C × C 【セ・ドゥー】

文字の大きさ
上 下
28 / 52
マリー・アントワネット

28話

しおりを挟む
「お土産……ちょっと待って、なんか出てきそう」

「それはなにより」

 だが、女性は言葉で伝えられるのはここまで。これ以上は自分の口からでは、彼女にできることはなにもないと感じた。ならば、自分はピアニスト。こうする。

 脳をフルに回転させて糸口をジェイドは探っていたが、ふとその脳に濃厚なカカオをかけられたような、甘く穏やかで、それでいて幻想的な旋律が入り込んでくる。ふと顔を上げると、女性がピアノを弾いていた。

「……なんだっけ、この曲。聴いたことある気がする」

 たしかロシア系だった気がする。ラフマニノフじゃなくて、スクリャービンじゃなくて。

「チャイコフスキーの『金平糖の踊り』。お菓子のこと考えてるみたいだから、なんとなくこの曲」

 と、気を利かせて女性はお菓子の曲を奏でてくれていた。なにか閃けばいいんだけど。そう願いを込めて。

「金平糖……?」

 三つ目の歯車が噛み合う。曲調ではなく、ジェイドが注目したのは、その曲名。そして、ハッとなにかに気づき、手を大きく叩いた。

「……! 金平糖! そうだ、金平糖はたしか、日本では……!」

 と、再度俯いて思考し、何度も頷く。

 それを横目で見て、女性は安堵した。金平糖でなにが気づいたのかわからないけど、とりあえずお役に立てたようだ。

「ありがとう! わかったかもしれない! それじゃ! 練習頑張って!」

 と、急いで舞台から降り、出入り口まで興奮した表情で階段を上る。が、忘れ物に気づき、また舞台下まで降りきて、大きな声で呼びかけた。

「私はジェイド! ジェイド・カスターニュ! そっちは!?」

 自己紹介をしていなかった。名前を呼び合うこともなかったので、そのまま会話が成立していたが、恩人の名前は覚えておきたい。

 イスから立ち上がり、女性も自己紹介した。

「ヴィジニー・ダルヴィー。出来上がったら一個もらえたりする? それでチャラね」

 どんなものになるのか気になる。なにやら私のおかげなところもあるみたいなので、そのくらいの権利はあるんじゃないかしら? と提案してみた。

 笑顔でジェイドは応じる。

「当然! あ、そうだ!」

 結局、またジェイドは舞台まで上がってきた。往復して、少し息が切れている。たまには卓球以外にも定期的に運動しよう、と決めた。そして、カバンから二つ、オランジェットとオレンジピールのショコラ入りの袋を渡す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sonora 【ソノラ】

キャラ文芸
フランスのパリ8区。 凱旋門やシャンゼリゼ通りなどを有する大都市に、姉弟で経営をする花屋がある。 ベアトリス・ブーケとシャルル・ブーケのふたりが経営する店の名は<ソノラ>、悩みを抱えた人々を花で癒す、小さな花屋。 そこへピアニストを諦めた少女ベルが来店する。 心を癒す、胎動の始まり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

Réglage 【レグラージュ】

キャラ文芸
フランスのパリ3区。 ピアノ専門店「アトリエ・ルピアノ」に所属する少女サロメ・トトゥ。 職業はピアノの調律師。性格はワガママ。 あらゆるピアノを蘇らせる、始動の調律。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める

緋村燐
キャラ文芸
家の取り決めにより、五つのころから帝都を守護する鬼の花嫁となっていた櫻井琴子。 十六の年、しきたり通り一度も会ったことのない鬼との離縁の儀に臨む。 鬼の妖力を受けた櫻井の娘は強い異能持ちを産むと重宝されていたため、琴子も異能持ちの華族の家に嫁ぐ予定だったのだが……。 「幾星霜の年月……ずっと待っていた」 離縁するために初めて会った鬼・朱縁は琴子を望み、離縁しないと告げた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

待つノ木カフェで心と顔にスマイルを

佐々森りろ
キャラ文芸
 祖父母の経営する喫茶店「待つノ木」  昔からの常連さんが集まる憩いの場所で、孫の松ノ木そよ葉にとっても小さな頃から毎日通う大好きな場所。  叶おばあちゃんはそよ葉にシュガーミルクを淹れてくれる時に「いつも心と顔にスマイルを」と言って、魔法みたいな一混ぜをしてくれる。  すると、自然と嫌なことも吹き飛んで笑顔になれたのだ。物静かで優しいマスターと元気いっぱいのおばあちゃんを慕って「待つノ木」へ来るお客は後を絶たない。  しかし、ある日突然おばあちゃんが倒れてしまって……  マスターであるおじいちゃんは意気消沈。このままでは「待つノ木」は閉店してしまうかもしれない。そう思っていたそよ葉は、お見舞いに行った病室で「待つノ木」の存続を約束してほしいと頼みこまれる。  しかしそれを懇願してきたのは、昏睡状態のおばあちゃんではなく、編みぐるみのウサギだった!!  人見知りなそよ葉が、大切な場所「待つノ木」の存続をかけて、ゆっくりと人との繋がりを築いていく、優しくて笑顔になれる物語。

14 Glück【フィアツェーン グリュック】

キャラ文芸
ドイツ、ベルリンはテンペルホーフ=シェーネベルク区。 『森』を意味する一軒のカフェ。 そこで働くアニエルカ・スピラは、紅茶を愛するトラブルメーカー。 気の合う仲間と、今日も労働に汗を流す。 しかし、そこへ面接希望でやってきた美少女、ユリアーネ・クロイツァーの存在が『森』の行く末を大きく捻じ曲げて行く。 勢い全振りの紅茶談義を、熱いうちに。

処理中です...