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対応としては、このまま退却か、策を試してから臨機応変に動くか。
つまり逃げるか動くかの二つしかない。
(こういう場面の判断は難しいんだけど、ロシア人の考えることって……)
「同調魔法で殲滅しようということらしい」
「マジか? この範囲を?」
ロシア人は命が軽い。
同調魔法は複数人が魔法の一つ一つの段階を分担して、強力な魔法を行使する手段である。
確かに火力は高いのだが、様々な問題がある。
それぞれがちゃんと互いに合わせて魔法を展開していくのと、あとは時間の問題である。
拠点破壊などには使えるが、時間もかかるし魔力の消費も大きく、現代ではあまり使われることはない。
だが魔物相手であれば、それなりに有効だろう。特にこれだけ密集していれ……ば?
(どんだけの範囲をやるつもりだ?)
同調魔法に限らず、魔法で使いやすいのはエネルギー系の魔法である。
火、電撃、レーザーなど。その中でも一番は火である。
範囲を指定したり、制御が緻密であるなら、水や土といった選択肢もあるが、それはないだろう。多人数で同調して制御するのは難しい。
おそらくは爆裂系。熱エネルギーと衝撃波で、かなりの効果が認められる。もっとも質量系ではないので、耐熱の力に優れた魔物であれば、生き残れなくはない。
しかし魔物は大気までも高温にしてしまえば、それでおそらく倒せるのが大半だ。
幻獣種や竜種は、それではほとんど倒せない。
あいつらは生物に似ているが、少なくとも生物であれば死ぬはずのダメージを負っても、そこから再生してきたりする。
この場においてはいないため、それでいいのだろう。
問題は同調魔法などというものを使えば、魔力感知に優れた魔物は、絶対にこちらに気付くということだ。
つまり同調魔法の準備をし、起動し、発動するまで魔法使いを守らないといけない。
魔物の集団の種類を確認する悠斗には、おそらく無理だろうと判断出来る。
敏捷性に優れた魔物が多く、迂回してでも後衛を攻撃してくるだろう。
かといって魔法で即席に防御陣地を作れば、それもまた気付かれる。魔法以外で塹壕などを掘るのは重機もないし、やはり発見される方が早いだろう。
つまり同調魔法などという、拠点制圧用の魔法を使うのは、不可能である。
それを進言しようとした悠斗であるが、彼はロシア語が喋れないし、英語も苦手である。
前世ではちゃんと向こうの言語を使っていたのだが、転生してからも後回しにしていた。英語なんて絶対に世界規模で活動するなら必要になるのに。
「藤原さん、俺の霊銘神剣の権能でも、これは上手くいかないって分かってるんですけど」
日本からの派遣団は、藤原家の男が仕切っている。
まだ二十代であるが、一族の戦士というのはたいが、20歳までにはかなりの修羅場を潜っているものだ。
「私もそう言ったんだが、じゃあ代案を出せと言われた」
「代案って、そもそもこの作戦自体が無理でしょうに」
「ロシアじゃそれは通用しないそうだ」
溜め息をつく藤原である。
冷静に考えればここは撤退の一択である。そもそも戦力が少なすぎる。
やはり沿岸部から自衛隊の協力も交えて北進し、少しずつ魔物を狩っていくしかない。
道理が通用しないのか、それとも己の力を過信しているのか、それとも他に理由があるのか。
「政治的な判断なのかもしれないな」
「政治的な判断を現場に持ち込んだらダメでしょうに」
「そうだな。だから十三家は、いつでも撤退できる準備はしておくぞ」
言いだしっぺのロシアが中央。アメリカが右翼、日本が左翼という配置である。
他は遊撃である。門の方向はほぼ西北。
逃げ出す時には一番有利な場所が日本と言える。ただロシアとアメリカ的には、日本ならば多少の劣勢でも崩れないだろうと判断してくれているそうな。
信頼が重い。
同調魔法の展開前、魔法使いが配置についたあたりで、先に魔物たちには気付かれた。
「速い!」
周囲の人間はその接近速度に驚いているが、そもそも共食いを繰り返してきた蠱毒のような魔物の集団なのである。他の駆除されつつある魔物とは違う。
魔法の発動までに必要な時間はおよそ10分。それまで魔法にかかりきりの人間と、戦闘向けでない人間を守りつつ戦う。
前線を突破されたらおしまいである。魔物の中にこちらの後方を狙ってくるものがいても、やはりそれで終わりだ。
霊銘神剣”神秘”を抜いた悠斗は、左翼の中でもやや突出する。
「おい! 無理すんじゃねーぞ!」
意外と心配屋というか、道治は普通に戦う仲間意識は強い。
本当にいざとなれば、神剣の使用も考慮すべきだろうか。
自分の命が危険に晒されれば、使わざるをえないだろう。いざという時にぎりぎり間に合ってくれる雅香は今回は本当にいない。
ならば他の者が危険になったらどうするかと問われれば、当然ながら見捨てる。
アメリカやロシアはもちろん、日本の一族の者、たとえばそれなりに会話をかわした道治でさえ。
(俺ってこんなに薄情な人間だったかな?)
あちらの世界の緊迫した情勢の中でも、もっと仲間のためには足掻いていたような気がする。
そうか、今はいざとなれば、見捨てたら逃げ切れるからか、と納得する。
あちらの世界では逃げたらイコール人類滅亡の事態が多かったため、逃げられる時は最初から逃げていたのだ。
逃げられるのに逃げないなどという、温い選択肢はそもそも用意されていなかった。
「少しは頑張ってみるかな」
「いや、いっぱい頑張れよ」
悠斗の言葉への反応は軽い。
調査団は右翼を厚くした。そちらが破られそうであるからだ。
左翼は……ほとんど一人の少年が、一撃ずつで魔物を切り倒している。時々届かなかった魔物を、残りの二人がかりで狩っている。
(冗談だろ……)
アメリカ隊の隊長は、軍に編成されたアメリカの魔法使いの中でも、かなりの実力者である。
それでも本当のトップエースと比べたら、とても戦力とは言えない。
(あれでまだミドルティーンだってのか)
おそらくアメリカのトップ5とほぼ互角に戦えるのではないか。
単に強いだけではない。この場で必要な戦い方をしている。
遠距離から貫通系の魔法で、向かってくる方向のずれた魔物を倒していく。そして接近すれば一撃で、魔物の足を切断して転ばせる。
完全に動きの止まった魔物は、二人がかりなら簡単に倒せる。
最初は少し突出していたが、魔物を倒せば倒すほど、周囲にその遺体が集まるため、少しずつ後退はしている。
それを見据えての、最初の立ち位置だったのだろう。
戦闘に慣れている。しかも圧倒的多数相手の戦闘に。
自らは無駄に動くことなく、確実に向かってきた魔物を潰している。
まさに一騎当千。ロシアとアメリカの戦士に比べて、実力があまりにも違いすぎる。
こういった調査目的の集団に、ここまでのエースを送ってくれる。
日本という国は昔から、こういうことには律儀だ。
第二次大戦で、よくもまあ敗戦を受け入れたものだと言えるし、その後もこうやって戦力を維持している。
核兵器の開発が間に合って、本当に良かった。
本土決戦などされたら、さすがに戦争に投入される魔法使いは多くなっただろうし、アメリカの被害はそれまでの数百倍になったかもしれない。
あの当時は魔法使いが弱い時代であったが、これだけの技量を持つ若年の戦士がいるというのが、アメリカのような魔法使いを国家に所属させた国には想像がつかない。
アメリカの魔法使いも弱くないし、エリートは日本のトップと比べても劣らないが、若年の少年にここまでの無理はさせない。
彼一人のおかげで、左翼には充分な余裕が出来て、中央と右翼に戦力を回せている。
この調査が無事に終了したら、礼状でも送るべきか、とアメリカの隊長は考える余裕さえあった。
10分間戦い続けるだけなら、悠斗にはいくらでも余裕があった。
ただ現在の位置を保持しつつ、迂回する魔物も倒し、全体に目を配るというのはしんどい。
体力的にはともかく、頭の方の力を使う。
(チョコレートが食べたい)
かなり切実な願いであったが、それだけ働いた甲斐はあった。
ロシアの魔法使いの同調魔法が発動した。
思っていた通りに爆裂系のエネルギー魔法であり、悠斗は防御に意識を向ける。
閃光、熱線、そして爆風。
上位の魔物は残っているが、有象無象はおおよそ駆除出来た。
調査団の周囲にいて被害から逃れたものと、残った手強いものたち。
もう100も残っていないだろう。これならどうにかなる。
(そう考えていた時期が俺にもありました)
門が、巨大化した。
そしてそこから現れるのは、炎をまとった巨大な鳥。
銀色の鱗に、赤とオレンジの、炎の羽毛。
あちらの世界では火神鳥と呼ばれていたが、悠斗の認識は違う。
「フェニックス……」
確実に上位レベルの幻獣、あるいは竜種をも超えるものである。
これまでの魔物とは、レベルが違うどころではなく次元が違う。
前世の悠斗であっても、一対一では掃討の準備と覚悟がなければ戦えなかった存在である。
単なる魔物とは違うその神秘的な存在に、調査団の手も止まる。
だがそれで良かったのだ。フェニックスに下手に攻撃などすれば、悠斗が守ることも出来ずに蒸発させられる。
先ほどの同調魔法から生き残った魔物さえ、凍りついたように動かない。
フェニックスは幻獣の中でも、人間には比較的穏当な存在だ。そして魔物にとっては天敵。
フェニックスは魔物から魔力を食う。
その口が開いて、熱線を吐き出した。
ぐるりぐるりと旋回する熱線が、魔物を切断していく。
そして大地にはフェニックスと、調査団だけが残る。
「集合! 集合しろ! 全員で障壁を張る準備!」
魔法の障壁でも、おそらく熱線の一撃で破壊される。
それに悠斗の知る爆裂火球を使われれば、他人を守る余裕はない。
判断ミスだ。
悠斗が戦線を維持しきれず、退却を決めさせた方が良かった。
何人かは死んだかもしれないが、悠斗以外は全滅しそうな、この状況よりはマシだ。
しかし、調査団の者たちは見た。
「おい、あれは……」
フェニックスの肩口あたりに立つ、銀色の衣装を着たそれ。
明らかにこれまでの人型の魔物とは一線を画する、美しさ。
「エルフ……」
黒髪のエルフが、フェニックスと共にいた。
つまり逃げるか動くかの二つしかない。
(こういう場面の判断は難しいんだけど、ロシア人の考えることって……)
「同調魔法で殲滅しようということらしい」
「マジか? この範囲を?」
ロシア人は命が軽い。
同調魔法は複数人が魔法の一つ一つの段階を分担して、強力な魔法を行使する手段である。
確かに火力は高いのだが、様々な問題がある。
それぞれがちゃんと互いに合わせて魔法を展開していくのと、あとは時間の問題である。
拠点破壊などには使えるが、時間もかかるし魔力の消費も大きく、現代ではあまり使われることはない。
だが魔物相手であれば、それなりに有効だろう。特にこれだけ密集していれ……ば?
(どんだけの範囲をやるつもりだ?)
同調魔法に限らず、魔法で使いやすいのはエネルギー系の魔法である。
火、電撃、レーザーなど。その中でも一番は火である。
範囲を指定したり、制御が緻密であるなら、水や土といった選択肢もあるが、それはないだろう。多人数で同調して制御するのは難しい。
おそらくは爆裂系。熱エネルギーと衝撃波で、かなりの効果が認められる。もっとも質量系ではないので、耐熱の力に優れた魔物であれば、生き残れなくはない。
しかし魔物は大気までも高温にしてしまえば、それでおそらく倒せるのが大半だ。
幻獣種や竜種は、それではほとんど倒せない。
あいつらは生物に似ているが、少なくとも生物であれば死ぬはずのダメージを負っても、そこから再生してきたりする。
この場においてはいないため、それでいいのだろう。
問題は同調魔法などというものを使えば、魔力感知に優れた魔物は、絶対にこちらに気付くということだ。
つまり同調魔法の準備をし、起動し、発動するまで魔法使いを守らないといけない。
魔物の集団の種類を確認する悠斗には、おそらく無理だろうと判断出来る。
敏捷性に優れた魔物が多く、迂回してでも後衛を攻撃してくるだろう。
かといって魔法で即席に防御陣地を作れば、それもまた気付かれる。魔法以外で塹壕などを掘るのは重機もないし、やはり発見される方が早いだろう。
つまり同調魔法などという、拠点制圧用の魔法を使うのは、不可能である。
それを進言しようとした悠斗であるが、彼はロシア語が喋れないし、英語も苦手である。
前世ではちゃんと向こうの言語を使っていたのだが、転生してからも後回しにしていた。英語なんて絶対に世界規模で活動するなら必要になるのに。
「藤原さん、俺の霊銘神剣の権能でも、これは上手くいかないって分かってるんですけど」
日本からの派遣団は、藤原家の男が仕切っている。
まだ二十代であるが、一族の戦士というのはたいが、20歳までにはかなりの修羅場を潜っているものだ。
「私もそう言ったんだが、じゃあ代案を出せと言われた」
「代案って、そもそもこの作戦自体が無理でしょうに」
「ロシアじゃそれは通用しないそうだ」
溜め息をつく藤原である。
冷静に考えればここは撤退の一択である。そもそも戦力が少なすぎる。
やはり沿岸部から自衛隊の協力も交えて北進し、少しずつ魔物を狩っていくしかない。
道理が通用しないのか、それとも己の力を過信しているのか、それとも他に理由があるのか。
「政治的な判断なのかもしれないな」
「政治的な判断を現場に持ち込んだらダメでしょうに」
「そうだな。だから十三家は、いつでも撤退できる準備はしておくぞ」
言いだしっぺのロシアが中央。アメリカが右翼、日本が左翼という配置である。
他は遊撃である。門の方向はほぼ西北。
逃げ出す時には一番有利な場所が日本と言える。ただロシアとアメリカ的には、日本ならば多少の劣勢でも崩れないだろうと判断してくれているそうな。
信頼が重い。
同調魔法の展開前、魔法使いが配置についたあたりで、先に魔物たちには気付かれた。
「速い!」
周囲の人間はその接近速度に驚いているが、そもそも共食いを繰り返してきた蠱毒のような魔物の集団なのである。他の駆除されつつある魔物とは違う。
魔法の発動までに必要な時間はおよそ10分。それまで魔法にかかりきりの人間と、戦闘向けでない人間を守りつつ戦う。
前線を突破されたらおしまいである。魔物の中にこちらの後方を狙ってくるものがいても、やはりそれで終わりだ。
霊銘神剣”神秘”を抜いた悠斗は、左翼の中でもやや突出する。
「おい! 無理すんじゃねーぞ!」
意外と心配屋というか、道治は普通に戦う仲間意識は強い。
本当にいざとなれば、神剣の使用も考慮すべきだろうか。
自分の命が危険に晒されれば、使わざるをえないだろう。いざという時にぎりぎり間に合ってくれる雅香は今回は本当にいない。
ならば他の者が危険になったらどうするかと問われれば、当然ながら見捨てる。
アメリカやロシアはもちろん、日本の一族の者、たとえばそれなりに会話をかわした道治でさえ。
(俺ってこんなに薄情な人間だったかな?)
あちらの世界の緊迫した情勢の中でも、もっと仲間のためには足掻いていたような気がする。
そうか、今はいざとなれば、見捨てたら逃げ切れるからか、と納得する。
あちらの世界では逃げたらイコール人類滅亡の事態が多かったため、逃げられる時は最初から逃げていたのだ。
逃げられるのに逃げないなどという、温い選択肢はそもそも用意されていなかった。
「少しは頑張ってみるかな」
「いや、いっぱい頑張れよ」
悠斗の言葉への反応は軽い。
調査団は右翼を厚くした。そちらが破られそうであるからだ。
左翼は……ほとんど一人の少年が、一撃ずつで魔物を切り倒している。時々届かなかった魔物を、残りの二人がかりで狩っている。
(冗談だろ……)
アメリカ隊の隊長は、軍に編成されたアメリカの魔法使いの中でも、かなりの実力者である。
それでも本当のトップエースと比べたら、とても戦力とは言えない。
(あれでまだミドルティーンだってのか)
おそらくアメリカのトップ5とほぼ互角に戦えるのではないか。
単に強いだけではない。この場で必要な戦い方をしている。
遠距離から貫通系の魔法で、向かってくる方向のずれた魔物を倒していく。そして接近すれば一撃で、魔物の足を切断して転ばせる。
完全に動きの止まった魔物は、二人がかりなら簡単に倒せる。
最初は少し突出していたが、魔物を倒せば倒すほど、周囲にその遺体が集まるため、少しずつ後退はしている。
それを見据えての、最初の立ち位置だったのだろう。
戦闘に慣れている。しかも圧倒的多数相手の戦闘に。
自らは無駄に動くことなく、確実に向かってきた魔物を潰している。
まさに一騎当千。ロシアとアメリカの戦士に比べて、実力があまりにも違いすぎる。
こういった調査目的の集団に、ここまでのエースを送ってくれる。
日本という国は昔から、こういうことには律儀だ。
第二次大戦で、よくもまあ敗戦を受け入れたものだと言えるし、その後もこうやって戦力を維持している。
核兵器の開発が間に合って、本当に良かった。
本土決戦などされたら、さすがに戦争に投入される魔法使いは多くなっただろうし、アメリカの被害はそれまでの数百倍になったかもしれない。
あの当時は魔法使いが弱い時代であったが、これだけの技量を持つ若年の戦士がいるというのが、アメリカのような魔法使いを国家に所属させた国には想像がつかない。
アメリカの魔法使いも弱くないし、エリートは日本のトップと比べても劣らないが、若年の少年にここまでの無理はさせない。
彼一人のおかげで、左翼には充分な余裕が出来て、中央と右翼に戦力を回せている。
この調査が無事に終了したら、礼状でも送るべきか、とアメリカの隊長は考える余裕さえあった。
10分間戦い続けるだけなら、悠斗にはいくらでも余裕があった。
ただ現在の位置を保持しつつ、迂回する魔物も倒し、全体に目を配るというのはしんどい。
体力的にはともかく、頭の方の力を使う。
(チョコレートが食べたい)
かなり切実な願いであったが、それだけ働いた甲斐はあった。
ロシアの魔法使いの同調魔法が発動した。
思っていた通りに爆裂系のエネルギー魔法であり、悠斗は防御に意識を向ける。
閃光、熱線、そして爆風。
上位の魔物は残っているが、有象無象はおおよそ駆除出来た。
調査団の周囲にいて被害から逃れたものと、残った手強いものたち。
もう100も残っていないだろう。これならどうにかなる。
(そう考えていた時期が俺にもありました)
門が、巨大化した。
そしてそこから現れるのは、炎をまとった巨大な鳥。
銀色の鱗に、赤とオレンジの、炎の羽毛。
あちらの世界では火神鳥と呼ばれていたが、悠斗の認識は違う。
「フェニックス……」
確実に上位レベルの幻獣、あるいは竜種をも超えるものである。
これまでの魔物とは、レベルが違うどころではなく次元が違う。
前世の悠斗であっても、一対一では掃討の準備と覚悟がなければ戦えなかった存在である。
単なる魔物とは違うその神秘的な存在に、調査団の手も止まる。
だがそれで良かったのだ。フェニックスに下手に攻撃などすれば、悠斗が守ることも出来ずに蒸発させられる。
先ほどの同調魔法から生き残った魔物さえ、凍りついたように動かない。
フェニックスは幻獣の中でも、人間には比較的穏当な存在だ。そして魔物にとっては天敵。
フェニックスは魔物から魔力を食う。
その口が開いて、熱線を吐き出した。
ぐるりぐるりと旋回する熱線が、魔物を切断していく。
そして大地にはフェニックスと、調査団だけが残る。
「集合! 集合しろ! 全員で障壁を張る準備!」
魔法の障壁でも、おそらく熱線の一撃で破壊される。
それに悠斗の知る爆裂火球を使われれば、他人を守る余裕はない。
判断ミスだ。
悠斗が戦線を維持しきれず、退却を決めさせた方が良かった。
何人かは死んだかもしれないが、悠斗以外は全滅しそうな、この状況よりはマシだ。
しかし、調査団の者たちは見た。
「おい、あれは……」
フェニックスの肩口あたりに立つ、銀色の衣装を着たそれ。
明らかにこれまでの人型の魔物とは一線を画する、美しさ。
「エルフ……」
黒髪のエルフが、フェニックスと共にいた。
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