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さあ学園生活が始まりますよ

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…と。いやね、分かってるよ?
女子向けのゲームや小説で色仕掛けは無いでしょうと。
そんな事するような令嬢なんて正に悪役。最も女に軽蔑され嫌われるタイプだ。
むしろ女子向けの作品に出てくる攻略対象者からも軽蔑されそうだよね。
けれど前世平凡地味で何の取り柄もなかった私に使える武器は、悪役令嬢としての恵まれた容姿だけ。
そう、唯一出来た彼氏ともキスすら経験出来なかった地味OLに王子様を手玉に取るテクなどない!
まぁ要は露骨になんなきゃいいんでしょ。多分。

幸いな事に普通に美人な令嬢をモブ令嬢に位置付けるためか、悪役令嬢を追い落とそうとする悪者なヒロインをププッと嗤う為かシルヴィアはかなりの美貌の持ち主だった。
まだ学園入学前の15歳にも関わらず出るとこはバッチリ出て引っ込む所はキュウッと括れている。

容姿は緩やかなウェーブの青みがかった黒髪。瞳は流氷のようなアイスブルーで、流氷の隙間から海面が見えるように濃紺の虹彩がゆらゆらと散っている。身長は平均より高めで自分でも驚くほど脚が長い。そして真っ直ぐ。O脚だった前世からすると控えめに言って最高だ。
細身の身体に反して豊かな胸と臀部は、けれど下品な程では無く正にメリハリボディ。
これのどこが気に入らないんだよ王子様よぉ。

対するモブ令嬢はモブと言うだけあって平均身長中肉中背、茶色の髪と瞳で周囲に埋没する地味なご令嬢…と見せかけて実は整った目鼻立ちをしているのは流石主人公と言ったところ。化粧映えが非常に良く着飾ればちゃんと王子の隣に相応しい華やかな容姿になりますって印籠は重要だよね。 

そしてこの作品の悪役ヒロインちゃん。ヒロインといえばなピンクベージュの髪に大きなピンク色の瞳。小さくて華奢で庇護欲をそそるロリっとした美少女。
悪役令嬢と並んだ時の震える小動物感がすごそうだ。
まだ会った事ないけど。



 ーーーーーーーー



「はぁ…ずっと見てられるわ」

鏡に写った自分を見て思わず出てしまったナルシスト発言を許して欲しい。
日本の平凡地味女が地球にいたら奇跡と言われるような美少女になったのだ。見惚れても仕方無いと思う。
小説の中で王子は人形のような婚約者が苦手だったと語っていたけれど、気持ちは分かる。
綺麗過ぎるシルヴィアが口だけ笑った形にカーブした能面のような無表情で暗がりにいたら百発百中でギャーッで叫ぶ自信がある。
初夜ベッドの中に潜む等身大シルヴィア人形(リアル)。
うん、確かに怖い。
それが機械仕掛けのような定型文で喋るんだもんな。いや苦手にもなるか。

「よーしっ!!目指せキャッキャウフフン陽キャ女子!!お色気作戦で王子様を落とすのよー!!」



こうして私はいざ学園へと勇んで出発したのだった。






ーーーーーーーー



「いややっぱラッキースケベなんて無理だよ」

キラキラした集団に近付くにつれ、どんどん足が重くなってくる。
一体私は何を考えていたのか。
いくら美貌を手に入れたからってそんな上手く出来る気がしない。バレバレのラッキースケベはただの痴女だ。
そもそも普通に恥ずかし過ぎてそんな行動出来ない。
と言うか男の子が喜ぶ=でスケベって発想な時点で駄目だった。


そもそも王子とモブ令嬢が知り合う切っ掛けは、学園で試験的に出された話題の定食(和食)を考案したのがシルヴィアの取り巻きの令嬢だと知って興味を持ったからだけど、彼女に惚れたのは貴族令嬢らしからぬ素直な喜怒哀楽と明るい笑顔だった。
それに小説内でのゲームでもヒロインに惹かれた理由も貴族令嬢らしからぬ明るく無邪気な笑顔だったはず。

ばか。私のばか。
何がラッキースケベだ。大切なのは笑顔じゃないか。
よし。笑顔。素直な明るい笑顔を心掛けるのよ。
王子とその取り巻きにゆっくりと歩み寄ると、私に気付いた一人が王子に声を掛ける。

「っ!!!!」
「なんだ。シルヴィアか。いくら婚約者だからと言って…シルヴィア?」

近くで彼らを見た瞬間、ピシッと身体が固まってしまった。
だって、だって…。

かかかかっこいい~っっ!!!!

え?何?人?人間?何この美形集団。
いや知ってたよ?小説の挿絵の二次元姿とか、シルヴィアの記憶とか。
でも、実物ヤバい。もう一度言う。実物ヤヴァい。

「顔が赤いが…具合が悪いなら医務室へ行け」

嫌そうな顔で一歩下がる王子様に、相手はクズだ冷静になれと自分を叱咤する。

「申し訳ありません。殿下にお会い出来たのが嬉しくて…。これから学園生活、よろしくお願いいたしますね」

あまりの美形っぷりに目がチカチカして潤んでぼやけてたから丁度いい。
私はゆっくりと王子様の目を見て微笑んだ。

「「「!!!」」」

しん…と静まり返った集団に何かまずったかと目を瞬く。

「は…。シルヴィア…?」

顔を真っ赤にした王子様に効果あり!と心の中でガッツポーズをする。

「はい。殿下」

にこっと意識的に笑うとフラフラとこちらに近寄ってきた。え、チョロ過ぎない?何この人。

「なんだ?何を考えている。お前は本当にシルヴィアか?」

まぁね。淑女の微笑みと言う名の無表情で定型文しか話さない女がいきなり笑顔でよろしくだもんね。そうなっても仕方無い。

「はい。シルヴィアですわ。学園の校則で爵位も関係なく平等に交友するべしとありますし、厳しい監視の目もありませんもの。少しだけ…自分を出してみたくて…いけませんか?」

そう、婚約者といえ婚姻前の男女だ。基本的に付き添いやメイドが側にいるし、婚約者として定期的に会いにいっていた王城では王妃様が同席する事も多かった。

しゅん、と目を伏せると慌てたような気配がする。

「いや…そうか。私は少しお前を誤解していたようだな。その方がずっといい」

そーだね。あんたはシルヴィアを見かけ同様に感情の無い人形だと決め付けて、傷付けている事にすら気付いて無かった。
ちらりと王子の顔を伺うと薄く微笑む王子様…!
…やっぱり顔がいいいい~!!


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