Parfumésie 【パルフュメジー】

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自由な速さで。

74話

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 上目で返すブランシュをさらにじっと見ながら、ふっ、とフォーヴは離れた。

「興味深い。本当なら、ベルギーに連れて帰りたいね」

 どう役に立つかはわからないが、それを得た時の感覚をフォーヴも味わってみたい。チェロといえば、やはりポッパーの『ハンガリー狂詩曲』。どんな香りがするのか、作ってみたい。

 しかし、ニコルはその提案に懐疑的だ。

「そりゃ困る。洗濯と食事係がいないと、私が生活できない」

「自分でやってください」

 淡々とツッコみ、ブランシュはショコラショーをひと口。やはりここのカカオはいい。鼻に抜ける香りが爽やか。おそらくこのフルーティさは、マダガスカルのベジョーホ農園か。酸味とクリームの優しい甘さが、相乗効果で体に染み入る。家では絶対に作れない。

 パンケーキに齧り付きながら、フォーヴはショコラショーを堪能するブランシュをもう一度見やる。

「とりあえず一回合わせてみよう。ブランシュの実力が見たい。モンマルトルあたりで一回やってみようか」

 モンマルトルにあるサクレクール寺院の高台テラスは、パリ市内が一望できるスポットとして人気が高く、大道芸人も多く集まる土地。目の肥えた地元民や、はしゃぐ観光客、礼拝者などで常に溢れかえっている。そこで演奏すれば、盛り上がること間違いない。フォーヴは俄然やる気がみなぎってきた。

 しかし、そんな大勢の前では弾けない者もいる。ブランシュは、小刻み震えながら否定する。

 そこに助け舟を出したのはニコル。モンマルトルでも面白いが、もっといい場所がある。あと、さすがに姉には荷が重い。

「いーや、それならウチのホールのほうが適してるね。ルカルトワイネなら姉妹校だから、なんとかなるでしょ。交換留学生ってことで」

 私って頭いい! と、自画自賛するが、色々と理論は破綻している。まず、フラッパーゲートはどうやって通過するのか。そして留学生ではもちろんないため、もしかしたら向こうの学校でも問題になるかもしれない件は。

「大丈夫ですかね……」

 まぁ、こうなったらやってみるまで言うことを聞かない妹であることは、ブランシュもわかっている。フォーヴ次第だが、本人は乗り気だ。

「ダメなら、モンマルトルで稼ぎながら聴かせてもらいたい。場所はどこでもいい」

 そしてショコラショーをひと口。

「まぁ、今は観光楽しみなって」

 と、ニコルはテーブルの上の料理を勧める。パリで老舗のショコラトリー。せっかくなので、頭を空っぽにして楽しんでもらいたい。

「たしかに」

 と、視野が狭くなっていたフォーヴも了承する。せっかく出会った友人達と、音楽以外で語るのもいい。お互いの学校のことや、国のこと、住んでいるところ。話すことは尽きない。

 とはいえ、混み合う休日の午後。一時間ほどで切り上げ、モンフェルナ学園の寮へ向かうことに。

「荷物は部屋に置いといていいから。必要なものは揃うから、気にしない気にしない」

 ニコルはこの後の流れを大まかに説明する。

「まぁ……そういうことですよね……」

 だいたいの予想はついていたが、ブランシュは胃が痛くなった。それと同時に楽しみにもなっている自分に、少しいい意味での驚きを感じた。
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