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そんな充実した毎日を送っていたある日のことでした。
彼女が自分のパンツをあっくんの部屋に置いていったと聞いたのは。
僕が使いっ走りになって買ってきた焼きそばパンをかじりながら、例によってあっくんは惜しげもせずに彼女との四方山を教えてくれていました。
同級生や先生はじめ、周囲からは蛇蝎のように恐れられている彼ですが、実はこうして「はいはい」と言うことを聞いてお腹さえ満たされていたら大抵ご機嫌で鷹揚なところのある人間でした。
そしておもむろに「アイツって結構ズボラなんだよなぁ。昨日もてめえのパンティを俺の部屋に置いてくし」みたいなことをさらっと、恋人への不平不満を自慢半分ボヤキ半分みたいなノリで口にしたのです。
僕は「早瀬さんのパンツ」というとても無視できない言葉に、電気に打たれたみたいに激しく反応して、どういうことなのか前のめりで彼に聞いてしまいます。
女の子が下着を他人の部屋に置いて行ってしまうという、とても理解がしがたい状況が如何にして生まれたのかをなんとか確認しようと必死に彼の回答に聞き入ります。
僕みたいな異性と付き合うことはおろか、ほとんどまともに話をしたことが無いような人間にとってまるで異次元の現象としか思えない非現実的な響きがそこにはありました。
どのような原因と結果が折り重なってそんな因果が成立してしまうのか、宇宙の心理を求める求道者とそう変わらないだろう真剣さと必死さ、切実な欲求にかられて話の続きを求めます。
もちろん、エッチなことをするときには大抵女の子は替えの下着を用意してくるのが当たり前らしいことも知りませんでしたし。
そして入りびたるのが当たり前になった男の人の部屋に自分の私物をあたかも野生動物が縄張りをマーキングするみたいに細々と置いていくのが「あるある」話なこともわかりませんでしたし。
ハンカチとかリップなんかとおんなじ延長線上で終いにはパンツだって忘れていくことも付き合っている恋人同士ならまあありえなくもない話だなんてそれまで想像もできませんでした。
でもまあそうわかってしまったらそれまでのこと。
あっくんが焼きそばパンを咀嚼するもちゃもちゃという音を聞きながら、どんどん僕は受け入れていったのです。
どれだけ自分の中の現実とかけ離れていて感情の折り合いをつけるのが難しくても「そういうもんなんだ」と納得するしかありません。
およそ「現実」という厳然たる結果を前に、僕みたいな頭が良いわけでもない、むしろバカでグズとしか言いようがない人間の「思い込み」や「常識」なんて使った後の鼻紙よりも価値がありません。
そうして「早瀬さんのパンツがあっくんの部屋にある」という事実が間違いないことをようやっと受け入れた後は、パンツそれ自体の情報を少しでも得ようと根ほり葉ほり彼から聞き出しました。
つまりは、どんな色なのか、感触はどんなか、匂いはあるか、オマタのところに汚れはついていないかなど、強烈な探求心、知りたい欲求の赴くままに瞬きもせずにあっくんを凝視して一言も漏らさない覚悟と熱意で。
おそらくはたから見たら、明らかにどうかしてしまっている、狂人の振る舞いでしかなかったのでしょうが、僕自身は至って真剣で本気なのでした。
生まれて初めてこんなに一生懸命になったというほどに。
あっくんはそんな僕への軽蔑と憐みみたいなものを隠そうともせずに、「オマエッてほんと、どうしょもねえなぁ」って苦笑と嘲笑が入り混じった呆れ顔を浮かべつつ、それでいてきちんと聞いたことすべてに誠実に答えてくれたのでした。
後から冷静になればびっくりするほど、彼はどうかしている僕に対して嘘偽りなくなんでも全部教えてくれました。
たぶん、あっくんという人は意外と僕みたいなヤツに頼られるのが満更嫌いじゃなかったんかもしれません。
弁護のしようがないほど短絡的で暴力的であらゆることに反抗的で平気でなんでも逸脱できるような人間だったからこそ、そういうところがあったんでしょうか。
およそ自分に絶対刃向う恐れがない、究極に弱くて情けない駄目な存在というのに対する庇護欲みたいなものの向け先をずっと探していたような気がします。
だからどれだけ彼の使いっ走りで下僕扱いされていても、僕から見たあっくんにはある種の「チョロさ」みたいなものがありました。
気分さえ害さなければさほど理不尽でもない、現実的な専制君主程度の存在だったのです。
そんな僕の王様は尋常じゃない様子の下僕に感じるところがあったのか、「パンティなんかがそんなにいいんかよ?」と諮問してきます。
僕はうまく答えられず唸り声のようなものを上げることしかできません。
でもはっきり否定できないその態度がすべてを如実に語っていました。
もはや隠しようもなく、自分の性癖を露わにこのヤンキーに知られてしまった羞恥が今更ながら蘇ってくるようでした。
でも自分はハナから誰にも相手にされていないミソッカスのような存在だという自覚もあったので、諦めのような無気力な気持ちもあり、益々「うー」とか「ぐー」とか唸ることしかできません。
そんな僕に例によってあっくんの「チョロい」ところが発動したのでしょうか。
とても信じられないようなことをさらりと男前な凛々しい貌で言ってきたのです。
「んじゃ、お前にやるよ」と。
