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神槍

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 次の日の朝、車内から戻ってきたユエさんによって、俺たちは原宿へと移動する事になった。
 なんでも、裏部さんらしき人物をそこで見かけたという情報が入ったらしい。

 つまり、ここでこの高級ホテルとは一旦離れる事になる。
 それは、ヒナともお別れを表すって事だ。

「もう、行くんですか?」
「すぐ行かないと、また移動されるかもしれないしな」
「そうですか...」
「まぁ、次何かあったら飯原さんが対処してくれるはずだ。最悪、こっちに連絡くれてもいいぞ」
「はい...」

 ヒナに感謝し、背を向ける。
 またどこかで会えるはず、そうどこかで思いながら。
 すると、

「!?」

 急に後ろから抱き着かれた。

「ちょ、ヒナ!?」
「あのー...私も一緒に行きます!」
「はぁ!? なにいって」
「だろうとは思ってたぜ」
「え!?」

 前を見ると、なぜかシンヤがいた。
 コイツ、さっきユキと一緒に先にユエさんのとこいったんじゃ!?

「ひなひーさ、昨日ずっとお前の事聞いてきてたんだよ。だからなんとなく、こうなるとは思ったわ!」
「いや、でも原宿は絶対危険だろ!? ヒナじゃさすがに」
「戦えますから! 私も!!」

 そう言うと、ヒナは三叉の黄色い槍を出現させた。
 先端では小さな電気が一定間隔置きに走っており、ただの槍ではない事を示している。

 全長は2m近くあるだろうか?
 ユキの持っている鎌と同じくらいの大きさがあった。

「うおぉ! なんかゴッツいの持ってんのな!」
「そんなの持ってたのか!?」
「はい。〔EL〕の方ほどの強さは無いんですけど、迷惑かけないように頑張りますから!」
「だってよ、ルイ。いいじゃねぇか! ひなひーが一緒にいてくれるなんて、普通じゃありえねぇ凄い事だぜ!?」
「まぁ、そうだけど...」
「なんだよ、なんか不満あるのか?」
「不満ってわけじゃないが、アオさんの事、頭に過って」
「あぁ...」

 人はいとも簡単に死ぬ。
 それを俺はあの時知ったんだ。

 アオさんは紛れもなく強かった、それなのにアイツは一撃で体をバラバラにした。
 人は...簡単に死ぬ。

「だがよぉ、ひなひーがここにいたって、いつまで安全かなんて分からないぜ?」
「そ、そうです! 一緒にいた方がむしろ安全だと思います!」
「な? それに、お前は"同じミス"はした事ない、そうだろ?」

 同じミスを...したことがない。
 はは、そうだったっけな。
 あえてミスる事はあっても、ちゃんとやればミスらない。

 どんだけ見てんだよ、俺の事。
 きっと俺に勝ちたくて、前からずっとコイツは俺の事研究してんだ。
 なら、研究のデータを常に超えていくしかない、そうだろ。

「...わかったよ」

 ヒナはまた顔がぱぁっと明るくなった。
 なんか表情豊かだよな、ヒナって。
 それを可愛いと思ってしまった。

「やったなひなひー! 一緒に総理をぶっ壊すまで頑張ろうぜ!」
「そ、そこまでやるんですか!? わ、わかりました!!」

 謎に気合いを入れている二人。
 こんな現状じゃなければ、単純に楽しめるのに。

「ってか、ルイ。お前なんか"ポケットのとこ"光ってね?」
「ほんとですね。何か入れてるんですか?」
「いや、特に何も...」

 黄色く光るポケットに手を入れ、出してみると、

「...あ!」
「おまッ! それって!! "アイツの姿"そっくりじゃねぇかッ!!」

 これはあの時の!

