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異邦人(アルダタ視点)
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ジョルジュの希望通り、レピシ団長はスープを売っている出店で、店先に立っていた青年に話しかけた。
スープが食べられると分かり、ジョルジュはぱっと顔を輝かせた。店から立ち上る湯気を嗅いで、幸せに胸を膨らませている。
まだ知り合ってから日が浅いが、いつも陽気な彼を見ていると、一緒にいるだけでその明るさを分けてもらえる気がする。
「このスープを3つ。いくらかな?」
レピシ団長は、鍋を混ぜている青年に、はっきりと発音して尋ねた。
青年は日に焼けた赤い肌を持ち、彫りの深い顔立ちをしていた。典型的なナテナの人の容貌だ。
彼はひらひらと手に持った銅貨を振って、指を三本立てた。
私たちの国と、ここナテナの言葉にはほとんど差がないと聞いた。
こちらの言葉の意味も分かっているようだから話せないというわけではないだろう。少し壁を感じる動作だった。
しかしレピシ団長は不快感を表に出すようなことはなく、銅貨を支払い、スープを受け取った。
「ありがとう」
レピシ団長がそう言ったけれど、青年は何も言わず、じっと見つめ返すだけだった。
スープは透き通っており、朝の光で、輝いて見えた。
何が入っているのかは正直分からない。食べたことのない緑の野菜が入っている。
レピシ団長は名前を知っているだろうと思い、尋ねようかと迷ったが、穏やかに食事されていたので邪魔するのはよくないと考えた。
ジョルジュは嬉しそうに口をぱくぱくさせている。「これは何という野菜なのだろう?」などと頭で考えるよりも、彼のように、自分の口で無心に楽しむ方のがいいのかもしれない。
私はそう思い直して、名も知らぬ葉野菜を口に運んだ。
噛むと、味わったことのない香りが鼻へ抜けていく。
異国の地にいるのだな、と、私は急に、しみじみ実感した。
スープが食べられると分かり、ジョルジュはぱっと顔を輝かせた。店から立ち上る湯気を嗅いで、幸せに胸を膨らませている。
まだ知り合ってから日が浅いが、いつも陽気な彼を見ていると、一緒にいるだけでその明るさを分けてもらえる気がする。
「このスープを3つ。いくらかな?」
レピシ団長は、鍋を混ぜている青年に、はっきりと発音して尋ねた。
青年は日に焼けた赤い肌を持ち、彫りの深い顔立ちをしていた。典型的なナテナの人の容貌だ。
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「ありがとう」
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異国の地にいるのだな、と、私は急に、しみじみ実感した。
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