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13章 VS

209 マルチプレイヤーが多すぎる

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 音楽は虚業である。
 また野球も虚業である。
 ちなみに小説もまた虚業である。
 そう考えると楽しみの多くを、人間は虚業に依存している。
 生命につながる三大欲求で欲望を満たせている人間というのは、実は相当に運がいいのかもしれない。

 音楽は虚業であるが、それを消費者に伝えて、利益が発生すればそこから実業となる。
 レコード会社は売れる音楽を、売れるように工夫して売らなければいけない。
 売れない音楽ならば、今ならネットでいくらでも垂れ流していればいいのだ。
 昔と違って今は、チケットノルマなどないのであるし。

 ただ絶対に売れると思うアーティストが、極めてわがままであればどうすればいいのか。
 60年代から90年代前半ぐらいまでは、明らかにアーティストの虚業の部分が、巨大な利益を生み出していた。
 今でも音楽は人間の生活の中で、大きなウエイトを占めていると言っていい。
 宗教によっては禁じているところなどもあったり、または今でこそ許容しているがかつては禁じていたりと、その歴史や地理も面白いものだ。
 だが音楽というのはおおよそ、世界中のどの民族でも、踊りと共に存在したものであるという。
 ヨーロッパではクラシック、黒人のブルース、アジアでも様々な音楽が生まれている。

 日本でも現在の主流はポップスであるが、少なくとも1000年前には既に、宮中で音楽の催しはされていた。
 楽器の伝来などは正倉院の所蔵庫の中にあるので、少なくとも同じぐらいには、伝来していたであろうと思われる。
 それよりも古い時代にも、宗教と密接に関わっていたなどとも言われる。
 中華の話であると、2500年ほど前には既に、悲しい音楽を好む君主がいたという話が伝わっている。

 そんなわけで音楽のジャンルというのは、多種多様なのである。
 ロックの中でもハードロックからメタル、メタルの中でもデスメタルなど、分派が激しい。
 商業ロックを批判するような前の時代には、ポップスが全盛となっていたこともある。
 そもそもロックも初期のものを聴けば、ロックじゃなくてポップスだろうと判断されたりもする。
 いや、それはガレージロックといって、などとややこしい話にもなってくる。
 一般的にはどうでもいいことだ。

 聴く方はともかく、発信する方としては、何が必要なのかは問題である。
 ただこれはもう、フィーリングとしか答えようがない。
 実際のところ今は、AIでも作曲ぐらいなら作れる時代だ。
 しかしAIは学習はしても、突発的に進化したりはしない。
 少なくとも現在の段階では。



 俊はALEXレコードの立ち回りと、花音の実際の発言、そして千歳からの情報を総合して、ある程度の予測を立てることに成功した。
 ただこれが正解であったとすると、ALEXレコードは花音の売り出しに失敗する。
 売り方によって、実力があっても売れないというのは、普通にある話だ。
 ここまでの花音は、まずネットにて実力を見せ付けてきた。
 あれはいったい誰なのかと、多くの人間が疑問に思っていたし、俊もその一人だ。
 それが突然、外タレの超大物歌姫のステージで、デュオと言ってもいいぐらいに歌ってデビューする。
 またピアノも見事であった。

 SNSを中心に、ケイティの三日連続のステージが終わった翌日も、話題が一色になっている。
 これはもちろん母親の名声が乗っかっているということもあるが、実力もあるのは間違いがない。
 音楽の枠を超えて、普段は興味のない人々にさえ、その名前を憶えられる。
 そこまでやった時点で、確かに見事ではあるのだ。
 ALEXレコードの全面的なバックアップというのも、彼女の成功を約束したようなものだ。

 だが、それだからこそ花音本人の意志でやれば、失敗するであろう。
 確認のために俊は、要望に応じて暁に頷いた。
 暁をレンタルするということ。
 もちろん最初の、デビューの段階だけでいい。
 おそらく暁ならば、それだけで気づくだろう。

