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どこまで卑劣か(タラレッダ視点)

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「ねぇあんたたち、アルダタの坊やがどこへ行ったか知らないかい?」

 使用人室で休憩していた子たちに聞くと、みんな口を揃えて「知らない」って言うんだ。
 どこ行っちまったんだろう、って私が首を傾げてたらさ、「そんなことよりタラレッダ、聞いてよ!」って年嵩の1人が言うんだ。

「なんだい、私が今気になっているのはアルダタの坊やのことだけだよ」
 すると年嵩の使用人が、勝ち誇ったように言ったんだよ。
「その彼のことなのさ!」ってね。

 私は「なんだい。なんの話だい?」って腕組みしたよ。

「最近、あの別嬪さんのお相手をしていただろう?」
「別嬪さんって、マリルノ様のことかい?」
「そうそう!実はあれ、ペドロル様の差し金だってもっぱらの噂なんだよ!」

「なんだって?」
 私はたまらず、彼女たちのついているテーブルに割り込んだんだ。
「ちょっとそれ、どういうことさ」



「自分の婚約者と使用人を浮気させようなんて……そんなこと、いくらなんでも」
 俄かには信じがたい話だね。

「そりゃ、私たちもそんなわけないだろう、って思いましたよ。でもね、旦那様が言った言葉を聞いてた子がいるんですよ」

 するとテーブルを囲んでいた使用人たちが、端にちょこんと座っていた、まだ若い、ややふくよかな体型の子に注目したんだ。

 彼女はおどおどとした口調で、「はい、私が聞きました。その晩、ペドロル様はひどく酔っ払らわれていて、部屋にいた彼に頼まれて、私は水をお持ちしたのです。そしたら、ペドロル様、ペドロル様っ……わっ……」

 彼女はそこまで口にすると、顔を手で覆い、ぷるぷると肩を震わせた。
 隣に座っていた赤毛で気の優しい使用人が、すかさず彼女の丸い背中をさすってやった。

「この子、襲われかけたんだ。ひどい話だろ?」
 年嵩の使用人が、彼女を代弁して言う。

 なんてこった! あのお方は、とうとう使用人にまで手を出すようになったのかい。

「彼女、思わず突き飛ばしちゃったんだってさ。そしたら、ペドロル様がこう言ったんだって。『お前もあの、アルダタとかいう生意気なガキが好きなんだろう。
 女はみんな、顔の良いやつが好きなんだろう』って」

「なんだいそれ……」
 なんでそこでアルダタの坊やが出てくるんだい。

「……それでペドロル様ははおっしゃったんです」
 仕打ちを受けたという使用人が、顔を上げて言葉をついだ。
 まん丸の目が真っ赤になっている。

「ちょっとあんた、大丈夫かい?」
 年嵩の使用人が心配そうに顔を覗き込む。

 目を赤くした子はこくりと頷き、自分の口から打ち明けた。
「『残念だったな。あの男は私の婚約者にあてがった。マリルノに浮気心を持たせて、私との婚約を破棄させるためにな』と。
 私信じられなくて、いくらペドロル様の命であっても、アルダタさんが素直に従うはずがない、って言い返しちゃったんです。
 そしたらペドロル様は『母親の病気を治してやるって言ったら、二つ返事だったよ』って」

 なんて卑劣なやり口なんだ……

「誰にも言っちゃだめだ、って思ったんですけど……こんな話、私一人で抱えるなんてとても……!」

 ぽろぽろ大粒の涙を落とす彼女の肩を、赤毛の使用人は抱きかかえるように包み込んだ。
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