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ちっぽけな声

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今回の父からの呼び出しは公式の謁見ではないのでドレスはそのままに、髪や化粧などを整えて向かう事にする。

ドレスを着替えるとなるとさすがにジュラだけでは手が足りないので、他の侍女も呼ばなくてはならない。
そうするとなると、また一閃の事で一悶着ありそうなので助かった。


全ての支度が滞りなく終わった後、ジュラは私だけでなく一閃の羽根も櫛で梳いて整え始めた。
そして仕上げに小さな金色のリボンを一閃の首に結んで満足そうに「可愛い」と言って微笑む。

一閃は櫛で梳かれるのは嬉しそうだったがリボンは複雑そうだ。
でもジュラの優しさにすっかり絆されてしまったので、たとえ嫌でも拒否はできないのだろう。
その様子がなんだか面白くて笑ってしまった。

「では、そろそろ行きましょう」

椅子から立ち上がり、不本意ながらもジュラによってオシャレにされた一閃を肩に乗せ部屋を出る。
もちろん部屋の外にはユークがいつものように待機していた。

「その鳥も連れて行かれるのですか?」

ユークは私の肩に止まる一閃を冷たく見つめるとそう尋ねる。

「もちろんよ」

その質問の声色に否定の言葉もお説教も聞くつもりはないという意思を示し、ユークの前を通り過ぎて廊下を歩み始めた。
私の態度にユークは何も言わず、2歩ほど後ろに下がって付き従う。

ジュラの愛情溢れる一閃への対応を先程まで見ていたからか、ユークの質問に思わずムッとしてしまい嫌な態度になってしまった。
でもユークの質問も理解はできる。
確実に父は一閃を嫌がるだろうから。
でもそれが一体なんだというのだ。
これから私と一閃はずっと一緒に生活していくのだから、今から積極的に行動して慣れてもらうつもりである。
むしろ考え方によっては今回の呼び出しは一閃の紹介に丁度いいのではないだろうか。

廊下を歩いてると私達一閃と私の姿を見た、通りすがりの使用人たちがぎょっとしている。

それもそうだろう。
私でも前世で肩にカラスを乗せている人が目の前を歩いてたら普通に二度見する。

しかもその突飛な行動をしているのは、あの内気で大人しい日陰の花と呼ばれる姫だ。驚くのも無理はないだろう。

それでも礼儀正しい使用人は凝視はしても黙っているが、中にはコソコソと「熱で頭がおかしくなったのでは…」「地味なだけでなくとうとう狂ったのね」なんて言っている者もいた。
王族に対してかなり不敬だが、私は日陰の花だ。万が一聞こえたとしても何もできないと侮られているのだ。

(好きなだけ言うがいいわ。なんと言われようと、私は私の道をひたすら歩んでいくだけだもの)

昔は周りの声が怖くてたまらなかった。
それが家族や貴族だけでなく、無礼な使用人の声だったとしても。
でも前世を経験した私は、そんなちっぽけな声を気にしてる暇なんてない。

(もう絶対に俯いたりなんてしない)

王族らしく顔を上げて背筋を正しながら、堂々と廊下を進んで行った。
そうすると気持ちの問題だったのか自然と陰口は聞こえなくなった。


でもこの時私は知らなかった。
後ろでユークが、意地の悪い使用人達を鋭く睨んで黙らせてる事に。





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