上 下
70 / 73

蝶竜

しおりを挟む
 両腕の隙間から前を除くと、

 ― 七色に光る竜のような身体、粒子を散らす蝶の羽根

 その"謎の何か?"が私の前に立っていた。
 私の首に突き刺さるはずだった"あの強烈な黒い閃光矢"を、片手でいとも簡単に掴んでいる。

「アァァァ...ァァァァァア?」

 "蝶竜?"はその矢を、なんと自分の銃剣に装填し始めた。
 そのたった一撃を放っただけで、アイツを奥へとねじ込んでしまい、その異常な強さが垣間見えた。
 
「あなた...は...?」

 "蝶竜?"は一瞬こっちを振り返ると、ヤツへと飛んで行った。

 まだはっきり分からない。
 敵なのかどうか。

 でも、"あの動き"を私は知っている。
 何度も傍で、何度も何度も見てきた。

 ...意識が薄れてきた
 目が霞んでいく。

 あの"七色の蝶竜"が全てを薙ぎ払っていく。
 動く度に弾ける"虹の粒子"。

 私が起きている間に最後に見たもの。
 "あの蝶竜"が私に近付いてくる様だった。

 ###

「良かった、ユキ姉起きたッ!!」
「周りのヤツらがしつこくて、遅れてすみません」
「ユキちゃん、血を流して倒れてるから、心臓に悪かったよぉ...」

 起きると、みんなに心配されていた。
 誰一人ケガをしてる様子は無い。

 周りを見ると、もう何もいなくなっていた。
 さっきのは夢じゃなかったってこと...?

 だったらあの蝶竜は?
 蝶竜は、どこに。

 どこを見てもいない。
 後ろにも上にも。

「あんまり動かない方がいいよ、また血がで...あれ?」
「?」

 ヒナが血を辿って、私の右脇腹を見る。
 
「ユキちゃんって、医療の知識詳しいの?」
「いや、そんなには」
「もう傷口塞がってるけど...」
「え?」

 すぐに確認すると、確かに塞がっていた。
 ほとんど後が無いくらいに。

「もう痛くない?」
「うん、むしろ身体も調子いいくらいで」

 ...私じゃない
 誰のおかげなのか、すぐにはっきりした。

「ルイは...ルイはどこにっ!!」

 思わずヒナを掴んで言うと、

「!? ど、どしたの!? ルイさんがいたの?!」
「いた! いたのっ!! ついさっきここにっ!!」

 その声に一気に周りが反応する。

 私には分かる。
 あれは絶対にそう。

 生きてたんだ、やっぱり。
 信じてたよ、ずっと。

 早く謝らなきゃいけないのに。
 一人にしてごめんって、早く。

「誰も見てないの!?」

 それぞれが首を横へ振る。

 なんで...
 絶対いたのに...!!

「そのルイ様は、どんな格好をしていましたか?」

 不意にニイナが質問する。

「え...蝶の羽根が生えた人型の竜のような...」
「私が一瞬見えたのは、"光った何か"がユキ先輩に近付くのは見えたんです。ですが近付くと消えて、隠れていた敵だと思って急いだんですが」
「それ...それがたぶん」
「ルイ様だったと?」
「た...ぶん」

 確証が無かった。
 "あの姿"でもルイだと、断定できるのはきっと私しかいない。

 でも、必死に話す私の姿を見て、カレンさんたちが先にこの階の捜索へと行ってくれた。
 ここにまだ、ルイがいるかもしれない。

 代わりに、ヒナ、ニイナ、ノノの3人が、私の様子を見るために残った。

「ユキ先輩、右のポケットが何か光ってませんか?」

 ほんとだ、光ってる。
 何かが右のポケットにある。

「?」

 取り出すと、小さな"金のフィギュア"だった。
 金の弓を持つ、"あの白いヤツ"の。

「なんだろ、これ」
「...あー! これって!!」
「それ! あの時のに似てる!!」

 ノノとヒナが急に大声を出す。

「あの時の?」
「うん、そんな感じなのをルイさんに使ってもらって、この槍が出来たから!!」
「こっちは代表に使ってもらって、これになった!!」

 聞くに、"A.EL"になれるアイテムらしい。
 なんで私が持って?

 ...そっか
 入れて行って...

 見つけるから、絶対に。
 あなたがいるから、私が生きてるんだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

闇に飲まれた謎のメトロノーム

八戸三春
SF
[あらすじ:近未来の荒廃した都市、ノヴァシティ。特殊な能力を持つ人々が存在し、「エレメントホルダー」と呼ばれている。彼らは神のような組織によって管理されているが、組織には闇の部分が存在する。 主人公は記憶を失った少年で、ノヴァシティの片隅で孤独に暮らしていた。ある日、彼は自分の名前を求めて旅に出る。途中で彼は記憶を操作する能力を持つ少女、アリスと出会う。 アリスは「シンフォニア」と呼ばれる組織の一員であり、彼女の任務は特殊な能力を持つ人々を見つけ出し、組織に連れ戻すことだった。彼女は主人公に協力を求め、共に行動することを提案する。 旅の中で、主人公とアリスは組織の闇の部分や謎の指導者に迫る。彼らは他のエレメントホルダーたちと出会い、それぞれの過去や思いを知ることで、彼らの内面や苦悩に触れていく。 彼らは力を合わせて組織に立ち向かい、真実を追求していく。だが、組織との戦いの中で、主人公とアリスは道徳的なジレンマに直面する。正義と犠牲の間で葛藤しながら、彼らは自分たちの信念を貫こうとする。 ノヴァシティの外に広がる未知の領域や他の都市を探索しながら、彼らの旅はさらなる展開を迎える。新たな組織やキャラクターとの出会い、音楽の力や道具・技術の活用が物語に絡んでくる。 主人公とアリスは、組織との最終決戦に挑む。エレメントホルダーたちと共に立ち上がり、自身の運命と存在意義を見つけるために奮闘する。彼らの絆と信じる心が、世界を救う力となる。 キャラクターの掘り下げや世界の探索、道具や技術の紹介、モラルディレンマなどを盛り込んだ、読者を悲しみや感動、熱い展開に引き込む荒廃SF小説となる。]

やる気が出る3つのDADAスピンアウト

Jack Seisex
SF
摩訶不思議な冒険SFダダ小説。

ワークロボット社

シュレディンガーのうさぎ
SF
舞台は2180年で、人間そっくりなアンドロイドが世界に普及しているという設定です。 そんな世界でアンドロイド業界を支配する会社『ワークロボット社』に秘書(セクレ)として勤めることになった人間、サラがその会社のCEOや従業員たちと絆を深めながら、アンドロイドと人間がどのような関係であるべきかを模索していきます。 *気が向いたら続きを書くという感じになります。

どうぶつたちのキャンプ

葵むらさき
SF
何らかの理由により宇宙各地に散らばってしまった動物たちを捜索するのがレイヴン=ガスファルトの仕事である。 今回彼はその任務を負い、不承々々ながらも地球へと旅立った。 捜索対象は三頭の予定で、レイヴンは手早く手際よく探し出していく。 だが彼はこの地球で、あまり遭遇したくない組織の所属員に出遭ってしまう。 さっさと帰ろう──そうして地球から脱出する寸前、不可解で不気味で嬉しくもなければ面白くもない、にも関わらず無視のできないメッセージが届いた。 なんとここにはもう一頭、予定外の『捜索対象動物』が存在しているというのだ。 レイヴンは困惑の極みに立たされた──

「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.

あおっち
SF
 海を埋め尽くすAXISの艦隊。 飽和攻撃が始まる台湾、金門県。  海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。 同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。 苫小牧市を守るシーラス防衛軍。 そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った! SF大河小説の前章譚、第5部作。 是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

天使の歌声を追って俺はVtuberになることを決意する!

菅原みやび
SF
【これは戦う、近未来のVtuber達の物語……】 20XX年の近未来、全人類は、とある理由により地下に潜伏することになる。 昔日本だった場所の地下にある一つ【地下未来都市 天神】。 そこに住むゲーム大好き少年【白野 無紅(しらの むく)】はネットで知り合った知人【黒野 瑠璃(くろの るり)】と友人の【青井 優(あおい ゆう)】のアドバイスを受けVtuberのオーディションを受けることに。 無紅がVtuberを受ける一番の理由はオーディション事務所【国津アルカディア】が運営していた旧作のVRゲームで一人の天使と出会った事……。そう、無紅はその天使にもう一度会うために国津アルカディアのVtuberになることを決意したのだ。 オーディションの結果は驚いたことになんと合格‼ その結果に素直に喜ぶ無紅。 実はこの事務所、新しいVRゲーム【アルカディアアドベンチャー】のシンガー枠のテスターを探しており、社員の一人である瑠璃が無紅を予め候補選定していたからだったのだ! 候補選定理由は『無紅が無類のゲーム好きであり、その熱意と様々な実績がゲーム業界に貢献している。そして貢献していく』と面接官一同に伝わったこと。更には特殊能力【フィーリングコピー】を持っていたから。 フィーリングコピー。それは、無紅が無意識に良いと思った対象人物の特技をそっくり自分のものにしてしまうというもの。実は無紅は無意識に昔聴いた【天使の歌声】をフィーリングコピーしていたのだった。 また、それとは別に無紅には驚くべき秘密が隠されているのだが、当の本人は気づいていない。 こうして、無紅は高校の学園生活をしながら、Vtuberとして成長しつつ、VRゲーム【アルカディアアドベンチャー】の世界を冒険していくことになるのだが……。 実は、このアルカディアアドベンチャーは、ただのVRオンラインゲームでは無くて……。 近未来地下都市で繰り広げられる、無紅と友人達のVtuber活動兼、思い人である天使を探す、【笑いあり、感動あり、複雑に絡んだ色恋沙汰あり、そして涙あり】の冒険活劇が今スタートする! ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...