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三翼

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 視線の先には様々な形の高層ビルやマンション。
 この車の窓からだと、それらがより早く流れていくように見える。

 そして、東京駅近辺が見えてきた頃。
 俺は一言、

「人、全然だな」

 毎日観光やウェディングフォト、色んな用途で使われているこの"丸の内駅舎"。
 東京駅と言えばやっぱり"ここ"。
 ちなみに、反対側が八重州と言われるところになる。

 それが今はどうだ?
 全くと言っていいほど人の気配が無い。

 明らかに不穏なこの静けさ。
 みんなも既に何かを察しているだろう。
 ゲームだと、必ずヤバい事が起こる前兆だ。

 近くの適当なところで車は一旦止まり、俺たちは外へと出る事になった。
 出ようとすると、アオさんが俺の肩を掴み、

「分かってると思うけど、こっからは何が起こってもおかしくない。周りに充分注意して行こう」
「...はい、任せてください」
「アオ君こそ注意してよ! 私はあなたがいないともう何もできない体になっちゃったんだから」

 ユエさんはお腹をさすりながら言う。
 もしかして、妊娠してたのか?

「大丈夫、いなくなるわけないだろ! 君のためにも、その子のためにも、そして、この子たちのためにも、ね!」

 最後にアオさんが出ると、青いロアたち5機までも降りてきた。

「それらも連れて行くんですか?」
「あぁ、一応ね。ユエの事もあるし、これだけいればどんな事でも対応できるだろうからね」
「そんじゃ! 頼んだぜ、青いヤツ!」

 シンヤがそう言うと、青いロアたちは軽く返事をしたようだった。
 その青いロアのうち、1体を先頭、1体ずつを左右、2体を後方へと配置された。

 現状、真正面に東京駅があり、手前の"この大きな駅前中央広場"を歩いていく事になる。
 この視線は、よく写真や動画、配信のサムネに使われる"あの有名な景観"だ。

 まず先頭の青いロア1体が歩き出し、その後を追うように歩き始める。
 漂う静寂の中、まるで警備された有名人のように。

 もちろん銃剣は装備している。
 全員が武装済みだ。
 もう今の東京は、武器が無い事は裸で街を歩くのと同然だろうからな。

 誰が予想しただろう?
 あんなに賑わっていた東京駅前で、常に死と隣り合わせの恐怖を感じる事になる事を。

 少しの震えを手に感じながら歩く。
 だが、それを振り払うようにして、足は先へと進む。
 やがて、その足はゆっくり止まり、

「良かった...何もなかったわね」

 安堵の息を吐くユキ。
 "東京駅丸の内中央口の目の前"まで来ても、何も起こる事は無かった。
 前のように突然メテオを落とされる事も、もちろん無く、

「とりあえず、って感じか」

 まだ駅構内が安全と言えるわけじゃないが、とりあえず丸の内駅前広場を警戒する必要は無いはずだ。

「さて、この辺りで待ってるって言ってたはずなんだけど」

 ユエさんはL.S.を操作して誰かと連絡を取ろうとする。
 すると、

「お、アレじゃないか?」

 アオさんが声を上げた先には、6人ほどの団体が近付いてきていた。
 全員が白衣を着ていて、いかにも研究員って感じ。
 この二人とはまた雰囲気が違う。

 ...ん?
 視線を凝らしてみると...

 なんか全員の服に"赤いの"が付いてないか?
 あれって..."血"?
 "血"...だよな?

 様子もおかしい。
 どう見ても味方の雰囲気じゃ無い。
 武器を持って俺たちを...襲おうと...してないか?

「...なんかおかしいわね」

 ユエさんは数歩下がり、突如黒いマグナムを構える。

「みんな止まって。私たちまた一緒に頑張るって話でしょ?」

 続いてアオさんは、白く細長い剣を団体へと向ける。

「止まって"それ"を下に向けるんだ。でないと、コイツも使う事になる」

 その瞬間、この二人への覚悟を感じた。

 たぶん直前まで、一緒に研究していた同僚だったはず。
 団体たちが首からぶら下げる"国家研究員を示すネームプレート"がそれを表している。
 二人は決めているんだ、何があってもこのクソふざけた現状を変えるって。

 だったら...俺だって...
 もうやるしかないだろ!!

 俺も銃口を団体へと向けた。
 ― 広がる蝶の羽根と七色の色彩

 ユキとシンヤも同様にヤツらへと構える。
 すると、団体の一人が止まり、

「やだなぁ。そっちこそ"それ"を下に向けてくださいよぉ」
「...え?」
「僕らは敵じゃないですよ。あなたたちを媒体として、これからを新しく代わりに生きるんですからねぇ。寿命にもお金にも何にも縛られる事の無くなった、ネルトとなった新たな人生をねぇェェェ~!!!!! アハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」
「一歩遅かったのね、来るのが...ごめんね、みんな」

 その瞬間、ゴーンゴーンと大きな鐘の音がどこかから鳴り響き、上から巨大な何かが舞い降りた。
 その何かは背中に大きな翼を3つ携え、1つは黄色、1つは青色、1つは赤色。
 左半身がタキシード風の黒い悪魔、右半身がウェディングドレス風の白い天使のような姿だった。

「...う...うそだ...さいあくだ...こんなところで...」

 急に青ざめた顔をするアオさん。
 絶対ヤバい何かである事を察した。

「はは...なんでこうなるかな...私たち、もうダメかな...」
「ユエ...」

 飯塚夫婦は二人近付き、怯えながらも何とか武器を構える。
 俺たちは二人へすぐ近寄り、

「アレは、そんなにヤバいヤツなんですか!?」
「あれは..."三翼の天魔神"...輝星竜と同じくらいの強さに設定されてる...要はラスボスの一歩手前くらいの強さがある...」
「え!?」
「実在するとなると、並の人間なら絶対に死ぬ...」

 ユキとシンヤも声を上げる。
 あの輝星竜と...
 そんなヤツがなんで...
 なんでこんな東京駅構内に...?

「さぁ、最後の新婚の景色は楽しめましたか? 今後AIになっても一緒に研究しましょうねぇ、飯塚ユエさん、飯塚アオさん。アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」

 次の瞬間、"三翼の天魔神"は大きく光り、両手に異常な大きさの拳銃を持っていた。
 そのあまりの大きさに、全身に鳥肌が立った。
 鼓動も異常な速さで動き始め、「戦ってはいけない」と心臓が訴えかけてくる。

「あれには、"一定距離から離れる事が出来ないスキル"が付いてる...絶対にもう...逃げられない...」
「アオ君、もうこの子たちに賭けましょ」
「...そうだね。どっちにしろ、総理にまで行かなきゃいけないしね」
「きっと出来る、あなたたちなら」
「で、でも俺...この武器の事もまだよく分かってなくて...」

 次の瞬間、ヤツら全員の動きが止まった。
 まるで時が止まったように。
 見るに、ユエさんが何かしている!?

「一回だけしか言わないから3人ともよく聞いて? 言葉に発さず脳内だけで持ってる武器の名を呼んで。例えば、【大蝶イーリス】って。そうすれば、今の自分の能力で使えるズノウの一覧が出るから、それを脳内で選んで使っていくの。直感的に分かるように作られてるから、大丈夫よ」
「...何とか、やってみます」

 正直まだピンと来てなんかいない。

 "ズノウ"ってなんだ?
 選んでいくってどういう事だ?
 どっか"UnRule"内で説明があったのを見逃してた?

 確かにちゃんと見れてなかったし、もっと見とけばよかった...
 あの時、シンヤに言われて突然始まったしな...

 でも、今はどうだっていい。
 もうやるしかないんだから。
 怖がっている場合じゃない!!

 すると、ヤツらは動き出した。
 今、本当に時が止まっていたのか?
 それと同時に、突然ユエさんが腰から崩れ落ちた。

「はぁ...はぁ...はぁ...」
「ユエ!!」
「後は...お願いね...」

 ユエさんはそう言うと、アオさんに抱かれるように目を瞑った。

「ユエは"強力なズノウ"を使って疲れて眠ったんだ。僕もすぐに向かうから、ごめんけど、今はアイツらを!!」
「...はい! 行けるか!? ユキ!! シンヤ!!」
「怖くても、やるしかないもんね...もし死んだら葬式お願いね!」
「んだよそれ!! あんなクソ野郎共いけんだろ!? 俺たち3人揃ってんだぜ!? なぁルイ!?」
「あぁ!!! 行くぞ!!!」
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