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シリューとヨークと一緒

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 今日はシリューとヨークを連れての、空の旅。
 旅と言っても、その辺をブラブラするだけで、日が暮れる前には帰るつもりだ。
 行く場所もあるしね。

 私は悠々と空を飛ぶシリューに乗って、ヨークは嬉しそうにシリューの周りをパタパタと飛んでいる。

「グルルゥ♪」
「わふっわふっ!」

 シリューも楽しそうにヨークを眺めている。
 はぁ……可愛いなぁ。

 私は二人に癒されつつ、空のひんやりとした風を全身に受ける。
 凄く気持ちいいんだけど【竜気】【剛体】【鎧皮】といった、身体強化系のスキルを使っておかないと、寒すぎて凍えそうになるんだよね。
 というか放っておいたら凍傷になるんじゃないのかな?


「わんっ!」
「ヨーク、どうしたの?」

 私が考え事をしていると、急にヨークが吠える。
 ヨークもシリューもお利口さんだから、吠えたりして騒ぐ事がないんだけど、こういう場合は何かが近付いてくる……とかだと思う。

 こんな寒い所まで、やってくる人は行商人であるルミーナさんとアンガスさんくらいだから、そうなると魔物しかいないよね。
 お爺ちゃんは家にいるし。

 ヨークとシリューの視線の先に、鳥っぽい魔物が飛んでいるのが見えた。
 数は四匹で、シリューに気が付いたのか、慌てて方向転換しているのが分かった。

 私からしたらヨークも大きいんだけど、シリューはそれよりもずっと大きいからね。
 相手からしたら恐怖でしかないだろうし、逃げもするよね。

 そして二人が居なかったら、私たぶん襲われてる……。


 私が鳥の魔物を眺めていると、ヨークが私を見つめていた。
 ヨークは尻尾をふりふりしながら待てをしている。
 なんだい? その期待するような目は……と、少しだけ睨めっこをする。

「しょうがないなぁ……ヨーク、行ってきていいよ」
「わふぅ!」

 私は、獲物を追いかけたい! みたいなヨークの眼差しに負けて待てを解除してあげる。
 それにヨークは吠えて返事をすると、凄い勢いで魔物に向かっていった。
 おお……速い。

 ヨークは魔物の群れに追い付くと、空中にいながらピョンと跳ねるように飛び上がり、一匹の魔物に噛み付いた。

「ギェ?!」

 鳥の魔物はヨークの動きに反応しきれずに、首辺りを噛みつかれたまま落ちていく。
 今の動きは【疾空】と【跳躍】を使ったのかな?

 【跳躍】は、ヨークの元になったと思われるフォレストドッグのスキルだし、【疾空】は《森林鷹狗》になった時に獲得したスキルだ。
 となるとヨークは、《森林鷹狗》としてのスキルと、結合前のフォレストドッグとフォレストホークのスキルが使えるのかも……


「グルゥ!」

 私がヨークのスキルについて考えていると、シリューが自分も! みたいな感じの視線を向けてきていた。
 もしかするとヨークばっかりズルイ……みたいに思っているのかも。

 ヨークは既に一匹を地面に引き摺り下ろして、首の骨をゴキリと噛み砕いているし、今日の獲物が一匹から四匹になっても大差ないよね?
 お爺ちゃんやレイリーもいるし、余り過ぎるって事もないでしょ。

「ん……良いよ」

 返事とともにシリューをポンポンと撫でてあげると、シリューも速度を上げて魔物に向かって突き進んでいく。
 そして――

「グァッ!」

 シリューが大きく口を開いた。
 あ、それは……

 シリューの口に魔力が集まっていき、それが放たれる。
 【竜咆哮】……もしくは竜の息吹と呼ばれるソレは、前方を飛ぶ魔物達を消し飛ばした。

 そう……跡形もなくなっちゃったのである。

「グゥ……?」

 シリューがアレ? みたいな感じで首を傾げている。
 まぁ…見た感じ、私の【竜咆哮】よりも規模が大きかった気もするし、そこいらの魔物に使うには少し威力が強すぎたかもね。

「よしよし……次に魔物を攻撃する時は【竜咆哮】を使わないで、ガブッとやってみよっか」
「グルルッ」

 シリューを慰めながら、魔物を仕留めたヨークの所に移動してもらう。
 シリューも結合前の魔物のスキルを所有しているはずだから、【牙撃】や【爪撃】を使えると思うんだよね。

 まぁシリューに限らず、爪や牙を有している魔物なら、別にスキルなんて必要ない気もするんだけど……


 ヨークは動かなくなった魔物の前で、褒めて! と言わんばかりに尻尾を振って待っていた。

「ヨーク魔物を仕留めてくれて、ありがとね。えらいえらい」
「わふぅん!」

 ヨークを褒めてから、魔物を私の影の中へとしまう。
 【潜影】と【丸呑み】のおかげで、こうやって荷物が増えても簡単に片付けられるようになったのは、本当にありがたいよね。

 以前だったら、仕留めた魔物を捨て置くのが勿体無いからって、家に帰ってたし。



 魔物を回収してからは空には上がらずに、今度は森の中を探検する事にした。
 え……? シリューは森の中を移動できるのかって?
 それが、この子……空を飛ばない場合は、木々の隙間をスルスルと縫うようにして進んでいくの!

 体が大きいのに苦もなく進んでいけるのには驚いたよ。
 大蛇……パラライズサーペントが元になっているから、出来る事なのかな?

