フォールン・イノベーション -2030-

証拠

「しかも、"君野研究室の金庫"。正しくは、"君野教授研究分室にあった小さな金庫"だ」

　...は？
　君野先生の研究室の金庫？
　
　そんなもの見た事が無い。
　それより、なんでコイツがそんなところに？

「金庫？　なんでそこにお前が？」
「詳しい説明は帰り際にする。今はすぐにそれを読んでくれ」

　ここでアスタは、渡してきたのを読むように言ってきた。
　俺は誰も見てない事を確認すると、こっそりとコレを読んだ。

　そこには、失敗作がどこへ逃げて行ったかの推測や、これから発するかもしれない副作用が事細かく書かれていた。

　まず場所は、"東京7区のどこかの施設"に行ったのではないかと書いてあり、千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区、文京区、品川区に絞られている。

　次の副作用については、"人格崩壊、記憶障害、AI絶対依存病、質量症候群など"が起こるのではないか、とされている。
　"AI絶対依存病と質量付与症候群"って、なんだこれ...？

「最後にあった"AI絶対依存病と質量症候群"、今回のこの事件に何か繋がると思わない？」
「"こんな症状"初めて聞いたんだが、本当にあるのか...？」
「...まだ分かっていない、これからも調査を続けるよ。まずはこれを事実と仮定して、ルイ君たちの方でも調べて欲しい。君とも"大きく関係する話"だろうから」
「...」

　イーリス・マザー構想の失敗作。
　もう無視できる存在じゃない。

　そもそも、"失敗作"をどう扱われていたのかを俺は知らない。
　ユエさんは知っていたんだろうか？
　疑問に思いながら、資料をアスタへと返す。

「"この資料"は、持っていて欲しい」
「いいのか？　お前が持っておいた方が」
「いいや、もしこれが知られて狙われた時、対処できるのはルイ君だけだと思う。今日戦って分かった」
「あの一戦は、そういう意味だったのかよ！？」
「はは。それもだけど、本気で勝ちたいとも思ってたよ」

　皆のいる1階へとエレベーターで降りる途中、俺たちは話し続けた。

「僕が昔から"イーリス・マザー構想"に興味を持ってたの覚えてる？」
「あぁ、覚えてる。執拗に調べてたからな」
「あれって謎が多くて不可解で、引き付けられたんだよ。二人も、その謎をいつか解決したいって思ってたみたいでね」
「へぇ～、気が合ったってヤツか？」
「それもあるけど、実はこの二人、探偵と刑事でね。18歳にして、とんでもない数の難事件を解決してきたみたいなんだ」

　二人は黒能面を取り、「初めまして」と軽くおじぎをしてきた。
　一人は女？

「その力を借りて、最初は僕の父親が国家研究員で、イーリス・マザー構想一団だった事が分かった。その先、何も残ってないと思ってた中、細い糸を辿ってやっと一つの繋がりを見つけた。君野教授との」
「それが、これか」

　俺が資料を示すと、アスタは静かに頷く。

「あの人もまた、一団の一人だったよ。ここからの捜査は一気に加速していった。分かったのは2つだ。1つは、構想に"特殊なAI"が使われていて、それが"総理に関係している"って事。もう1つは、構想の"失敗作が一人逃走していた"って事だ」

　1つ目は、既に知っているはず。
　変異体の受精卵を作ったAIが、R.E.Dへと引き継がれているという事についてだ。
　それを元にして、ロアたちが今の総理を構成した。

　2つ目に関しては、まさかこんなところで新情報を得られるとはな。
　【イーリス・マザー構想の失敗作の捜索について】を改めて見てみる。

　...あ
　そういえば、ユエさんが前に言っていた事で、一つ引っかかっていた事があるのを思い出した。

　###

「こんな"ゲームの物に質量を持たせる"なんて事、私たち人間の知識、いや、AIの知識でも出来ないはずだわ。L.S.は百歩譲って"現研究の先にある未来"だとしても、こんなのが出来るのは"他の何か"しか考えられないわ」
「"他の何か"、ですか？」
「"その何か"は全く分からない...検討が付かないのよ」
「んだよそれ！？　全部総理のしわざじゃないのかよ！？」

　###

　さっき副作用の一つにあった、"質量症候群"は何か関係するだろうか？
　まだ分からない事ばかりだけど、無関係にも思えない。
　帰ってから、全部ユエさんに聞いてみよう。

　考えていると、エレベーターは1階へと降りていた。
　ドアが開くと、

「遅かったじゃねぇか！　また二人で勝負してたんじゃねえだろうな？」
「もうやらねぇよ。ちょっと、話したい事があってな」

　ここで、アスタたちとは一旦別れた。
　その後すぐ、シンヤ、ユキ、ヒナに集まってもらった。

「病院に戻ったら、このまま全員集合して欲しい」
「いいけど、どうしたの？」
「どうしても話したい事がある。ここじゃ言えない内容だ」
「分かりました。とても重要な事なんですよね」
「都庁へみんなで行くぞ！　って話とは違うのか？」
「違うけど、それも合わせて話す」

　シブチカ中央病院までの帰路、クレセントステラチームとキンジのチームと一緒に帰った。
　途中何体かのネルトに襲われたが、しっかり対処し、何事も無く帰ってこれた。
　ヤツら、数が増え始めている。