9 / 208
歩くような早さで。
9話
しおりを挟む
「へぇー、モンフェルナ学園の中ってこんななってんだ。初めて入った。とりあえず、あなたの部屋行こうか。えーと」
「ブランシュです……無理だと思いますけど……」
一旦、落ち着いて話そう、そう女性に言われ、カフェにでも行こうとしたが、誰かとカフェに行ったこともなく、パリジェンヌ達に混じって田舎の自分がエスプレッソを飲んでいいものか、という葛藤に苛まれ「じゃあ寮で……」とブランシュは提案してしまった。
学生寮に興味があるのか、女性は「気になるし、行ってみよう」と快諾したが、学内はともかく寮へは部外者が入っていいわけもなく、歩きながら、なんてことを提案してしまったんだ、とブランシュは自責の念に駆られた。
「ブランシュ。姉妹ってことにしときゃ、なんとかなるでしょ。それともなに、ここはそれすらも許してくんないわけ? 心が狭いねぇ」
結局、押しに負けてブランシュは女性を受け入れることにした。ほぼ無理やりではあるが、抵抗しようとは思わなかった。
『私のおじいちゃんなのよ、マジで』
頭の中で何度もグルグルと、その言葉が走り回る。ということは、この人はお孫さん? たしかに年齢でいえば、これくらいの孫がいてもおかしくはない。いや、初対面の相手を犯罪者に仕立てようとしてくる人だ。なにを言われても信じる気はない。だが。
(私は……意志の弱い人間です……諦めとは口だけ……)
「ブランシュ?」
女性が顔を覗き込んでくる。それにハッと我に返り、返答をする。
「髪の色も違いますし、なにより似てません」
いっそ捕まってしまえば、そう心の隅でブランシュは願った。私の心をこれ以上掻き乱さないでほしい。今なら、この人が捕まってもよく知らない人なのだから、悲しむことはなく、いつもの日常が戻ってくる。
そんな心の内を知ってか知らずか、全く意に介さず話を女性は進めていく。相手の都合などは考えないタイプのようだ。
「母親が違うってことにしよう。それなら許容範囲でしょ」
私って頭いいでしょ? そんな屈託のない笑顔を向けてくる。
果たして今の私はどんな顔をしているのだろうか。そんなことを、この女性を見ているとブランシュは考えてしまう。
「だから無理ですって……そういえばお名前……」
そこでこの人の情報をまだ、なにももらっていないことにブランシュは気づいた。呼び方に困ることにさえ、気づいていなかった。それほどまでに自分自身で精一杯だった。
少し困ったように目線を泳がせると、女性はどもりながらも教えてくれた。
「あー……ニコルでいい。ニコル・フィオーリ。その前に食堂見たい」
「ブランシュです……無理だと思いますけど……」
一旦、落ち着いて話そう、そう女性に言われ、カフェにでも行こうとしたが、誰かとカフェに行ったこともなく、パリジェンヌ達に混じって田舎の自分がエスプレッソを飲んでいいものか、という葛藤に苛まれ「じゃあ寮で……」とブランシュは提案してしまった。
学生寮に興味があるのか、女性は「気になるし、行ってみよう」と快諾したが、学内はともかく寮へは部外者が入っていいわけもなく、歩きながら、なんてことを提案してしまったんだ、とブランシュは自責の念に駆られた。
「ブランシュ。姉妹ってことにしときゃ、なんとかなるでしょ。それともなに、ここはそれすらも許してくんないわけ? 心が狭いねぇ」
結局、押しに負けてブランシュは女性を受け入れることにした。ほぼ無理やりではあるが、抵抗しようとは思わなかった。
『私のおじいちゃんなのよ、マジで』
頭の中で何度もグルグルと、その言葉が走り回る。ということは、この人はお孫さん? たしかに年齢でいえば、これくらいの孫がいてもおかしくはない。いや、初対面の相手を犯罪者に仕立てようとしてくる人だ。なにを言われても信じる気はない。だが。
(私は……意志の弱い人間です……諦めとは口だけ……)
「ブランシュ?」
女性が顔を覗き込んでくる。それにハッと我に返り、返答をする。
「髪の色も違いますし、なにより似てません」
いっそ捕まってしまえば、そう心の隅でブランシュは願った。私の心をこれ以上掻き乱さないでほしい。今なら、この人が捕まってもよく知らない人なのだから、悲しむことはなく、いつもの日常が戻ってくる。
そんな心の内を知ってか知らずか、全く意に介さず話を女性は進めていく。相手の都合などは考えないタイプのようだ。
「母親が違うってことにしよう。それなら許容範囲でしょ」
私って頭いいでしょ? そんな屈託のない笑顔を向けてくる。
果たして今の私はどんな顔をしているのだろうか。そんなことを、この女性を見ているとブランシュは考えてしまう。
「だから無理ですって……そういえばお名前……」
そこでこの人の情報をまだ、なにももらっていないことにブランシュは気づいた。呼び方に困ることにさえ、気づいていなかった。それほどまでに自分自身で精一杯だった。
少し困ったように目線を泳がせると、女性はどもりながらも教えてくれた。
「あー……ニコルでいい。ニコル・フィオーリ。その前に食堂見たい」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
北野坂パレット
うにおいくら
ライト文芸
舞台は神戸・異人館の街北野町。この物語はほっこり仕様になっております。
青春の真っただ中の子供達と青春の残像の中でうごめいている大人たちの物語です。
『高校生になった記念にどうだ?』という酒豪の母・雪乃の訳のわからん理由によって、両親の離婚により生き別れになっていた父・一平に生まれて初めて会う事になったピアノ好きの高校生亮平。
気が付いたら高校生になっていた……というような何も考えずにのほほんと生きてきた亮平が、父親やその周りの大人たちに感化されて成長していく物語。
ある日父親が若い頃は『ピアニストを目指していた』という事を知った亮平は『何故その夢を父親が諦めたのか?』という理由を知ろうとする。
それは亮平にも係わる藤崎家の因縁が原因だった。 それを知った亮平は自らもピアニストを目指すことを決意するが、流石に16年間も無駄飯を食ってきた高校生だけあって考えがヌルイ。脇がアマイ。なかなか前に進めない。
幼馴染の冴子や宏美などに振り回されながら、自分の道を模索する高校生活が始まる。 ピアノ・ヴァイオリン・チェロ・オーケストラそしてスコッチウィスキーや酒がやたらと出てくる小説でもある。主人公がヌルイだけあってなかなか音楽の話までたどり着けないが、8話あたりからそれなりに出てくる模様。若干ファンタージ要素もある模様だが、だからと言って異世界に転生したりすることは間違ってもないと思われる。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?
青夜
キャラ文芸
東大医学部卒。今は港区の大病院に外科医として勤める主人公。
親友夫婦が突然の事故で亡くなった。主人公は遺された四人の子どもたちを引き取り、一緒に暮らすことになった。
資産は十分にある。
子どもたちは、主人公に懐いてくれる。
しかし、何の因果か、驚天動地の事件ばかりが起きる。
幼く美しい巨大財閥令嬢 ⇒ 主人公にベタベタです。
暗殺拳の美しい跡取り ⇒ 昔から主人公にベタ惚れです。
元レディースの超美しいナース ⇒ 主人公にいろんな意味でベタベタです。
大精霊 ⇒ お花を咲かせる類人猿です。
主人公の美しい長女 ⇒ もちろん主人公にベタベタですが、最強です。
主人公の長男 ⇒ 主人公を神の如く尊敬します。
主人公の双子の娘 ⇒ 主人公が大好きですが、大事件ばかり起こします。
その他美しい女たちと美しいゲイの青年 ⇒ みんなベタベタです。
伝説のヤクザ ⇒ 主人公の舎弟になります。
大妖怪 ⇒ 舎弟になります。
守り神ヘビ ⇒ 主人公が大好きです。
おおきな猫 ⇒ 主人公が超好きです。
女子会 ⇒ 無事に終わったことはありません。
理解不能な方は、是非本編へ。
決して後悔させません!
捧腹絶倒、涙流しまくりの世界へようこそ。
ちょっと過激な暴力描写もあります。
苦手な方は読み飛ばして下さい。
性描写は控えめなつもりです。
どんなに読んでもゼロカロリーです。
Sonora 【ソノラ】
隼
キャラ文芸
フランスのパリ8区。
凱旋門やシャンゼリゼ通りなどを有する大都市に、姉弟で経営をする花屋がある。
ベアトリス・ブーケとシャルル・ブーケのふたりが経営する店の名は<ソノラ>、悩みを抱えた人々を花で癒す、小さな花屋。
そこへピアニストを諦めた少女ベルが来店する。
心を癒す、胎動の始まり。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
秘伝賜ります
紫南
キャラ文芸
『陰陽道』と『武道』を極めた先祖を持つ大学生の高耶《タカヤ》は
その先祖の教えを受け『陰陽武道』を継承している。
失いつつある武道のそれぞれの奥義、秘伝を預かり
継承者が見つかるまで一族で受け継ぎ守っていくのが使命だ。
その過程で、陰陽道も極めてしまった先祖のせいで妖絡みの問題も解決しているのだが……
◆◇◆◇◆
《おヌシ! まさか、オレが負けたと思っておるのか!? 陰陽武道は最強! 勝ったに決まっとるだろ!》
(ならどうしたよ。あ、まさかまたぼっちが嫌でとかじゃねぇよな? わざわざ霊界の門まで開けてやったのに、そんな理由で帰って来ねえよな?)
《ぐぅっ》……これが日常?
◆◇◆
現代では恐らく最強!
けれど地味で平凡な生活がしたい青年の非日常をご覧あれ!
【毎週水曜日0時頃投稿予定】
聖女適正ゼロの修道女は邪竜素材で大儲け~特殊スキルを利用して香水屋さんを始めてみました~
だるま
恋愛
代々聖女を輩出してきた聖ヴェロニカ修道院で暮らす新米修道女のステラは三つの特殊スキル保持者。しかし残念ながら賢者によりその力を「死体の山を作る」と予言され、半ば監禁状態である。
自由に外を出歩く事すら制限される中、ある時貴族の従者と名乗る少年が修道院に現れ、ステラは攫(さら)われてしまう。
大都市に生活の拠点を移したステラは邪竜素材を手に入れ、貴族とのツテを活用して商売に繋げていく。
出生の秘密も判明し、王都はテンヤワンヤの大パニックになるのだった。
小説家になろう&カクヨムで連載中です。
※本作の無断転載・加工は固く禁じております。
Reproduction is prohibited.
禁止私自轉載、加工
복제 금지.
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる