フォールン・イノベーション -2030-

戦慄

「今の声って...！」
「陸田先輩の声だ！！」
「あ、ルイ！」

　俺は今の場所から"3つ先の研究室"へと走った。
　今の声は絶対あの"川中研究室"からだ。
　陸田先輩が所属しているのは"あの場所"だからだ。

　近付くと、また自動ドアは開いていた。
　なんでさっきから開いて...？

　んな事より今は中へ！！
　と思ったが、部屋が真っ暗でよく分からない。
　そう感じた途端、右手の"七色の銃"の形状が変化し、先端から光を放ち始めた。

　これは...？
　今は考えている場合じゃないな。
　...よし
　俺がいざ中へ入ろうとすると、

「待って！！」

　突然ユキが腕を引き寄せた。

「本当に中に入るの...？」

　その表情はまるで"さっきの出来事"を訴えているようだった。
　君野先生を殺した"アレ"がまた襲ってくるんじゃないかって。

「でも陸田先輩を放っておけないだろ！！　最初に俺たちにこの大学の事を色々教えてくれた先輩だ！！」
「だけど...また"さっきのアレ"がいるかもしれないし..."赤いの"だってうろついてるんでしょ...？」
「そうだけど、だからってこのままじゃ」
「...分かってる」

　すると、ユキは深呼吸をし始めた。

「...ふぅ...」

　その直後ガラリと表情を変え、何かを決したように見えた。

「"UnRule"を始めたら"それ"出たんだよね？」
「あ、あぁ」

　俺が適当な返事をすると、ユキはL.S.を展開しだした。
　直後、彼女の右手に"ある物"が出現した。

　全長2メートルくらいはあるだろうか？
　それは"冷気"がこっちにまで伝わってくる大きな鎌"だった。

　刃の部分は三日月のような形をしており、そこから冷気が出ていた。
　だが、ここでユキが叫ぶ。

「なんで私は"銃"じゃないの！？」
「分かんねぇ...俺のと一旦交換しとくか？」

　俺の銃を渡してみると、

「は！？」
「え！？」

　なんとユキの手から銃がすり抜けた。
　訳が分からなかった。

　"質量ある物"なのに、なんですり抜けるんだ？
　結局ユキは俺の銃を持つ事が出来ず、仕方なくこのままで入る事となった。

「危ないと思ったらすぐ逃げろよ。俺置いてっていいから」
「それするくらいなら死んだ方がマシ。私も"これ"でやる」
「でも"その鎌"重いんじゃないか？」
「それが凄く軽いのよ。すぐに振り回せそう」
「マジか。なら、ゲームのように意外と合うのかもな」
「かもね。ルイの銃は重いの？」
「いや軽い」

　ユキはゲームでよく鎌を使っていた。
　リーチが長いのと、意外な遠距離攻撃もあったりで、見た目以上に器用なところが好きらしい。
　その影響がここに出ているのだろうか？

　それにしても、さっきから陸田先輩を呼んではいるが返事は...
　陸田先輩の席は"一番奥の左端から2番目"だ。
　俺が奥の方を照らして先に行き、ユキが後ろから。

　...

　...いない？

　なんでだ？
　確かにここの席が陸田先輩のはず...

「...ん？　なんだこの臭い？　なんか"焦げ臭い"ような...」
「ルイ！！　右ッ！！」
「ッ！？」

　ユキの言葉ですぐ右を向く。
　そしたら...

　― 右奥から突如炎が膨れ上がっていた

　そしてそこを照らすと、立ち尽くす陸田先輩の姿があった。

「陸田先輩ッ！！　早く逃げましょう！　変なヤツらが大学内に！」
「...待って...様子がおかしいわ...」
「え...？」

　直後、陸田先輩はおかしな声を出し始め...

「グギ、グギギギギギギギィィィ」
「先...輩...？」

　徐々に身体が変色していった。
　燃え盛る炎を背に、段々と赤くなっていき...
　俯いていた顔が上がり、閉じていた目が開いた時、

　― 赤い眼光がこちらを睨んだ

「...誰だよ...お前...！！」
「ねぇこれって..."赤いの"...じゃない...？」
「...コイツが...先輩を...？」

　後ろの炎に微かに人のシルエットが見えた。
　たぶんあれは先輩だ。
　ヤツが先輩を殺したんだ。

　そう思った瞬間、"何か"が飛んできた。
　炎の...花...？
　数センチ横に飛んできて、なんだと思った矢先。

「！？」

　突然爆発し、研究室外へと吹き飛ばされた。

「いってぇ...」

　左腕は軽い火傷になっていて痛い。
　ユキは！？

　痛みを我慢し、もう一度中へ入ろうと中を照らすと、ユキとヤツが対峙していた。
　かろうじて鎌でヤツの剣のような何か？を抑えているが、態勢が辛そうに見える。

　だが、これはチャンスだ。
　ヤツに"この銃"をくらわしてやればいい。
　俺はヤツに狙いを定め、トリガーに手をかけ、

「ユキ！！　後ろへ飛べッ！！」

　俺の声に気付き、ユキが後ろへと飛んだ刹那、俺はトリガーを引いた。
　辺りに幾つも散らばる七色の蝶の羽根。
　一縷の鋭い"スペクトラムの光"がヤツを貫通して吹き飛ばした。

「ふざけやがって...勝手に先輩の姿になんじゃねぇよ」

　ユキがこっちへと寄る。

「ルイ、大丈夫？　ってここヤケドになってる...」
「正直痛いけど、こんくらいならなんとか」
「途中どこかで応急処置しないと」
「大丈夫だって、んな事より行くぞ。アイツはもう動かな」

　言葉を遮るように、ヤツはまた目を開いた。
　そして、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。

「んだよ...それ...」
「え...？」

　立ち上がった瞬間、

「グギギギギギギギギギィィィィ！！！！！」

　響き渡る咆哮。
　さらに鋭く光る眼。
　片手だったはずの剣のような何か？がもう一方にも追加されていく。

　コイツは"前のヤツ"とわけが違う。
　何もかもが違う。

　俺の全身に...

　― 今までにない恐怖が襲った