いつの間にか焼きそばパンの咀嚼音はやんでいました。
彼女が自分のパンツをあっくんの部屋に置いていったと聞いたのは。
僕が使いっ走りになって買ってきた焼きそばパンをかじりながら、例によってあっくんは惜しげもせずに彼女との四方山を教えてくれていました。
同級生や先生はじめ、周囲からは蛇蝎のように恐れられている彼ですが、実はこうして「はいはい」と言うことを聞いてお腹さえ満たされていたら大抵ご機嫌で鷹揚なところのある人間でした。
そしておもむろに「アイツって結構ズボラなんだよなぁ。昨日もてめえのパンティを俺の部屋に置いてくし」みたいなことをさらっと、恋人への不平不満を自慢半分ボヤキ半分みたいなノリで口にしたのです。
僕は「早瀬さんのパンツ」というとても無視できない言葉に、電気に打たれたみたいに激しく反応して、どういうことなのか前のめりで彼に聞いてしまいます。
女の子が下着を他人の部屋に置いて行ってしまうという、とても理解がしがたい状況が如何にして生まれたのかをなんとか確認しようと必死に彼の回答に聞き入ります。
僕みたいな異性と付き合うことはおろか、ほとんどまともに話をしたことが無いような人間にとってまるで異次元の現象としか思えない非現実的な響きがそこにはありました。
どのような原因と結果が折り重なってそんな因果が成立してしまうのか、宇宙の心理を求める求道者とそう変わらないだろう真剣さと必死さ、切実な欲求にかられて話の続きを求めます。
もちろん、エッチなことをするときには大抵女の子は替えの下着を用意してくるのが当たり前らしいことも知りませんでしたし。
そして入りびたるのが当たり前になった男の人の部屋に自分の私物をあたかも野生動物が縄張りをマーキングするみたいに細々と置いていくのが「あるある」話なこともわかりませんでしたし。
ハンカチとかリップなんかとおんなじ延長線上で終いにはパンツだって忘れていくことも付き合っている恋人同士ならまあありえなくもない話だなんてそれまで想像もできませんでした。
でもまあそうわかってしまったらそれまでのこと。
あっくんが焼きそばパンを咀嚼するもちゃもちゃという音を聞きながら、どんどん僕は受け入れていったのです。
どれだけ自分の中の現実とかけ離れていて感情の折り合いをつけるのが難しくても「そういうもんなんだ」と納得するしかありません。
およそ「現実」という厳然たる結果を前に、僕みたいな頭が良いわけでもない、むしろバカでグズとしか言いようがない人間の「思い込み」や「常識」なんて使った後の鼻紙よりも価値がありません。
そうして「早瀬さんのパンツがあっくんの部屋にある」という事実が間違いないことをようやっと受け入れた後は、パンツそれ自体の情報を少しでも得ようと根ほり葉ほり彼から聞き出しました。
つまりは、どんな色なのか、感触はどんなか、匂いはあるか、オマタのところに汚れはついていないかなど、強烈な探求心、知りたい欲求の赴くままに瞬きもせずにあっくんを凝視して一言も漏らさない覚悟と熱意で。
おそらくはたから見たら、明らかにどうかしてしまっている、狂人の振る舞いでしかなかったのでしょうが、僕自身は至って真剣で本気なのでした。
生まれて初めてこんなに一生懸命になったというほどに。
あっくんはそんな僕への軽蔑と憐みみたいなものを隠そうともせずに、「オマエッてほんと、どうしょもねえなぁ」って苦笑と嘲笑が入り混じった呆れ顔を浮かべつつ、それでいてきちんと聞いたことすべてに誠実に答えてくれたのでした。
後から冷静になればびっくりするほど、彼はどうかしている僕に対して嘘偽りなくなんでも全部教えてくれました。
たぶん、あっくんという人は意外と僕みたいなヤツに頼られるのが満更嫌いじゃなかったんかもしれません。
弁護のしようがないほど短絡的で暴力的であらゆることに反抗的で平気でなんでも逸脱できるような人間だったからこそ、そういうところがあったんでしょうか。
およそ自分に絶対刃向う恐れがない、究極に弱くて情けない駄目な存在というのに対する庇護欲みたいなものの向け先をずっと探していたような気がします。
だからどれだけ彼の使いっ走りで下僕扱いされていても、僕から見たあっくんにはある種の「チョロさ」みたいなものがありました。
気分さえ害さなければさほど理不尽でもない、現実的な専制君主程度の存在だったのです。
そんな僕の王様は尋常じゃない様子の下僕に感じるところがあったのか、「パンティなんかがそんなにいいんかよ?」と諮問してきます。
僕はうまく答えられず唸り声のようなものを上げることしかできません。
でもはっきり否定できないその態度がすべてを如実に語っていました。
もはや隠しようもなく、自分の性癖を露わにこのヤンキーに知られてしまった羞恥が今更ながら蘇ってくるようでした。
でも自分はハナから誰にも相手にされていないミソッカスのような存在だという自覚もあったので、諦めのような無気力な気持ちもあり、益々「うー」とか「ぐー」とか唸ることしかできません。
そんな僕に例によってあっくんの「チョロい」ところが発動したのでしょうか。
とても信じられないようなことをさらりと男前な凛々しい貌で言ってきたのです。
「んじゃ、お前にやるよ」と。
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