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40 止まらぬ侵犯
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「終わらねえ……」
悠斗は当直の時間が終わり、休息するための宛がわれた施設へと戻ってきた。
北海道への遠征から呼び戻され一ヶ月。
状況は膠着している。
軍隊というのは金食い虫である。維持するだけでも大変だが、戦闘が終われば消耗品はもちろんなくなるし、普通に使った兵器も多少は故障する。
衣食住だけあればどうにか戦えるハンターとは、そこが決定的に運用コストの点で違いがある。
自衛隊が全力で攻勢に出たら、異世界からの魔物たちでも、まず少数の例外を除いては、確実に倒せるだろう。
しかし後から後から湧き出てくる魔物に向かって、戦い続けることが出来るのか。
これは以前から言われていたことだが、自衛隊の備蓄している物資は少ない。
自衛して相手に損害を与え、侵攻を断念させるという点では充分なのだが、相手が遮二無二かかってくる存在であれば、延々と戦い続けなければいけない。
そこまでの力は、自衛隊にはない。
一方ハンターが消耗するのは、装備と体力と魔力である。
しかしこの装備は自衛隊の武器や兵器に比べると、はるかに安価に容易く手に入るものである。
ハンターと言う職業はその危険さの割に、人気のある仕事でもある。
通常では許されない武器の携帯が許可され、脅威となる魔物と戦う。
日本のような平和に慣れた国でも、いや慣れているからこそ、ハンターになる人間はいる。
しかし十三家は、それとは全く違った扱いである。
世界的に見れば能力者というのは、民間にもそれなりにいる。
それらはおおよそ国家的な組織に所属するが、やはりフリーのハンターという者はいる。
だが日本の場合は、ごく弱い力の持ち主を除いて、ほぼ確実に十三家の勧誘がある。
その勧誘方法は、硬軟交わったものである。
悠斗の場合のように穏便に済むこともあるが、自分の力に酔った人間ならば、多少痛い経験をしてもらうこともある。
そもそもいくら民間で強い能力者のハンターがいても、それは高が知れている。
血統を維持し続け、強い個体の遺伝子を残し続けてきた十三家の能力者に優る能力者など、奇跡以外ではまずありえない。
悠斗にしたところで、十三家の血は受け継いでいるのだから。
さてそんな悠斗であるが、彼は十三家の純血主義者に言わせれば、雑種である。
大戦の折に一度十三家の籍からは外れている血統。さらに能力者でない人間の血が相当に混じっている。
本来ならば血が薄まるにつれて、能力も弱まっていく傾向にある。しかし悠斗はその例外だ。
血統を重視する生物としては、サラブレッドがおそらく世界では最も研究された生物であろう。
そして能力者もまた、血統が重視される。ある程度能力は遺伝するのは間違いないからだ。
しかし突然変異的に生まれた強大な能力者が、次代へ血をつないでいった場合、強大な能力者が生まれるとは限らない。
その家に特有の能力に特に秀でていた場合、やはり子供もそれに似る場合は多いが、方向性はともかく力がまで同じとは限らない。
血族婚が多い十三家にとって、外部の血を強く受け継いだ悠斗の存在は、本来なら特に重要なはずである。
しかし血統に間違った優越感を持った人間にとっては、悠斗の存在は己のアイデンティティを脅かす、危険な存在とも言える。
それが悠斗が、まだこの前線にいて戦っている理由である。
東京の門に関しては、新宿を除いて全てが沈静化したと言っていい。
世界的に見ても、門から現れる魔物の量は一時期に比べ、激減してはいる。
世界は以前とは全く違う危険度ではあるが、安定していると言っていい。
そんな中でも特に危険な門は存在し、日本の場合はそれが、東京新宿区であった。
現在は数メートルのコンクリート塀に囲まれ、出入りは厳重にチェックされている。
もちろん住民は全て避難していて、中に入るのは自衛隊かハンターのみである。
「第三班、引き継ぎます」
「よろしくお願いします」
一人で広域をカバーしていた悠斗に対して、複数人のパーティーが同領域をカバーする。
パーティーを組んで戦闘をするというのは、役割分担がしっかりとしていて、連携を重ねればその強さの絶対値も上がり、悪いことではない。
しかし突出した個人がいた場合、その人物に合わせたパーティーとなる。他の組み合わせでは使えない構成だ。
それを幾つも作ったところで、全体的な効率は悪い。
よって悠斗などの突出した戦士は個人行動が増える。
およそ一週間、新宿区内の一エリアを担当していた悠斗は、ようやく本業の学生に戻ることが出来た。
「うい~す」
気疲れが取れないまま登校すると、時間帯の割には生徒が少ない。
「おい~す。悠斗も疎開してなかったのか」
「疎開?」
言葉の意味は知っているが、どうしてこの場でそんな言葉が出るのか、それが不思議である。戦時下か今は。
いや、ある意味戦時下に近いのかもしれないが。
「疎開って、この辺りは危なくないだろ?」
門が存在しない以上、魔物に襲われる可能性は低いはずだが。
「そうでもないだろ。空を飛べるやつもいるし」
「ああ……」
門の中から現れる魔物は、当然ながら飛行系の魔物もいる。実際に討伐してきたものだ。
それこそ自衛隊に任せてしまえばいいのだろうが、とにかく弾薬などは貴重なものとなっている。
軍需産業の盛んなアメリカでさえ、高額の兵器をどんどんと同盟国に売るのはためらっているぐらいだ。
門の出現は、確かに人類の生存域を狭め、文明を退化させたと言える。
放課後、悠斗は文芸部の入った空き校舎に向かう。
「ちーす」
壁一面が全て本棚、もう一面が全て物置となったその部屋は、部室と言うにはあまりにも魔改造されている。
そして窓を背中にやたら豪華なテーブルの上には「会長」と書かれた正三角錐。
「……」
じっとこちらを見つめてくる、サングラス越しの瞳。
「春希、今度は何のネタだ?」
「ゲンドウ」
「ふーん」
春希との付き合いもそれなりに長くなりつつある悠斗である。
この文芸部は、過去の中学校時代のような、SF研究会として春希が私物化したものではないが、まだ一年生の彼女が頂点にいるという点では共通している。
鈴宮春希という人物は、その能力によらず、人の上に立って行動する人物だ。
ある種のカリスマがある。持って生まれたものではなく、先祖代々の研鑽から得られた、十三家という組織の上に立つための。
この文芸部は彼女が掌握しており、文芸部とは名ばかりに、書籍や端末からの情報も全て、集められることになっている。
そんなSF研究会には、現在10名あまりの部員がいる。
いや、正確には文芸部の部員なのだが。
そしてその中の5人が、かつての中学校におけるSF研究会のメンバーである。
追加で何人か十三家の者が入ったが、それでも中核の5人は変わらない。
ちなみに本当の文芸部員もいる。彼ら彼女らは棚の本を手にとって、100年前から存在する書籍談義に花を咲かせるのだ。
しかし棚にマンガまであるのはどうだろうか? いや、部員の私物ではあるのだが。
小説から漫画化した作品もあるので、厳密には間違いではないのだろう。
そんな混沌とした中で、春希の周りに集まるのが十三家、あるいはハンター関連の人員だ。
「最新の情報」
情報担当としてPCの前に座っている弓が、世界地図を出す。
一時期は世界で万を超える数の門が出現していたが、今では数百にまで落ち着いている。
もっともそれに対処するにはやはりリソースの限界があり、危険度を色で分布した特殊な地図が現れる。
「一時期よりはましか」
悠斗の言葉に全員が頷いた。
門の出現。それはこれまで相当に制御できていた魔物の被害を、世界全土に拡大すると共に、その治安を根底から揺るがすものであった。
ちなみに一番最初に対策が出来上がったのはアメリカだ。元々の軍事力が高い上に、あそこは民間人が銃を持てる地域が多い。
そもそも能力者も多く、能力開発にも優先的に行っていたので、かなり門以前の状態に近くなっている。
もっとも国土が広いので、完全な撲滅への道は遠い。
そしてメキシコとの国境には、大きな壁が出来た。
一番ひどいのはチャイナであろうか。あそこは国土が広く、峻険な自然環境も多く、通常の軍を展開することは難しい。
これがロシアだと同じく広くても、冬がある。冬の寒さで凍死する魔物は少なくない。どうも熱帯から温帯にかけての魔物が多く門を通るようだ。
あとは地域と言うよりは、国ごとの事情と言うべきだろうか。欧州ではEUが崩壊しかかっている。
元々国ごとの生産性が違い、ドイツなどはその生産性に移民がおんぶにだっこという状態であったのだが、魔物の移動を制限することを理由に、国境監視のための軍隊が出ている。
アフリカや中東など、インドなどの宗教や民族による紛争の多い場所は、さらに危険である。
悠斗としては霊長類の中でも群を抜いて多い人間が減るのは、正直なところありがたいとさえ思っている。
彼が守るのはあくまでも自分の手の届く範囲だ。前世と違って魔王を倒せば解決とはならない。
その前世にしても、魔王を倒して解決とはならなかったらしいが。
とにかく人間は多すぎる。
そして人間が他の生命と違うところは、自ら働けなくなったとしても、社会によって生命が守られるということだ。
魔物の増加によって人間の絶対数が減らされるというのは、地球の生態においては良いことかもしれないとまで、悠斗は考えている。
危険な考えだ。共産主義に匹敵する。
「門の数は減り、戦力が集中出来るようになったことで、一般には被害が縮小し、インフラも回復出来ているように見える」
弓の開いた分布図は、確かにそう見える。
門による被害というのは、そもそもどこから現れるか分からない魔物、というのが前提として存在した。
その門の存在が確認さえ出来れば、少しずつでも対応が出来るようになる。
対応し切れなければ、出来ないところを切り離す。そして重要な部分を守る。
それが出来た国や組織は、どうにか回復していっているというわけだ。
首都の近辺に門が開いた場合は、おおよそは首都機能を移転している。
東京にしてもそうで、通常戦力で守りきれない場合は、名古屋や大阪にその機能を移している。
しかしそれは公共の機関であって、民間までは手が回らない。よって新宿は封鎖され、自衛隊と能力者によって、魔物たちは分断されている。
「それぞれの門の規模は、むしろ拡大している」
弓のデータによると、少なくなった門ではあるが、それと反比例して門自体の規模が拡大している。
今までは現れていなかったが、そのうち神獣と呼ばれる幻想種、あるいは真の竜種まで現れるかもしれない。
そうなった時、果たして新宿の封鎖が可能か。
悠斗は首を傾げるしかなかった。
悠斗は当直の時間が終わり、休息するための宛がわれた施設へと戻ってきた。
北海道への遠征から呼び戻され一ヶ月。
状況は膠着している。
軍隊というのは金食い虫である。維持するだけでも大変だが、戦闘が終われば消耗品はもちろんなくなるし、普通に使った兵器も多少は故障する。
衣食住だけあればどうにか戦えるハンターとは、そこが決定的に運用コストの点で違いがある。
自衛隊が全力で攻勢に出たら、異世界からの魔物たちでも、まず少数の例外を除いては、確実に倒せるだろう。
しかし後から後から湧き出てくる魔物に向かって、戦い続けることが出来るのか。
これは以前から言われていたことだが、自衛隊の備蓄している物資は少ない。
自衛して相手に損害を与え、侵攻を断念させるという点では充分なのだが、相手が遮二無二かかってくる存在であれば、延々と戦い続けなければいけない。
そこまでの力は、自衛隊にはない。
一方ハンターが消耗するのは、装備と体力と魔力である。
しかしこの装備は自衛隊の武器や兵器に比べると、はるかに安価に容易く手に入るものである。
ハンターと言う職業はその危険さの割に、人気のある仕事でもある。
通常では許されない武器の携帯が許可され、脅威となる魔物と戦う。
日本のような平和に慣れた国でも、いや慣れているからこそ、ハンターになる人間はいる。
しかし十三家は、それとは全く違った扱いである。
世界的に見れば能力者というのは、民間にもそれなりにいる。
それらはおおよそ国家的な組織に所属するが、やはりフリーのハンターという者はいる。
だが日本の場合は、ごく弱い力の持ち主を除いて、ほぼ確実に十三家の勧誘がある。
その勧誘方法は、硬軟交わったものである。
悠斗の場合のように穏便に済むこともあるが、自分の力に酔った人間ならば、多少痛い経験をしてもらうこともある。
そもそもいくら民間で強い能力者のハンターがいても、それは高が知れている。
血統を維持し続け、強い個体の遺伝子を残し続けてきた十三家の能力者に優る能力者など、奇跡以外ではまずありえない。
悠斗にしたところで、十三家の血は受け継いでいるのだから。
さてそんな悠斗であるが、彼は十三家の純血主義者に言わせれば、雑種である。
大戦の折に一度十三家の籍からは外れている血統。さらに能力者でない人間の血が相当に混じっている。
本来ならば血が薄まるにつれて、能力も弱まっていく傾向にある。しかし悠斗はその例外だ。
血統を重視する生物としては、サラブレッドがおそらく世界では最も研究された生物であろう。
そして能力者もまた、血統が重視される。ある程度能力は遺伝するのは間違いないからだ。
しかし突然変異的に生まれた強大な能力者が、次代へ血をつないでいった場合、強大な能力者が生まれるとは限らない。
その家に特有の能力に特に秀でていた場合、やはり子供もそれに似る場合は多いが、方向性はともかく力がまで同じとは限らない。
血族婚が多い十三家にとって、外部の血を強く受け継いだ悠斗の存在は、本来なら特に重要なはずである。
しかし血統に間違った優越感を持った人間にとっては、悠斗の存在は己のアイデンティティを脅かす、危険な存在とも言える。
それが悠斗が、まだこの前線にいて戦っている理由である。
東京の門に関しては、新宿を除いて全てが沈静化したと言っていい。
世界的に見ても、門から現れる魔物の量は一時期に比べ、激減してはいる。
世界は以前とは全く違う危険度ではあるが、安定していると言っていい。
そんな中でも特に危険な門は存在し、日本の場合はそれが、東京新宿区であった。
現在は数メートルのコンクリート塀に囲まれ、出入りは厳重にチェックされている。
もちろん住民は全て避難していて、中に入るのは自衛隊かハンターのみである。
「第三班、引き継ぎます」
「よろしくお願いします」
一人で広域をカバーしていた悠斗に対して、複数人のパーティーが同領域をカバーする。
パーティーを組んで戦闘をするというのは、役割分担がしっかりとしていて、連携を重ねればその強さの絶対値も上がり、悪いことではない。
しかし突出した個人がいた場合、その人物に合わせたパーティーとなる。他の組み合わせでは使えない構成だ。
それを幾つも作ったところで、全体的な効率は悪い。
よって悠斗などの突出した戦士は個人行動が増える。
およそ一週間、新宿区内の一エリアを担当していた悠斗は、ようやく本業の学生に戻ることが出来た。
「うい~す」
気疲れが取れないまま登校すると、時間帯の割には生徒が少ない。
「おい~す。悠斗も疎開してなかったのか」
「疎開?」
言葉の意味は知っているが、どうしてこの場でそんな言葉が出るのか、それが不思議である。戦時下か今は。
いや、ある意味戦時下に近いのかもしれないが。
「疎開って、この辺りは危なくないだろ?」
門が存在しない以上、魔物に襲われる可能性は低いはずだが。
「そうでもないだろ。空を飛べるやつもいるし」
「ああ……」
門の中から現れる魔物は、当然ながら飛行系の魔物もいる。実際に討伐してきたものだ。
それこそ自衛隊に任せてしまえばいいのだろうが、とにかく弾薬などは貴重なものとなっている。
軍需産業の盛んなアメリカでさえ、高額の兵器をどんどんと同盟国に売るのはためらっているぐらいだ。
門の出現は、確かに人類の生存域を狭め、文明を退化させたと言える。
放課後、悠斗は文芸部の入った空き校舎に向かう。
「ちーす」
壁一面が全て本棚、もう一面が全て物置となったその部屋は、部室と言うにはあまりにも魔改造されている。
そして窓を背中にやたら豪華なテーブルの上には「会長」と書かれた正三角錐。
「……」
じっとこちらを見つめてくる、サングラス越しの瞳。
「春希、今度は何のネタだ?」
「ゲンドウ」
「ふーん」
春希との付き合いもそれなりに長くなりつつある悠斗である。
この文芸部は、過去の中学校時代のような、SF研究会として春希が私物化したものではないが、まだ一年生の彼女が頂点にいるという点では共通している。
鈴宮春希という人物は、その能力によらず、人の上に立って行動する人物だ。
ある種のカリスマがある。持って生まれたものではなく、先祖代々の研鑽から得られた、十三家という組織の上に立つための。
この文芸部は彼女が掌握しており、文芸部とは名ばかりに、書籍や端末からの情報も全て、集められることになっている。
そんなSF研究会には、現在10名あまりの部員がいる。
いや、正確には文芸部の部員なのだが。
そしてその中の5人が、かつての中学校におけるSF研究会のメンバーである。
追加で何人か十三家の者が入ったが、それでも中核の5人は変わらない。
ちなみに本当の文芸部員もいる。彼ら彼女らは棚の本を手にとって、100年前から存在する書籍談義に花を咲かせるのだ。
しかし棚にマンガまであるのはどうだろうか? いや、部員の私物ではあるのだが。
小説から漫画化した作品もあるので、厳密には間違いではないのだろう。
そんな混沌とした中で、春希の周りに集まるのが十三家、あるいはハンター関連の人員だ。
「最新の情報」
情報担当としてPCの前に座っている弓が、世界地図を出す。
一時期は世界で万を超える数の門が出現していたが、今では数百にまで落ち着いている。
もっともそれに対処するにはやはりリソースの限界があり、危険度を色で分布した特殊な地図が現れる。
「一時期よりはましか」
悠斗の言葉に全員が頷いた。
門の出現。それはこれまで相当に制御できていた魔物の被害を、世界全土に拡大すると共に、その治安を根底から揺るがすものであった。
ちなみに一番最初に対策が出来上がったのはアメリカだ。元々の軍事力が高い上に、あそこは民間人が銃を持てる地域が多い。
そもそも能力者も多く、能力開発にも優先的に行っていたので、かなり門以前の状態に近くなっている。
もっとも国土が広いので、完全な撲滅への道は遠い。
そしてメキシコとの国境には、大きな壁が出来た。
一番ひどいのはチャイナであろうか。あそこは国土が広く、峻険な自然環境も多く、通常の軍を展開することは難しい。
これがロシアだと同じく広くても、冬がある。冬の寒さで凍死する魔物は少なくない。どうも熱帯から温帯にかけての魔物が多く門を通るようだ。
あとは地域と言うよりは、国ごとの事情と言うべきだろうか。欧州ではEUが崩壊しかかっている。
元々国ごとの生産性が違い、ドイツなどはその生産性に移民がおんぶにだっこという状態であったのだが、魔物の移動を制限することを理由に、国境監視のための軍隊が出ている。
アフリカや中東など、インドなどの宗教や民族による紛争の多い場所は、さらに危険である。
悠斗としては霊長類の中でも群を抜いて多い人間が減るのは、正直なところありがたいとさえ思っている。
彼が守るのはあくまでも自分の手の届く範囲だ。前世と違って魔王を倒せば解決とはならない。
その前世にしても、魔王を倒して解決とはならなかったらしいが。
とにかく人間は多すぎる。
そして人間が他の生命と違うところは、自ら働けなくなったとしても、社会によって生命が守られるということだ。
魔物の増加によって人間の絶対数が減らされるというのは、地球の生態においては良いことかもしれないとまで、悠斗は考えている。
危険な考えだ。共産主義に匹敵する。
「門の数は減り、戦力が集中出来るようになったことで、一般には被害が縮小し、インフラも回復出来ているように見える」
弓の開いた分布図は、確かにそう見える。
門による被害というのは、そもそもどこから現れるか分からない魔物、というのが前提として存在した。
その門の存在が確認さえ出来れば、少しずつでも対応が出来るようになる。
対応し切れなければ、出来ないところを切り離す。そして重要な部分を守る。
それが出来た国や組織は、どうにか回復していっているというわけだ。
首都の近辺に門が開いた場合は、おおよそは首都機能を移転している。
東京にしてもそうで、通常戦力で守りきれない場合は、名古屋や大阪にその機能を移している。
しかしそれは公共の機関であって、民間までは手が回らない。よって新宿は封鎖され、自衛隊と能力者によって、魔物たちは分断されている。
「それぞれの門の規模は、むしろ拡大している」
弓のデータによると、少なくなった門ではあるが、それと反比例して門自体の規模が拡大している。
今までは現れていなかったが、そのうち神獣と呼ばれる幻想種、あるいは真の竜種まで現れるかもしれない。
そうなった時、果たして新宿の封鎖が可能か。
悠斗は首を傾げるしかなかった。
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