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~出逢い~
しおりを挟むテレビであれだけ
残虐なニュースを流しているにも
関わらず、今目に見えている
景色はいつもと何ら変わらない。
幼稚園までお迎えに行き、
その帰りであろう母子の姿。
スーツを着こなして携帯片手に
歩くサラリーマン達。
今日も晩御飯を作るため
買い出しに出かけた、
スーパーの袋を持つ主婦。
皆それぞれに、自分達の
生活をいつものように送っている。
自分達が"ターゲット"では
ない事をわかっているから。
きっと私だって、自分が
ターゲットに当てはまって
いなければ…。
いつも通り学校の帰り道、携帯を
イジりながら人混みの中を歩き、
ふらっとスーパーに寄って
買い物を済ませ、
帰ったらさっさとご飯を作って
お風呂に入って寝ているだろう。
いつもと同じ風景に違和感を
感じるのは世界が変わったんじゃない。
私自身の見方が変わったのだ。
そして人はここでやっと重要な
事に気づく。
普段の生活がどれだけ
幸せな事かを。
平凡や普通というのは
平和の中でしか存在しない言葉。
人がその事に気づけるのは、
大抵その普通を失ってからである。
普通な事は普通ではないのだ。
めまぐるしく動く人達に
埋れながら、人混みの中で
そんなことを考えている自分に
気づく。
「…ふっ、変なの。」
あかりは自分ではない誰かが自分の中に
いるようで少しおかしくなり、
わずかに声を漏らして呟いた。
なるべくこれからの外出を
避けるため、あかりは
三日分は持つであろう
買い物を済ませた。
食材はもちろん、毎日使う
ティッシュや洗剤などの日用品も
当分買わずに済むように
余分に買ってきた。
家にいれば早々事件に
巻き込まれることもないだろう。
あかりは両手に大きな袋を二つずつ持ち、
息を切らしながら家までの道を
歩いた。
荷物が重いと、たったそこまでの
距離も遠く感じる。
「ハァ…やっと…最後の信号…。」
ここの信号を超えればもう
我が家は目の前だ。
あかりは信号が変わるまでの間
荷物を一旦おろし、向こう側の
信号が変わるのをジッと見つめていた。
……と、その時だった。
向こうで赤く光る信号。
そのすぐそばで全身真っ黒な
コートに身を包んだ、
男なのか女なのかわからない
人が視界に入った。
フードを被っており顔は見えず
靴さえも見えない長さのコート。
手は中に入れたままなのか、
ここからわかるのは
フードの頭と地面までの
胴体のみである。
明らかに不気味だ。
そんな格好、普通だと
周りの人が怪しがると
思うのだが…。
何故だか沢山の人が周りに
いるにも関わらず、特に
誰も気にする様子はない。
「…?。何?。
気持ちわる…。」
もしかして私にしか見えていないのかとも
思ったが、信号が青に変わったと
同時に動き出す人達は
スッと当たらないように
避けて歩いていた。
…ふと、あかりの頭に
あのニュースが流れる………。
そんなことあるはずがない。
…とは思うが……。
もし
人間以外の仕業だとしたら……?
そんなものに人間が敵うはずがない。
考えれば考えるほどに
嫌な思いがよぎるばかりで
ゾッと背筋が凍りついた。
青に変わったというのに
そいつは動くことなく、まだ
信号の側で立ち尽くしている。
そして、ただの偶然か否か、
こちらを向いているのだ。
「ほんと不気味…。だけど
この信号を渡らないと
帰れない…。」
あかりは仕方なく、なるべく
視界に入れず、また気づいていない
かのように荷物を持ち直し
歩き始めた。
一歩、二歩…近づいていく。
自然と高鳴る鼓動。
周りにはこんなにも沢山の
人達がいて、喋り声や
歩く音で騒がしいはずなのに
今、自分のドクっドクっという
心臓の音だけが耳の中で
響いていた。
あかりはほぼ真正面にいる
そいつを、皆と同じように
ギリギリのところで
スッと横にずれて歩く。
意識せずに歩くことがこんなにも
難しかっただろうか。
「……っ!!?。
…………………。」
信号を渡りきったあかりは
平常心を保ちつつ、でも
なるべく足早に歩き始めた。
荷物が重いことなどもうどうでもよい、
引きずってでもいいから
とにかく早く家に帰りたい。
あかりの家はマンションの五階、
エレベーターで上がって出たとこの
一番近くに位置する。
家の前までくると
あかりはサッとカギを開けて
荷物を放り込み自分もすぐに
家に入ってカギをかけた。
「ハァ…ハァ……ハァーッ!。
あーー疲れた!。
…ハァ。」
ドアの前でしゃがみこむ。
一人がこんなにも落ち着くと
感じたことはない。
数分くらいしゃがみこんだだろうか。
徐々に呼吸も落ち着き
心臓の音も静まっていく。
「…………あれは……。」
……横切る前にチラッと見えた
そいつの顔。
いや、正確には顔ではない。
顔はフードの影で一切見えなかった。
見えたのはフードの影の中で
妖しく光る赤と青の光。
位置的には目だと思うが…。
「…人間、じゃないのかな…。」
人間でないとすれば
何なのか。
だが人間の形をしていると
いえばそうである。
人間であろうがなかろうが
不気味な事に変わりはないが…。
考えても答えが出るはずもなく
呼吸を整えたあかりは
ひとまず放り込まれて
中身が飛び出た袋達を
適当に元に戻して部屋に
上がることにした。
──その頃──
・・・
そいつは、マンションの前で佇み
ジッとただ一直線に、ある部屋を
見つめていた。
あの妖しい赤と青の目で。
『………………。』
そいつは何をするわけでもなく
その部屋を見上げ続けた。
五階エレベーターのそばにある
あかりの部屋を…。
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