93 / 207
六章 ライブバンド
93 ステージの後
しおりを挟む
最後にノイジーガールをやったことで、思った以上の体力を使った。
フロントガールズは楽屋で椅子に、燃え尽きたように座り込む。
信吾と栄二さえもある程度の疲れは見えていて、俊もまたラストのドタバタで一気に疲れていた。
だがそれでも、楽屋に来てくれたマスターには、詫びをいれなければいけない。
当初の予定とセットリストが変わってしまったことである。
「まあ初めてのワンマンなら、あることだな」
超過しすぎるよりはいいだろう、ということである。
それに予定していたことは、ちゃんと全て伝えられたのだから。
ただ反省すべき点は他にもあった。
物販を頼んでいた友人が、早々に売切れてしまったことを伝えてきたのだ。
300人のハコで、100枚が瞬時に完売。
「一人三枚までにすぐしたんだけど、三枚買っていく人多かったよ」
なんでだ、というのが俊の感想である。
通販でも販売すると言っているではないか。
しかし栄二が当たり前のように推測する。
「ファーストアルバムも通販で売り切れてたし、転売目的なのかもな」
「完全にカバーアルバムなのに?」
「あとはチケットを取れなかった知り合いの分まで、頼まれていた人間がいたとか」
それもあるのか。いや、それこそ通販があるのだが、やはり売り切れるのだろうか。
ネットでの販売は、明日から開始である。
その動きを見れば、新たな推測も出来るであろう。
直販をどれだけ持っておくか、というのは確かに難しいのだ。
シェヘラザードからたくさんもらったら、それを売るのは自分たちの力となる。
売れ残ったら在庫を、最終的には処分しなければいけない。
それに今回はレコーディング費用やジャケット作成なども、かなり自分たちでやっている。
インディーズから出す方が、基本的にアーティストの取り分は多くなる。
CDに限った場合であり、そもそもCDが売れなくなっているので、そこは困ったものだが。
インディーズでも宣伝が強ければ、それは問題ない。宣伝に強いインディーズとは、という問題はあるが。
今回の会場での収益は直販であるため、売上の75%にもなる計算である。
これは既に著作権を引いて計算したものだ。
3000円のアルバムが100枚売れて、その75%が儲けになる。
ざっと225千円であり、これを六人で割ると37500円となる。
「たった一日で37500円!」
千歳などは感激しているが、男性陣に加えて月子や暁も、難しい顔をする。
「準備するの少なすぎたね……」
暁も少しは勉強しているのでそう言うし、月子もアイドル時代の活動で、CDの売上に関する知識は少しある。
「いや、しかしこれは……マーケティングに完全に失敗してるな」
栄二がため息をつくが、信吾も難しい顔をする。
「かといって在庫を持つのは、それはそれでリスクだしな」
この二人はメジャーデビューが目の前にあっただけに、余計に金を稼ぐ難しさを理解しているのだ。
この問題については、ちゃんと教えなければいけないだろう。
「在庫はまだあるんだっけ?」
「20枚だけな。不良品との交換とか、あとは配布用に残しておいた」
自分にはどうも、商売の才能はないのではないか、と思い始めている俊である。
ただ他のメンバーも、もっと自分たちで売ろう、という意見は出していない。
特に今回は、カバーアルバムであったのだから。
反省点の多かったライブに、続いて反省点の多い物販の問題である。
いや、自分の懐に、売れるかどうか分からないアルバムを、そう大量に置いておくことこそが怖いのだ。
しかしクラウドファンディングのことを考えれば、もっとプレスしても良かったのか。
ただあれは投資してくれた人間には、最優先で買える権利が回るようにはしてある。
おかげでレコーディング費用を、自分たちで出す必要が全くなかったので、その分を売上からもらえることになっている。
やはり、レーベルと事務所の力は必要なのか。
そう悩んでいるところに、やってきたのは阿部香澄である。
ライブが終わってからという話をしていたのに、すっかり忘れてしまっていた。
「ライブは大成功だったみたいだけど、何を落ち込んでるの?」
「いや~……メジャーレーベルの方に言っても」
「売り方が分からないんじゃない?」
その通りである。
中途半端に、業界のシステムは知っている。
そして売るためには何を削ぎ落とすかも分かる。
