Parfumésie 【パルフュメジー】

文字の大きさ
上 下
143 / 208
重々しく。

143話

しおりを挟む
 フィドルという楽器は民族音楽でよく使われるわけだが、その表現とする音は『バグパイプ』である。バグパイプというものは国によって若干の違いはあれど、リードが取り付けられたパイプを留気袋に繋ぎ、その溜めた空気を押し出すことで音が鳴る、木管楽器であり気鳴楽器。無形文化遺産にも登録されている。

 そしてそのバグパイプは、音を切ることができない。笛であれば息を切り、弦であれば振動を止めることで音を切るが、押し出すという構造上、どうしてもピタリと止めることができず、残響が残ってしまう。ならばどうやって音を区切るか? そこで生まれたのが『装飾音』である。

 装飾音とはなにか。その答えは『音と音の間に、一瞬の短い音を入れる』こと。それによって区切る。極端な例を挙げれば、ドレミと弾くところを、『ド・(ソ)・レ・(ソ)・ミ』と弾くことで音をドレミと区切ることができる。この場合の(ソ)が装飾音になる。

 ヴァイオリンは基本的にビブラートをきかせる楽器である。逆にフィドルは響きを『切る』楽器。ゆえに、まさに同じ楽器で違う演奏。フィドルを弾く演奏者はクラシックから入る場合も多いが、学んでいないと違いをすぐには答え、演奏することはできない。しかし、この少女はすでに。

「たしかに。足が勝手に動くね」

 足以外にも体全体で音を捉えるニコル。まわりを見渡すと、聴き入っている人々は同じように動いているし、通り過ぎる人々も首を揺らしたりしながら、音を感じ取っている。

(やはり……クラシックとは違った楽しさ、難しさがあります。譜面を読むことよりも、聴衆や観客に近く存在することで、みなで作り上げる一体感。演奏者だけでは成り立たないというのは、新しい発見があります)

 クラシックも演奏と観客で作り上げる芸術、という見方もある。実際、聴き手にも多少の知識を求められる、言うなれば敷居が高いと敬遠されがちなところがある。しかし、スコティッシュやアイリッシュなどは、体の感じるまま。貴賤などなく、ただダンスを。ブランシュも身を委ねる。

 セカンドを演奏するサンドリーヌは、ポルカ独特の洗礼を、メインのヴァイオリンにお見舞いすることに決めた。同じ譜面を何度も繰り返すため、少し変化をつけていく。

(そろそろいっちゃう?)

 目配せすると、男性陣も頷く。たぶん大丈夫だろう、と。すると、徐々に徐々にテンポが上がっていく。曲を知らずに聴いていた聴衆も「ん?」という顔になると同時に、奏者の手の動きが高速になっていくサマに、さらにボルテージが上がる。その一角は見ず知らずの他人でさえ、顔を突き合わせてデタラメなステップを踏む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

白薔薇黒薔薇

平坂 静音
歴史・時代
女中のマルゴは田舎の屋敷で、同じ歳の令嬢クララと姉妹のように育った。あるとき、パリで働いていた主人のブルーム氏が怪我をし倒れ、心配したマルゴは家庭教師のヴァイオレットとともにパリへ行く。そこで彼女はある秘密を知る。

晩酌を前提にお付き合いして下さい!

日立かぐ市
キャラ文芸
篠山澪(ささやまみお)はチームリーダーとして同僚や部下から話しを聞いてくれる上司だと慕われる。一方で部屋へ帰ると毎日晩酌をする。 澪の部下の1人、入社二年目の豊崎大道(とよさきひろみち)は澪に社会人として、女性として憧れていた。 居酒屋料理を再現することを趣味としている豊崎は偶然スーパーで澪と遭遇。その場の勢いで豊崎の部屋で飲むことになった。2人ともそのまま酔いつぶれ、朝になって目が覚める。 一晩を共にしたと勘違いした豊崎は澪に告白する。

呪いの回転寿司(コメディー・クトゥルフ神話)

東郷しのぶ
キャラ文芸
 友人が邪神によって異形の怪物へと変えられてしまった!  勇気ある少年と少女は邪神を倒し、友人を救うことを決意する。果たして彼らは、恐るべき力を持つ邪神に勝てるのか!?  決戦の地は……回転寿司屋! 凄絶な戦いが今、始まる。…………コメディーです。どったんばったんします。  表紙イラストは、あっきコタロウ様のフリーイラストを使わせていただいております。

近くて遠い10センチメートル

視世陽木
恋愛
 社会人3年目の木原は仕事仕事の毎日に忙殺されていた。 その日もいつもと同じように課長からいびりや嫌味や受けながらも、なぜだか中学生時代のことを思い出していた。  中学校を卒業してから会うことはおろか連絡すら取っていないあの子、桜田。  遠い日に少しだけ交友を温めた彼女との思い出に、木原の変わり映えしない毎日が10cmだけ動き出そうとしていた。

【完結】おっさん、初めて猫を飼う。~ナル物語~

水瀬 とろん
キャラ文芸
ひょんなことから猫を飼う事になった俺。猫の名はナル。 その猫とこれから生活していくんだが、俺は今まで猫どころか動物など飼ったことが無い。 どうすりゃいいんだ…… 猫を巡るドタバタな日常を描く作品となります。

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

らぶ・TEA・ぱーてぃー

倉智せーぢ
キャラ文芸
恋人・留美の『お姉さま』に招待され、お茶会に行くことになった育嶋佑。 そこで待っていたのは? なぜ、留美が佑のことを好きになったのか? その謎が今、明かされる!? 作者イチオシのお気に入りキャラクターも登場する、『ラブ・カルテットシリーズ』の番外編です。

処理中です...