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足枷

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「うわ~きれい~!」
「こんな場所が」

 隣の二人が周りを見渡す。
 つられて私も。

「これ全部私が植えたの」

 しゃがんで彼女が言う。
 ケースに入ってる青い花を前にして。

「花も喜んでるように見えますね」
「そう見える? なら頑張って植えた甲斐があるわね」

 私の一言に、少し嬉しそうにする。
 この数は相当苦労したはず。

 下から上まで緑の建物、その一部屋。
 ここら一帯は新宿花伝が使っているらしい。

 上に"Little Life Garden"とある。
 可愛い字で書いてあって、自分で書いたのかな?

 こんな壊れた都会の庭園でも咲く花。
 小さな命も、頑張って生きてるのね。

「そういや、お互い名前を知らないわね。住吉カレンよ、ここのみんなには"代表"と呼ばれてるわ」
「私は新崎ユキ、こちらが町田ヒナ、それであちらが」
「黒夢ニイナです」

 ニイナが一歩出て、代わりに喋った。

「あなたさっき"黒い能面"を付けていたわね。あの速さ、特別な能力が付いてる?」
「身体能力を1.5倍にします。が、"弓の場合のみ1.6倍"です」

 ヒナが「そうだったんだ」と呟く。
 使用武器に応じて上昇具合が変わるなんてのがあるんだ。

 全然知らなかった。
 まだまだ知らない事ばかり。

「似てるわね。私のこれの場合は"2倍"、ただし"接近戦の場合だけ"。その黒い能面みたいに常にってわけじゃないわ」
「接近戦だけ、ですか。弓だったら相性最悪です」
「そうね。私が剣じゃなかったら、これは使ってないと思うわ。だから、運命だと思った」

 不意にニイナが"花咲く鎧"を指差す。

「それはどうやって手に入れたのですか?」

 カレンさんは立ち上がると、

「...覚悟を決めて外に出た日の夜だったわ。それまで、本当はこのまま死のうと思ってたの」
「意外、です」

 ヒナが言うと、

「そうでもないわ、強がってるだけだから。未だに怖いもの、"アイツら"に近付く時が」

 ...同じだった
 ルイがいたから強がれた。
 きっとそのマヒがまだ続いてるだけ。

 どれだけ鎧があっても、怖い物はやっぱり怖い。
 安心なんて言葉はどこにもない。

「初めてアイツを見た時、そこにいた人全員が倒れてた。そんな中で、ただ一人がこっちへ叫んだの、"コイツをやれ"って...どうせ死ぬんだったらと思って、走って剣で突っ込んでやった、そしたら」

 カレンさんは横に置いた"花のヘルム"を見る。
 それで"あれ"が手に入ったのだろう。

「私だけが手に入れて、他の人は死んでしまった。あの人たちのおかげで弱ったところをやれただけなのに。今でも考えてしまうの、ELもこれも、私でよかったのかなって」

 その時、ニイナが突然弓を出した。

「弱音はそこまでにしてもらえますか」
「ちょっと、ニイナ!?」
「あなたは"選ばれた人"なんです。それなのに、私でよかったのかなんて、なりたかった人だっているんですよっ! 私のようにっ!」

 弓を必死で抑える私を見て、カレンさんは"いいの"と首を横に振った。

「...言う通りね、こんなんだと代表失格よね。みんなには、特にノノには
見せられない顔だわ」

 カレンさんの、遠くを見るような悲しそうな顔。
 どこか脳裏に焼き付く。

 ###

 ニイナを落ち着かせるため、私たちは他を見て回る事にした。
 後でもう一度、新宿花伝の部隊とは合流する予定。
 それまでは、この建物内を移動した。

 他にも様々な施設がここにはあるみたい。
 カラオケ、ボーリング、ビリヤード、バー、最新ゲーム等、まだまだ他にも。
 ヒナがカラオケがいいって言うから、今カラオケルームにいるけどね。

 1時間ちょっと歌った後かな、それくらいでヒナは寝てしまった。
 さすがに昨日から寝てない分の疲れがどっと来たんだろう。
 ヒナをベッドルームへ運んで、私たち二人になる。

「...すみません、気を遣ってもらって」
「何もしてないわ、私は」
「...先輩方がいなかったら、もっと抑えられなかったと思うので」

 私は近くのイスへ座った。

「言えた立場じゃないけど、ニイナと同じ状況だったら、私もそうしてたかもしれないなって、さっき思った。ELになれれば、一般人とは違う特殊な力が手に入って立ち向かえる、上の立場になって言う事を聞かせる事だってできる、100人のうちの一人なんだって自慢だってできる、だけど」

 少し水を飲んで私は続けた。

「なって分かった、それだけでしかないの。ELだろうと結局は人それぞれ。悪く使う人間もいれば、逃げる選択をする人間もいる。そして、上手く使ってやったとしても、誰もが総理まで行けるわけじゃない。行けたとしても、総理に勝てるのは...」

 口を紡ぐと、ニイナは静かに「ルイ様、なんですよね?」と。
 私はゆっくり頷いた。

「アスタ様がやると思っていました。でも、アスタ様から"イーリス・マザー構想の成功者"だと聞いて...あぁ、もうこの人なんだなと直感しました」
「...どんな状況でも、ルイなら何とかしてしまう、この人といれば何でもできるんだろうなって、いつも思うの。だけどそれはどこか、"幼馴染っていう贔屓してるのかも"ってあったんだけど、それを知って全部納得したわ」
「...生きています、絶対に。ルイ様もアスタ様もカイも」
「それとシンヤ君もね」
「あの一緒にいた"チャラそうな方"ですよね?」
「うん。彼も実は凄いの、今や"eスポーツAR部門の日本代表"になっちゃって、まだあまり報道はされてないけど、アスタ君に引けを取らないかもよ?」
「でもあの方って、ELに選ばれてないですよね?」
「...言われてみれば」

 シンヤ君はなんで選ばれなかったんだろう。
 言われてみれば、しっくりくる。
 なんでなんだろう?

 それでもELの私たちに負けず劣らず強い。
 あの法務大臣の攻撃だって耐えていた。
 シンヤ君も、すぐに帰ってくる。

 その後もニイナとの会話は続いた。
 ニイナは自分の事を足枷だと思ってたみたいだけど、私はとにかく否定した。

 ノノと戦って、特にそれを証明したと思う。 
 EL相手に、一般武器で同等の戦いが出来る者はそうそうにいない。
 例え、黒能面を活かそうとも。
 
「あなたなら"Another ELECTIONNER"になれるチャンスが来る、ヒナやノノみたいに。二人ともアイテム貰ってなったみたいだし、ニイナも不意に貰えるかも?」
「...ありますかね」
「あるある!」

 ニイナはちょっと喜んだ。
 私の言葉で、希望が湧いたのかな。
 なんか年の近い妹ができたみたい。

 この後、ヒナが起きてきて、新宿花伝と捜索開始となった。
 絶対に見つけるから、みんなもう少しだけ辛抱していて。
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