フォールン・イノベーション -2030-

会議

「始まるまでもう少し時間あるから、好きなだけ食べてなよ」
「ヒナとシンヤ君は、さっきからあっちで焼き肉やってる、ほら」

　ユキが指差す先に二人はいた。
　10人ぐらいの大人数で楽しそうに話している。

　立食で一人焼き肉が出来るようになっているようで、離れた場所にも幾つか同じのが設置されているみたいだ。
　でも、見るからにどこも満員だな。

「じゃ、僕はちょっと話してくるから、また後でね」
「あ、ちょっと待ってくれ。一つだけ聞いときたいんだけど、お前ってここの主催者かなにかか？」
「いや、幹部ってところかな。主催者は"あの人"だよ」

　ん？
　"全身トゲトゲしい装備をした人"をアスタは指差した。

「目立つね、あれは」

　ユキが小さく呟く。
　結構重そうだぞ、あれ。

「おい！　二人もこっち来て食っとけよ！　めっちゃ美味いぜここの肉！！」
「食べれるうちに食べておいた方がいいですよね！」

　肉を頬張りながら、皿にも溢れそうなほどの肉を乗せたシンヤとヒナが寄って来た。
　どんだけ食うんだよ、お前ら。

「それもそうね。ルイはお腹減ってる？」
「いや、実はそんなに」
「いつも低燃費だもんね、羨ましい。でも、軽く食べとこ？」
「まぁそうだな。"A5"とか書いてあるヤツあるし」

　俺はシンヤと、ユキはヒナと共有する形で、立食焼き肉へと割り入った。
　自分の席からだけ見えるホログラムパネルでタッチし、肉を選べるみたいだ。
　中央のガラス棚超しに、肉が大量に置かれているが見える。

　特上カルビ、特上ハラミ、特上ロース、どれも"A5ランクの高級和牛"ばかり。
　これ本当に食っていいのか...？
　躊躇っていると、横から急に話しかけられた。

「明日には死んでるかもしれないんですよ。迷う意味が分かりませんね」
「え、はぁ」

　なんだ突然？
　視線を向けると、シンヤに負けず劣らずの量を彼女も食べていた。

「...なにか？」
「いや、なんでもないです」

　めっちゃ怒るじゃん...
　もう見ないようにしよう。

「人のを見る暇があったら自分のを...って...ん？　もしかして......な、"七色蝶様"！？」
「え？」
「間違いありません。この可愛らしい顔、サラサラな綺麗な金髪、他には無い目、見た目とは裏腹に鍛え上げられた肉体...！！」
「ちょ、なッ！？」
「握手してもらえません！？」

　急になに！？
　さっきまでの態度どこいった！？
　目を輝かせながら、彼女は握手を求めてくる。
　
「べ、別人じゃ...ないですかね？」
「いいえ、動画で何度も見ました！　大好きな"七色蝶様"を見間違える事は無いです！」
「どうしたんだよルイ、食わねぇのか？」
「いや食ってねえで助けろよ！？」

　俺が叫んだと同時に、部屋全体の明かりが徐々に落ちていった。
　真っ暗になると、夜景の見えていた一面がガラッと変わっていく。

『では、そろそろ"都心5区選別者会議"を始めたいと思います。食べてる手を止め、こちらをご覧ください』

　あ～！！
　俺の肉ッ！！！

　主催者が喋り始めると、立食焼き肉などが自動で仕舞われ始めた。
　他にも高そうな魚とか寿司とか野菜とか、色々あったのに...
　早く食べときゃよかった...

『始めに、新宿区の方から挨拶と問題提起をお願いします』

　俺の意志が無視されるように、プロジェクションマッピングを応用した形で映し出された大画面から、それぞれの区の主催者が話していく。
　新宿区、千代田区、中央区、港区、最後に渋谷区の順で話され、出された問題についてその場で議論する事となった。

「肉...俺の肉...」
「え、急に何？　食べてないの？」
「食べようとしたら...持ってかれた...」

　肉...A5の肉...
　ユキに続いて、ヒナまで慰めに来た。
　同情するなら肉をくれ...

「ごめんなさい！　私のせいなんです！　今聞いてきたんですけど、会議が終わったらまた2次会として、さっきの食事がもう一度出るそうですので...」
「ま、マジで！？」

　わざわざ聞いてきてくれたらしい。
　俺は嬉しさのあまり、彼女の両手を握ってしまっていた。

　あ。
　握った時にはもう遅く、

「あ、握手ありがとうございます！！　夢のようですッ！！」
「！？　いや、これは違」
「一生手を洗いませんッ！！」

　彼女が俺へとより近付こうとすると、ユキとヒナが全力で抑え、

「あのー、どういうご関係で？」
「ひっ...」

　笑顔のユキからは殺気さえ感じられた。

「ま、まぁまぁ」
「「...」」

　...こっわ

　###

「新宿は都庁へ突撃しようってんだ、私たちは合流しようと考えてるぜ」
「うーん...俺たちは引き続き渋谷にいるぞ、そっちは任せる」

　今ここには、全員で50人くらいだろうか？
　10人ずつに分かれて話し合う事になり、さっき出た問題について、グループ毎で取り上げる事になった。

「結局はどこへ行っても地獄。なら、劇的な変化があるまでは、拠点を固めるのが賢明かと。こちらも渋谷へ留まる事にします」
「固めるつってもよぉ、いつかは破られるぜ？　あのクソAI総理は何をするか分かったもんじゃねぇッ！　100万配ったのだって、一時的なもんだったろ？」
「では、どうしろと？　あなたたちみたいに、無駄死にしたい人なんて少数なんですよ」
「はぁ！？　無駄死にだぁ！？　どこがだよッ！！」
「そう熱くなるな二人とも。攻めるも固めるも、今はどちらも大事だろうて。のぅ？　七色蝶よ？」
「え」
「七色蝶様なら、私の意見に賛同してくれますよね？」
「んなわけねぇだろッ！！　お前らだってコイツの凄さ知ってんだろ？　お前はこっちが正しいって分かるよな！？」

　なんで急に俺！？
　メンドウな話振らないでくれよ...

　スエと、さっき握手した女性がこっちを見つめてくる。
　あの人どっかのグループのリーダーだったのかよ。
　どうすりゃ...

「えっと...(おい、アスタはどっちなんだよ！？)」
「(どっちもメリットデメリットあるしね。ルイ君が今思う方を、バシッと言っておいたらいいんじゃない？)」
「(んな適当な)」
「(大丈夫。何か言われたら僕がフォローしてあげるよ)」

　本当に大丈夫か...？
　コイツが幹部だといっても、静まりそうにない気がするんだが...

　でも、言うしかないか。
　全員が俺を見て待っている。
　なんだこの状況。

「待っていては死ぬ、だったら総理を壊す、そう思ってここまでやってきました。今もそれは変わりません。ならやるべき事は一つ、国会議事堂へ辿り着く事。そのためなら、どんな危険な事だってやり遂げるつもりです。それと同じくらい、自分や人を守る事も大事だと思います。それぞれが自分に向くやり方で、お互いを補えばいいんです。そのために、僕も頑張りますから」
「お互いを...」
「補う...」
「ふむ。今にピッタリな言葉かもしれんな。帰る場所がある、攻める勇気がある、どれも大事だろうて。がはは！！」

　ふぅ...
　なんとかなったか...

　ありきたりな言葉かもしれないけど、灯台下暗しって言葉もあるしな。
　こっそり参加していたミオリは、俺の方を向いて、小さく拍手してくれていた。

　会議はさっきのような喧嘩は無く、続いていった。
　ちなみに、がははと笑っていたのは、遅れてきたキンジだ。

　俺のグループは、俺一人、スエ、キンジ、握手した女性、アスタ、各リーダーの組員で構成されていたが、時間に応じて人を変えて行われ、最後まで斬新な会議となった。