171 / 208
重々しく。
171話
しおりを挟む
「……それ、どういうテーマですか……?」
パリ八区に位置する花屋〈ソノラ〉にて、店主の弟であるシャルル・ブーケの頭に疑問符。横を通り過ぎる際、気になってしまった。
お客様から話を聞き、合うフラワーアレンジメントを提供する『おまかせ』専門店。店内では至るところにアレンジメントが置いてあるが、売り物ではない。趣味で作ったインテリアとなっている。
広い店内中央付近、木製のテーブルセット。そこに座り、アレンジメントを作るはアルバイトのベル・グランヴァル。お店のエプロンを着用し、楽しそうに悩んでいる。
「シャルルくん。これはね……『死』をテーマにしたアレンジメントなんだけど——」
「あ……聞かなかったことにしときます」
慇懃に対応するシャルル。厄介ごとに巻き込まれるのは嫌なので、真顔で店の奥に引っ込もうとする。さて、今日の夕飯はなににしようか。
その小さく細い肩を食い止めるベル。誰か呪いたいとか、そういうのは無……うん、無い。大丈夫。
「いや、聞いて聞いて。クラシック曲は色んなテーマがあって、メジャーなものだと『愛』だとか『季節』みたいなのが多いんだけど、ダークなものだと『死』とか『絶望』みたいのもあるの。その中でも今回は、サン=サーンスの『死の舞踏』をイメージしたのね」
出来上がったアレンジメントを手渡す。頭ひとつぶん以上小さな彼に。
咄嗟に受け取ったシャルルは、作曲家も曲も知らないが、頭の中に反芻する。
「『死の舞踏』……ということはこの実とかは」
一際目立つ朱色の果実。色味を抑えた中で、アクセントとして面白い。いや、本当に面白い。
したり顔で見下ろすベルは腕を組む。
「そう。ザクロやリンゴを使って新鮮さを出しつつ、アンティークファーンやグリーンのラナンキュラスでクラシカルな感じも。ユーカリとかも使って彩りもね」
『死』からは華やかさよりも、枯れた印象が強い。万聖節の墓ではカラフルな菊がこれでもかと並ぶが、死神や骸骨には少し向かない気がした。お花を挿してる骸骨……ちょっと可愛いかも。シンプルなバスケットに入れているのは『死』というものは死神によって『運ばれる』ということを示唆している。
ザクロはギリシャ神話で『死と再生』を意味。蘇る骸骨。リンゴもなんか禁断の果実っぽいから入れてみた。
チラッと見上げつつ、シャルルは笑みを浮かべた。
「すごくいいですね。素敵だと思います!」
「ワルツなんだから、ラウンドにしたほうがいいんじゃないのか?」
仲のいい二人に水を差すように、店の奥から現れたのは店主のベアトリス。相変わらず気だるそうに歩く。軽く舌打ち。
パリ八区に位置する花屋〈ソノラ〉にて、店主の弟であるシャルル・ブーケの頭に疑問符。横を通り過ぎる際、気になってしまった。
お客様から話を聞き、合うフラワーアレンジメントを提供する『おまかせ』専門店。店内では至るところにアレンジメントが置いてあるが、売り物ではない。趣味で作ったインテリアとなっている。
広い店内中央付近、木製のテーブルセット。そこに座り、アレンジメントを作るはアルバイトのベル・グランヴァル。お店のエプロンを着用し、楽しそうに悩んでいる。
「シャルルくん。これはね……『死』をテーマにしたアレンジメントなんだけど——」
「あ……聞かなかったことにしときます」
慇懃に対応するシャルル。厄介ごとに巻き込まれるのは嫌なので、真顔で店の奥に引っ込もうとする。さて、今日の夕飯はなににしようか。
その小さく細い肩を食い止めるベル。誰か呪いたいとか、そういうのは無……うん、無い。大丈夫。
「いや、聞いて聞いて。クラシック曲は色んなテーマがあって、メジャーなものだと『愛』だとか『季節』みたいなのが多いんだけど、ダークなものだと『死』とか『絶望』みたいのもあるの。その中でも今回は、サン=サーンスの『死の舞踏』をイメージしたのね」
出来上がったアレンジメントを手渡す。頭ひとつぶん以上小さな彼に。
咄嗟に受け取ったシャルルは、作曲家も曲も知らないが、頭の中に反芻する。
「『死の舞踏』……ということはこの実とかは」
一際目立つ朱色の果実。色味を抑えた中で、アクセントとして面白い。いや、本当に面白い。
したり顔で見下ろすベルは腕を組む。
「そう。ザクロやリンゴを使って新鮮さを出しつつ、アンティークファーンやグリーンのラナンキュラスでクラシカルな感じも。ユーカリとかも使って彩りもね」
『死』からは華やかさよりも、枯れた印象が強い。万聖節の墓ではカラフルな菊がこれでもかと並ぶが、死神や骸骨には少し向かない気がした。お花を挿してる骸骨……ちょっと可愛いかも。シンプルなバスケットに入れているのは『死』というものは死神によって『運ばれる』ということを示唆している。
ザクロはギリシャ神話で『死と再生』を意味。蘇る骸骨。リンゴもなんか禁断の果実っぽいから入れてみた。
チラッと見上げつつ、シャルルは笑みを浮かべた。
「すごくいいですね。素敵だと思います!」
「ワルツなんだから、ラウンドにしたほうがいいんじゃないのか?」
仲のいい二人に水を差すように、店の奥から現れたのは店主のベアトリス。相変わらず気だるそうに歩く。軽く舌打ち。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉
海林檎
恋愛
※1月4日12時完結
全てが嘘でした。
貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。
婚約破棄できるように。
人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。
貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。
貴方とあの子の仲を取り持ったり····
私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。
月花は愛され咲き誇る
緋村燐
キャラ文芸
月鬼。
月からやってきたという鬼は、それはそれは美しい姿をしていたそうだ。
時が経ち、その姿もはるか昔のこととなった現在。
色素が薄いものほど尊ばれる月鬼の一族の中、三津木香夜はみすぼらしい灰色の髪を持って生を受けた。
虐げられながらも生きてきたある日、日の本の国で一番の権力を持つ火鬼の一族の若君が嫁探しのために訪れる。
そのことが、香夜の運命を大きく変えることとなった――。
野いちご様
ベリーズカフェ様
ノベマ!様
小説家になろう様
エブリスタ様
カクヨム様
にも掲載しています。
今日も誰かが掛けてくる
ぬまちゃん
キャラ文芸
関東近郊のある街のとある一角に、二十四時間寝ないビルがあります。怖いビルではありません。
ATMに付いている電話機でヘルプするためのサポートセンターが入っているビルなのです。
彼ら、彼女らは、殆どがアルバイトの人達です。
日夜サポートセンターにかかってくる怪しい電話と格闘しながら、青春をバイトに捧げているのです。
あ、これは、フィクションです。似たような話が出て来ても絶対に実話ではありません。
妖しい、僕のまち〜妖怪娘だらけの役場で公務員やっています〜
詩月 七夜
キャラ文芸
僕は十乃 巡(とおの めぐる)。
降神町(おりがみちょう)役場に勤める公務員です。
この降神町は、普通の町とは違う、ちょっと不思議なところがあります。
猫又、朧車、野鉄砲、鬼女…日本古来の妖怪達が、人間と同じ姿で住民として普通に暮らす、普通じゃない町。
このお話は、そんなちょっと不思議な降神町で起こる、僕と妖怪達の涙あり、笑いありの物語。
さあ、あなたも覗いてみてください。
きっと、妖怪達と心に残る思い出ができると思います。
■表紙イラスト作成:魔人様(SKIMAにて依頼:https://skima.jp/profile?id=10298)
太陽と月の終わらない恋の歌
泉野ジュール
キャラ文芸
ルザーンの街には怪盗がいる──
『黒の怪盗』と呼ばれる義賊は、商業都市ルザーンにはびこる悪人を狙うことで有名だった。
夜な夜な悪を狩り、盗んだ財産を貧しい家に届けるといわれる黒の怪盗は、ルザーンの光であり、影だ。しかし彼の正体を知るものはどこにもいない。
ただひとり、若き富豪ダヴィッド・サイデンに拾われた少女・マノンをのぞいては……。
夜を駆ける義賊と、彼に拾われた少女の、禁断の年の差純愛活劇!
戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?
新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる