114 / 208
重々しく。
114話
しおりを挟む
死神がやってくる
踵でリズムを取りながら
真夜中に死神が奏でるヴァイオリンは 舞踏の調べ
†
「必要ありません。私には過ぎた代物です」
そう、きっぱりと断りを入れたのは、ヴァイオリンを趣味とするが、夢は香水などの調香師、ブランシュ・カロー。これ以上は聞く耳を持たない。そうとでも言うかのように、プイっと顔を背けた。
万聖節も過ぎ、学校も長期の休みが終了。学生達で混み合う、学園内のランチタイムのカフェでイスに座る二人。三階にあるため見晴らしがよく、ガラス張りの広い窓からは、よく使わせてもらっている音楽科のホールも、眼下に見える。その他、遠くにはエッフェル塔も。
「え……いや、なんでよ。すごい楽器なんでしょ? ストラディバリウスって」
必死に説得するのは、血の繋がりもなく性格も真逆なのに、偽の妹として学園に登録されているニコル・カロー。彼女が勧めるもの。楽器に対する知識はないが、そんな彼女でも聞いたことある高価な、それでいて伝説のようなヴァイオリン。
ストラディバリウス。
イタリアの弦楽器職人、アントニオ・ストラディバリとその子供である、フランチェスコとオモボノが制作した楽器。ヴァイオリン以外にも、チェロやマンドリン、ヴィオラといった弦楽器にも、ストラディバリウスは存在する。
一七世紀後半から一八世紀初頭にかけて制作された、約千挺の弦楽器のうち、現存するものが約七〇〇。ヴァイオリンでは六〇〇挺あるといわれている。それらは何百年もの間、名ヴァイオリニスト達によって弾き続けられ、形を保っているという、歴史の重さがあるのだ。
そのストラディバリウスの音色は唯一無二であると言われているが、それを可能にしているのは、当時の特殊な気候を生き抜いた木の『年輪』。もう二度と作り出すことが出来ない、と言われている理由はそこにある。ゆえに希少価値は恐ろしく高い。
それをブランシュに譲る、という所持者からの提案。
「私は趣味で弾いているだけです。車で例えるなら、スーパーに買い物に行くのに、サーキットカーを使うようなものです。適材適所、というものがあります」
固く決断しているブランシュの心臓は、跳ね上がることもなく一定のリズム。ストラディバリウスを喉から手が出るほど欲しい、という人は世界にごまんといるが、それに自身は含まれない。
興味がない、と言えば嘘。だが、自分には不必要なほどの芸術品だと理解している。それに、長年使い続けてきたヴァイオリンが手元にはある。愛着もある。お互いに全てをわかりあっている。だからこそ、唐突に世界的な有名人からいただける、なんて提案も申し訳ないだけ。
踵でリズムを取りながら
真夜中に死神が奏でるヴァイオリンは 舞踏の調べ
†
「必要ありません。私には過ぎた代物です」
そう、きっぱりと断りを入れたのは、ヴァイオリンを趣味とするが、夢は香水などの調香師、ブランシュ・カロー。これ以上は聞く耳を持たない。そうとでも言うかのように、プイっと顔を背けた。
万聖節も過ぎ、学校も長期の休みが終了。学生達で混み合う、学園内のランチタイムのカフェでイスに座る二人。三階にあるため見晴らしがよく、ガラス張りの広い窓からは、よく使わせてもらっている音楽科のホールも、眼下に見える。その他、遠くにはエッフェル塔も。
「え……いや、なんでよ。すごい楽器なんでしょ? ストラディバリウスって」
必死に説得するのは、血の繋がりもなく性格も真逆なのに、偽の妹として学園に登録されているニコル・カロー。彼女が勧めるもの。楽器に対する知識はないが、そんな彼女でも聞いたことある高価な、それでいて伝説のようなヴァイオリン。
ストラディバリウス。
イタリアの弦楽器職人、アントニオ・ストラディバリとその子供である、フランチェスコとオモボノが制作した楽器。ヴァイオリン以外にも、チェロやマンドリン、ヴィオラといった弦楽器にも、ストラディバリウスは存在する。
一七世紀後半から一八世紀初頭にかけて制作された、約千挺の弦楽器のうち、現存するものが約七〇〇。ヴァイオリンでは六〇〇挺あるといわれている。それらは何百年もの間、名ヴァイオリニスト達によって弾き続けられ、形を保っているという、歴史の重さがあるのだ。
そのストラディバリウスの音色は唯一無二であると言われているが、それを可能にしているのは、当時の特殊な気候を生き抜いた木の『年輪』。もう二度と作り出すことが出来ない、と言われている理由はそこにある。ゆえに希少価値は恐ろしく高い。
それをブランシュに譲る、という所持者からの提案。
「私は趣味で弾いているだけです。車で例えるなら、スーパーに買い物に行くのに、サーキットカーを使うようなものです。適材適所、というものがあります」
固く決断しているブランシュの心臓は、跳ね上がることもなく一定のリズム。ストラディバリウスを喉から手が出るほど欲しい、という人は世界にごまんといるが、それに自身は含まれない。
興味がない、と言えば嘘。だが、自分には不必要なほどの芸術品だと理解している。それに、長年使い続けてきたヴァイオリンが手元にはある。愛着もある。お互いに全てをわかりあっている。だからこそ、唐突に世界的な有名人からいただける、なんて提案も申し訳ないだけ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉
海林檎
恋愛
※1月4日12時完結
全てが嘘でした。
貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。
婚約破棄できるように。
人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。
貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。
貴方とあの子の仲を取り持ったり····
私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。
ガダンの寛ぎお食事処
蒼緋 玲
キャラ文芸
**********************************************
とある屋敷の料理人ガダンは、
元魔術師団の魔術師で現在は
使用人として働いている。
日々の生活の中で欠かせない
三大欲求の一つ『食欲』
時には住人の心に寄り添った食事
時には酒と共に彩りある肴を提供
時には美味しさを求めて自ら買い付けへ
時には住人同士のメニュー論争まで
国有数の料理人として名を馳せても過言では
ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が
織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。
その先にある安らぎと癒しのひとときを
ご提供致します。
今日も今日とて
食堂と厨房の間にあるカウンターで
肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める
ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。
**********************************************
【一日5秒を私にください】
からの、ガダンのご飯物語です。
単独で読めますが原作を読んでいただけると、
登場キャラの人となりもわかって
味に深みが出るかもしれません(宣伝)
外部サイトにも投稿しています。
あやかし温泉街、秋国
桜乱捕り
キャラ文芸
物心が付く前に両親を亡くした『秋風 花梨』は、過度な食べ歩きにより全財産が底を尽き、途方に暮れていた。
そんな中、とある小柄な老人と出会い、温泉旅館で働かないかと勧められる。
怪しく思うも、温泉旅館のご飯がタダで食べられると知るや否や、花梨は快諾をしてしまう。
そして、その小柄な老人に着いて行くと―――
着いた先は、妖怪しかいない永遠の秋に囲まれた温泉街であった。
そこで花梨は仕事の手伝いをしつつ、人間味のある妖怪達と仲良く過ごしていく。
ほんの少しずれた日常を、あなたにも。
妖しい、僕のまち〜妖怪娘だらけの役場で公務員やっています〜
詩月 七夜
キャラ文芸
僕は十乃 巡(とおの めぐる)。
降神町(おりがみちょう)役場に勤める公務員です。
この降神町は、普通の町とは違う、ちょっと不思議なところがあります。
猫又、朧車、野鉄砲、鬼女…日本古来の妖怪達が、人間と同じ姿で住民として普通に暮らす、普通じゃない町。
このお話は、そんなちょっと不思議な降神町で起こる、僕と妖怪達の涙あり、笑いありの物語。
さあ、あなたも覗いてみてください。
きっと、妖怪達と心に残る思い出ができると思います。
■表紙イラスト作成:魔人様(SKIMAにて依頼:https://skima.jp/profile?id=10298)
今日も誰かが掛けてくる
ぬまちゃん
キャラ文芸
関東近郊のある街のとある一角に、二十四時間寝ないビルがあります。怖いビルではありません。
ATMに付いている電話機でヘルプするためのサポートセンターが入っているビルなのです。
彼ら、彼女らは、殆どがアルバイトの人達です。
日夜サポートセンターにかかってくる怪しい電話と格闘しながら、青春をバイトに捧げているのです。
あ、これは、フィクションです。似たような話が出て来ても絶対に実話ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる