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パリとベトナム。

221話

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 翌日。早い時間で学校が終わったこともあり、二人はパリ八区へ。七区からはセーヌ川に架かる橋を渡ればすぐなので、時間があれば帰りに〈WXY〉に寄ってみようと画策。

「忘れてましたけど、予約とか必要だったのでは」

 街並みも七区とはあまり変わらない。商慣習として一階にのみ入っている店舗。その上は事務所や住居となっている、パリではお馴染みの景色。車の通りも多い。そこを制服にコートを着たユリアーネは、目当ての店まで目指す。その最中に大事なことに気づく。

 着る制服はケーニギンクローネでも全く問題はないのだが。全部楽しむ、ということで二人とも、というかシシー以外はモンフェルナのものを借りた。コートを着ないリディア。あまり寒さは感じない体質。

「そう? だとしたらそこは交渉次第だね。上手いこと丸めこむのは得意なんだ」

 そういえば。言われてみれば電話しなきゃって書いてあったかも。だがそんなこと、と一笑に付す。

 うっかりしていたのは自分も一緒。全て任せっきりになっていたのだから、ユリアーネとしては責められない。

「その時は素直に出直しましょう」

 そうしよう。今になって緊張してきた。ダメならダメで、それはそれで。〈WXY〉でコーヒーでも。場合によっては働こう。

 と言っている間に到着。メインからは外れた通りなのだが、それでも路上駐車の車などが多数あり、足早に人々は歩を進める。そんな中、ひとつだけ時間が止まったような店がある。そこだけ、切り離されたように。

 木製の両開きドアの前には、小さなアレンジメントがイスに乗ってある。それだけ。花屋というと、店の前の歩道にまで飛び出すようなところが、来る途中にも多かった。だからこそ、凝縮した純度の高さのような。そんな印象を受ける。

 ドアは、アレンジメントが置いてある片方は開かないようになっているらしい。もう片方を押して入店すると、ドアベルが鳴り、店内の人物が挨拶。

「どうも。予約の方か?」

 店のエプロンをつけた若い女性。どうやらアレンジメントを作っていた様子。しゃがんでいた状態から立ち上がり、道具を腰につけたフローリストケースにしまう。

 オスモカラーの板張りの床。無数のアレンジメントが飾られる壁。まるで『森』の中に迷い込んだような。〈ヴァルト〉と同じコンセプトを見ている感覚にユリアーネは陥る。

「……いえ、飛び込みで申し訳ありません。通りがかったものですから」

 圧倒されつつも挨拶を済ませながらさらに一歩入店。優しい天井のライト。静かで、なんだか幸福感に包まれる。全身に優しい感情が血液に乗って運ばれるよう。
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