ギターと共に生きているような暁はともかく、まだ音楽に完全に身を置いていない千歳は、いなくてもそれなりにどうにかなる。
また自分自身は、完全に打ち込みなどのエンジニアになる。
そうした方が自由度も上がり、よりスピーディに進むだろう。
だが自分の求める最強のためには、千歳を切るという選択はありえない。
メジャーレーベルの事務所であれば、簡単にそれを求めてくる可能性が高い。
今はもうインディーズとメジャーの垣根もなくなりつつある。
だが音楽を売るために何が必要なのか、それは間違いなく宣伝であるのだ。
もっとも今は、わざとらしい宣伝というのは、むしろイメージがマイナスになる。
SNSなどによる、ある程度は信頼性のある筋からの口コミなどが、今は大きな効果を持つ。
それでも広告会社の力は、いまだに強いと思われているのだが。
ノイズのCDが売れているというのは、随分と奇妙なことであるのだ。
インディーズでいきなり5000枚というのは、かなり異例のことであった。
ただそれはメンバーに、信吾や栄二がいたということで、ある程度の売上が見込めたことと、インディーズの矜持というものでやや多めに見込んだと言えよう。
そしてそれは多めどころか、早々に二度の再プレスをすることになった。
シェヘラザードを失望させなかったことによって、二枚目のカバーアルバムが出せたということはあるのだ。
ただシェヘラザードはあくまでも、CDを出すためのレーベルで、芸能事務所ではない。
制作、流通とある程度の宣伝はしてくれるが、あくまでも企画を最初に出すのはアーティスト側である。
同じインディーズでも、企画やマネジメントまでしてくれる、大手メジャーとあまり変わらないという事務所もある。
しかしそういう場合はやはり、事務所の方針に従って、仕事をしなければいけない場合がある。
事務所も利益を出す必要があるため、それは当然のことなのだ。
俊は目標としては、やはりメジャーレーベルに所属しなければ、どうしようもない壁があるのだとは考えている。
ただそれまでに実績を積み重ねて、より良い条件で大手と契約をしたい。
実績は積み重なって、人気も出ていることは間違いない。
だがあまり利益が出ていないのが問題なのだ。
栄二はフリーでやっている部分があるため、音楽で食っているとは言える。
そもそもドラマーの上手いのは、かなり貴重であるためだ。
しかし信吾と月子は、まだある程度のアルバイトをして、生活を成立させている。
家賃がなくなったと言っても、ある程度の食費と光熱費は負担させている。
またバンドと自分の腕を維持するのに、それなりの金は必要になってくるのだ。
スタジオ料金がかからないのと、俊が足を出すのだけで、大きく経済的には安定するようになった。
多少は嗜好品を買えるようにもなったが、まだ音楽で食えているとは言えない。
そういった社会人組三人の事情を、高校生組二人は理解出来ない。
月子がアルバイトをしていることは、普通に誰もが知っているが。
「今度、うちでインディーズの新しいレーベルを立ち上げる企画があるのだけど」
そこに阿部は、こういうことを言ってきたのだ。
「貴方たち、興味ない?」
「ありますね」
「え~、なんでメジャーレーベルがまたインディーズのレーベルまで立ち上げんの?」
こういう基本的なことを聞いてくれると、俊としてもメリットなどを確認しやすい。
「それは貴方たちみたいなわがままなアーティストを、どうにか売り出して儲けたいと思ってるからでしょ」
そういうことであるらしい。
ノイズは既に実績がかなり積み重なってきている。
夏のフェスと今日のワンマンを入れて、既に15回のライブをしている。
七月からライブ活動を開始して、これだけの数というのは、ぞれなりに多い。
もっとも栄二の他との兼ね合いもあるため、本当ならもっと予定を入れられるのだ。
俊が新曲を作っていく暇がなくなってしまうが。
6000枚のアルバムがほぼ売り切れたというのは、今の時代ではインディーズのデビューアルバムとしてはかなりすごい。
またライブハウスのチケットが、ノイズの出る日であると、すぐに売り切れている。
もっともこれに関しては、他のバンドとの兼ね合いで、問題も出てきている。
「自己プロデュースもいいけれど、売れ行きの見通しとかには失敗しているみたいだし」
確かに今日のCDの売れ行きは、明らかにマーケティングが出来ていなかったと言うべきか。
「マルチタレントじゃないバンドだと、普通にインディーズが多いから、うちも改めて進出するの。その第一号に誘いにきたんだけど」
これは、悪い話ではない。
むしろいい話である。
栄二がメジャーデビューした頃は、まだメジャーに対する憧れというものがあった。
それこそ俊の父がプロデュースしていた時代は、大きな資本による宣伝が、何よりも重要であったのだ。
だが時代は変わっていく。
信吾がメジャーデビューしなかったというのも、音楽の方向性などの他に、金銭面の問題もあったのは確かだ。
根本的な話として、ノイズは人数が多すぎる。
作曲作詞の俊が、自分の分のアーティスト演奏料を他に回しても、五人のバンドとなっている。
今なら五人でも、それなりに多いと思われることはある。
いい話かもしれない、と俊は思っている。
だが年末には既に、一つフェスの予定が入っている。
1000人規模の有名なハコで行われるだけに、さらにインディーズのレーベルとの接触があるかもしれない。
それに人脈を辿っていけば、ここで飛びつく必要もない。
「年末のフェスに参加するんで、まだちょっと考えられないですね」
俊はもったいぶった後、こう続けた。
「考える余裕が出てきたら、一番最初に声をかけていただいたことは、しっかりと思い出します」
この言葉で、阿部は頷くしかなかった。
東京を既に拠点としていて、ライブ実績も積み、チケットも売り上げている。
そもそもシェヘラザードのアルバムで大成功した時点で、もっと声がかかってもおかしくないのだ。
それこそGDレコードだが、あそこは完全なメジャー路線であるか。
彩もただのシンガーとしてではなく、タレント業もしていたはずだ。
年末のフェスが終われば、さすがに考えていく必要がある。
そして高校生組には、どれだけの活動を音楽に捧げることが出来るか。
フェスが終われば、環境が変わっていく可能性があるのを、俊は感じていた。
第六章 了
フロントガールズは楽屋で椅子に、燃え尽きたように座り込む。
信吾と栄二さえもある程度の疲れは見えていて、俊もまたラストのドタバタで一気に疲れていた。
だがそれでも、楽屋に来てくれたマスターには、詫びをいれなければいけない。
当初の予定とセットリストが変わってしまったことである。
「まあ初めてのワンマンなら、あることだな」
超過しすぎるよりはいいだろう、ということである。
それに予定していたことは、ちゃんと全て伝えられたのだから。
ただ反省すべき点は他にもあった。
物販を頼んでいた友人が、早々に売切れてしまったことを伝えてきたのだ。
300人のハコで、100枚が瞬時に完売。
「一人三枚までにすぐしたんだけど、三枚買っていく人多かったよ」
なんでだ、というのが俊の感想である。
通販でも販売すると言っているではないか。
しかし栄二が当たり前のように推測する。
「ファーストアルバムも通販で売り切れてたし、転売目的なのかもな」
「完全にカバーアルバムなのに?」
「あとはチケットを取れなかった知り合いの分まで、頼まれていた人間がいたとか」
それもあるのか。いや、それこそ通販があるのだが、やはり売り切れるのだろうか。
ネットでの販売は、明日から開始である。
その動きを見れば、新たな推測も出来るであろう。
直販をどれだけ持っておくか、というのは確かに難しいのだ。
シェヘラザードからたくさんもらったら、それを売るのは自分たちの力となる。
売れ残ったら在庫を、最終的には処分しなければいけない。
それに今回はレコーディング費用やジャケット作成なども、かなり自分たちでやっている。
インディーズから出す方が、基本的にアーティストの取り分は多くなる。
CDに限った場合であり、そもそもCDが売れなくなっているので、そこは困ったものだが。
インディーズでも宣伝が強ければ、それは問題ない。宣伝に強いインディーズとは、という問題はあるが。
今回の会場での収益は直販であるため、売上の75%にもなる計算である。
これは既に著作権を引いて計算したものだ。
3000円のアルバムが100枚売れて、その75%が儲けになる。
ざっと225千円であり、これを六人で割ると37500円となる。
「たった一日で37500円!」
千歳などは感激しているが、男性陣に加えて月子や暁も、難しい顔をする。
「準備するの少なすぎたね……」
暁も少しは勉強しているのでそう言うし、月子もアイドル時代の活動で、CDの売上に関する知識は少しある。
「いや、しかしこれは……マーケティングに完全に失敗してるな」
栄二がため息をつくが、信吾も難しい顔をする。
