上 下
1 / 60

第1話 転生したらこうなった

しおりを挟む

 どうしてこうなった。

 いや、本当に、どうしてこうなった。





 そこは白い部屋だった。
 天井も白、床も白、壁も白、広さは体育館ほどか。そこにいたのは私ともう一人。
 インドのサリーのような服装をした、額にビンディをつけた美女である。絶世の美女であると言っても良かった。
「え~、このたびはご愁傷様です。あなたは死にました」

 気の毒そうに彼女は言ってくれた。

 大きな災害事故があったこと。それに巻き込まれたこと。
 たくさんの人間を助けて、最後に力尽きたこと。
「正直、あなたの鍛えられた魂の強度は素晴らしいものがあります。あの状況でほかの人間をたくさん助けたこともあって、次の人生はかなり大きなギフトをもらって始められるでしょう」

 転生というものがあると、彼女は言った。そういえば、彼女は何者なのか。まさか神か。
「いえ、私はただの管理官です。日本の価値観で言うなら、八百万の神様の端くれになるのかもしれませんが」
 そして話を戻し、彼女は言った。
「あなたには異世界に転生してもらいます」
 驚きである。

 地球に戻れないのか、と聞いたら残念そうな顔で説明してくれた。
「現在地球には人間の数が増えすぎていて、転生させようにもあなたのような強い魂は弾かれてしまいます。それに魂に刻まれた記憶を洗い流すにも、多くの力が必要となるのです」
 聞き逃せないことを彼女は言った。
「ええ、こちらの要請で異世界に転生するならば、ある程度の記憶を持ったまま生まれ変わることが出来ます。それほどそういうことが珍しい世界でもありませんし、今までに何人もの人が地球からは転生していますから」
 なるほど。それでは転生先の世界はどういう世界なのか。
「詳しくは言えませんが、剣と魔法の世界ですね」

 剣。

 心がざわめく。記憶が蘇る。
 おおよそ人生の大半をかけて磨いてきた技能。
 竹刀を振り、木刀を振り、刃引きのされた刀を振り、槍をしごき。小刀で舞う。

 生涯で果たしあったことは二度。共に死闘であり、充実した時間であった。

 そう、自分はそうやって生きてきた。殺すための技術を磨いて、最後に多くの命を助けたというのは皮肉だが。

 戦乱の世界であるなら、今度こそ他者の命を奪うこともあるだろう。
 魔法というのは少し気になるが、全ては生まれ変わってからだ。
「異存はないようですね? では、ギフトを選んでいただきます」

 その世界には、ギフトとスキルというものがあるらしい。
 ギフトとはその名のとおり生まれつき授けられたもので、スキルは後天的に身につけたもの。
 前者はたとえば、筋肉が付きやすい体質という分かりやすいものから、毒や病気に対する耐性、はては不老不死などというものもある。
 後者は簡単だ。剣術の技術や、魔法の技術。これは生まれてから努力するしかないが、転生者は記憶があるので、そもそものアドバンテージがあるという。
「あなたの持つギフトポイントは1012ポイントです。ではどうぞ、選んでください」

 目の前に半透明の画面が現れる。そこにはギフトと思われる様々な項目があり、隣には数字がある。おそらくこれが必要なポイントなのだろう。
 肉体強化、魔力強化。これらの隣にはさらにレベルがある。どの程度強化されるのか、ということらしい。私のもらった1012ポイントというのは、相当なもので、たとえば肉体強化を最大限に取っても、1割ほどしか消費しない。
 思考するだけで画面はスクロールする。途中で不老長寿や、疾病無効などというものもあった。それでもポイントの半分強を使えば身につけられるものだ。中には剣の天稟などというものもあったが無視した。戦乱の世界では、剣だけの才能とはそれほど重要なものではない。

 そして1000ポイントを費やする項目を見るにいたって、開いた口がふさがらなくなった。

 亜神。不滅。革命。羽化登仙。覇王の卵。これらが1000ポイントで獲得出来るギフトであった。
 しかし魂の質によって獲得の可能性があるギフトは違うので、これで全てというわけでもないらしい。

「生前に鍛えられた魂の強さに、異世界転生の特典、さらに死の直前の人命救助。あなたのギフトポイントは例外です」
 普通の人間はせいぜい50ポイントほどらしい。そんなにおまけしてもらって良いのかと思ったが、彼女は何も言わない。まあ、もらえるものはもらっておく。
 そしてもう一つ、1000ポイント必要なギフトの中に、それはあった。

『竜の血脈』

「竜の血を継ぐ血統に生まれます。肉体的な頑健さ、膨大な魔力、その他にも色々な長所があります。複数のギフトをまとめたようなものですね」
 もっとも、と今更ながら彼女は説明した。このギフトは生まれてすぐに発現するというものではなく、あくまでも過程を経た上で発現するという。スキルを極めた末にギフトと同じ効果を得ることもあるのだ。
 とりあえず、獲得するギフトは決まった。

「いいのですか? 少ないポイントで多くのギフトを取ることも出来ますし、あなたの好みに合いそうなギフトももっとあると思うのですが」
 最近の日本人で転生する者は、もっと慎重に選ぶのだそうだ。中には丸一日かけても終わらない者もいて、そういった人間に当たった担当者は大変なんだとか。

 だがこんなものは、直感で選ぶものだろう。
「そうですか。では残りの12ポイントですが、特別にアドバイスさせていただきます」
 にっこりと彼女は笑った。女神らしからぬ、親しみの持てる笑顔だった。
「2ポイントは生命力と耐久力を1ずつ上げてください。そして10ポイントを使って、自己確認のギフトを取ってください。スキルでも獲得できますが、最初から持っておくと、確実に便利です」
 何がどう便利なのかも、彼女は説明してくれた。
「自分の持つ能力を全て認識出来るというものです。どれだけ筋力が上がったか、どれだけ剣の技術が上がったか、体力はどれだけ残っているか。これが分かれば、戦いではどれだけ有利か、あなたなら分かると思いますが」

 なるほど、修行の成果がはっきりするというのは、確かに利点だろう。

「それでは、そろそろ転生してもらいます。残念ながら、質問はあまり受けられません。それ自体が、ギフトの一部ですからね」

 情報を持っているというのは、確かにそうだろう。頷くと、部屋が霧に包まれたように消えていく。
「来世があなたの望みをかなえることを祈っていますよ」
 女神は最後にそう言った。



「加護を与えたのか、奮発したものよの」

 誰もいないはずの部屋に、いつの間にかもう一人の ―― 否、もう一柱の神が現れていた。女性とも見紛うほどの美貌を持ちながら、その本性は武神。
「それほどのことは。転生の処理が早く終わったお礼のようなものです」
 そう、神に手間をかけさせないことによる、ちょっとした加護。下手にギフトを選び倒すよりは、よほど大きな恩恵である。
「しかし、あなたはどのような用件で?」
「何、あの者のさらにもう一つ前の前世で、加護を与えていたのでな。少し気になったのだ」
 もう一つ前。魂は通常生を終える度に漂白され、再利用されていく。摩耗して消滅するものや、新たに生まれる魂もあるが、そのサイクルは長い。
「どのような加護だったのですか?」
「もちろん戦の加護だよ。かなり有効に使ったようだね。残念ながら、病気で早死してしまったようだけど」
 ありきたりと言えば、ありきたりな加護だろう。だが次の世界では役に立つのは間違いない。加護は魂に刻まれるので、転生しても消滅しないのだ。
「あら? すると私の守護の加護と、戦の加護、ギフトを合わせますと…」
「うむ、恐ろしく強い化物になるかもしれんな。今生は不遇であったようだし、それも面白かろう。あの世界はまた千年紀を迎えるしな」
 高らかに笑う男神に対して、女神はその優美な眉をひそめた。
「参考までに、なんという名の人間だったのですか?」
 ぴたり、と男神は笑いを止め、ついでに動きまで止めた。
「? もしかして忘れたとか?」
「い、いや、確かに私は戦の神だが、俗に言う脳筋どもとは違うぞ! 熊襲平定も頭を使ったし…そう! そうだ熊襲のいたところにいた武士だ! 待て! 鏡を使えばちゃんと思い出すはずだから!」
「いえ、そこまでして思い出していただかなくても…。単なる好奇心でしたし」
 ため息一つ、女神は送り出したばかりの魂に、さらに知性の加護を与えたのだった。



 空白の意識の中には、睡眠欲と食欲しか無かった。

 それが連続して繰り返され…時間の経過をようやく意識しだした時、記憶の再生が始まった。
 前世。そして神との対話。思考がようやくまともに働き出し、そして違和感。
 睡眠、食事、排泄。その三つがほとんど全ての赤ん坊であっても、前世の経験からか、言語はかなり早く習得する。

 違和感。
 そして確信。

「は~いリア、おしめ替えましょうね~」

(お、おおおおお! 女になってるううううううう~~~~~~!!!!!)



 どうしてこうなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...