 三翼の天魔神を倒した時、変なものがL.S.内に入ったんだ。
 表示して見た時、アイテム欄の場所に〔黄泉帰る三翼の天魔神物〕という謎の物が入っていた。

 七色蝶の銃剣同様に出してみると、ヤツの"小型フィギュアのようなもの"が出現し、手のひらに収まるくらいの大きさだった。

 この小さなフィギュア、〔槍の真の姿と邂逅するために使用可能〕と内容が表示され、使えないからしまっていたんだ。

 近くに使えそうな槍があるから、自動で出て来たんだろうか?
 現に、〔"雷撃走る三叉槍"を真の姿へと上書きしますか?〕とL.S.から出ている。

「そのちっさい"フィギュア"はなんだよ!?」
「三翼の天魔神を倒した時に勝手に入ってきたんだ。これは"槍の武器だけ"を真の姿に変えるって書いてあって、たぶんゲームで言う"強化アイテム"みたいなもんだ」
「はぁ!? 強化は"槍だけ"か!?」
「残念ながらな。勝手にポケットへと今出てきたんだけど、ヒナの槍に反応したんだと思う」
「私の、ですか?」
「おそらく、その槍をより強く出来るって事だと思うけど、どうする?」
「うーん、急に言われましても...強く出来るならお願いしたいですが」
「まぁそうだよなぁ。シンヤはどう思う?」
「そりゃすべきだろ!! コイツを使えば"アイツのような力"が手に入るって事だろ!? だったら一択じゃねえか!!」
「俺もそうは思うけど、絶対安全とは分からない。もしかしたら罠で、またアイツが出てくるかもしれないし」

 実は、ユエさんにも前に見てもらった。
 その時は「私も初めて見た」って言われたんだよな。
 つまりは、一か八かのアイテム。

「それ言われると怖ぇな...でも、そん時はそん時だろ!! どっちにしろ、これからもっと危ない橋渡んなら、こんなとこで引く意味ねぇぞ!!」

 確かにそうだ。
 ここで怖気づいてたって何も進まない。
 結局俺たちは、進み続けるしかないんだ。

「...だな。ヒナ、いいか?」
「...はい! ですけど、私に使って本当にいいんですか? 他の誰かとか」
「いや、ヒナでいい。その代わり、コレの実験対象ってことで」
「わかりました! ヤバい事になったら助けてくださいね!?」
「おう!! 俺とルイがいりゃ大丈夫だ!!」
「それじゃ...いくぞ」

 急に静かになり、緊張感が伝う。
 こんな強化アイテムを使うだけのはずなのに。

 とはいえ、怖いのは分かるだろ?
 こんな世界じゃ、罠だって普通にありえそうなんだから。

 俺は一呼吸し、〔本当に使います、よろしいですか?〕のメッセージの〔はい〕へと人差し指を伸ばす。
 いいんだよな、本当に、と葛藤をしながら。

 そんな葛藤も最後は無視するように、俺は〔はい〕を押した。
 戸惑っている意味なんてもうない。
 それにユキやユエさんだって、車で待ってんだから。

 数秒後、右手にあった〔黄泉帰る三翼の天魔神物〕は宙に浮き、ヒナの槍へと吸われるようにゆっくり飛んでいった。
 そしてそのまま槍内へと入っていくと、突如、槍が霧に包まれた。

「ひゃ!?」
「大丈夫か!?」

 怖がったヒナは槍から手を離してしまった。
 が、槍は霧に包まれたまま浮き、次第にその霧が晴れていくと、ヒナの手元へと戻ってきた。
 その姿は原型が既に無く、ヤバいほどの神々しさを放っていた。

「おいおい、なんじゃこりゃ!? クソ強そうじゃねぇか!?」
「すごい...ですね。まるで"天使みたい"です」

 3つの翼とウェディングベールを羽織った姿は、まさに"対峙したアイツの面影"が残っていた。
 三叉型は一本型へとなっており、槍というか剣に近い形へと変わっている。

「ふぅ、成功か。これで一先ず安心だな」

 L.S.のホログラム画面には、〔"雷撃走る三叉槍"は"黄泉翼天魔神槍(よみよくてんましんそう)ヘルヘブン・ゴッデス"へと上書きしました〕と出ていた。

「あ! この槍、変身できるみたいですよ!」

 そう言うと、ヒナは槍を変身させてみせた。
 神々しい姿から、なんとドス黒い姿へと豹変した。

 3つの翼は変わらずとも、一本型から三叉型へと変形している。
 持ち手周りに"幾つもの赤い丸球"、三叉の左右に"白い丸球"が付いているが、あの場所から眩しい光が放たれているようだ。

 この姿にも、やっぱりどこか"アイツの面影"はあるように見える。
 これから先は、ヒナの守護神として役に立ってくれよ。

「おぉ、どっちもヤバそうだなぁ!! ...ん? この下にある"A.EL"ってマークはなんだ?」
「え!? なんでしょう、これは」
「まぁ後で調べるとして、一旦車へ行こう。二人を待たせっぱなしだからな」

 この後、車内で"A.EL"のマークが"Another ELECTIONNER"だと分かるまで、時間はかからなかった。
 前にユエさんが裏部さんと話した時、こっそり教えてもらったそうだ。

 "UnRule"には"隠しEL"が存在し、L.S.は変わらないが、武器だけELになる特殊な方法がある、と。
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