「かといって在庫を持つのは、それはそれでリスクだしな」
この二人はメジャーデビューが目の前にあっただけに、余計に金を稼ぐ難しさを理解しているのだ。
この問題については、ちゃんと教えなければいけないだろう。
「在庫はまだあるんだっけ?」
「20枚だけな。不良品との交換とか、あとは配布用に残しておいた」
自分にはどうも、商売の才能はないのではないか、と思い始めている俊である。
ただ他のメンバーも、もっと自分たちで売ろう、という意見は出していない。
特に今回は、カバーアルバムであったのだから。
反省点の多かったライブに、続いて反省点の多い物販の問題である。
いや、自分の懐に、売れるかどうか分からないアルバムを、そう大量に置いておくことこそが怖いのだ。
しかしクラウドファンディングのことを考えれば、もっとプレスしても良かったのか。
ただあれは投資してくれた人間には、最優先で買える権利が回るようにはしてある。
おかげでレコーディング費用を、自分たちで出す必要が全くなかったので、その分を売上からもらえることになっている。
やはり、レーベルと事務所の力は必要なのか。
そう悩んでいるところに、やってきたのは阿部香澄である。
ライブが終わってからという話をしていたのに、すっかり忘れてしまっていた。
「ライブは大成功だったみたいだけど、何を落ち込んでるの?」
「いや~……メジャーレーベルの方に言っても」
「売り方が分からないんじゃない?」
その通りである。
中途半端に、業界のシステムは知っている。
そして売るためには何を削ぎ落とすかも分かる。
ギターと共に生きているような暁はともかく、まだ音楽に完全に身を置いていない千歳は、いなくてもそれなりにどうにかなる。
また自分自身は、完全に打ち込みなどのエンジニアになる。
そうした方が自由度も上がり、よりスピーディに進むだろう。
だが自分の求める最強のためには、千歳を切るという選択はありえない。
メジャーレーベルの事務所であれば、簡単にそれを求めてくる可能性が高い。
今はもうインディーズとメジャーの垣根もなくなりつつある。
だが音楽を売るために何が必要なのか、それは間違いなく宣伝であるのだ。
もっとも今は、わざとらしい宣伝というのは、むしろイメージがマイナスになる。
SNSなどによる、ある程度は信頼性のある筋からの口コミなどが、今は大きな効果を持つ。
それでも広告会社の力は、いまだに強いと思われているのだが。
ノイズのCDが売れているというのは、随分と奇妙なことであるのだ。
インディーズでいきなり5000枚というのは、かなり異例のことであった。
ただそれはメンバーに、信吾や栄二がいたということで、ある程度の売上が見込めたことと、インディーズの矜持というものでやや多めに見込んだと言えよう。
そしてそれは多めどころか、早々に二度の再プレスをすることになった。
シェヘラザードを失望させなかったことによって、二枚目のカバーアルバムが出せたということはあるのだ。
ただシェヘラザードはあくまでも、CDを出すためのレーベルで、芸能事務所ではない。
制作、流通とある程度の宣伝はしてくれるが、あくまでも企画を最初に出すのはアーティスト側である。
同じインディーズでも、企画やマネジメントまでしてくれる、大手メジャーとあまり変わらないという事務所もある。
しかしそういう場合はやはり、事務所の方針に従って、仕事をしなければいけない場合がある。
事務所も利益を出す必要があるため、それは当然のことなのだ。
俊は目標としては、やはりメジャーレーベルに所属しなければ、どうしようもない壁があるのだとは考えている。
ただそれまでに実績を積み重ねて、より良い条件で大手と契約をしたい。
実績は積み重なって、人気も出ていることは間違いない。
だがあまり利益が出ていないのが問題なのだ。
栄二はフリーでやっている部分があるため、音楽で食っているとは言える。
そもそもドラマーの上手いのは、かなり貴重であるためだ。
しかし信吾と月子は、まだある程度のアルバイトをして、生活を成立させている。
家賃がなくなったと言っても、ある程度の食費と光熱費は負担させている。
またバンドと自分の腕を維持するのに、それなりの金は必要になってくるのだ。
スタジオ料金がかからないのと、俊が足を出すのだけで、大きく経済的には安定するようになった。
多少は嗜好品を買えるようにもなったが、まだ音楽で食えているとは言えない。
