Parfumésie 【パルフュメジー】

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歌うように。

194話

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 隠すことではない。それに、依頼をしているのは自分達のほう。スカートの裾を握りながらブランシュは短く、

「……はい」

 と肯定。なぜだろう、とても危険な森に迷い込んでしまったような、どこかから狙われている視線を感じるような。蜂の巣を叩いてしまったような緊張感。

 さらに観察を続けるシシー。まだなにか秘密がある、と直感が訴えている。雑誌で読んだことある程度の知識ではあるが、そこから導き出される答え。

「それに……ヴィオラ、いや、ヴァイオリンをやっているのかな? 専門家じゃないからわからないけど」

「おいおいおいおい。なんでそこまでわかる? たしかにヴァイオリン弾いてるけど」

 この人物に救済を持ちかけたことをニコルは後悔し始める。あまりにも、なにもかも知りすぎている。見透かされている。そういう人物には近づかないほうがいい。動物的な本能。

 警戒されたのはわかっている。だがそれについてもシシーは淡々と返していく。

「かすかに右耳をこちらに向けたね。ヴァイオリンやヴィオラなんかを演奏する人は、左耳に近いところで弾くこともあり、そういう癖を持つ人もいると聞いたことがある。左利き用ヴァイオリンというのもあるそうだが、右利きみたいだし、そうかなと」

 ヴァイオリンなどを長年弾いていると、出てきてしまう職業病のようなもの。体の重心のズレや小指の変形。そういったところを見逃さずに拾い上げた。音楽についても専門ではないが、彼女の鋭い目はそれらを見逃さない。

 指摘されてブランシュはハッとなる。先ほどの自身の動きを思い出してみる。だが、たしかに微かには右耳のほうから傾けた。ほんの少しだけ。

「……自分でも気づきませんでした。プロだと難聴にならないように左耳に耳栓をしている方もいるそうですが……」

 それでもほんの少しだけ。誰にも気づかれない程度。この人物以外には。

 さらに知りうる限りの情報から、シシーはこの件について独自に予想を立てる。ひとつひとつのパズルが組み合わさるように、すると絵面が見えてくる。

「そしてキミ。ブランシュ・カローさん、だね。普通科。音楽科でもないのに、わざわざ本格的なドイツリートを必要とする理由。なるほど、その曲で香水でも作ろう、というところかな?」

 まだなにも。まだなにも自分達は言っていない。目を見開いたブランシュはさらに一歩後退。

「……なぜ、私の名前を……?」

 どこかで会ったことが……? いや、ないはず。少なくとも自分には。だとすると……どこで……?
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