 その俊の推測を裏付けるかのように、花音はネットでの配信を増やしはしたものの、ライブの予定などは情報が出てこない。
「なんで?」
 月子の質問に対して、いつも通りにスタジオでの練習が終わってから、答えようとする俊である。
「針巣社長はプロデューサーとしても一流だから、危うさが分かってるんだろう」
「だから、なんで? あの歌だけでも充分に、通用するとは思うんだけど」
 実力に関しては、俊も何も疑ってはいない。
 ただ本当に、懸念材料はあるのだ。
「やりすぎたことかな」
 それでも月子には分からないし、千歳なども分かっていない。
 だが栄二だけはぴんと来たらしい。

 それを確認してもらうために、暁を快く送り出すのだ。
 暁に言っておいたのは、全力でやらないと食われるぞ、ということだ。
「他のメンバーは先生の娘さんの玲と、KCの娘、あとアメリカから一人連れてくるんだって」
「アメリカからって……」
 千歳はある程度の事情を聞かされた。
 月子としてはアメリカというだけで、なんだかものすごい女の子が来そうな気がしている。

 実際に音楽の環境を考えると、日本はドラマーが生まれにくいと言えよう。
 アメリカなどではガレージにおいて、ドラムを叩きまくる人間が普通にいる。
 それがニューヨークだけではなく、田舎でも行われる風景なのだ。
 そしてパーティーなどにおいて、他人の目の前で演奏する機会が、圧倒的に多い。
 ネットによりいくらでも音楽が聴ける時代だからこそ、ドサ回りのライブなどを繰り返す。
 プロでもないアマチュアで、千歳よりも上手い女性ギタリストはたくさにいるし、ベースやドラマーのレベルも圧倒的に違う。

 それを俊は、父の言葉として聞いていた。
 ただ環境で育つというのなら、暁のギターは負けてはいないだろう。
 そしてあとは、曲自体の持つ力だ。
 またバンドというのは、ただ単に力のあるメンバーを集めればいいというわけではない。
 実力以外にも、相性というものが必要なのだ。



 音楽は歌詞の意味が分からなくても、世界である程度は通用する。
 声自体にメッセージが乗っているからだ。
 俊が聞いたあの、花音のライブでの音。
 あれは淡い悲しみというか、切なさというか、郷愁を感じさせるものであった。
 魂で歌っている、と俊は感じたものだ。
 ただし千歳から聞いた話によると、花音は本来マルチプレイヤーであるらしい。

 母親の残した曲の中から、どれだけ彼女が歌えるものがあるのか。
 また彼女自身が作った歌というのは、どれぐらいあるのか。
 少なくとも編曲は、今の時代に合わせているはずだ。
 基本的には生音の演奏で、配信の音を作っていた。
 だがミックスには、さすがにDAWを作っていたと思うのだ。

 そんな花音が、わざわざバンドでやろうという。
 ただそれを引っ張っているのは、花音よりもむしろ玲であると聞いた。
 そこが弱点と言うか、引っかかるところであろう。
 また俊は音楽の可能性を信じてはいるが、無条件にいいものがそのまま伝わるとは思っていない。
 直感的にそれが分かるのが、俊の本来の才能と言うか、他の才能を見てきて備わった力である。

 俊の言葉の意味が、特に年少組には分からない。
 いや、暁だけはなんとか、感覚的に分かっているようだが。
 栄二はそれを経験的に分かっている。
 バンドを移動してきた信吾にも、なんとなく分かるかもしれない。

 失敗する原因というのは、実際に失敗してみないと分からないだろう。
 特に本人たちはそうである。
 俊もノイズはかなり順風満帆に来れたような気がするが、前のバンドでは確かに失敗した。
 最初に組んだバンドが、そのまま通用するというのは珍しい。
 ビートルズでもリンゴが加入したのは、デビューの少し前である。
 使えないメンバーはクビになっているのだ。

 そんなことを考えながらも、俊はゴールデンウィークの予定を確認していた。
 関東圏の1000人規模の会場で、三回ほどライブをやる。
 ここもまた採算が取れるかどうか、けっこう微妙なところである。
 だが今でもまだ、名前を売っていくのだ。
 名前というのは、音楽を体験してもらって、初めて本当に売れたことになる。
 それが分かっていなければ、大きな失敗につながるだろう。



 別に大物ぶっているわけではないが、最近のノイズは小さなハコでは演奏しない。
 もちろん向こうから、開店10周年にちょっと、などと言われたら応じられるものなら応じる。
 しかしたいがいは、もう既に予定が入っているのだ。
 関東圏のライブハウスを巡るだけでも、それなりに大きなハコはある。
 200人以上の会場でないと、どうしてもファンが入りきらないのだ。

 プレミア感を出すというのには成功している。
 ただ出来ることなら、まだ若年層のファンを大切にしていきたい。
 金のかからない、最初からある程度の設備があるライブハウス。
 そして収容人数が多ければ多いほど、チケット代金も抑えることが出来る。
 しかしそれにも限界が近づいている。

 チケット転売というものだ。
 今のノイズはまだ、チケットの本人確認というものが出来ていない。
 完全にネット販売のみにすれば、それも可能になってくるだろう。
 だが今はまだ、ライブハウスやCDショップに、販売をある程度委託している。
 これもコネクションの維持に必要なことだ。

 もちろんネット販売もあり、そこで売れたものならば、やろうと思えば本人確認が出来る。
 実際に武道館公演は、そういうこともしっかりと行っていくつもりなのだ。
 チケットの転売というのは、頭の痛い問題である。
 だが一つの人気のバロメーターにはなっている。
 今の時代には転売も、簡単にネットでやってしまえるので、対処をするのもいたちごっこになるが。

 アイドルのチケットなどは、特に厳重に管理している。
 だがそれでも対抗して、どうにか転売してしまう人間はいるのだ。
 しかし最終的に、チケットが客に届かなければ、転売ヤーは損をするかもしれないが、演奏する側としても損になる。
 ライブを見に来てくれる人間は、かなりがグッズまでも買ってくれるからだ。
 物販はバンドにとって、重要な収入源なのである。



「なんだか先生から、アキを一度貸してって、本当に言われた」
 千歳がそう言ったのは、四月も半ばに入り、入学後の部活紹介も終わった頃である。
 今年も軽音部で、実際に演奏をしたそうだ。
 三橋が卒業して、暁が編入した今、軽音部で一番の実力者であり、既にプロの千歳の立場は高い。
 もっとも忙しいので、役職になどは就いているはずもない。

 普通科の高校に、プロのミュージシャンがいるというのは、地味にすごいことであるかもしれない。 
 ただプロといっても、いまだにノイズはインディーズ扱いになっている。
 予算を引っ張り出したりするのに、前に蓄えていた利益を使うなど、ちょっと長期間での予定が立てづらい。
 それがインディーズの弱点ではあるのだが、ノイズはそのあたり200~300のハコを使って、上手く利益を出している。
 阿部からすればそれでも、もっと金になる仕事はあるのだが、選別が厳しいのだ。

 千歳が一般の高校生であるというのも、一つの縛りになっている。
 もっともそれを理由にして、不本意な仕事は断ることも出来ているのだが。
「あたしはギターしか弾けないけど」
 実際はベースもそれなりに弾ける暁だが、自分の表現力を伝えるという点では、ベースではせいぜいお上手レベルなのだ。
 ベースラインで訴える曲というのもあるが、クラシックなロックにおいて楽器の王様はギターである。
「とりあえず向こうで、他の楽器は揃ったみたいだけど」
 演奏する場所はALEXレコードのスタジオなのか。
「なんだか揉めてるみたいだよ」
 それはあの日、俊も感じていたものだ。

 売るためなら花音一人でいいのだ。
 他のメンバーは、はっきり言って蛇足である。
 しかし本人がバンドをやりたがっている。
 あのピアノが弾けるのに、弾きながらだと歌えないという弱点もある。
「合わせたいだけなら、ここを使えばいい」
 俊の言葉に暁は驚くが、考えてみれば損はないのだ。
「いいの?」
「実際にどんな演奏になるか、聴いてみたいだろ」
 確かに千歳さえ、花音の歌に関しては、あのコンサートまで聴いたことがなかったのだ。

 ガールズバンドを売り込むというのか。
 確かに花音の知名度は、この数日で一気に上がった。
 音楽ジャンル以外でも、大きく話題になっていることだ。
 それにケイティが自分の娘を連れてきていると言ったのだから、そこまた二世ミュージシャンだ。
「四人いれば一応、基本的なポジションは埋まるか」
 だが花音のピアノは、電子ピアノにするにしても、使わないのはもったいない気がする。

 そのあたりも含めて、本来はもう花音のピアノを録音して、バックミュージシャンをつけて自分で歌う、というのが一番いいと思うのだ。
 それをバンドにしてしまって、主導権を花音以外が握っている。
「佐藤先生の娘だから、かなり鍛えられてはいるんだろうけど……」
 同じく幼少期から音楽に親しんできた俊は、楽器演奏の才能はさほどない。
 そのあたりの割り切りは、ちゃんと出来ている。



 音楽は才能か努力か環境か。
 その全てであるし、全てが肯定されている必要もない。
 むしろ環境が逆境の中にあることによって、より大きく羽ばたくという人間もいる。
 これは芸術的な才能には、全てが言えることではなかろうか。
 俊の場合は努力と環境で、才能の乏しさをどうにか埋めているのだ、と本人は認識している。
 努力でどうにかなる時点で、ある程度の才能もあると言っていいのだが。

 音楽に必要なのは、世界に認められたいと、訴えかける感情であろう。
 つまりエモーションだ。
 花音の歌には、努力や環境を感じさせない、圧倒的な力を感じた。
 抵抗できる力ではなく、柔らかく包まれていくというものだ。
 その花音と、フィーリングで勝負する。
 ノイズの中では、月子と暁の二人なら、その部分が届くかもしれない。
 千歳はもうちょっと、ボイトレを頑張ってもらおう。
 ただ、もしも花音のバンドが成立しないとしたら、そこに必要なのは千歳のようなポジションであろう。
 
 セッションだけならば、花音の家でも出来るのだ。
 だが本人たちはこっそりと行いたいらしい。
 そんなことは、外のスタジオを使うしかないだろう。
 しかし満足のいくセッティングがあるスタジオを、借りるというのは高いのだ。
「うちならグランドピアノもあるしドラムセットもあるし、シンセサイザーもあるしな」
 あちらにとっては渡りに船で、暁も参加しやすい。
 そして自宅を貸し出す以上、俊たちもその演奏が見られるというわけだ。

 音楽というのは競い合うものではあっても、戦いあうものではないだろう。
 むしろ戦いは、ライブの中でのオーディエンス相手に起こったりする。
 こちらは全力で届けるから、それに全力で応えろという力。
 失神する客はいるだろうし、疲労困憊になるミュージシャンもいる。
 ノイズの場合は特に、暁が上手く自分の全力を出す。

 一人のミュージシャンが、音楽の市場を拡大してしまうなら、それに乗っていってもいいのだ。
 コンテンツがこれほど多様化した時代、音楽も単なるBGMになっているところはある。
 また、ただ踊りたいだけというEDMのダンスミュージックもある。
 しかし俊は音楽の力で、それを聴く者を熱狂させたいのだ。
「QUEENとボウイが一緒に演奏した曲とかもあるしな」
「そりゃあるけどさ」
 珍しくも信吾が呆れてしまっている。

 俊は花音の脅威を、国内最大のものだと感じている。
 またも女声ボーカルが出てきたのだと、ファンの食い合いが起こるかと考えていたのだ。
 しかし大きな人気ミュージシャンが複数出てくると、市場のパイ自体が大きくなる。
 そうすればまた60年代から90年代ぐらいまでの、ミュージシャン全盛期が来るのではないか。
 CDという文化が廃れていったせいで、本当に音楽は消費するものになったのかもしれない。
 サブスクで適当に聞くというのでは、音楽の価値が真に理解されることはない。
 とにかくもっと、今は引き込むパワーが必要なのだ。



 花音は話に乗ってきた。
 花音と言うよりは、グループのリーダー格になりそうな、玲の方が積極的だったが。
 また他に滞在していた、二人のメンバー候補も一緒についてきている。
「はじめまして、ジャンヌ・コートナーです」
 流暢に日本語を話す彼女は、ケイティの娘であるが容姿は、かなりアジア系に近い。
「ジャンヌ? フランス語の名前?」
「ファーストネームは日本人の父が付けてくれました。セカンドネームはあまり使ってませんが白雪です」
「おお、セカンドネーム持ち仲間」
 安藤・アシュリー・暁がそういった。 
 正確には英語で表記するなら、暁・アシュリー・安藤になるのだが。

 すらりと背の高い彼女は、パートとしてはドラムとキーボードが担当で、ボーカルも出来るらしい。
 ケイティの娘にボーカルをやらせないというのは、ちょっと問題ではなかろうか。
『エイミー・スワンソンです』
 そう言った彼女はアフリカンアメリカンつまり黒人である。
 だが実際にはネイティブアメリカンとラテンの血も入っているそうだ。

 ちょっとこれは面白い。
 玲の母である恵美理も、海外の血が入っているので、完全な日本人のアジア血統というのが一人もいない。
 暁にしても母親が、カナダ人なので同じことだ。
「それぞれのポジションはどうなってるんだ?」
 俊が気になったのはそこで、暁をヘルプに誘ったということは、他のポジションは大丈夫ということなのか。
「色々出来ます」
 玲はそう言うのだが、おそらく花音のボーカルと、それ以外の誰かがボーカルの時の、二つのパターンに分かれるだろう。

 バンドというのは始まりは仲良しグループでも、上を目指していけば自然と実力差で解散していく。
 日本の場合は比較的、そういったメンバーの変更は少ないのだ。
 ノイズの場合は最初から、実力があるか素質がある人間しか取っていない。
 その点では完全に、俊に権力が集まっている状態だ。
 しかしメンバーの力量に関しては、他の誰からも不満は出ていない。

 それにしても四人いるなら、花音がボーカルに専念しても、ギターとベースとドラムはフォロー出来るのか。
 もっともシンセサイザーが扱える人間がいるなら、そこは最低限の再現が出来るのだろうが。
「そんじゃ早速始めようと思うんだけど、アッシュさん、洋楽もかなり弾けるんですよね?」
「むしろ90年代ぐらいまでの洋楽の方が得意」
 EDMが入る以前、シンセサイザー全盛となるまでのロックの方が、暁は好きである。
 そもそもそういった時代のものを、父のコレクションから聞いていたのだから。
「ちなみに誰がボーカルを?」
「「「「全員」」」」
 これは日本語を話せないらしいエイミーを含めて、声がはっきりと揃った。

 だからこそ面倒であるのか。
 マルチプレイヤーが多すぎる。
「じゃあ、あたしはギター専念ということで」
「シンセサイザーもあるからキーボードのある曲も弾けるね」
「それならあの曲をやってみない?」
 それはノイズもカバーしたことのある曲だ。
 ノイズメンバーが見守る中で、チューニングなどをして準備をする。

 花音がキーボードの前に立ち、ジャンヌはドラムの席に座り、エイミーはベースを持ち出した。
 すると当然ながら、玲が最初にボーカルということになる。
「ネットでは切り貼りしてたけど、直接合わせるのは初めてだね」
 ああ、花音の公開していたのは、こういう感じでミックスしていたのか。
 ならばDAWを使えるメンバーもいるはずだが。
「それじゃあ、Holding Out For A Heroで」
 日本語訳もされている名曲を、まだ名前のないグループが、演奏を開始した。
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