 まぁシリューに乗って森の中を進んでいるから、いつもより頭の位置が高くて木の枝がぶつかってくるんだけどね。
 それらは【鎌撫】で、スパッと斬り落としてるけど。



 そんな私達を魔物が遠巻きにして見ているのがわかる。
 突如として、やってきた私達……というかシリューを警戒しているんだと思う。

 そこへ空気を読まずに、距離を縮めてくる魔物がいた。

 白い狼の魔物スノーウルフだ。数は七匹。

 ちょっと数は多いけど、こっちにはヨークとシリューがいるから平気。

「ヨーク、シリューやっつけよっか」
「わんっ!」
「グァ!」

 二人の返事を聞いてから、私はシリューから飛び降りてスノーウルフと向き合う。

 ヨークが二匹を引き付けてくれている。

 シリューは木々の間をスルスルと通り抜けて、バクリとスノーウルフに噛み付いた。
 木々が障害になってない感じだから、動きが凄く早く感じる。

 噛み付かれたスノーウルフは、すぐに動きが鈍くなったのが分かった。
 あれは【麻痺付与】かな?
 なんか私のより効きが良い気がする……おっとと!

 背後から飛びかかってきたスノーウルフを避けながら、蹴りをお見舞いする。

 うーん……もしかしなくてもスノーウルフの狙いは私かな?

 他の個体がヨークとシリューを牽制して、残りが私を仕留める。
 狩りとしては正しいのかな?

 仮に私を仕留められたとしても、ヨークとシリューが見逃してくれるとは思えないけどねー。

 私は【空弾】をスノーウルフに向けて幾つも放つ。

「ぎゃんっ」

 【空弾】がビシバシと当たる度に怯むスノーウルフ。
 スキル検証の為に使ってみたものの、なんか虐めてるみたいだ……

 【空弾】を一発当てたくらいじゃ、動けなくさせるほどの傷は負わせられないみたいだけど、牽制としては十分に効果があるね。

 相手が人なら、頭を狙えば昏倒させるくらいは出来そうかも。

 とりあえず【空弾】を当てていたスノーウルフは【鎌撫】で仕留める。

 そんな私の動きを警戒しながら、二匹のスノーウルフが私を挟撃しようと動き出した。

「すぅ~……」

 私は大きく息を吸いながら、スノーウルフとの距離が縮むのを待つ。

 そして飛びかかってきた瞬間を狙って――


「わっ!!!」
「っ?!」

 私は叫んだ。

 私の声に驚いて、スノーウルフ達は体勢を崩して地面に落ちる。

 今のはもちろん、ただ大声を出したという訳じゃない。

 【雄叫び】を使っての「わっ」だ。

 さっきのはきっと、マグナスさんより騒がしかったはずだ。

 スノーウルフ達は鼓膜がやられたのか、ただ怯んでいるだけなのかは分からないけど、すぐには動けなそうだ。

 そこへ【贄魂喰ライ】を使って魔力を奪っていく。

 ……いただきました。


 魔力回収が終わったところで、ヨークとシリューが自分達の獲物を咥えながら戻ってくる。
 だけど、ヨークの耳がへにょんと垂れている。

 何かあったのかな?

「どうしたの? もしかして怪我でもしちゃったの?」
「くぅん……」

 何を言っているかは正確には分からないけど、怪我をした訳ではないらしい。良かった。
 でも、そうすると何が…………あ。

「ヨーク…… さっきの【雄叫び】で耳が痛い……?」
「く~ん」

 先程よりも、弱々しい鳴き声……どうやら、そうみたいだ。

「ゴメンね……煩かったよね?!」

 ヨークの耳を撫でながら慌てて謝る。
 多少距離があるから平気かな、と思ったけど平気じゃなかった!

 今度からは周りに注意して使おう!
 ヨーク…本当にゴメンね……

 猛省しながら、獲物を回収していく。
 それが終わったら、移動再開。





 森の中を進んでいくと、雪で出来た建物が見えてくる。

「シーちゃん、いらっしゃい」

 母さんが出迎えてくれた。

 森を抜けた先は、母さんの為の家を作った場所だ。
 こうして母さんに会いにくるついでに狩りをしている。

 母さんは、私と父さんが仮設住宅を作った後、せっかく作ってくれたのだから……と言って、次の日には此処に移っている。

 急かしちゃった感じにはなったけど、母さんも周囲を凍えさせているのを心苦しく思っていたみたいだったから、あまり気にしない事にしている。


「はい……こっちに来る途中で獲ってきたやつ」
「ありがとうね。……でもシーちゃん大変じゃない? 魔物くらい自分で獲れるわよ?」

 私は仕留めた魔物を母さんに渡す。

「私のスキル練習のついでだから。それにヨークやシリューも手伝ってくれるから大変じゃないよ」
「そう? なら良いけど……ヨークとシリューもありがとう。シーちゃんを頼むわね」
「わんっ!」
「グルルッ!」

 二人が嬉しそうに返事をする。



 そして、しばらく母さんと過ごしてから、お家に帰る。


 母さんの真化が終わるまでは、こんな感じの生活が続くと思う。

 はぁー……母さんが真化したら、どんな風になるんだろ。



 真竜に至った母さんの姿……楽しみだなー!








//////////////////////////////////////////////////////

後書き
シラハ「ねぇねぇ、なんで【雄叫び】使った時の叫び声が"わっ"なの?」
狐鈴「だってシラハのキャラ的に、そこでガオー! とか言わなくない?」
シラハ「まぁ……ないね」
狐鈴「だから"わっ"にしたの。それとも"動くな"とか"ぶるあぁぁぁ!"とかの方が良かった?」
シラハ「前者はともかく、後者じゃなくて本当に良かったよ……」
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