白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人

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 雪路、竜、葵の幼馴染三人はαβΩと分かれていた。
 小学生の頃はお互いの違いを意識する事はなかったが、雪路が発情期を向かえるとそれは変わった。
 発情期を迎えていない葵に対し性欲を覚え、欲望のまま葵を犯すまいと不用意に近付かないように、特に発情期には会わないようにした。
 ただ葵を守りたい一心での行動だったが、それが裏目に出てしまい葵は竜とばかり過ごすようになり、その結果、二人とは見えない溝が出来てしまい雪路一人が仲間はずれとなった。
 αの自分よりβの竜を選ばれた焦りと怒り、そしてやるせなさを晴らす為に適当な相手と付き合う様になり溝は更に深くなった。

 高校を卒業し雪路と葵は大学へ進み、竜だけが親が営んでいる居酒屋の下働きとして働き始めた。
 同じ高校へ通っていた頃に比べ三人で会う回数は激減し、月一回会えれば良い方で、大学を卒業し就職する頃には半月に一度会えるかどうかだった。
 慌しく時が過ぎる中で二人への関心が薄らいだ頃。葵から呼び出しメールが来た。

『大事な話がある』

 集まりの連絡は何時も竜から貰っていた雪路は、葵から直接きたメールに正直悪い予感しかしなかった。

「赤ちゃんできたんだ」

 挨拶もそこそこに告げられた衝撃的な言葉に雪路は頭が真っ白になった。
 βとΩでは着床率は極めて低く、子をなすのは難しい。
 まさかと思いながらも確認の為に「誰の子だ?」と訊けば、やはりと言うべきか、竜の名前が告げられた。
 友達としておめでとうと言うべきなのは分かっていたが、そんな言葉は出てこなかった。

 葵の両親は厳格なところがあり、働いていない者を一人前とはみなさず、学生の葵に近付くαを悉く排除していた。
 それもあって雪路は安心していた。当分は大丈夫だと。
 自分が就職し、落ち着いてから付き合いを申し込みに行っても間に合う。
 どれだけ一緒に居ようと所詮竜はβなのだからと。高を括っていた結果見事に掻っ攫われた。
 首を噛みに行こうかと、たった今出たばかりの喫茶店を振り返る。
 噛んでしまえば番が成立し、自分のものに出来る。
 そんな乱暴な考えが首をもたげるが、バカなと頭を振り、再び歩き出した。
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