そういった社会人組三人の事情を、高校生組二人は理解出来ない。
月子がアルバイトをしていることは、普通に誰もが知っているが。
「今度、うちでインディーズの新しいレーベルを立ち上げる企画があるのだけど」
そこに阿部は、こういうことを言ってきたのだ。
「貴方たち、興味ない?」
「ありますね」
「え~、なんでメジャーレーベルがまたインディーズのレーベルまで立ち上げんの?」
こういう基本的なことを聞いてくれると、俊としてもメリットなどを確認しやすい。
「それは貴方たちみたいなわがままなアーティストを、どうにか売り出して儲けたいと思ってるからでしょ」
そういうことであるらしい。
ノイズは既に実績がかなり積み重なってきている。
夏のフェスと今日のワンマンを入れて、既に15回のライブをしている。
七月からライブ活動を開始して、これだけの数というのは、ぞれなりに多い。
もっとも栄二の他との兼ね合いもあるため、本当ならもっと予定を入れられるのだ。
俊が新曲を作っていく暇がなくなってしまうが。
6000枚のアルバムがほぼ売り切れたというのは、今の時代ではインディーズのデビューアルバムとしてはかなりすごい。
またライブハウスのチケットが、ノイズの出る日であると、すぐに売り切れている。
もっともこれに関しては、他のバンドとの兼ね合いで、問題も出てきている。
「自己プロデュースもいいけれど、売れ行きの見通しとかには失敗しているみたいだし」
確かに今日のCDの売れ行きは、明らかにマーケティングが出来ていなかったと言うべきか。
「マルチタレントじゃないバンドだと、普通にインディーズが多いから、うちも改めて進出するの。その第一号に誘いにきたんだけど」
これは、悪い話ではない。
むしろいい話である。
栄二がメジャーデビューした頃は、まだメジャーに対する憧れというものがあった。
それこそ俊の父がプロデュースしていた時代は、大きな資本による宣伝が、何よりも重要であったのだ。
だが時代は変わっていく。
信吾がメジャーデビューしなかったというのも、音楽の方向性などの他に、金銭面の問題もあったのは確かだ。
根本的な話として、ノイズは人数が多すぎる。
作曲作詞の俊が、自分の分のアーティスト演奏料を他に回しても、五人のバンドとなっている。
今なら五人でも、それなりに多いと思われることはある。
いい話かもしれない、と俊は思っている。
だが年末には既に、一つフェスの予定が入っている。
1000人規模の有名なハコで行われるだけに、さらにインディーズのレーベルとの接触があるかもしれない。
それに人脈を辿っていけば、ここで飛びつく必要もない。
「年末のフェスに参加するんで、まだちょっと考えられないですね」
俊はもったいぶった後、こう続けた。
「考える余裕が出てきたら、一番最初に声をかけていただいたことは、しっかりと思い出します」
この言葉で、阿部は頷くしかなかった。
東京を既に拠点としていて、ライブ実績も積み、チケットも売り上げている。
そもそもシェヘラザードのアルバムで大成功した時点で、もっと声がかかってもおかしくないのだ。
それこそGDレコードだが、あそこは完全なメジャー路線であるか。
彩もただのシンガーとしてではなく、タレント業もしていたはずだ。
年末のフェスが終われば、さすがに考えていく必要がある。
そして高校生組には、どれだけの活動を音楽に捧げることが出来るか。
フェスが終われば、環境が変わっていく可能性があるのを、俊は感じていた。
第六章 了
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタの村に招かれて勇気をもらうお話
Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」
12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。
直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。
日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。
◇◇◇
友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。
クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる