイーグルを返そうとする。人を殺すための道具なんて。どうかしてる。なんだってこんなものがこの世に存在するんだ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...