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七章 インディーズ

111 新曲

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 音楽において共作というのは、デメリットが多い。
 実際にはバンド内でメンバーの意見を合わせて、曲を完成させていくというのは多い。
 著作権は確かに、共作であることも可能である。
 だが共作にしてしまうと、誰かに譲渡する時に、著作権者全員の許諾が必要となる。
 また著作者人格権という、それなりに重要な権利も付随しているため、あまり考えたくはないが、将来二人の仲が悪くなったりすると、楽曲の提供などに支障をきたす。
「じゃあどうすればいいの?」
「メインでメロディを作った方を著作者にして、印税の半分を著作権が切れるまで渡すという契約でも結べばいいんじゃないかな」
 このあたりはさすがに俊も知らなかったので、後日事務所の人間にでも尋ねてみることにする。

 二人が作った曲は、まさにギターメインの曲である。
 出来はまあ、悪くはないなといったところか。
 ただそこに俊は、アレンジを加えていく。
 細かい部分は変えていくので、正確には俊も作曲の一部をやっているようなものだ。
 だが曲というのはやはり、印象的なフレーズやサビなどが重要なのであって、細かい進行の理論などは誰がやってもほぼ変わらない。

 他人の発想から、自分の新たな可能性を発見するのは楽しい。
「しかしこの曲、ギターがツインリードみたいな曲なんだな」
 そこそこ難しいフレーズもあるのだが、これをもう千歳は弾けるようになっている。
 そう思うと上達速度が早い。
 さすがにまだ俊も追いつかれてはいないが、おそらく今年中には追い抜かされる。
 俊はもう、ギターの技術は維持する程度の時間しか取れないからだ。

 ただライブハウスとの交渉などを、事務所に任せられるようになったのは、正直助かる。
 またレコーディングなどに関しても、これは親会社の方に設備が存在する。
 スタッフの数がそれほど多くないのは、それだけかけられる金が少ないからだ。
 契約条件をかなりミュージシャン側に有利にした結果、使える金が減っている。
 利益を出すためには、どこかで使う金を減らす必要があるのだ。

 ノイズはレッスンスタジオなどは自分たちで確保しているし、レコーディングのスタッフなどもあまり必要ではない。
 スタジオミュージシャンにしても、基本的に自分たちで出来ないところは、打ち込みで処理してしまっている。
 作詞作曲に編曲までしていれば、かかる経費は少なくなる。
 それで駄作を作るなら文句が出るのだが、少なくとも売れそうにない曲というのは作ってこない。
 だが音楽の幅がロックからポップスまでというのは、バンド音楽なので仕方がないことなのだろうか。

「ところでこの曲、タイトルは決めてあるのか?」
「まだ歌詞が出来てないから」
「スタンダードなロックではあると思うけどな」
 アニソン90秒枠という制限があった上で、メタル系のテンポを持っている。
 全体的な構成は五分弱で、実際のメロディなどはギター二本が主体。
「ツインリードか」
「なんだかツインバードストライクっていう言葉が頭の中から出てきた!」
「何かの必殺技じゃないか?」
 検索してみたところ、それらしいのが出てくる。
「ロボットの名前らしいけど」
「じゃあツインバードとか」
「それはいいけど歌詞も頑張れよ」
 俊の言葉に、辟易とした表情を浮かべる二人である。

 せっかく曲が出来ても、歌詞がなければ使えないのだ。
 ノイズはインストバンドではないので。
「それこそ高岡先生にアドバイスでも貰いながら、作ってみればいいんじゃないのか? あの人は文章の専門家だぞ」
 とは言え歌詞と文章は、また違ったものである気はする。



 二人の作ってきた曲とは別に、信吾もまた曲を作ってきている。
 レゲエ色のある、またラテン系の香りもする、ベースラインの目立つ曲だ。
 これは確かに今までになかったタイプの曲であるので、面白い曲だとは言える。
「ポルノグラフィティっぽい曲だな」
 ベースラインやラテンなどはそうであるし、そもそもインプットはどこからかは原型がある。
「レゲエのリズムを使ってみたんだが、どう思う?」
「いいと思うけど、もっとブラッシュアップしていく必要はあるな」
 俊がこれまで発想していなかったタイプの曲だ。

 基本的に俊は、音階のはっきりした曲を作るのが基本である。
 一番練習していたのがピアノ、というのがその理由であろうか。
 ただヴァイオリンもある程度までは弾いているので、はっきりしすぎているというわけでもない。
 クラシックの音階も、基本的に日本の音楽の授業で学ぶものだ。
 日本の伝統音楽は、使われている音が普通に違ったりする。
 そういう点では月子にも期待しているのだが、三味線の音階についてはまだ調べ始めたばかりの俊である。

 自分自身でも曲を作っていながら、他のメンバーの作った曲を一緒にアレンジしていく。
 特に他のパートの役割を考えていくと、原曲とはかなりイメージが変わったりする。
 やはりまた「最初から全部自分で作った方がらくじゃないの?」などと言われたりもしたが、これもまたインプットの一つなのだ。
 たとえば千歳の持ってきたアニソンの中には、管楽器や電子音を多く使ったものがある。
 80年代の曲などは、ストリングスも多く使われているのだ。
 90年代になるとユーロビートまであったりする。
 これを単純にシンセサイザーと打ち込みで鳴らすよりは、バンドの楽器に落とし込む方が面白い。

 とにかくここしばらく、俊は自宅でほぼ作曲ばかりをしていた。
 俊の場合は作詞も作曲と同時に行っていくため、どちらかが滞ってしまうと、次に進むことが出来ない。
 ただノイズは外部からの楽曲提供は、しないことを大原則としている。
 カバーなどはまた別の話だが。
 雑誌のインタビューなども入ってきて、ライブハウスや大学に顔を出しても、畏敬の目で見られることが多くなってきた。
 自分たちは成功しつつある。
 さらに大きな成功に進みつつある。

 こういう時に何か、悪いことがカウンターのように起こったりする。
 そんな警戒をしているためか、特に何も起こる様子がない。
 ただ月子が、相談をしてきたことはある。
「ソロでやってみないかって」
「あ~……、そうきたか」
 ノイズの中でも特に、月子に関してはそういう声がかかることは予想していた。



 月子は作曲はともかく作詞が出来ない。
 やったとしても単純な歌詞にしかならないのだ。
 耳から入ったものであると、しっかりと理解出来るのに、目から入ると意味が分からなくなる。
 正確には文字そのものを、理解するのが難しいのだ。

 千歳はバンドボーカルとしての声質をしているが、確かに月子はソロでも歌えるタイプだ。
 たとえばカバーでガーネットなどを最初に歌っている。
 歌唱力に完全に振った曲を、クリアなハイトーンで情感たっぷりに歌う。
 なかなか女性歌手の中でも、ないタイプのボーカルとは言えるだろう。

 メンバーそれぞれの活動を、俊は妨げるつもりはない。
 実際に栄二の雇用契約は、その独立した仕事を縛るものではない。
 信吾などもヘルプやゲストで参加していたりするが、それはアルバイトに時間を取られなくなったためだ。
 安定しているわけではないが、ミュージシャンとして活動した方が、今は稼ぎが大きい状況になっている。
 これを成功と言うには、まだまだ不安定すぎるだろうが。

 月子をソロでやらせるなら、そもそも俊は自分の曲を歌わせる。
 バンドの必要ないバラードというのを、幾つも作っては死蔵してあるのだ。
 その声だけで、あとはギターかピアノの伴奏のみで成り立つ。
 月子の声というのは、本来はそういうクオリティのものなのだ。
 ただこれをやると、やはりボーカルが圧倒的に、バンドの中では強い存在となる。
 作詞作曲をやっていれば、それこそバンドが必要なくなる。

 俊にしても完全にノイズではやれそうにない曲が、かなり存在している。
 それこそボカロPとして活動していた時代からのものだ。
 これを提供してもいいのだが、今の自分はバンドに全力をかけたい。
 そういう姿勢を示すために、過去のものや副次的に出来たものを封印している。
 月子と暁と自分だけで、成立するようなバラードはけっこう作ってあるのだ。
 それをバンド用に作り直すのも、悪くはない。

 今、ソロ活動をするのは、ほとんど意味がない。
 もちろん知名度は上がるし、ノイズ全体の知名度の上昇にもつながる。
 ただそれをするなら、俊の曲をバンドを介さずに歌ってくれた方がいい。
 活動方針がメンバーによってバラバラになるのは、この時点では避けたいのだ。



 ライブハウスでの演奏も、大きめのハコのトリを務めることが多くなってきた。
 出演料も上がってきて、チケットも自然と捌けるようになってきている。
 このあたりは事務所に手間を任せて、自分たちの時間を増やした効果と言える。
 月に三回以上はライブをしているが、ワンマンはまだやっていない。
 今はトリをやることで、他のバンドを引っ張るような、ムーブメントを起こしかけている。
 ただ決定的な大きな動きとなると、まだまだきっかけが足りない。

 MVを発表してからの反響は、かなり大きなものであった。
 シェヘラザードはまたも、アルバムを再プレスしてきた。
 俊が知っている、普通の音楽の売れ方とは、これは違うものだ。
 だが今の時代の、ボカロPなどにはあることだ。
 爆発的なキラーチューンが一曲発表されて、そこから過去の曲もPVが回っていくという。
 もっともボカロ曲は、それとはまた違った動きをするのだが。

 出来れば早く、他の曲のMVも作りたい。
 だが俊自身のアイデアは、最初のノイジーガールで大きく使ってしまった。
 一応アレクサンドライトのイメージはあるが、これは作成にかなりの予算が必要になりそうなものである。
 それよりもスタジオなどで、安く作れる曲を最初から作った方がいいのではないか。
 こんなことを考えているが、事務所としては早く、音源を出してほしいのだ。
 今もライブなどで利益を出しているが、やはり決定的なのは、新曲で稼ぐこと。
 完全フルアルバムに対する、期待度はかなり大きい。

 そんな中、またもライブの予定が入ってくる。
 それは名古屋から遠征にやってくる、セクシャルマシンガンズとも対バンしているものだ。
 あちらの要望があったらしく、俊にも確認を取ってきた。
「ええ、問題はないですけど」
 俊の異母弟である涼が、どういうつもりで対バンを了解したのか。
 少し関心が出来てきている俊であった。
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