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必要と不要。

84話

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「……」

 意気消沈してるアニーにこれ以上言葉を投げかけるのも酷だが、カッチャは気にせず続ける。

「ま、これに懲りたらあんまりあの子を困らせるようなことは——」

「困ってたんスか!?」

 イスから立ち上がってアニーは声を上げた。思ってもいなかった事実。

「そこ!?」

 さすがにカッチャも驚きを隠せず、なにか言い返そうとするが、こいつはこういうやつだな、と思い直して諦める。いい意味でも悪い意味でも猪突猛進。
 
「……それはもう。ウチに逃げ込むくらいには。普通に考えて、背後からついていったら怖いでしょ」

 諭すようにアニーに語りかける。普通のことを言っているはずだが、それはこの子に通じるのだろうか。

 するとアニーは反論の意思を一瞬見せたが、すぐに言葉を引っ込めてイスに座った。

「……っス」

 よくわからない独特な返事だが、たぶん理解したようだ。

 パンッ、と手を叩いて、カッチャは締めに入る。

「はい、じゃあ誓いましょうか。メッセージは一日一〇件まで。家には許可なく行かない。あのヒゲと楽しそうに喋ってても、嫉妬しない。オッケー?」

 歯を食いしばりながら、アニーが譲歩案を提示する。

「……二〇件で手を打ちます」

 こうなる気はしていた。カッチャは譲らない。

「一〇」

「一五」

 それはアニーも同じ。視線を逸らさず、ちょっとだけ変更する。

「……こいつ……」

 しかし、これ以上動きがなさそうなことを感じ取ると、カッチャはため息をつく。

「……ま、いいか。これでいい? ユリアーネ?」

 そして、この場にいない少女の名前を呼ぶ。

「——え、どこに」

 その名前に反応し、アニーは眠りから醒めるように視界がクリアになる。そうだ、彼女のことを、彼女のために——

<こちらです>

 その声は、カッチャの制服の内側から聞こえてくる。少しくぐもった、生ではない音声。

 カッチャは携帯を取り出し、テーブルの上に置いた。

「悪いね。一応、全部流してた。てことで、解決?」

 電波の先のユリアーネに確認をとる。自分にはこれ以上できることはない。あとは二人次第。

<……はい、ありがとうございました、カッチャさん>

 静かに、礼をユリアーネは伝えた。昨日からのこと。今日のこと。これからのこと。

 身を乗り出して、アニーは携帯に吠える。
 
「今、どこにいるんスか!?」

 近くにいることはわかっているが、抑えきれず強く問いかけた。

 コトッという、グラスをテーブルに置く音が、向こう側から聞こえてくる。

<いつもの席です。オリバーさんにも感謝を伝えなければです>
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