Parfumésie 【パルフュメジー】

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歌うように。

191話

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 重苦しい雰囲気。打つ手なし。それを打破するフォーヴ。

《だが、マイナスなことばかりでもない、そうだろう?》

 ここまでは下げて下げて陰鬱な暗闇。そこに一筋の光はある、と照らし出す。

 ニワトリのように首を振って、携帯と姉を交互に見るニコル。今回ばかりは、と諦めの色も出ていたところだった。

「ほ? というと?」

 その説明はブランシュから。同じようにたどり着いていた答え。

「……非常にわかりやすい三部構成であること。『恋の始まりと熱情』『破局と破滅』『終幕』、といったところでしょうか」

 活路を見出せるとしたらそこ。つまりそれは彼女達にとっては最大の僥倖でもある。なぜなら——。

「おぉッ! つまり香水を作りやすいと!」

 もう四作目ということで、ニコルも素早く勘付く。『雨の歌』以来となる、三つに分かれた香水の香り方とマッチする楽曲。そういえば、シューマンとブラームスって師弟とかだったっけ? 似るもんだ。

 国外からのフォーヴの声色も弾ける。

《そういうこと。トップ・ミドル・ラスト。まさに香水向けだ》

 香水向け。そんなクラシック曲があるとは思えないが、無理やり当てはめるならばこうなるだろう。

 香水の作りやすさはわかった。となると、あとはその根幹の部分。とはいえ、最初よりも幾分かニコルにも余裕が出てくる。

「歌の上手さをとるか、ドイツ語の発音をとるか。悩みどころだねぇ」

 まるで全てが上手くいくレールの上。そんな妹の語り口にブランシュは危機感を覚える。

「……まず声楽科の方々がやってくれるという約束は取り付けていません。それにドイツ語の発音のいい方なんて——」

「え? 今、来てるでしょ? その人達」

 ニコルの名案発動。ドイツ語についてなんとかしてくれそうな人がいるはず。

 数秒の間を置いてブランシュは一応聞いてみる。

「その人達……というのは?」

 自身にはそんな知り合いなどいない。彼女にはいる……可能性はある。なにせ素性をよく知らないのだから。

 そして自信満々にニコルは手の内を明かす。

「ドイツの姉妹校。ケーニギンクローネの子達。何人かいるみたいだから、その中にひとりくらい歌が上手くて感情表現が得意な子くらいいるでしょ」

 ちょうど来ているらしい、ドイツからの留学生。神に愛されている? そんな錯覚までしてきた。が。

「……」

《……》

 怪訝な顔つきのブランシュと、電波の先で同じような状態が予想されるフォーヴ。言葉にならない。

 ここは「さすが!」など、褒めたたえられると確信していたニコルは肩透かしをくらう。

「なに? なにこの空気」

 澱んでいる。私のせい?

 言うまでもないかと思っていたけど、と最初に加えてからフォーヴは場を宥めに入る。

《残念ながら、GPAの最上位しか留学の許可は降りない。いても二名程度だろう。いればいいが、望みは薄い》

 やれやれ。さらにそんなため息もついてきそう。

 さらに冷静にブランシュも追い打ちをかける。

「その方々も手伝ってくれるかどうかわかりませんし」

 なぜこの人はいつも思った通りにいく前提なのだろう。しかし、そんな強気な姿勢は自分にはないため、少し羨ましいところでもある。結局なるようにしかならないのだから。

 そんな穿った視線を蹴飛ばし、やると決めたニコルは勢いよく立ち上がる。

「そこは交渉術っしょ。いる! 絶対! いてくれなきゃ困る!」

 困る。うん、いやマジで。いるように世界はできているはず。徐々にポジティブにギアを入れる。

 そして蚊帳の外のフォーヴは、ひっそりと自室での楽器のケアを終える。

《ま、私にはどうにもできない。楽しみにしてるよ》

 事の顛末だけは知りたい。それだけ残して電話を切った。
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