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しおりを挟む慎重に注意深く、細心の配慮を尽くしつつ速やかに決行の準備は進められました。
タイミングは彼女が図書委員で下校が遅くなる日。
無記名の手紙を送って、誰もいないはずの夕暮れの教室に呼び出すという計画。
実現のための情報収集、ロケーションの確認、必要なものの用意、予行練習を繰り返しました。
執拗に粘着質に、偏執的なまでの周到さで僕は一心不乱に没頭しました。
どんな些細なことで台無しになるかもしれない、タイミングが狂って誰かに乱入されただけで終わりなのです。
彼女が手紙に気が付かなかったらもう駄目なのです。
僅かな事象の変差ですべてが破綻する恐怖を考えたら、僕の狂人めいた集中力も当然のこと。
生まれて初めてといって過言ではない精神と体力の試練の連続でしたが、ずっと下半身を包み込んでくれていたピンクのパンツが無限の活力を与えてくれます。
計画はすべて、理想的かつ完璧に遂行されました。
そして今、仄かに夕暮れの光がさす薄暗い教室。
日中の騒々しさとは対照的に、しんとした静寂によって完全なる秩序が成立しているそこ。
僕も含めて一切動くものは何もなく、時間の流れさえ凍結し、すべての物質が均衡して静止しているとしか思えないその場所に。
ガラっと。
教室のドアが開けられる音と共に、調和が一気に崩されました。
そして暗がりの向こうから、徐々に浮かび上がってくるもの。
学校指定の制服を纏った華奢な輪郭。
可憐に小さく丸みを帯びた顔貌(かおかたち)。
あの忘れようもない、さわやかな匂い。
先ほどまでこの空間を支配していた秩序と均衡を遥かに超えた完全なる調和そのもの。
あれほど夢見て焦がれて、想い尽くした早瀬さんその人の姿が。
最初は躊躇いがちに様子をうかがうようにしていましたが、こちらを認識した途端、迷いのない足運びで近寄ってきました。
でも相手が誰なのかは直前までわかっていなかったに違いありません。
ただでさえお誂え向きの暗さだったのに加え、僅かな外光を僕が背負う形になっていたのですから。
誰が来るのか想定していたこちらと違って、恐らく相手が僕だなんて夢にも思っていないはずの彼女は誰ともわからぬ告白者にただ事務的に向かってきたのだろうと思います。
とても落ち着いて手慣れた様子でした。
一切の迷いも躊躇いもない、いかにもこうしたことが日常茶飯事で動じる必要性さえ思いつかない。
そんな熟練の経験者としか言いようがない、頼もしく安定した態度を暗がりに浮かぶ可憐な影はたっぷりと漂わせていたのです。
みるみる迫ってくる様子に、すっかり忘れ果てていた自分の脆弱で矮小なちっぽけさを対比的に見せつけられるような恐怖が湧き上がってくるほど。
彼女が歩んできた人生そのものといった、盤石でゆるぎない存在自体の大きさみたいなものを感じてしまったのだと思います。
しかしそれも、あと数歩というところで一気に失われ蒸発してしまいました。
綺麗さっぱり胡散霧消して、どこかに飛んで行ってしまいました。
それだけ激しい反応が、ほんの数メートルといった距離でビタッと停止した彼女に巻き起こりました。
「愕然」という言葉そのものと言った様子。
綺麗で整った顔貌が、驚愕に歪んで固まっていました。
小さく丸みを帯びた輪郭がひしゃげ。
すっと通った鼻筋が歪み。
優美な弧を描いていたはずの眉が不格好に上がり。
大きな瞳は不自然なまでに限界まで見開かれて、端の方にある眼球の血管が露わになり。
桃色の唇はタコみたいにすぼめられて、そこから「ひゅっ」と音がなりました。
心の底から憧れて好きになった美少女の初めて見る顔でした。
その完璧な美貌がこうして歪み崩れ、ちょっと面白い、愉快な風情になったのが心を軽くしてくれたのか、前へ進む力を与えてくれたようでした。
僕は「今だ」と思いました。
ハヤセマナカサン、スキデス、ツキアッテクダサイ!
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